歌を奏でる装者と無限を操りし少年   作:アユムーン

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望まぬ「一体」

コポッ、コポポ・・・ザバッ

 

暗い水中から水面に出てきた

 

ここはもちろん弧仁の生得領域

 

ぼんやり見ずに浮かびながら見る空は何時もなら雲一つない快晴のはずなのに曇っている

 

なんでだ?と考えていると・・・

 

「やっぱり来たね」

 

「先生・・・!」

 

「あー、やっぱり驚くよね」

 

急に影が差したと思えば目前に擬きが現れた

 

しかし以前から知っている白髪に弧仁の持っている目隠しの姿ではなく、学ランのような制服を着たサングラスの姿

 

「これは五条悟の弧仁と同じくらいの年頃の姿じゃないかな」

 

「イメチェン?」

 

「なら、良かったんだけどね。とりあえず起きろよ」

 

「・・・」ザパッ

 

水面から身体を起こして、そのまま立ち上がる。不思議なことに身体はどこも濡れていない

 

「君の身になにが起こったのか、分かってるね?」

 

「・・・うん」

 

ネフィリムと対峙し、気を失ったあの瞬間・・・自分はなにかに塗り替えられた

 

そして自分を塗り替えたそれは擬きだった

 

「正確には僕も塗り替えられてるんだよね」

 

「どういうこと?」

 

「それを説明する前に僕の役割って覚えてる?」

 

「五条悟の情報を管理する存在」

 

「そ、でも本来の特級呪物五条悟の目隠しに僕という存在はいなかった」

 

「!」

 

「君より前の前の前の・・・それこそ一番初めに目隠しを着けたイカれた研究員から呪力が溜まり続けた。その結果生まれたのが僕ってワケ」

 

「何故そんなことが起きたの?この世界の人たちに呪力はあってもそれが外的な何かに影響を与えられないはずじゃ」

 

「流石弧仁いい目の付け所だよ。少し寄り道になるけど話そうか。君の言う通りこの世界の人たちは人並みの呪力は持ってる。

 

だけどそれ以上の、呪術に目覚める存在は僕が確認した限りでは誰もいない

 

それ以前にこの世界は呪霊は生まれないところからおかしいよね」

 

「呪霊・・・人から漏出した呪力が澱のように積み重なって生まれるもの・・・だよね」

 

「正解、けどよくよく考えてごらんよ。この世界は・・・違う、どんな世界でも人と呪力は切っても切り離せないものだ」

 

呪力の源は怒りや恐怖といった負の感情 

 

どんな世界であろうと、それを抱えない人間はいない・・・人がいる限り、絶対に

 

だからその呪力によって生まれる呪霊が生まれないことは異常なのだ

 

「奏の時はどうなるか分からなかったから焦ったけど・・・杞憂でよかったけね」

 

「なら、なんで呪霊は生まれないの?」

 

「・・・詳しくは言えない、だけど今の弧仁には見えないレベルでこの世界の人々は呪われている。その呪いのせいで呪力に蓋がされている・・・そんな感じかな」

 

「呪い・・・まさかっ「はい、ストップ」!」

 

口を塞がれる

 

「それ以上は言ったらダメだ。その考えが確証に変わったりしたらこの世界がひっくり返ることになるし、そこは僕らには関係のないことだ

 

とにかく六眼で見たところそこまで害はないっぽいし僕は放置しているよ。とにかく話を戻そう」

 

「・・・」コクッ

 

確かに気になるところではあるのだが、今は自分の話が優先だ

 

「人の身にかかっているその呪い、けどその

呪いは五条悟の目隠しを装着する時に祓われる。

 

その結果蓋をしていたはずの呪力が溢れ出す・・・ここまで言ったら分かるでしょ?」

 

「溢れ出した呪力が目隠しに蓄積され続けて・・・それで」

 

「うん、それを幾度も繰り返し呪物の中にバグのようなものが起きた結果、五条悟をモデルにした僕(五条悟擬き)が生まれた」

 

「・・・」

 

「そりゃ死の寸前なんだから人の呪力なんか出るわ出るわ・・・だけど僕が生まれたところでイカれた研究や実験で死んでしまう命をどうにかできるわけではなかったし、するつもりもなかったよ」

 

「なら、なんで俺は」

 

「僕が興味をもったからだよ」

 

「?」

 

「君が目隠しを着けた時は少しの呪力も出なかったんだ」

 

「!?」

 

「それほ天与呪縛によるものか、それとも単に記憶もなくボロボロの君に負の感情すらなかったのか・・・なんにせよ君はこの世界初、五条悟の一部を取り込み受肉しかけた者となった。そんなの僕が生まれてから初めてだった

 

だから、面白いと思ったんだよ」

 

「そう、なんだ」

 

「幻滅した?」

 

「ううん、むしろそうなってよかったなって」

 

どんな理由があろうと擬きと出会えたから、今がある・・・幻滅もしないし、恨みもない

 

むしろそうなったことに感謝したい

 

「・・・そっか」

 

少し笑みを浮かべながら、曇天の空を眺める

 

「そこからは君も知っての通り、僕は先生となり、君を導き続けた・・・だけど、予想外のことが起きた」

 

「・・・フィーネの時のこと?」  

 

弧仁が生きていた中で最も死にかけた戦い

 

あれを乗り越えた結果、弧仁は力を得た

 

「命を落としかけたあの時、僕と弧仁の魂は極めて近くなり・・・一つに同化しかけた

 

そしてその同化は今も進んでいる

 

そうして僕(擬き)といういわば情報の管理者がいなくなりつつある特級呪物『五条悟の目隠し』は本来の機能を取り戻し・・・君に譲渡していない情報が君の中に注がれ始めた」

 

今まで擬きが弧仁の負荷にならないように微量に微量に注いでいた五条悟の全てが弧仁を、そして擬きすらも侵略し始めているのだ

 

そしてそれはもうどうすることもできない領域にある

 

「・・・」

 

「そして今その情報は僕たちを塗り潰し始めている 

 

その影響で僕の見た目も変わり、君と入れ替わった時も五条悟の情報の影響で僕(擬き)とも違う五条悟のような存在に成り変わった」

 

それほどまでに強い五条悟の全て

使用者本人を飲み込み、乗っ取ってしまう

 

「今はなんとかその存在から僕と弧仁の二人がかりで自我と身体は取り返せている・・・だけど僕らが完全に一つになった時にはもうそれはできなくなる

 

僕らが一つの魂となった時、五条悟に塗りつぶされ・・・五条悟に成り代わる

 

けど誤解しないでほしいんだ。目隠しに込められた本当の願いはそんなものじゃない

 

だけど僕というバグ、そしてまだ五条悟を受け入れるにはまだ未熟な弧仁、それが合わさって今の状態になった」

 

擬きにも予想できていなかった状態

擬きにもどうすることもできなかった

 

そしてそれは弧仁も同じ

 

「こうなる前に何とかする方法がなかったわけではないんだよ」

 

「!」

 

「けどね、これを弧仁に伝えたところでその方法を選ぶとは思えなかった」

 

「?、どうすればよかったの?」

 

「簡単だよ。呪術と僕を捨てればいい・・・少し前なら僕の意思でできてたんだ」

 

「!」

 

解答は至ってシンプル、問題の元をすべて捨てればいいだけのこと、だけど

 

「ほら、できないでしょ?なにがあっても、守りたい存在に危機があれば、体が動いて力を使っちゃうでしょ?」

 

擬きの言う通り

 

自分が自分でなくなってしまうとしても、弧仁は呪術を捨てられない

 

守りたい存在がいる限り、力を使い、欲し、戦い続ける

 

それに・・・

 

「先生とおわかれなんてできない、したくないよ」

 

「・・・だろうね、僕も」

 

悲しそうに笑う二人

 

「もうどうにもできないんだよね」

 

「うん、もう別れるにも別れられないレベルで僕らの同化は進んでいる」

 

「そっか、けど先生と一緒なら一人じゃないね」

 

「うん、一人じゃないから、寂しくないね」

 

もう逃れられない運命だというのなら、受け入れてしまおう

 

本当は怖くて怖くて仕方がない・・・だけど・・・

 

「後どれだけなら戦えるかな」

 

「そう何度も戦えないね、弧仁が呪術を使う度に僕らの同化は進んでいく」

 

怖がって止まっていても、なにも守れない

 

それなら前に進みたい

 

だけど最後まで戦えないかもしれない

 

完全に五条悟に塗りつぶされ、自分(弧仁)の手で戦えないというのなら・・・いっそのこと

 

「・・・」

 

「今弧仁の考えていることが分かっちゃうから嫌だな~・・・」

 

「ごめんね、先生を道連れにしちゃう」

 

「別にいいよ、地獄まで付き合ってあげる」

 

「ありがとう、先生」

 

「こちらこそ、僕唯一の生徒」

 

そうしていると歌声が聞こえてきた

 

「懐かしい・・・マリアの歌だ」

 

「なんかりんごがどーたらって歌ってるけどなんなんだろうね」

 

「分かんない、だけど懐かしいなぁ」

 

「弧仁の過去も折角分かったのに、本当もったいない」

 

「いいんだよ、それじゃあそろそろ行ってくるね」

 

「うん、じゃあね」

 

そうして意識が浮上していく・・・

 

・・・

 

「♪~、!、幸詞!」

 

「おは、よう、マリア」

 

生得領域と同じ歌声、寝かされていたベッドの近くにマリアがいた

 

「傷はなかったから特に処置はしていないけど、身体は問題ないかしら?」

 

「大、丈夫」

 

先程までの擬きとの会話もしっかりと覚えいるし、前後の記憶もある、身体も傷一つない、むしろ元気だ

 

「・・・マム?」

 

そうしていると隣のベッドではナスターシャが眠っているのに気がついた

 

「マムに、なにか、あった、の?」

 

「・・・マムは病気を患っていて、昨日発作が起きたのよ。この治療と延命ができるのはドクターウェルだけ」

 

「だから、ウェルを、近く、に?」

 

「えぇ、聖遺物の研究にも精通していてなおかつ生物の分野では最高の人材なのよ・・・性格は置いておいてだけども」

 

「全く、だね。切歌と、調、は?」

 

「今ドクターを探しているところよ。!、忘れていた、これを返しておくわ」

 

「?、!」

 

マリアから手渡されたものは携帯電話

 

「何度か鳴っていたから電源は落とさせてもらったけど連絡してあげなさい。心配しているでしょう」

 

「いいの?」

 

「貴方はこちらの不利益になる情報は話さないでしょ?」

 

「うん」

 

「なら連絡してあげなさい、それからは好きにすればいいわ」

 

「?、それも、いいの?」

 

そういえば弧仁にはなんの拘束もされておらず、むしろ存分に休ませてもらえたようだ

 

「貴方を縛るなんてことできないもの」

 

それは物理的にであり、精神的にもである

 

「・・・あり、がと」

 

早速携帯の電源を入れる・・・その途端に鳴り出す

 

「!、もしも『おい!弧仁っ!!』!?」キーン

 

電話の相手は奏

 

『お前今どこにいるんだよ!!』

「へ、ヘリ?」

『無事か!?』

「ご、五体、満足、けど、お腹、すいた」

『ならなにかしら食えよ!?』

 

「う、うん!?」

 

『いや落ち着けよ、後かっこが同じ種類だから分かりづらいんだけど?』

 

擬きのツッコミが入ったところでそろそろ落ち着いて話すことにする

 

「今、そっち、どんな、感じ?」

 

『月の落下が秘匿されてた情報が分かったろ?それで弦十郎の旦那が今各機関とか各国に情報の開示と協力体制を仰いでるけど・・・芳しくないな』

 

「そっか・・・父さん」

 

『それだけじゃない、響がヤバい』

 

「!、響が!?」

 

予想外の名前が出たことに慌てる

 

先の戦いで響は確かに暴走していたが・・・そんなことは以前までも見られていたことである

 

それに暴走も弧仁が呪力を当てることで気絶させたはず、それに反転術式も施した

 

なにも問題はないはずなのに

 

『安心しろ、お前がやった行動に間違いはなかった。問題は別にある』

 

「別?」

 

『メディカルチェックの結果、響の身体を胸のガングニールが侵食し始めていて、生体と聖遺物の融合が分かった。それが響の力の源であり、爆弾でもあったらしい

 

・・・このままじゃ響は死ぬ』

 

「!!」

 

立場や流れる力は違えど、響は今弧仁と同じ立場にあった

 

『響にはまだ伝えてない、このことを知ってるのは旦那とアタシと翼とお前だけだ』

 

「・・・どう、すれば、いいの?」

 

『それは目下で研究部の人達が打開策探してる。けど今のこっちサイドには響の力が必要だ』

 

「!?」

 

『分かってる、これ以上戦わせるつもりわねーよ。だけど、響が止まると思うか?』

 

「そ、れは・・・」

 

『付き合いのまだ短いアタシでも分かる。響は自身の命を投げ打ってでも誰かの手を掴みにいくだろ』

 

「・・・うん」

 

弧仁は守りたいもののために

 

響は目の前にいる誰かの手を掴むために

 

二人が戦いを捨てることはできない

 

命を失うとしても、周りが止めたとしても、止まらない

 

「響、の、ことは、分かった・・・翼ちゃん、と、クリス、は?」

 

『あの二人は無事だけど・・・翼がちょっと心配かな。

 

とにかく、一度戻れそうなら戻ってこい』

 

「分かった」

 

『んじゃな』

 

ピッ・・・携帯を閉じて、ため息を着く

 

全くどうしてこう問題が重なり続けるのだ・・・と思っていると

 

「浮かない顔をしていますが、どうやらお話は済んだようですね」

 

「!、マム!?」

 

眠っていたマムが目を覚ましていた

 

「貴方の立場も理解しているので言及はしませんが、なにかあればおっしゃいなさい」

 

「マム、身体、平気?痛い、ところ、ない?」

 

弧仁の抱えている問題を聞こうと思ったナスターシャだったが、飛び出てきたのは自身を気遣う言葉

 

マリアといい幸詞といい・・・優しい子だ

 

「えぇ、マリアの処置が適切だったお陰でひとまずは問題ありまさん。これから私たちは切歌と調がドクターウェルを発見次第合流する予定ですが、貴方はどうしますか?」

 

そんな子達が戦う現状に、また別に胸が痛むが、そんなことは言っていられない

 

ひとまずは切歌と調と合流する必要がある

 

「なら、着いて、いって、いい?降り、たら、帰る、よ」

 

「構いません。マリア、出発の準備をしましょう」

 

「えぇ、だけどマムはもう少し休んでいて頂戴」

 

「!、分かりました」

 

「それじゃあ行ってくるわ」

 

バタン、マリアが医務室から出ていく

 

「・・・マリア、優しい、ね」

 

「そうですね」

 

「マム、やっぱり、元気、ない?」

 

「・・・やはり、貴方も優しい子ですね」

 

「?」

『あったり前でしょ?誰の生徒だと思ってるのさ』

 

「以前貴方は私たちに覚悟を問いましたね・・・しかし現時点でマリアも切歌も調も・・・そして私もまだ迷っています」

 

『あまっちょろいねー』

「・・・」

 

「ですが、成すべきことを成すために・・・私たちは立ち上がった、もう後には引けない」

 

「!」

 

後に引けないのは、弧仁も同じ

 

「ですが見ての通りの体たらく・・・最後まであの子達と共に戦えるかも怪しい」

 

「そう、だね」

 

それも、同じだ

 

「なので、これは家族としてのお願いです」

 

「!」

 

「私になにかあった時、マリアたちのことを頼みます。貴方にしかもう頼めません・・・どうかお願いします」

 

「!・・・うん」

 

自分の身にある危険を話すことはできない

 

『まーた厄介なモン背負っちゃったね』

 

だけど弧仁には、この厄介な願い(呪い)を無視することはできなかった

 

そんなこと・・・できるわけがなかった

 

 




現在の弧仁の抱える問題を整理

擬きとの一体化とそれによるデメリットについて

フィーネとの戦いでの臨死体験を経た結果、弧仁と擬きは一つに同化し始めた

これにより、目隠しの情報を管理する役目だった擬きが消滅し始めている

その結果、目隠しが本来の機能を取り戻し、今まで擬きが制御していた五条悟の全てが弧仁と擬きもろとも侵食する働きを始める

ネフィリムとの戦いで現れたのは五条悟に塗りつぶされた擬き、そこには弧仁の意識も擬きの意識もなく、まさしく五条悟のようなナニカが現れる

だが弧仁はもちろん、擬きもまだ完全に塗りつぶされているわけではない、なんとか二人とも意識を取り戻し、途中からは精神力でなんとか退け、一時的に五条悟のようなナニカを押し返すことができた

しかしこのまま弧仁と擬きの一体化が進めばそれに抵抗する精神力が一人分となり、五条悟のようなナニカを退けることはできなくなる

よくて五条悟の情報に耐えきれずに死亡

悪くて五条悟に塗りつぶされ、成り代わる

なら、二人が一体化しなければいいだけだが二人は既に切り離すことのできないレベルで一体化しかけている(無理にやろうとすれば死ぬ)

そして呪術を捨てるという選択肢を選ぶつもりは毛頭ないので、弧仁と擬きが消える運命は確定している






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