晴れのち曇り、ところどころにわか雨   作:にぼし一番

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皆さんはナリブお迎えできましたか?
私は貯蓄石+4万5千円天井でフィニッシュです(白目)


8話:DIE SET DOWN

 

 

≪ブラボーリーダー、こちら02。”パッケージ”の確保完了≫

「了解、ブラボー02……まだやりますか?」

「……ここまでのようですね」

 

それは異様な光景であった。

ガードレールに擦り付けるように止まった、小さくくの字型に曲がったタクシー。

その周辺には黒色のジャンプスーツにアーマーを着込んだ人影が2人、倒れていた。

倒れた者の顔は同じく黒色のバラクラバとフェイスガードで遮られ分からないが、力なく横たわる尻尾から彼女たちがウマ娘というのが分かる。

 

そしてそこから少し離れた道路。

明かりを灯す街灯を挟んで、二人のウマ娘が対峙していた。

一人は、全身をライダースーツに身を包み、フルフェイスヘルメットを被ったウマ娘。

もう一人は、鍔の広い白い帽子に白いワンピースを纏ったウマ娘。

 

ワンピースのウマ娘、グラスワンダーはその手に持っていた鉄パイプを放り投げる。

甲高い音と共に転がっていくそれを横目に、ライダースーツのウマ娘はグラスワンダーへと告げた。

 

「投降の意思があるのならば帽子を捨て、膝を着いて両手を上げて下さい」

「………」

「終わりです、グラスワンダー。貴女はもう彼との縁は紡がれません……グラスワンダー?」

「……―――――アハッ」

 

 

「あっはっはっはっははははははは―――!!!」

 

 

笑う、嗤う、ワラウ。

狂ったように笑い出すグラスワンダー。

それを見たライダースーツのウマ娘は小さく重心を下に落としたが、ピタリと笑い声が止まる。

そして、愛おし気に胎を撫でながら、口元だけを歪ませていた。

 

「問題ありませんね―――縁ならば”ここ”に居ますから」

「っ」

「だって、ライスさんが悪いんですよ?あんな風に、”ウマ娘として死んで”あの人を束縛しようとしたんですから」

「あなた……ッ!」

「―――自ら壊れるなんて、”アナタ”だって許せない行為でしょう?無念の2冠バなのですから」

《ブラボーリーダー、増援到着。袋のネズミだ、仕掛けるぞ》

「では、サヨウナラ」

「ッ!待っ―――!」

 

ライダースーツのウマ娘が無線に気を取られた一瞬。

その一瞬でグラスワンダーはその差しを思わせる加速で駆け出し、住宅の壁と壁の間を蹴り上げ上へと飛ぶ。

ふわりと、重力を感じさせない浮遊感と共に住宅の屋根へと登りつめ、未だ下に居るライダースーツのウマ娘と視線を交わした。

 

「――――」

「――――ッ」

 

グラスワンダーが駆け出す。

同じように屋根へと登り上がる隊員たちを置き去りにするように跳び、跳ねていく。

”人払い”を済ませたエリアから逸れたことで、グラスワンダーの駆け抜けた住宅の住人が何事だとベランダへと出てきていた。

 

「……限界ですね。撤収準備」

≪了解≫

 

その合図と共に大型のワンボックスが2台止まり、気絶したウマ娘たちを担いだ全員が分かれて乗り込む。

ワンボックスが走り出したのち、揃いも揃って大きく息を吐き出し、フェイスガードと覆面を取り外していた。

 

「末恐ろしい子でしたね…」

「不意打ちとはいえこっちの隊員を二人も叩きのめしたぞ、ホントに中学生かよアレ?」

「……皆さん、ご協力ありがとうございました」

 

気が抜けたことによる雑談の最中に声が通り、全員が振り返る。

ライダースーツのウマ娘が小脇にヘルメットを抱え、頭を下げている。

そして顔を上げれば、彼女の持つ新緑色の瞳が全員を見渡していた。

 

「気にしないでくださいよ、先輩。表だって動けないんでしょう?」

「トレセン学園も大変ですね……今からコッチに来ません?」

「警察の機動警バ隊も魅力的ですけど、今は秘書が身に合ってますから」

「「「タクシーを蹴りで吹っ飛ばす脚力で秘書??」」」

 

わいわいと、騒がしくなる車内。

それを苦笑と共に見たライダースーツのウマ娘は後部座席に目をやる。

袖に衛生マークの腕章をつけたウマ娘が点滴の流量を調整しながら、”パッケージ”……ライスシャワーとグラスワンダーのトレーナーの看護をしている。

一先ずの最悪は免れたのだろう。

だが、ライダースーツのウマ娘―――トキノミノルには、まだ最悪の未来の予感が消えていなかった。

 

グラスワンダーが米国大使館へと入ったという報告が入ったのは、それから45分後のことであった。

 

 

 

   ◆

 

 

 

トウカイテイオー、始動。

 

 

そのニュースは2月のバレンタインに浮かれるトレセン学園を衝撃と共に駆け巡っていた。

来年度のクラシック路線を進むための出走条件クリアのため、短期間でレースを詰め込んだ事から公になったニュースだった。

そして、叩き潰すならば今しかないと思った者は多かったのだろう。

メイクデビューを含むレースには、まるで連帯したかのように共同歩調を取るウマ娘たちとトウカイテイオーの争いとなっていた。

 

だがそれを、まるで児戯とでも言うかのように、トウカイテイオーが斬り捨てていく。

メイクデビュー、若駒ステークス、若葉ステークス。

トウカイテイオーはその全てを2バ身以上の着差をつけての圧勝として、悠々と皐月賞参加枠を勝ち取っていた。

彼女の胸にはチームを表すミモザのバッチが輝いており、多くのトレーナーとウマ娘たちは、セイウンスカイの2冠に続き、3冠を狙うのだと慄いていた。

 

トレーナーはトウカイテイオーについて以前からの顔見知りであるが、走りに関しては指導したことは無かった。

あるのは、アフターケアのストレッチなどといったもので、走りに関しては彼女のトレーナーになる者が教えるべきと考えていたからだ。

トレーナーにも癖というものがあるのだからそれは正しい判断なのだが、今回のような急なデビューに対して”適応できる”トウカイテイオーの柔軟性は圧巻の一言しかなかった。

そんな、チーム・ミモザは―――

 

「ねぇートレーナー、今日は何するの?ねぇねぇねぇー!?」

「膝に乗るなテイオー、重いぞ」

「あっ、ヒッドーイ!!もう怒ったよ!だから許してほしいなら―――」

「はいはい、無敵のテイオーさまは可愛いよ」ナデナデ

「んへへぇ~♪」

 

 

「チッ」

「」ギリィ

「フフフ」

「」ボキボキボキ

「」カタカタカタカタ

 

―――殺気に満ち溢れていた。

ナリタタイシンの瞳には蒼い炎が奔り、セイウンスカイは目のハイライトがオフ、アグネスタキオンは怪しい薬を手に笑いを零し、マンハッタンカフェは腕をボキボキと鳴らす。

そしてニシノフラワーは部屋の隅っこで震えていた。

地獄である。

限りなく地獄がチーム・ミモザの部室内に再現されつつあった。

しかも、セイウンスカイらの様子にトレーナーは気づいていないし、トウカイテイオーは気づいていた。

 

「……ハッ」

「「「「――――」」」」

「ぴぃぃぃぃ…ぴぃぃぃぃ…!」

 

トウカイテイオーがそんな4人を鼻で笑う。

殺気がさらに膨れ上がり、ニシノフラワーは恐怖で語彙力が小動物にまで退化する。

トウカイテイオーがチーム加入から一か月。

協定外のウマ娘の存在により、チームの秩序は崩壊寸前であった。

 

―――救いは、救いはないんですかぁ~!?

 

ニシノフラワーの心の中のメイショウドトウがそんな声を上げている。

彼女のとんでもない”あそこ”までとは言わない、もうちょっと大人の女性に成長したかったとすでに生を諦めている。

それを示すかのように、心の中のメイショウドトウはテイエムオペラオーに押さえつけられていた。

なお、まだこの二人は競い合ってはいない。世紀末覇王の躍進はまだ先の話であった。

 

「邪魔するぜぇ」

「いらっしゃいませステイゴールドさん!!!!」

 

だが主、というかウマ娘の三女神はそんな少女を見捨ててはいなかったのだろう。

まさしく救いの主が到来した。

ニシノフラワーにはステイゴールドが神様に見えた瞬間である。

パタパタと駆け寄ってくるニシノフラワーにステイゴールドは頭上に?マークを浮かべつつ、その頭を一撫でしていた。

トレセン学園でも割とプレイガールな彼女であった。

 

「ステイゴールド?」

「おうトレーナー、お前にゃ用事ねーんだわ。おーいタキオーン」

「……なんだいステゴ君、見ての通りこっちは取り込み中なんだが?」

「るせぇ、もめるくらいなら仲良く乱ぴょいでもしろや」

 

外まで聞こえてるぞとステイゴールド。

流石のドストレートすぎる物言いにミモザの面々も多少正気になったのか、思わず目線を逸らしている。

ステイゴールド、男前すぎるウマ娘である。

なお、トレーナーは難聴スキルを発動しているので聞こえていない。

 

「コホン……それで、何の用だい?」

「おう、そうそう。お前んとこのデジ子、ウチに貰うぜ」

「は?デジタル君を?」

「いやよぉ、デジ子の奴って面白い脚持ってるからな。来期、海外遠征行くんで連れてこうかって」

「「「海外!?」」」

「おうよ、つってもアメリカ視察ついでにアイツの両親に会わせてやる程度だけどな」

 

唐突な発言に思わず全員が目を見開いていた。

海外遠征。

限られたウマ娘で行われるそれは、トゥインクルシリーズ所属のウマ娘でも極少数しか経験の無い世界。

それにアグネスタキオンのルームメイトであり、親戚でもあるアグネスデジタルを連れていくというのだから驚きであった。

 

「なんでまた、デジタル君を?」

「いや、節操なくターフやらダートやら中距離やらマイルやらなんでも走ってはずっと笑ってっからおもしれーなって」

「それは彼女の趣味では…?」

「―――それに、アイツもライスたちのトレーナーの指導受けてたしな」

 

『いい気分転換になるだろ、多分だけどな』

そう、小さく吐き捨てるようにステイゴールドは呟いた。

ライスシャワーとグラスワンダーのトレーナーが発見されたのはつい先週の話だ。

今は入院中とのことだが、多くの事情は知らされていない。

だが、ライスシャワーはウマ娘としての生命を絶たれ、グラスワンダーは体調の問題として本国へと帰国した今となって、マスコミは憶測で彼をバッシングしている。

 

『2名の優駿を潰した』

 

無論、そんなこと無いとトレセン学園に所属する皆は知っている。

ミホノブルボンの三冠を阻んだ菊花賞までの追い込みトレーニングを記事は上げているが、あれはウマ娘との信頼が無ければ出来なかった。

彼女たちには意思があり、願いがあり、闘志がある。

それを聞き入れた結果が、あの漆黒のステイヤーの姿だったのだと。

 

「……君は優しいのか粗暴なのか、どっちなんだい?」

「あ、ボク知ってるよ!ツンデレって言うんでしょ、これ!」

「磨り潰されてぇかクソガキ」

「ほぎゃああああああ!?」

 

アイアンクローでトウカイテイオーを宙づりにするステイゴールド。

若干顔が赤みがかっているので照れ隠しなのだろうが絵面が悪すぎる。

暴れながらそれから逃れようとするトウカイテイオーだったが、歴戦の猛者であるステイゴールドにあっさりパワー負けをしている。

暫く暴れたトウカイテイオーだったが、ぷらん、と静かになったのを確認してステイゴールドはソファに放り投げた。

それを若干気にしつつ、トレーナーはステイゴールドに問いかけていた。

 

「で、他には誰が行くんだ?」

「フェスタ、オルフェ、ジャスタウェイにゴルシ、あとゼンノブロイにカレンとエイシンフラッシュ、秘密兵器にディープインパクト。んで代表でナリタブライアンだぜ」

「ゴドルフィンかなにか?」

 

金払ってでも見たい面子であった。

海外遠征というよりもはや侵略軍では?トレーナーはそう思った。

 

 

 

 

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