弧仁の朝は、最近早い
目覚ましより早めに起きて、今日もキッチンに立つ
しっかりと出汁をとった鍋に、具を入れ、味噌を溶かす
米はもうすぐ炊ける、ご飯が大好きなあの子のために多めに炊いてある
クリスはまだ箸に慣れていないので、パンとそれに合わせたメニューも用意している、ご飯がいいと言うなら食べやすいおにぎりも用意するつもりだ
そちらの準備もしながら、小皿に少し味噌汁を入れて一口、濃すぎず薄すぎずちょうどいい味
納得の出来に頷きながら、次は焼き魚にとりかかる。
お取り寄せした魚をグリルに入れる
食事は秘匿生活中唯一の楽しみ、手を抜くわけにはいかない
皆の笑顔を考えながら調理する時間はとても楽しい
『・・・いやなにこれ、良き妻じゃん、むしろ母?』
・・・
翼に衝撃の告白をして次の日の朝です
「「「いただきます」」」
「召し、上がれ」
響、クリス、翼の声、続いて弧仁の声が響く
机の上にはご飯と味噌汁に焼き魚、それから漬物(今日は沢庵)、理想ともいえる朝ごはん
「うん、今日も美味しいっ!」
「毎朝用意してもらって悪いな、わざわざおにぎりも作ってくれて、ありがとな」
「いい、よ、好きで、やってる、から」
「それにしても、本当に美味しいな」
「素材、に、こだわって、るから」
「素材もいいが、弧仁の調理の腕、それから愛情だな」
「そうですよね!今日も朝から弧仁の愛を感じるよ~」
「あっ、愛って、お前だけには弧仁はやらねーからな!?」
「えぇっ!?なんで!!?」
「こらこら、食事中にあまりはしゃぐものではないぞ、それより弧仁、新聞をとってくれ」
「ご飯、中に、新聞、は、ダメ」
「む・・・そうだな、すまない」
『・・・いやなにこの平和』
今まで戦ってたんだし、平和でもいいじゃないですか
『いや、地の文がつっこんでくんなよ』
そんな楽しい朝食、気持ちのいい一日が送れそうな始まりです。
「そういえば弧仁、今日の予定で聞きたいことがあるんだが」
「翼さんと弧仁が用事?なんだろうね?」コソコソ
「まぁ積もる話もあるんじゃねーの?」コソコソ
「そっかぁ」コソコソ
そう言ってそれぞれお茶と味噌汁を飲む
「奏を目覚めさせると言っていたがいつやるんだ?」
「昼」
「そうか、それならそのくらいで鍛練を切り上げる」
「お願、い」
「「!!?」」ブーッッ!!
「「!?」」
翼と弧仁の会話にそれぞれ口に含んでいたものを吹き出す響とクリス
「ゲホッ!、ゲホッ・・・はぁっ!?奏ってお前ッ!?」
咳き込む二人にティッシュと新しいお茶を差し出す弧仁
特に響は女の子がしてはいけない顔をしていていたのでティッシュで拭いてあげていた
「なんだ言ってなかったのか?」
「言って、ないね」
「奏さんって、あの奏さん?」
「どの、奏さん、か、分から、ない、けど、その、奏さん、かな?」
「お前ら、そんな大事なこともっと早く言えよ!」
「ご、めん」
「すまないな、どうしても奏のこととなると私たちは盲目になってしまうようだ」
「それにしても目覚めさせるってどうするの?」
「フィーネ・・・姉さん、が言って、た」
正しき手順で正しき方法を行えば、なにかが変わる・・・と
「ここ、最近、その、こと、考えてた」
擬きと何度も相談し、手順と方法を考えた
「作戦、決まった、から、今日、やる」
思い立ったが吉日、それ以外は凶日と言わんばかりに決めた弧仁
「そんな髪切りに行くみたいな勢いで決めることかよ・・・」
「でも、弧仁がずっと決めてたことだもんね。急ぎたくもなるよ」
「うん、だから、今日、やる」
一足先に食べ終わり、皿を重ねて持ち上げ、流しに持っていくため席を立つ弧仁に、
「・・・その手順の中に、私がやれることはあるのか?」
翼が問いかけ、一度動きを止める
少し考えてから、弧仁が答える
「技術、とか、能力、的、なこと、は、ない」
「・・・そうか「けど」?」
「近く、に、いて」
「!、勿論だ」
そうして今度こそ、席から離れてキッチンに向かう
「あいつ、全く緊張してねーな」
「いや、そうでもないさ」
「へ?」
「・・・弧仁だって、怖いんだな」
近くにいて、そう言った弧仁が持っていた皿は僅かに震えていた
本当は弧仁も怖いのだ
「そうですね・・・だから翼さん!弧仁のことをよろしくお願いします!」
「もちろんだ」
・・・
前回のフィーネの一件以来、元々秘匿にしていた奏の入院先を変えて、護衛をつけるようにしていた
それを今回、緒川に頼んで、弧仁達が隠れている施設に運んでもらった
ベッドで眠り続ける奏、その側に弧仁と翼が立つ
響とクリスは気をつかってくれたのか、部屋の外にいる
息を吸って、吐いて、覚悟を決める
「・・・やるね」
「あぁ、頼む」
『大丈夫、弧仁ならやれるさ』
奏の手をとり、呪力を込めていく
・・・あの時は無我夢中だった
まだよく分かっていなかった呪術
身につけて間もなかった反転術式
初めて大切な人が目の前で失った恐怖
それら全てを注ぎ込んだ
その結果が今の奏だ
「・・・」
けど今は違う
まだ完璧ではないが理解した呪術
何度も人を、そして自分を救った反転術式
失った恐怖より、守れない恐怖を知った
これからの奏を救うために、呪いを祓う
『弧仁は奏を呪ったんじゃなくて、あの時奏に浸食していた絶唱のバックファイア・・・フォニックゲインと同等の呪力を注いでしまった』
呪って奏を『生かそう』とした弧仁の呪力と奏自身を襲っていたフォニックゲイン、その二つが膠着
出力の強い方が圧殺してしまう二つのエネルギーが膠着し、残留した
「言ってしまえば、延命措置のようなものだったんだな」
それがあの頃の弧仁にできた精一杯だった
「・・・」コクッ
『そして、今の奏はあの頃と全く同じ状態』
弧仁の呪力と未だに奏を蝕むフォニックゲインが絡み合っているのだ
「だからまずは奏を消失させようとしているフォニックゲインを」
「掻き、消す」
注ぐ呪力を強める
まず行うことは奏の呪いを祓うことではない
「ちゃんと、呪う」
奏を蝕むフォニックゲインを成長して量の増した呪力で圧殺する
そして、奏のことをもう一度呪う
不完全な呪いを完全な呪いに呪い直すのだ
「ハァ・・・ハァ・・・」
「弧仁、頑張ってくれ・・・」
「もう、少し・・・これで、終わりッ」
「!」
キィィィンッ・・・パッ
奏の身体が一瞬光り、すぐにその光は霧散した
「フォニック、ゲイン、消えた」
「!、なら奏は!」
「まだ、やること、ある」
『そう、今度は今かけた呪いを解呪する』
フォニックゲインが消えた今の奏は弧仁の呪力によりこの世界に縛り付けられた状態
だからそれを祓う
「今の、俺と、奏さん、は、縛りに、よって、主従、関係、にある」
奏に呪力を与えて生きることを強要する弧仁と、それにより生かされている奏
本来は呪う必要はないがフォニックゲインを掻き消すためにはどうしても一度呪う必要があったのだ
だから、その主従の主のなっている弧仁がその関係を破棄してしまえば奏は呪いから解放される
一方的な破棄なので、奏が罰(ペナルティ)を求め、それを弧仁が受け入れれば・・・解呪は成功する
・・・
主従関係を破棄、六眼にも呪力は写っていない・・・解呪完了だ、後は奏からの罰を待つのみ
弧仁が声をかける
「奏さん、起きて」
もう目覚めない理由はないよ
「翼ちゃん、とも、仲直り、したよ」
ちょっとだけ、ケンカしたみたいになってしまったけど・・・もう大丈夫
「仲直り、してから、たくさん、笑った、よ」
「うん・・・本当は奏がやりたかったと思うけど、弧仁と一緒に戦って、ご飯を食べて、弧仁の好きなテレビを観て、二人で歌ったんだ」
戦う時間以外はとても楽しい時間だった
・・・だけど
「奏、さんも、いないと、ダメ、だから」
「起きて、奏・・・お願い」
奏に帰ってきてほしかった、ここにいてほしかった
翼と奏の二人が歌う姿を見たい
三人で遊んだり、歌ったりしたい
またあの家で四人でご飯が食べたい
やりたいことがたくさんある
「何でも、言うこと、聞くから・・・奏姉さん・・・起きてよぉッ!」
ポタッ・・・
奏の手に、弧仁の涙が落ちる
ピクッ
「!」
「耳元で・・・泣くな、五月蝿くて、寝てられねぇ・・・」
病室に小さな声で響く言葉
その声は弧仁でもない、翼でもない・・・つまり
「か、奏・・・?」
「おう!この声は翼か?・・・ごめん、まだ目がちゃんと見えなくてさ・・・そこに、いるのか?」
「いる!、いるよ!」
「そっか、久し振り、なのか?なんか長い夢みてたみたいだ、そしたら、二人の泣き言が聞こえてくるからさぁ、起きちまったよ」
「うん、俺、頑張った、からさ」
「なんにも覚えてないんだよなぁ・・・けどまぁ、自分で起きれなかったからさ、ありがとな」
「どう、いたし、まして」
「そういえば、さっき何でも言うこと聞くって言ってたよな」
「うん、何でも聞くよ」
ここで、奏が弧仁に死を要求すれば弧仁は死ぬ
それほどまでに危険な行為でもあるが・・・
『ここに心配なんてなかったよね』
「なら、飯・・・作ってくれよ・・・そうだな、あの時のハンバーグと後卵焼き、つまみ食いも許せよな」
「だったら、その分多く作らないとね弧仁」
奏が弧仁を傷つける要求をするわけがないと、分かりきっていたからだ
「うん、沢山、作るよ。それ、からね、奏さんに、紹介、したい、人が、いるんだ」
「!、まさか、彼女か?」
「ううん、友だちと、俺の、もう一人、の、姉さん、だよ」
「はぁ!?お前アタシ以外に姉って!・・・まぁいっかとりあえず」
楽しい話はこれからいくらだってできるから
だから、まずは挨拶から
「翼、弧仁・・・おはよう」
そうしてようやく二人は、この言葉を言うことができる
「「おはようっ奏/奏姉さん!」」
・・・
あれから数ヶ月、まだまだ全部が戻ったわけではないが世間はあの事件から元の生活に戻りつつあった
響も翼も、元の生活に戻り、クリスは新しい生活を迎える
奏も衰弱してしまった身体を戻すためにリハビリを頑張っている
未来とはあの頃のように気兼ねなく話せるようになって、響と三人でふらわーにいく約束をした
二課の皆も頑張って影からこの国を守っている
・・・そして、弧仁も
『またエージェントに戻って、色々な国にいくのかな~って思ってたけど』
「今は、まだ、離れ、たくない」
町が一望できる場所で、その景色を眺める
弧仁は今、どこにも所属していない
フィーネの事件で櫻井弧仁は死んだからだ
『僕の提案、うまくいってよかったね』
「うん、ありが、とう」
擬きの提案、それは弧仁に対する余計な言及を防ぐために『呪術を操る二課所属の櫻井弧仁』を公的に死んだ扱いにしたのだ
そう、昔風鳴から櫻井に変わった時と同じである
「八紘、さんに、お礼、しないと」
『そうだね、翼のライブDVDでも贈ればいいんじゃない?』
「そう、だね」
弦十朗曰く、一番敵に回したくないという弦十朗の兄にお願いして、死んだことになった
もちろんそのことに色々いってくる輩はいたが、全部八紘が何とかしてくれた
だから今の弧仁は自由だった
気持ちいい風が肌を擽る
それをもっと感じたくて目元につけている目隠しを首に下ろす
開けた瞳は相変わらず蒼い片眼
なにもなかった弧仁から風鳴弧仁を経て櫻井弧仁を終えた
その間で得たたくさんのものを捨てるつもりはない
名前が違っても友とも家族との関係もなにも変わらない
弧仁は弧仁、これからまた弧仁として、新しい人生が始まる
それがなんだかワクワクするのだ
『だってなんだってできるもんね』
ノイズはまだまだ現れるけど、今の自分達ならなんの問題もない
諦めてた学校に通うのだっていい
なにか夢を探すために旅に出るのもいい
ずっとこの場所で、皆と一緒に生きていくのもいい
なんだってできるのだ
「さぁ、なにを、しようか」
なにかあったって、今の自分なら大丈夫だと言える、なんてったって自分には最強の先生がついているのだから
その思考を読んだ擬きが声をかける
『・・・あのさ、弧仁』
「?、なに?」
『ごめん、なんでもない・・・それにしても、それで新しい名前本当によかったの?』
重々しい声だったが、なにもないと誤魔化して、別の話題をあげる
「むしろ、先生、こそ、いいの?」
『僕はもちろんウェルカムさ、むしろ嬉しいくらいだよ』
「そっか・・・なら、よかった」
もう一度、街の景色に目を向ける
その背中を押すように、擬きが声をかける
『これからもよろしくね・・・五条弧仁』
最強の名を受け継ぐ者としての新たな人生が始まる
シンフォギアさんぽ
命名狂想曲
櫻井弧仁から変わる新たな名前を決める会議にて
響「立花です!お母さんもいつも弧仁を息子にほしいって言ってました!もしくは小日向ですっ!」
ク「ここは譲れねーな、パパとママの悲願はアタシが晴らす。あいつは雪音弧仁だ」
翼「いや、やはりここは元鞘に収まるのがいいだろう、ということで風鳴弧仁に決定だな」
「「「・・・戦わなければ勝ち取れないのならしかたない!」」」
そうして始まる三つ巴の戦いっ!
弦「いや、お前達弧仁の意思を尊重しろ」
そこに現れる来訪者っ!
奏「あ、天羽なんて、どうよ」ゼェゼェ・・・
弦「奏君!?まだ安静にしていろ!?」
そうこうしているうちに決まった名前が
弧「五条、名乗っても、いいかな?」
擬『いいともーっ!』
五条弧仁でした。