「ようこそ、ベルさん。ここが豊穣の女主人です」
シルさんに促される形で店内に入ると、開店に向けて従業員の人達が準備に勤しんでいた。
一番目が引かれたのは、カウンターで料理の下拵えを行っているであろう、恰幅のいいドワーフ女性であった。雰囲気が普通ではない。怒らせたら絶対にやばい全身から漂っている感じがする。あの人が絶対にこのお店の店主だ。
辺りを見渡すと、エルフの女性やヒューマンの女性、猫耳のキャットピーブルの少女など多種多様な異種族の女性が働いていた。
というより、男性の従業員が見当たらない。もしかして、女性の従業員のみなのかなぁ。
・・・酒場の名前の由来が何となく察した。
おじいちゃん、出会いはダンジョンではなく、
「ニャ、ニャー。シルが知らない男を連れて来たニャー」
一人の
女性に対して少ししか免疫の僕にとって、今の状況は追い詰められた兎状態である。
「シル、ニャー達だけに働かせて、自分はサボって男と会っているってどいうことニャー」
「そうニャー。そのニャー好みのお尻をした男を紹介するニャー。そして、少年はニャーに尻を差し出すニャー」
緊張と様々に飛び掛かってくる質問に、シルさんに助けを求める様に視線を向けると、こちらをにっこりと微笑むだけで一切助けがこなかった。そんなぁ、シルさん。なんか一人血走ってこちらを見ているが居て、怖いですけど。
「この馬鹿娘共がぁー。さっさと開店準備しないか。シルとそこの坊主はこっちに来な」
「はっ、はぃぃぃ!!」
女店主の一喝で、先程まで騒いで従業員は我先に散らばり、仕事を再開していた。
僕もシルさんと一緒に、急いで女主人の下に走って向かった。
近くまで近づくと僕なんかより体格も良く、どちらが冒険者か聞けば、十人中十人が彼女と答えるだろう。
「それで、馬鹿娘。開店前のこの忙しい時に、連れて来たそいつは何だい?」
「・・っっ」
「お客様ですよ、ミアお母さん。お腹が空かされているみたいなので、少し早いですがお食事をと思いまして」
ミアお母さんと呼ばれた女性が胡散臭そうにこちらを見る目が恐ろしく、英雄譚に出てくるゴルゴーンにに睨まれ石化したかの様に硬直していると、すかさずシルさんが喋ってくれた。
「ふん、最近オラリオに来たってところかね」
僕の服装を見ながら、ミアさんが予想をたてる。
うぅ、お金が余り無いのもきづいたかなぁ。やっぱり、今からでも、シルさんに謝ってお店を出た方がいいかな。
「営業前に出す料理なんてないよ。シル、あんたは準備に戻りな。坊主はこっちにきて、手伝いなあ。開店準備を遅らせたんだ。間に合わなかったら、ただじゃおかないよ」
「はーい、ミアお母さん。それじゃあベルさん、また後で」
「!?え、っえ!?」
混乱する僕を置いて、シルさんは足早に自分の作業に戻っていた。
「ボケっとしてんじゃないよ。さっさとこっちに来て裏方の仕事を手伝いな」
「すっ、すみませんんんん。直ぐに行きます」
ミアさんの催促に、今日一の反応をした僕。
かつて、一緒に暮らしていたあの人とは全くと言っていいほどタイプが違うのに、両者共から感じる決して逆らってはいけない。僕の本能が警鐘を鳴らし、すぐさま裏方に回ってお店のお手伝いを始めた。
営業を開始してから、一気にお客様がお店に流れ込んできた。
何度か仕事の合間にお店の様子を見てみると、客のほとんどが男の冒険者の人達であり、楽しそうにお酒を飲んだり、料理を食べていた。
中には従業員の女性を見ながら、かつておじいちゃんが
男ばかりではなく女性のお客も居た。店内はオシャレ感じがするし、外にはカフェテラスなど女性が気に入りそうなお店作りになっていた。
様子を見ながら裏方の仕事を行っていると、一番忙しい時間帯が過ぎたのだろう。少しずつ交代で食事休憩が回っていた。
落ち着いてきた事で、全身に疲労と空腹が一気に押し寄せてくる。さっきまでは忙しさでごまかせていたけど、シルさんと会ってから数時間。その時からお腹が空いており、そろそろ限界に近づいていた。
「ベルさん、お疲れ様です。私たちも食事休憩にいきましょう」
「っっ!!」
背後から、シルさんに声をかけられる。この人はどうしていつも背後から声をかけるんだろう。ビックリしてしまう。
「驚き過ぎですよ、ベルさん」
「もっと普通に声をかけて下さいよ、シルさん」
クスクスと笑いながら笑うシルさんを見ていると、怒る気にもならず肩をすくめてしまう。
「あの、シルさん。食事なのですが、一番安い料理にしてもらえませんか。後日、出来るだけ早く返しに来るので」
「そのことなんですが、ベルさんに働いてもらうって当初はなかったことのでここは私がはらいます」
「でも、それは「そこで話してないでさっさと休憩入んな」っっ!!」
シルさんと話していると、後ろに仁王立ちしたミアさんが立っていた。
「坊主、働かせておいて金を取ろうなんてケチ臭い真似、私はしないよ。シル、料理はリューが持って行ったから、坊主とさっさといきな」
「はーい、ベルさんいきましょ」
言いたいことは言ったと、背中を向ける。
「あの、ありがとうございます」
おじきをする僕に、ミアさんは振り返らずに片手で返事を返す。
そこらの男性より男前男前だな、ミアさんって。
しるさんに案内されて休憩室に向かう、美味しそうな料理が机に並べられた。
「シル、用意は済んでいるので、席に座って食事にしましょう。そちらのヒュームの方もどうぞ座って下さい」
椅子に座っていたエルフの女性が立ち上がって着席を促す。
エルフ好きなの僕にとってここまで近くいると、感動と緊張が同時に押し寄せてくる。
「食事の前に、自己紹介をしましょ。リュー、こちらはベル・クラネルさんって言うの」
「初めまして、リュー・リオンといいます。よろしくお願いします、クラネルさん」
「はっ初めまして、べっ、ベル・クラネルと言います。よろしくお願いいたしますリューさん」
緊張のあまり、どもりながら返事を何とか返した。うぅ、恥ずかしい。
「何だかベルさん私と会った時より緊張してませんか」
「そっそんことないですよ」
ジト目でこっちを見てくるシルさん。うぅ、鋭い。
「シル何を言っているんでか、早く食事にしましょう」
リューさんに促される形で食事を取り始めた。
「美味しい!!」
「でしょ、ミア母さんの料理は絶品なんですよ」
空腹というのもあるが、それを引いてもミアさんが作った料理は美味しかった。
村にいた時、あの人が作ってくれた料理を比較しても全然負けていなかった。
もの凄い勢いで食べ進め、二人よりも大分早く食べ終わった。
「ベルさんはオラリオに来たばかりってミアお母さんが言ってましたけど、何か目的が会ってこられたんですか」
食事が終わり一息入れていると質問えお受ける。ただ質問に対しての答えは、答えづらかった。
冒険者になりに来た。そう言えればいいものの、実際はファミリアに入れてすらもらえないが現状。
女の子前で格好つけたいが、もしかしたら、現状を打破する事が出来るかもしれない。天秤の前で悩んでしまう。
「ベルさん、もしかしたら何かお手伝出来るかもしれないので、相談してくれませんか。」
悩んでいる僕に、シルさんが穏やかに語りかけてくる。
「実は・・・」
藁にも縋る思い、今の現状を話し始めた。冒険者になるために来たこと、ファミリアに入る事を何度も断られた事、資金底をつきかけた事。話をしいている間、シルさんとリューさんは黙って聞いてくれた。
「・・・という事です」
全てを話を終えると、静寂が生まれる。
「クラネルさん、貴方はこれからどうしたいのですか」
静寂を突き破ったのはリューさんだった。
「何も冒険者だけはが全てではありません。商業系のファミリアや生産系のファミリアもこのオラリオにはあります。そこなら入れてもらえるかもしれません。適性がないのならそちらに進んでみるのも有りです」
真っ直ぐこちらを見てくる、リューさん。この返答はしっかりと返さないといけない。根拠はないけど直感的に思った。僕の想いは・・。
「それでも、僕は冒険者にになりたいです。たとえ、適性がなかったとしても冒険者になります」
真っ直ぐ、リューさんを見つめ返す。
「そうですか。なら、なれますよクラネルさんなら。恩恵があれば誰もがスタートラインにはなれます。そこから先は強い意志が無い者は先に進めません。ですが、クラネルさんの眼を見れば分かる、貴方ならなれます」
微笑みながら言ってくれるリューさんに、心が暖かくなる。
オラリオに来て行くつもりのファミリアに行った際に、嘲笑われ、中には門前払いをされる事もあった。そんな中、初めての肯定嬉しかった。
「ベルさん、ギルドにはもう行きましたか」
「ギルドですか?行ってはないのですが」
「ギルドなら、色々なファミリアを知っていると思うので、ファミリアを紹介してもらったらどうですか」
シルさんの提案はとても魅力的であった。ギルドは冒険者になってから向かう所と思ってたけど、そうか紹介してもらうのもいいのか。
「ありがとうございます、シルさん。明日、早速行ってみます」
「決まりましたら、是非来てくださいね」
ウインクするシルさんに、つい見惚れてしまう。可愛いなシルさん。
「それでは、明日は直ぐにギルドへむかうんですか?」
「いえ、明日はギルドに行く前に、『第一墓地』によってから行こうと思います」
『第一墓地』別名『冒険者墓地』、その奥深くにある
「そろそろいい時間ですね。シル、クラネルさん。戻って仕事に戻りましょうか」
「そうですね、戻りましょう」
仕事に戻ると、閉店作業まで仕事を行った。
仕事が完全に終わる頃には、辺りは完全に真っ暗になっていた。
「坊主、ちょっとこっちに来な」
片付けが手が空くと、ミアさんに呼ばれ駆け寄る。
「シルから聞いたんだが、あんた今日泊まる所がないんだって」
「あっ」
明日の事で頭が一杯で、完全に今日の泊まる所の事を考えていなかった。
「だ、大丈夫です。一晩ぐらいなら、野宿で何とかなります」
そう言うと、ミアさんがあきれ果てた様な眼で僕を見ていた。
「そんなことしたら、あんたなんか直ぐに人攫いに捕まるよ。それにこんな時間まで働かせたんだ。一晩ぐらい泊めてやるよ。シル休憩室に毛布持って行ってやりな」
「はーい、ベルさんちょっと待ててね」
パタパタとシルさんは走り去って行った。
「何から何までありがとうございます!!」
「あたしがここまでしてやったんだ。せいぜい活躍して、うちの店を贔屓にしな」
「はい、頑張ります」
去っていくミアさんに対して、頭を下げた。
休憩室で待っていると、扉からノックする音が聞こえる。
「ベルさん、毛布持ってきたので開けますよ」
「はい、お願いします」
シルさんから毛布を受け取る。
「ベルさんなら、素敵なファミリアに入れると思います。私、応援しているので」
「ありがとうございます。そうなるように頑張ります」
互いに微笑み合った。
「それじゃお休みなさい、ベルさん」
「お休みなさい、シルさん」
挨拶をすると、僕は椅子で作った簡易ベットに横になる。
明日こそはどこかのファミリアに入団し、冒険者になる。そう心に誓い僕は眠りについた。