晴れのち曇り、ところどころにわか雨   作:にぼし一番

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皆さんセイウンスカイは引けましたか?
私はナリブで天井、マヤと女帝で貯蔵石壊滅。
そんな私を助けてくれたのはたった500円を6万円にしてくれたCRハナノマツカゼ(漆黒)のお蔭で無事天井まで課金出来ました!!


13話:勝ち馬が乗る

 

「ねー、トレーナー。お願いがあるんだけどね」

 

日本ダービーを翌日に控えた日の事だった。

チーム・ミモザの部室はトレーニング後の全員が集まり、それぞれの出走予定のレースについて纏めたファイルを渡されている。

その中で、唯一ファイルを渡されていない―――翌日がレースなので前に貰っている―――トウカイテイオーがトレーナーの背中に抱き着いていた。

その行いに、全員が視線で殺しかねないほどの目線をトウカイテイオーに向けているが、トウカイテイオーはそれを無視していた。

 

「どうしたテイオー?お願いっていうのは」

「うん、あのね、確認だけど……ボクが日本ダービーに勝てたら、トレーナーの夢が叶うんだよね?」

 

飴玉を舌で転がすような、粘着質的な、そんな媚びるような声色だった。

見れば、トウカイテイオーの鼻息はだいぶ荒い。

目はツインターボのように渦巻いており、顔はだいぶ赤みを増していた。

トウカイテイオーはそのまま顔を近づけ、言葉を続ける。

 

「ああ、そうだな……多分、トレーナーで”ダービートレーナー”に憧れないのは先ず居ないんじゃないか?」

「それじゃあ、トレーナーの夢が叶ったらトレーナーもボクの夢を叶えさせる義務があるよね?」

「ああ、最強無敵の三冠ウマ娘だろう?ダービー前から菊花賞に備えた長距離メニューもじわじわとトレーニングに組み込んでいるからな、まだ先は長いぞ?」

「えっと、それもすっごく大事なんだけど……あのね!ダービーに勝ったらボクをトレーナーのおよm―――」

「おっと手が滑ったー」

「ぴぎゃああああああああああ!?……あふん」

「テイオー!?」

 

トウカイテイオーが何かを言いかけたその瞬間、ひどく棒読みでアグネスタキオンがダーツ状の注射器をトウカイテイオーのお尻へと直撃させていた。

どういった構造なのか、刺さった瞬間に注射器の薬品が一瞬で注入され、トウカイテイオーはまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

慌ててトレーナーが支えれば、トウカイテイオーは幸せそうに眠っているだけだった。

 

「いやぁ、ハッハッハ……すまないなトレーナー君、手が滑った」

「タキオン、お前なぁ……これはレースに影響は無いよな?」

「永続的な速さを求める私がそんな薬を作るとでも?これは暴徒鎮圧用に理事長から依頼された麻酔薬で、ウマ娘には無害だから安心したまえ」

「なら良いんだが……いや良くないけど」

「それはそうと、天皇賞の秋をちょっと取りたくなったからスケジュールを組んでくれたまえ。あと獲った暁にはちょっと書類にサインと判子をしてもら痛たたたたたたたぁー!!!?」

 

アグネスタキオンが府中市市役所と書かれたA4の封筒から書類を出そうとしたその時、マンハッタンカフェがアームロックを仕掛ける。

落ちた書類は素早くナリタタイシンが拾い、シュレッダーに投入。

アグネスタキオンの真面目に痛そうな悲鳴が辺りに響いていた。

 

「兄さんに何を言っているんですか、タキオンさん」

「お、折れる!本気で折れるよカフェ!!?君はこれまで妹という立場でトレーナー君に好き放題の我儘ができたんだから良いだろう!?」

「私は貴女を義妹と呼ぶ気はありません」

「ね、ねぇトレーナー。アタシ、大阪杯を獲ったけどその時にシューズがちょっと壊れてて、買い物に付き合って欲しいんだけど」

「わ、私もこの前天皇賞・春を獲ったんだけどお母さんが一緒にご飯食べようって言ってて、良かったらトレーナーも来ない?」

「「おいコラ!!」」

 

揉めるマンハッタンカフェとアグネスタキオンを後目に、トレーナーの左右からナリタタイシンとセイウンスカイが腕を取って話しかける。

アームロックの体勢のまま、アグネスタキオンとマンハッタンカフェは二人へと声を上げていた。

姦しいというか、若干女の醜さすら見える、卑しさが隠し切れない争いであった。

だが、トレーナーは目をぱちくりとすると。

 

「あー、スマン。今度の休みはお見合いなんだ」

 

そう、ちょっとコンビニ行ってくる、という軽さで告げていた。

その瞬間、眠っているトウカイテイオーと、最早騒動にも慣れてのんびりお茶を飲んでいるニシノフラワー以外の目が死んでいた。

ナ○シカで言うところの王蟲の攻撃色のようなものだった。

 

「え、なに、トレーナー、結局お見合いするの?」

「スカイ?どうしたそんな怖い顔をして」

「モルモット君、君は久しぶりにモルモットになりたいようだねぇ?」

「タキオン?その懐から取り出した薬はなんだ!?」

「トレーナー……私じゃダメなの?その、頑張って産むから!」

「タイシンは何の話をしている?!」

「兄さん…?――――ニイサン?」

「待てカフェ!ジリジリと縄持って近づくな!!?」

「はふぅー……お茶が美味しいですねぇー」

 

カオスである。

この状況で我関せずを鋼の意思で貫くニシノフラワーを見れば彼女の両親は変な方向に強くなったと涙することだろう。

思わず後ろへ下がったトレーナーが書類整理用のテーブルにぶつかり、鞄が床に落下する。

その鞄から飛び出た、重厚な冊子のお見合い写真が開かれ―――そこに写るウマ娘に、全員目を見開いていた。

 

彼女を知る者は、昔と今の彼女の違いに驚愕するだろう。

写真に写る、まだ少女と言える年齢のウマ娘―――メジロマックイーンは、諦めたような澱んだ瞳で写真へと写っていた。

 

 

 

    ◆

 

 

 

「トウカイテイオーさんのダービー制覇、おめでとうございます」

「ありがとう、ございます」

 

ふわりとした、穏やかな声色だった。

だが、目の前の澱んだ瞳をした少女、メジロマックイーンからはレースに対しての熱を感じない。

かつて、”ターフの名優”と期待され、謳われた少女は杖を新しい足にして、動かぬ足を引き摺る死者のように腐っていた。

 

「トウカイテイオーさんとは友人の関係ですが、デビューを1年遅らせてくるとは思いませんでしたわ……ふふっ、一度競い合ってみたかったものです」

「……そう他人行儀にしないでも大丈夫ですよ、メジロマックイーンさん」

「あら、そうですか?ではテイオーと言い変えさせて戴きますわね……貴方も私の事はマックイーンと、そう御呼び下さい」

「分かりました、マックイーンさん」

「呼び捨てでよろしいですのに……夫婦となるのですから、遅かれ早かれでしょう?」

 

緊張を紛らわすためか、乾いた口内を潤すためか。

お茶を口に含んだ瞬間のメジロマックイーンの発言に思わずトレーナーは咽る。

メジロマックイーンの中では既に婚約は確定事項とでもいうのか、キョトンとした様子で咽たトレーナーを気遣うようにハンカチを取り出していた。

 

「あら、大丈夫ですの?」

「げほっ……大丈夫です……あの、マックイーンさん?今の発言はどういう―――」

「どうと言われましても―――もう己が走れぬのなら、次代のメジロのために子を成すのは当然でしょう?」

「―――ッ」

「そうですわね、子供は野球チームが組めるくらいは欲しい所ですわね……あら?どうしてそんな悲しそうな顔をしますの?」

「君は、それでいいのか…?」

 

トレーナーにはメジロマックイーンがどうにも投げやりに見えていた。

諦めとは違う、投げやり。

自分がどうなろうとも関係ないというものに近しい感覚だ。

似ていた。

酒に溺れ、精神安定剤をラムネ菓子のように貪っていた頃のトレーナーの母、サンデーサイレンスと同じような雰囲気だ。

絶望し、諦めた…そんな雰囲気。

サンデーサイレンスは、そこから立ち直るだけの強さとも言える”怒り”を持っていたが、メジロマックイーンにそれは感じ取れない。

トレーナーは目の前で自暴自棄になるウマ娘を見たくはなかった。

それは、ある種の拒絶反応のようなものだった。

 

「俺は、君が自暴自棄なだけに見えている……知り合ったばかりの男と子を成すなんて、冷静な思考が出来て無い」

「……ああ、もしかして思い人がいらっしゃいますの?ご心配なく、愛人の1人や2人、3人4人とお好きにして頂いて結構ですわ……対外的には夫になって貰いませんと困りますので、そこは了承を頂きたいのですが」

「……ッ!」

 

話が通じない。

思わずトレーナーは顔を歪ませるが、メジロマックイーンも困惑したように眉を顰めている。

その態度は、彼女も何故トレーナーにそういった態度を取られるか分かっていないと告げているようなものだった。

 

「(いや、そうじゃない……これが、彼女にとって”普通”なのか)」

 

名門・メジロ家。

レース業界の名門たるこの家は、大よそ恋愛というものとは程遠い行程を経て結婚に至るのは想像するに容易い。

そして、メジロマックイーンは己が走れぬ事からメジロの使命を果たせない存在となっているのが我慢ならないのだろう。

だからこそ、次代へと繋げる事を己の使命と再定義しているのだ。

ある種の、自己防衛反応のようなものだ。自身に価値を求めるのは、人もウマ娘も変わりはない。

メジロマックイーンは、トレーナーと結婚し子供を成すということで、メジロとしての自分を守っているのだ。

メジロマックイーンにとってはこの”異常”は当然なのだから、他人からは自身を投げやりにしてるように見えるのだろう。だが、そうして自分を守っても完ぺきではない。

だからこそ、トレーナーはメジロマックイーンとしっかり目を合わせる。

ゆっくりと、紐を解くように話しかけていた。

 

「……今の君とは、どうであっても結婚は出来ない」

「……今の、ということは、何かしらを改善すればしてもいい、と?」

「それは、君次第だ」

 

トレーナーはメジロマックイーンに手を差し出す。

サンデーサイレンスがどうやってメジロ家との縁談を持ってきたのかは分からない。

だが、今この時だけは、母の思い通りにはならないと決めたトレーナーだった。

ただ一つ問題があるとすれば、ミモザの皆は歓迎してくれるかどうか、ということだが、トレーナーは知っている。

皆がとても良い子たちということを―――。

 

 

 

   ◆

 

 

 

「―――ということで、ミモザで預かることになったサポート兼”トレーナー”研修生のメジロマックイーンさんです。皆、仲良くしてやってくれな」

「どうも、初めての方は初めまして。研修生兼”許嫁”のメジロマックイーンですわ、皆さんよろしくお願い致しますわね」

「マックイーン、久しぶりに会ったけど一発殴っていーい?」

 

トウカイテイオーが笑顔で木刀をスイングしていた。

”ダメかも知れない”―――トレーナーはそう思った。

 

 

 

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