歌を奏でる装者と無限を操りし少年   作:アユムーン

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最強は「語り終えた」

タラリ・・・ポタッ、ポタッ

 

弧仁の額から汗が一筋、また一筋と流れ、地面に広がる。

 

その汗は傷の痛みではなく、未来と奏を人質にとられているこの状況に精神がかなり消耗しているからだ

 

「・・・」フゥーッ、フゥーッ・・・

 

何度も荒い息を繰り返しながら、一瞬でも隙ができる瞬間を逃さないためにフィーネから瞳を逸らさない

 

だが、フィーネもこの状況が奇跡に等しいことが分かっているのでそんなボロはださない

 

ギリギリギリィ!

「あぁぁっ!!」

「・・・」

 

買ってもらったおもちゃを見せびらかすように、弧仁に縛り上げた未来と奏を見せつける。

 

「さて、そろそろ答えを聞こう。お前はどの命を差し出すんだ?別にこの二人でなくてもいい、そこに倒れている男でもかまわん。私の計画が完遂されれば皆等しく死ぬのだからな」

 

「計、画?」

 

「・・・話したところで理解できる話ではない。だが私とお前の目的は同じだ」

 

スッ、と奏を前に出して・・・

 

「呪いを祓う、それが私の目的だ」

 

「なん、の、呪い、だ?」

 

この世界には呪術や呪力は存在しないはず

 

「これ以上は意味のない問答、ただ私が祓いたい呪いはお前の比ではない、だから私は何度も輪廻を繰り返し、準備を重ねここまで来たのだ・・・?あの方に伝えるために」

 

そう語るフィーネは大切な人を想う女の顔をしていた

 

「・・・」

 

「話しすぎたな、そろそろ本当に答えを「弧、仁っ!」!」

 

締め付けられる苦しみに耐えながら、未来が声をあげる

 

「私は、いいからっ。奏、さんを!!」

 

「!」

 

「ほう、殊勝なことだ」

 

「・・・私は、弧仁のこと、なにも、知らなかった、のに、否定して、拒絶した、ごめんね、弧仁」

 

「!、それは、俺が「話さなかったからじゃない、でしょ?」!・・・」

 

弧仁が慌てて止めようとしたが、気持ちはお見通し

 

「弧仁が、話さなかった、んじゃない。弧仁は、話せなかった、私が、聞こうとも、しなかったから!

 

だから、いいの。弧仁、の大切な、人が、守れる、なら・・・私の、命、なんて、どうでもいい!!」

 

未来はずっと弧仁に謝りたかった

 

話を聞こうともしなかったことを謝りたかった

 

本当は響のことだけでなく、自分のことも守ってくれていたのに

 

拒絶してしまった自分が嫌で、否定してしまった弧仁のことが怖くて、自分から謝りに行くこともしなかった臆病者

 

そんな自分が彼の側に立てるわけがない

 

だから、会えなかった

 

なのに弧仁は歩み寄ってくれた

話そうと言ってくれた

 

許されたわけではないけど、それが嬉しかった

 

だから、だからこそ

 

「弧仁だって、辛くて痛くて苦しんでたのに、なにも知らなくて、知ろうともしなくてごめんなさいっ!

 

 だからお願いっ!奏さんを、貴方のお姉さんを助けて!」

 

もうこれ以上彼に大切なものを失ってほしくないと、未来は願った

 

「ほう、自らの身を差し出し他者の命を請うか。罪滅ぼしのつもりか?」

 

「その通り、だけど!貴女には屈しない!弧仁や、響達がいる限り、貴女なんて!くぅぅっ!!」

 

「お喋りがすぎるな・・・さて、ここまで聞いてどうするんだ」

 

顔を伏せて、震える弧仁・・・その姿は

 

「・・・ざけるな」

 

怒りを堪えているようだった、だが

 

「なんだ?」

 

今弧仁は、二人を人質にとっているフィーネよりも、今のこの状況を生んでしまった自分よりも・・・煮えたぎる怒りを他の誰でもなく、ある存在に抱いた、それは

 

 

 

「未来ッッ!!」

 

 

 

自らの身を差し出し奏の命を請う未来に対して、それ(怒り)を放った。

 

「そんな、こと、俺は!望んで、ない!!」

 

弧仁は今まで自分のことで怒ったことがなかった

 

「未来に、そんなこと、して、もらう、必要、なんて、ないっ!!」

 

そして、自分の大切なものに対して怒ったことはなかった

 

「だから・・・生きてよ、生きて、いてよ」

 

「!!」

 

「響、には、未来が、いなく、ちゃ、いけな、いんだ

 

 君は、彼女に、とって、そして、俺に、とっても陽だまり、だから」

 

スッ、首もとに下ろしていた目隠しを外した

 

『本気だね?』

 

「・・・」コクッ

 

目隠しを自分の前に投げ、落とす

 

自身と一体となっている擬きにはもう考えは分かっている、その上で問いかける

 

『今からでも僕と変わればなんとかできるって言っても、君は変わらないだろう?』

 

「・・・」

 

ゆっくりと膝をつく

 

『だろうね、彼女達にほんの数パーセントの危険があるのなら、君はそれを犯さない』

 

「・・・ごめん、なさい」

 

両手を地面につける

 

きっと擬きは自分の道連れになる

 

『謝ることはないさ、全部君が望んで選んだこと。それは僕にだって間違ってるかどうかなんて決められることじゃない』

 

「・・・」

 

フィーネは言った、命を一つ差し出せ、と

 

それは未来か奏の命ではない

 

この場にいる者の命の内の一つだ

 

そしてフィーネが最も警戒していた存在と先ほど脅威だと認定した存在・・・擬きと弧仁が一つの命として今、ここにいる

 

「・・・」

 

クリス、父さん、響、未来、翼ちゃん、奏さん

一人ずつ顔を思い出していく。

 

「どうやら、最適解を見つけたようだな」

 

「・・・」

 

そして、真っ直ぐとフィーネを見つめる

 

きっと自分が消えても、大丈夫

 

「曲がりなりにも私の弟だったのだ、辞世の句くらい聞いてやろう」

 

後悔はもちろんある

 

だけど、この世界には戦える存在が残っている

 

本当は自分の手で守りたくて仕方ない

 

だけどその守りたい自分の大切な人達は弱くない・・・だから

 

「・・・先に、地獄で、待ってる」

 

「そうか、ではな・・・この世界唯一の呪術師よ」

 

ドサッ!ドサッ!

 

未来と奏を締めつけていた鞭が外れ、尻餅をついた未来と倒れ眠る奏

 

自分達を締め付けていた鞭が上がり、そして・・・

 

「嫌!弧仁ッ!!」

 

「未来、ごめんね」

 

ザシュッ!ザシュッ!!

弧仁を貫く二本の鞭

 

血飛沫を撒き散らしながら、その足元に広がっていく血

 

ズルルッ・・・ザシュッ!!ザシュッ!!

 

一度引き抜き、再び貫く。

 

ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!

 

何度も何度も突き貫く、肉を貫く音と血が滴る音が止まらない

 

そうして血飛沫が出なくなった頃、ようやく音は止み

 

グラッ・・・バシャンっ

 

自らが作った血の池に潜る弧仁

 

もうその体は動かず、瞳が開くことはない

 

櫻井弧仁は、死んだ

 

「う、嘘・・・弧仁」

 

身体が血に染まるのも厭わず、弧仁の近くに座り込む未来

 

身体を揺らしても、返事はない

 

「嘘ではない、そいつは死んだ」

 

「いやっ、嫌っ!いやぁぁぁぁ!!!」

 

「・・・貴様らを今は殺さない、そいつのように言えば縛りをかけられたようだな」

 

泣き叫ぶ未来に一目も向けず、デュランダルの元へ進むフィーネ

 

「この先の生涯、例え何度輪廻を繰り返そうが・・・貴様のことを忘れないでやろう、ではな・・・私の弟よ」

 

それを止めることは誰にもできなかった

 

皆を愛し、皆に愛されていた彼、弧仁の死亡を受け入れることができなかった

 

・・・

 

・・・というわけで、彼の話はここでおしまい

 

え?僕が誰かって?やだなぁ、覚えてないの?

 

ここに来た君たちにある少年の話をしてたのだーれ?

 

そう正解!五条悟擬きさっ!

 

彼は守りたいものをその命をとして守った、それだけ

 

それは奇しくも彼が戦うきっかけとなった天羽奏と同じだね

 

え?この後の話?それは君たちのほうがよく知ってるだろう?

 

この後は立花響、風鳴翼、雪音クリスの三人と諦めなかった人達によりフィーネは祓われる

 

だから、この話しはここでおしまい

 

えぇ、そんな残念そうな顔をされても困るなぁ・・・それにそれは別の世界のお話だろうって?

 

フフっ、それも一つのお話

 

どれが本物かなんて正解はないし、弧仁にも言ったけど正解だなんて僕でも決めることはできない

 

それぞれが思うお話、それが一つ一つ、一人一人の答えになるんだよ

 

ただまぁ?応援してくれたらやる気になったりするかもね?・・・なーんてね

 

それじゃあ僕はこれから行くところがあるからさ、ここでお別れだよ

 

え?どこに行くのかって?そりゃもちろん僕唯一の生徒とのランデブーさ!

 

あぁそうだ・・・絶対についてきちゃダメだからね?

 

これをフリととるかはご自由に!それじゃあお疲れサマンサ!!

 

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