12番街に起きた悲劇と喜劇のゲーム実況 作:室星奏
「……えぇっと……バグ画面、じゃないよね?」
深夜1時32分、配信サイトでゲーム実況をしていた時、あるシーンを迎えた刹那突然画面が暗転する。
次々に意味深な文字列が並べられていき、それは次第に一つの文章を形成した。
『おめでとうございます!
選ばれしカリスマ実況プレイヤーの貴方に『ナカノヒトゲノム』クローズドステージのプレイ権限を与えます。
なお、この権限は放棄・譲渡等できません
これよりお迎えにあがります』
私はそう、巷で失踪ゲームと呼ばれている『ナカノヒトゲノム』というゲームをプレイしていた。
クリア目前で有名実況者が謎の失踪を遂げる――……だから失踪ゲームと呼ばれているんだそうだ。最も薄気味悪がられて殆どやる実況者はいないんだけど。
しかし、ゲーム愛好家の私は、その謎に満ちた内容に好奇心を覚えずにはいられず、ついついプレイしてしまった。おかげで閲覧者数はうなぎのぼり。有難い限りですね。
「……これが失踪ゲームの終幕? なんか呆気ないというかなんというか。あ、というか失踪なんてされそうな雰囲気ないじゃん! 何よ~もう」
好奇心の元凶である失踪……それが何よりの楽しみだったんだけどなあ。
私、両親いないし……ずっと一人だったから……ん? ずっとっていつからだっけ?
まあそんな事はどうでもいっか。
「あー、えーっと、それじゃあ皆さん、噂はただの噂でしたってことで! 次回は……このクローズドステージ? の配信か、いつも通りのオンラインUFOキャッチャーでもやりましょうっ、それじゃあ~~?
グッナイッ!!」
***
「……ん」
暗闇の視界に意識が宿り、頬辺りに心地よい涼風が触れる。ああ、いつまでもこうしていたいような感覚だ。
そっと眼を開け、眩い光を視界に入れる。そこに広がっていたのは広大に広がる透き通った青色の空、そして端に映るは綺麗な緑色を靡かせる木々。
そして私の背中には紛れもなく地面。ああ、ここは紛れもなく山ですね、うん、それも清々しい程の――。
「山ぁ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?!?!」
おかしい、おかしすぎる。何で私山にいるの? 大学の登山サークルの活動? いや私登山サークルじゃないし。
えっとえっと、まずは状況を考えましょう。そうすれば自ずと原因が分かる筈です。
昨日は配信終了後、すぐに洗面台へ直行して歯を磨きました。そしてシャワーを浴びて、寝間着に着替えてすぐにベッドへダイブしました。
そしてそのまま永遠の暗闇という名の眠りに誘われて……。そして気が付いたら今の状況、山に私はいましたとさ。
……
「いややっぱおかしいですね!?」
とりあえず身体を立ち上がらせ、衣服についた泥を落とす。あれ? そういえば衣服も大学行くときの私服に入れ替わっている。UFOキャッチャーで取ったお気に入りの猫柄寝間着じゃない!
誰かが私を脱がして服を着させた? ……やばい、純白な乙女の身体を誰かに見られたという事なのか? 恥だ、後世まで語り継がれてしまう一生の恥だ。
絶対に犯人を見つけて、とっちめなければ……。
「ひ、一先ず、移動した方がいいよね? 山を下りなきゃ話が進まないし……」
朧げな脳をシャキッとさせ、トボトボと山道を歩く。ズシン、ズシン、と私が歩く度に遠くから謎の足音が聞こえる。
こんな足音響く何かってあったっけ? と、記憶を巡らせるが特に思いつかなかった。賢くない私に、考えるという事は無駄なようです。
「景色、一向に変わらないなあ」
その時。
ガサッ――隣の草木が不自然に揺れる。明らかに何かがいるようです。
「ひっ――」
自慢じゃないですが、私はホラーとかそういう系のものは非常に苦手です。たたり姫と呼ばれている人の動画を見て、ビビっているぐらいには苦手なのです。
どうしましょう、どうにかしなければいけません。
ガサガサッ――バサッ!
何かが飛び出してきました。
「な、何者ですか~~~~ッ!?」
「痛ッ!?」
思わず足元にあった石を投げつけてしまいました。普段はこんな野蛮な女の子ではないのですが、焦ると人って何するか分かりませんね。
しかもその石は正確に、飛び出してきた対象の顔面にクリーンヒットしたようです。私、狙い定めるのは上手いのですよ。何せ、好きなゲームUFOキャッチャーの実況者ですからね。
でも石を当ててしまったのには変わり在りません。とりあえず、謝っておきましょう。
「ご、ごめんなさいっ! 行きなり飛び出してきたものでつい……」
「飛び出してきた奴に石投げるか? 普通。しかも正確すぎるし」
「あ、正確なのは私の特技です」
「知らんわ、馬鹿」
顔面をさすりながら、私の声に応答する。どうやら男の人のようです。
でも何故でしょう、この人の声、どこかで聞いたような気がするのです。
「えっと、私……桐ケ谷アサヒって言います。貴方は?」
「……響谷レンだ。……ん? アサヒ? ……その声……」
「レン? 奇遇ですね、私もなんか聞き覚えがあるんです」
「……アサヒの朝日から始まる摑み取り実況……?」
「あ、それですそれです! って、視聴者さんでしたか!?」
「馬鹿お前、コラボしただろうが。レン勝レース実況の!」
「ああ! あのレンさんでしたか!」
通りで聞いたことがあると思いました。彼は私が配信界隈で仲良くしてもらってた実況者さんです。
レン勝のレース実況。その名の通り、レーシングゲームが十八番の男性です。実際にあったのは初めてでした。
UFOキャッチャーというゲームを主にやるため、ボタン操作の精密性に優れていた私を、レーシングゲームに誘ってくれたのも彼です。
まあ、あっさり負けてしまいましたが。
「レンさんもこの山に?」
「ああ。誰かに誘拐されたみたいだ。もしくは親に打ち捨てられたか」
「あ、私両親いないので、後者はないと思います」
「……すまねえな」
となると、私たちは誘拐されたという事になるのでしょう。でも一体誰に?
心当たりがあるとすれば……。
「お迎えに上がります……」
「ん、お前、その言葉……」
ドスンッ――!
突然、私たちの眼前に巨大な足が映りました。恐らくもう二歩程前にいたら踏みつぶされていたでしょう。恐ろしい恐ろしい。
見上げれば、そこには巨大なパンダがいました。可愛いですね、大きくなければ撫でまわしてたぐらいです。
「な、ななな、なんですかあれっ!」
「ッチ、いったん逃げるぞ!」
「え、ちょ、ああ~!?」
レンが私の手を掴み、一目散に走り去ります。巨体の癖になんて足の速いパンダですか!? いや、巨体な分歩幅も広いのが原因でしょうか。にしても異次元過ぎます。
追いつかれる事はないですが、振り切る事も難しそうです。
「ど、どうするのー!? というか足速いね!? 私の二倍くらいはあるよ!?」
「亀かお前ッ! というか俺に聞くな、走り以外はさっぱりで体育3だぞ!」
「高校時代の私の3倍はある! ……ってレン君まさか高校生!?」
「今はどうでも良いだろ! ……っと!」
「ひゃっ?」
突然レン君が止まり、思わぬ速さに対応できなかった私の身体はレン君の背中に衝突します。
顔を上げてレン君の前を見れば、数多の生物たちが通せんぼしてます。明らかに敵意を持っています。眼が怖いです、眼が。
「カタツムリ、コウモリ……大きなネズミ。眼だけ可愛くないです」
「実況すな。どーすんだこれ……とりあえず、一発ぶん殴ってみて」
「だ、ダメですッ! 躱されるか、腕バクーッがオチです!」
「じゃぁどうすん――」
『ギギギ……ギャアッ!!!』
そうこうしているうちに、大きなネズミがレン君目掛けて突進してきます。その口を大きく開かせながら。
明らかに食べる気ですッ!
「ぁ」
「レ、レン君!」
「……はぁ~っい! アンタ達しゃがんでっ!」
突然背後から可愛らしい女の子の声が聞こえます。言われるがままにしゃがみますが、このままじゃ食べてくださいと言っているような物じゃないですか。
焦りと不安、困惑でソワソワしている私をよそに、数枚の紙きれが高速で頭上を横切り、ネズミの眼球に突き刺さります。鋭利すぎませんか? 紙ってあんな凶器でしたっけ。
「た、助かった……のか?」
「ま、まだ動いてるけど……」
「大丈夫大丈夫。こうできたらあとは……木の棒で突くだけッ!」
断末魔が響きます。今後の人生、絶対に聞く事のないような酷い声量です。
目の前にいる女の子がサイコパスに見えます。紙を眼に突き刺してるだけでも十分なんですけれど。
「……これで良し、と。で、君たち誰?」
「俺らのセリフだが」
「それもそっか。私は樋宮アリス。得意な事はカードゲーム。ほら、数枚護身用にあげる」
「カードは武器じゃないけど……」
「特注の刃物カードです」
「んなもん持ち歩くなよ!」
「そんな事いわれても」
樋宮アリス、聞いたことはありません。ですが、レン君と出会ったという事は、彼女も恐らく私達と同じ実況者なんでしょう。
カードゲーム実況……珍しいですね。少し興味が出てきました。
「とりあえず、カード女。そのカードでパンダどうにかしろよ」
「カード女って何? ……まあそれはいいとして、パンダは無理よ。高いし、あそこまで飛ばせる程、正確さはない」
「じゃあ私が投げるよ?」
アリスがえっと言いながら、こちらを振り向いた。
「そんな無茶な!?」
「いや、こいつならたぶん、いや、絶対にできる。何事においても正確さならコイツの右に出る奴はいない」
「何それ……」
「それじゃぁ、行くよ?」
私は腕を数回振りながら、パンダの鼻に狙いを定めます。動く標的だとしても、狙いを定める方法はUFOキャッチャーとさほど変わらないです。
「……そいっ!」
ヒュンッ。魔法使いモンスターの絵柄が描かれたカードが、パンダの鼻目掛けて放たれ、綺麗に直撃しました。
ですがさすがの巨体です。刺さりはしませんでした。
「……ダメです」
「でも、カードの方に気配はそれたようね」
「何で当てれるんだよ、化け物か」
「FPSゲームの才能もあるかもです」
「知るか、今目覚めるな」
『――お見事です』
パン、パン、と拍手を送る声と共に、私たちの背後から謎の黒服がやってきます。顔はウマですが。
「時間制限につき、これにて第1ステージクリアとなります。素晴らしいことです」
「誰だ、お前」
「ホーでございます。ナカノヒトゲノムの12番街担当をしております」
ナカノヒトゲノム、私が実況していたゲームです。と言う事はレン君もアリスちゃんも?
「あの、ここ、どこですか?」
「ナカノヒトゲノム会場でございます。先ほど貴方達は、第1ゲーム『アニマル合戦』をプレイしていただきました。パンダの顔に攻撃を当てる正確さ……感服しました。優秀なFPSプレイヤーでも難しいように設定されている筈ですが」
「……化け物だな、お前」
「無意識です」
「無意識であんなことできるわけないでしょ」
ホーさんは私達を後目に話を続けます。
「この世界はナカノヒトゲノムを運営するために造られた場所でございます。皆さま、左手首にご注目ください」
「え?」
私は視線を移します。するとそこには、共通点のない数字の羅列がありました。
000529238。何の意味でしょうこれは。
「え、ちょ、ナニコレ!?」
「薄気味悪ぃな」
「取れませんしね」
「それは体表カウンターです。このナカノヒトゲノムの再生数を表示しています」
「再生数?」
私は一瞬だけ呟かれたその言葉を聞き逃しませんでした。先ほどの第1ゲームといい、明らかにこの状態がゲームであるかのような説明口調です。
リアル脱出ゲームというのはよくある話ですが、ここまでリアルすぎるのは聞いたことがありません。
「UFOキャッチャー実況の桐ケ谷様、レーシング実況の響谷様、カードゲーム実況の樋宮様。貴方達にはおなじみの言葉です」
「私の名前、何で知ってるわけ? 本当に何者?」
「ホーでございます。ここで貴方達が目指すべき事はただ一つ……」
「その体表カウンターを1億まで回す。即ち貴方達含め8名の実況者と共に『ナカノヒトゲノム』リアル実況において1億回再生を突破する事です」
……一億……。見たことない数字です。
「期限は無制限にあります故……どうか皆さま、死ぬ気で実況くださいませ」
果たして、達成できるのでしょうか?
閲覧ありがとうございます。ナカノヒトゲノムの二次創作が少なすぎる、悲しい!
頑張って連載しますので、よろしければお気に入り登録と感想の方宜しくお願いします。励みとなります!