ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
凶悪なモンスター達が蔓延る巣窟。
その先広がる未知なる光景。
そして、可愛くて、綺麗なる女性との交流。
何より、幼い頃からおじいちゃんに読んでもらった、英雄譚に出てくる英雄への可能性。
その全てが、この迷宮都市オラリオに。
だからこそもう一度言いたい、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?
結論
僕は間違っていました。
この迷宮都市オラリオに来て六日間。遂に宿屋に泊まるお金が無くなり、何としても今日中に【ファミリア】に入らなければ野宿になってしまう。
結果、本日十六度目の【ファミリア】の門前払いを受け、街頭の隅に座りこんでしまった。
この六日間、基本的に門前払い会ってももらえず、会ったとしても僕を見た瞬間、サポーターとしても使えないだろうと断られてしまった。
規模の小さいファミリアならと思い行ってみると、団員を増やす余裕がないと申し訳なさそうに断られてしまう。
希望を見いだせず、どんどん落ち込んでいく僕の心情とは逆に、今日のオラリオの空は曇一つない晴天であった。
そんな空が、今の僕にとっては心身共に眩しく、自然と顔が俯いてしまう。
「・・・これから、・・どうしよう」
出会いを求めて、オラリオにやって来た。
子供の頃からおじいちゃんが話聞かせてくれて大好きになった、英雄譚の英雄達の様な英雄になりたくて。
何より、おじいちゃんや、短い期間一緒にいた
あのかけがえない――。
うつむいていた僕は、よろよろと立ち上がった。、
ふと横を向くと、裏通りに続く道があった。逃げる様に、裏通りを向かおうかと脳裏に浮かぶ。
『堂々と、真っ直ぐ生きなさい』
声は大きいわけではなかったが、凛とした声で言われた言葉を思い出す。
今の自分を見たら、あの人達は何と思うだろうか。
落ち込んでいるとはいえ、自分から暗い方向に進んで行けば、怒られるならいい、でも悲しい顔させてしまうかもしれない。それだけは駄目だ。
「・・もう少し、頑張ってみよう」
そう思い、僕は再度歩き始めた。
しばらく歩いていると、僕のお腹から音が鳴り響いた。
「あ~、朝のパンから食べてないや・・・」
ただ、財布の中にお金は残っていない。しかし、そんなのは知らないとばかりか、クルクルと訴えを起こし続けてくる。
「・・・!?」
ばっと、後ろを振り返る。
振り返った先には、こちら見ている人はいなく、周囲にもその様子は見られなかった。
しかし、確かに自分の中では見られていた感覚はあった。こちら見定める様な無遠慮な視線を。
「あの・・・」
「!!」
意識外からの突然な声掛けに、つい反射的に身構えてしまった。
声をかけてきたのは僕と同じ、ヒューマンの少女だった。
どこかのメイドかお店の人だろうか、若葉色の服に、エプロンを身にまとい、薄鈍色の髪をポニーテールの様にまとめている。
髪と同色の瞳が僕の挙動に驚きを示していた。
「す、すみません」
「いえ、こちらこそ急に声をかけてしまい、すみません」
慌てて頭を下げる向こうも頭を下げてきた。
「あの~、僕に何か用でしょうか?」
「その、お腹の音を聞いていしまって。空いていらっしゃるのかなと」
聞かれていた。言われた瞬間、自分でも分かる位、顔を赤く僕。
「私、そこのお店で働いていつんですが、もう少しでオープンしますので、良ければ、お食事いかがですか?」
彼女が指す方向からは、開店前なのに美味しそうな料理の匂いが漂って、さらに空腹を刺激してくる。
「・・・その、ありがたいお話なんですが、今手持ちのお金があまり無く、また今度行かせてもらいます」
噓である。手持ちのお金は全くと言っていいほど残っていない。それでも、限りなく0に近いプライド何とか絞り出しての
少女は両手を絡めながら、考える素振りをすると、こちらににこっと笑いかけてくる。
「それでしたら、また次も来て下さるのでしたら、私が上手いことサービスをしていくので食べていきませんか」
「え!!、良いんですか!あっ、でも、あなたに迷惑をかけるんじゃあ・・・?」
「このまま空腹のあなたを見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいます。ですから、私のためと思って」
「ずるいなぁ」
そんなこと言われたら断るに断れない。何より、こんな可愛い女の子に笑顔で言われてしまうと。
これがおじいちゃんなら、「性格の良い町娘最高じゃぁぁ!!ベル、お持ち帰りするんじゃあ」っていいそうだなぁ。
返答に困っていると、少し意地悪そうな笑みを浮かべ、一歩前に踏み込んできた。
「大丈夫ですよ。いずれはきちんと私にもいい結果に繋がりますから」
「良い結果にですか?」
「はい、お店の料理が気に入って、今回以降も来て下さったら結果、売上に繋がり、私のお給金が増えますから」
女の子にここまで言わせておいて、断るのは良くないよねおじいちゃん。
にこっと笑う店員さんを前にして、僕は初対面の人に対する壁みたいなものを、引っぺがされてしまった。
「それじゃ、お言葉に甘えさせて頂きます」
「それでは、私が勤めている豊穣の女主人へ入りましょう」
終始店員さんは僕の事を笑ってくれていた。その笑顔が心地良く、【ファミリア】への入団を断られ続けて、落ち込んでいた僕の心を少しだけ軽くしてくれた。
僕は思い出したように先導している店員さんに向かって、言う。
「僕の名前はベル・クラネルって言います。貴女のお名前は?」
彼女はこちらを振り向き、にっこりと微笑んだ。
「私はシル・フローヴァです。ベルさん」
こうして僕と彼女は、ダンジョンの外。このオラリオで出会いを交わした。