晴れのち曇り、ところどころにわか雨   作:にぼし一番

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パソコンのタイピングはリハビリに良いので実質初投稿です。


15話前編:イヤシイ太陽

 

 

「海だー!!!」

「テイオーさん危ない!危ないですぅ!!?」

 

トウカイテイオーの溌剌とした声が青空と青い海に吸い込まれていく。

バスの車窓から身を乗り出し、遠くに覗いた海を見ようと背伸びするトウカイテイオーの服を、慌てた様子でニシノフラワーが引っ張っていた。

トレセン学園では7月から8月末までの期間を避暑地兼トレーニング遠征という名目でこうして夏合宿へと行くことが出来る。

最も、夏休み期間を利用するので、その全てがトレーニング三昧という事は無い。

1~2週間、または1か月だけ利用するウマ娘も居れば、卒業したミホノブルボンのように2か月フルで利用してムッキムキになったりと、ウマ娘やトレーナーの裁量でこの合宿所は利用出来るようになっていた。

チーム・ミモザも合宿所は1か月利用で予定を組んでおり、残りの夏休み期間は一部で生徒の帰省や勉学、夏の疲れをケアする期間に使用する予定であった。

 

「暑いですわね…」

「マックイーン、手を」

「ありがとうございますわ……っ!」

「っと……大丈夫か?」

 

バスが停車し、続々とウマ娘たちと他のトレーナーが下車していく中、ミモザのトレーナーはバスの出口と地面に段差があるが故、メジロマックイーンに手を差し出す。

メジロマックイーンはその手をさも当然かのように取り、段差で膝を刺激しないようゆっくりと下車していた。

だが、未だ治療の途中であるが故か、足を付けた瞬間によろめき、トレーナーへしがみ付くようにバランスを崩す。

そんなメジロマックイーンの肩を抱くように支えたトレーナーに、ちょっとドヤ顔してメジロマックイーンは笑みをトレーナーの背後に向けている。

その視線の先、トウカイテイオーからは先ほどまで海に向けていたキラキラとした目は無く、嫌な感じに澱んでいた。

 

「マックイーン、確認するけどわざとじゃないよね」

「あらテイオー……わざととは、何の事ですの?」

「テイオーさん、顔!顔!!」

 

思わず一歩前に足を進めたトウカイテイオーにまた相撲よろしくしがみ付くニシノフラワー。

セイウンスカイらはまだ何処か余裕を持っているが、トウカイテイオーにはすでに我慢の限界であった。

そも、トウカイテイオーのデビューが彼女の想定通り1年早ければシニアクラスでの目下ライバルになると目をつけていたのがメジロマックイーンである。

今でこそ軽口を叩き合う程度に仲は良いが、やはり何処か対抗心はあり、それが今では男女関係に向けられてるので地獄であった。

 

「さぁリュージ!早く荷物を持ちたまえ!」

「トレーナーさん、帽子ですよ~はい、良い子良い子~」

「ほーら、お兄ちゃん早く早く!カレン、お兄ちゃんのために水着新調したんだよ?」

「よーし、んじゃあ早速目指すか!この偉大なる航路の終わりによぉ!」

 

そうこうしている内に他のバスからもウマ娘たちが続々と駆け出していく。

彼女たちは競技者である前に未だ学生の身分である。ともすれば、そういった光景は微笑ましいものであった。

 

「さて……カフェ、マックイーンのアテンド、頼めるか?」

「はい、良いですけど……兄さん、何処かへ行くのですか?」

 

トレーナーはマンハッタンカフェにメジロマックイーンの横を譲り、「ああ」と頷く。

見れば、他のトレーナーたちも担当ウマ娘たちの相手もそこそこに、纏まって行動しつつあった。

 

「お前たちは今日のところは宿泊施設での荷物整理と自由時間になっているだろ?トレーナー陣は明日からの本格的なトレーニング始動に備えての最終ミーティングがあるんだ」

 

勝手知ったる府中のトレセン学園ではなく、外部での長期トレーニングだ。

緊急時における患者の搬送のために消防や、治療のために協力してくれる病院などとの話し合いや、ウマ娘目当ての一般人とのトラブル回避のための警備など、詰める事は多い。

また、トレーナーを持たないウマ娘たちの合同トレーニングにも駆り出される場合があるため、それの折り合いも必要であった。

 

「まぁ、話自体はもうトレセン学園に居る時から詰め終わってるんだけどな」

「えぇー?じゃあ参加しないでいーじゃんー!遊ぼうよトレーナー」

「会議が終わった後に懇親会という名前の飲み会もあるから勘弁してくれ」

 

最長2か月の合宿期間は、緊急時への対処の速さが必要になる上、トレーニング密度が濃くなる。

となれば、アルコールの摂取の暇を失うというより、飲む暇も無くなるための飲み納めのような会合だった。

 

「……母さんと同じで、兄さんは酒癖が悪いんですから、ほどほどにして下さい」

「分かってるよ、飲めない奴に飲ませるほどトレーナーはアホじゃないからな」

「ですよね」

 

ウマ娘たちの健康と安全を預かるのだから、自己判断が出来ぬようになるまで飲む者は基本いない。

かつて、サイレンススズカとスーパークリークの間で板挟みでやけ酒していたタケトレーナーの状態は例外中の例外なのだ。

 

 

 

     ◆

 

 

 

「タケちゃんの、ちょっといーとこ見てみたい!?」

「「「はーい飲ーんで飲ーんで飲んで飲ーんで飲ーんで飲んで飲ーんで飲ーんで飲んで!!イッキ!イッキ!!」」」

「せんぱぁい…おしえてくらさいよせんぱぁーい」

「どうして」

 

思わず脳裏に受話器を受けた猫の画像が思い浮かぶ。

合宿場となった旅館の大宴会場は今や地獄の窯と化していた。

初めはとても静かなものだった。

今年からトレーナーになった若手たちの一発芸(うまぴょい伝説)という前時代の遺物とも伝統ともいえる前座が終わり、そこそこの会話と食事を楽しむ会合。

だが、ダイタクヘリオスのトレーナーが居た辺りから、妙に騒がしさが目立ち始めた頃、止める間もなく騒ぎはお祭りめいたものになっていたのだ。

 

「東条さんとか南坂は騒ぎが始まる前に引き上げちまったし、沖野さんはもうノビてるし……」

 

とうとう服を脱ぎ始めたトレーナーたちをセイウンスカイのトレーナーは引きつった顔で見守るしか出来ない。

女性トレーナーは東条トレーナーに付き従うように退出していったのでセクハラ問題はあまり気にしなくてもいい。

しかし、これの後始末をシラフのトレーナーがやらないといけないという事実が、何人かのトレーナーの手をアルコールに延ばさせる呼び水になっていた。

しかもである。

 

「あぁ!?テメーいまなんつったぁ!!?」

「ああ言ったよ、オレの担当が一番カワイイってな!!!」

「ふざけんな俺の愛バだ!!」

「ウチのドトウがいっちゃん可愛い!!」

「どけ!俺がパイロットだぞ!!」

「マーベラス!」

 

半裸の男たちが己の担当が一番だと取っ組み合いを始めかねない雰囲気となり、また一方では。

 

「ウチの子らのスキンシップがさ、段々激しくなってさ……」

「俺たちはただ、あの子らに輝いて欲しいだけなのに、向こうはそれ以上を求めてきて……」

「……知ってるか?この合宿場に代々ウマ娘たちに受け継がれてる人の来ない空間があるっていう噂」

「あぁ……そこに誘われたトレーナーは忽然と消えるという……」

「やめろォ!下手なホラーよりホラーじゃねぇか!」

「マーベラス…!」

 

しみじみと、なんとも言えぬ澱み方をしながら肩を並べる姿も見える。

そして、セイウンスカイのトレーナーの周囲も、今年の新人トレーナーたちがへべれけの状態で固まっていた。

昨年の2冠バであり春の盾の覇者であるセイウンスカイを初担当で導き、トウカイテイオーでダービートレーナーとなった事で、トレーナーは所謂話題の人だ。

新人たちからすれば、経歴的に自分たちに一番近いトップトレーナーになる。

年齢、という点ではタケトレーナーも同じだが、チーム・レグルスのメンツはリギルもかくやというレベルなので近寄りがたいらしい。

愛バ自慢のトレーナーたちに「サイレンススズカか、スーパークリークか、どっちなんだ、あぁ!!?」と詰め寄られてシェイクされてる姿からは想像できないものであった。

 

「……」

 

トレーナーとウマ娘は”人バ一体”という四文字熟語がある程度には、親密な関係が望ましいとされる。

だが、距離感を間違えるトレーナーはその実多い。

気を付けていても”掛かり気味”になるウマ娘がとても多いからだ。

願わくば、この新人の彼らには”良いトレーナー”に成長してくれることを祈るしか、セイウンスカイのトレーナーには出来なかった。

 

「う、うぅ……お、オペラオー…なんでオレの部屋に居る……」

 

一人はもうダメかも知れなかった。

 

 

 




???「リュージ…ボクの背中以外でG1を勝つなんて、生きてる間はユルサナイヨ」
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