クリスと別れて、奏と共に翼に会いに行くため、緒川の元を訪れました
もちろん目隠しを装備して、出掛けます
「緒川さーん、翼のスケジュール教えてくれよ」
「ついでに手土産はなにがいいか教えてー」
「来ると思っていましたよ。現在は雑誌の取材中で場所はこちらです。手土産についてはこちらの羊羮をお願いします。緑茶をたててあげると尚よいですね」
「えらくあっさり教えてくれるんだな」
「拍子抜けだね」
「今の翼さんが弱音を吐ける相手はお二人しかいませんから」
「翼ちゃんなにかあったの?」
「響さんの件で責任を感じているんです。自分の力が足りなかったから、響さんの侵食も進んでしまった、と」
「それは翼ちゃんだけが悪いわけじゃないよ」
「その通りなんですがね・・・色々と背負い込みすぎているようです」
「翼らしいっちゃらしいけどな・・・とにかく行くか」
「うん、ありがとう緒川さん」
「この後の予定は全て空けてあります。翼さんのことをよろしくお願いします。」
というわけで早速向かいました
・・・
「おーい翼~」
「遊びに来たよー」
「!?奏に弧仁・・・なにしに来たの?」
「そんなトゲトゲすんなって、さっき言ったろ?遊びに来たって」
「申し訳ないがこの後予定があ「緒川さんが予定開けてくれたよ」し、しかし予定が空いたのなら訓練を入れないと「そういうのいいから」!?」
「とにかくほら、遊びに行こうぜ?任務用の携帯もあるし、弧仁なら速攻で移動できるし・・・な?」
「二人の気持ちは嬉しいけどやっぱり「連れてっていいよね、答えは聞いてない!」なっ!?」
翼と奏の肩を持って瞬間移動、以前よりも長距離を移動できるようになった
・・・
「ふぅ・・・っ!?」
瞬間移動を終えて、一息ついたところで頭が痛む、やはりこうしている間にも侵食は進んでいる
「!、弧仁!?」
「頭が痛むのか?」
「うん、ちょっとね。けど大丈夫だよ」
「・・・深くは聞かねーよ、で?どこにエスコートしてくれたんだ?」
「てれれってれー♪カーラーオーケーボックスー!!」
両手で指し示すそこは青色背景に赤字の某カラオケボックス
「なぜここに?」
「声が前よりも出せるようになったからさ、俺の歌を聞いてもらおうかと」
ふふん、と誇らしげに店内に進む弧仁に続いて翼と奏も進みますが・・・
「・・・なぁ弧仁って歌上手いのか?」コソコソ
弧仁が反転術式を会得してから詰まらずに話せるようになり、そして弧仁の歌を聞いたことがあるのは翼だけ
そのため弧仁の歌声を知っているのも翼だけなのだが・・・
「いや、それが・・・」
・・・
「♪~・・・どう!?どうだった!?」
歌い終わって、キラキラした瞳で感想を聞く弧仁・・・だが
「お、おう・・・」フラフラ
「よ、よかった、わ?」ゼェゼェ
最後まで聞いた二人は息絶え絶え・・・その原因は言うまでもなく弧仁
「弧仁、下手すぎだろ」コソコソ
「多分喉の使い方が分かってない、聞いたことをそれっぽく歌ってるつもりみたい・・・けどそれがかえって酷い」コソコソ
信じられないほどの音痴、音程が外れまくっていて正直聞けたものじゃない
・・・とは言えないので、誤魔化した
「翼お前、一緒に歌った時に歌教えてやらなかったのかよ」コソコソ
「そういったことはトレーナーが行うことだし、前までは弧仁も練習するほど長い間声が出なかったの」コソコソ
「な、なるほど・・・」コソコソ
それに一緒に歌えて楽しいと、キラキラした顔をしていたので、翼も擬きもなにも言えなかったのだ
「次はなに歌おっかな~♪」
「ま、待て待て、次は・・・っていうか今日はアタシらが歌う!」
「え?」
「今日の弧仁はお客さんでいて?それで私達の歌を聞いてほしい」
「ってことは?」
「「今だけツヴァイウィング復活!!」」
そうして流れる弧仁のよく知る歌の前奏、そして・・・
「「♪~」」
弧仁の大好きな歌声が響きだしました。
・・・数時間後、店先にて
「いやー歌った歌った・・・やっぱいいなぁ、心がスカッとしたよ」
「私も、こんなに楽しく歌ったのは久し振り」
「俺はもっと歌いたかっ「次はクリス達も連れていこうな!」けどやっぱり俺も「叔父様や友里さんたちも一緒にね!」?・・・あ、そうだ」
「どうした?」
「最後に行きたいところあるから行こう、着いてきて」
「?分かった」
弧仁が連れてきた先は、いつか擬きと共に訪れた・・・自分が「五条弧仁」となった場所へ
町が一望できるこの場所は今、夕日に染まっていた
「へぇー、良い景色じゃん」
「ここは立花達と訪れたことがあるわ、ここで私は一人じゃないって、教えてもらった」
「うん、俺もここで新しい人生が始まったんだ・・・こんなことになるなんて思わなかったけどさ」
「あの時は奏も目を覚まして、私もアーティストとして一歩踏み出して、雪音や立花も小日向も、弧仁もいて、なにも不安なんてなかった」
「今は不安なことしかねぇ、なぁ翼」
「なに?」
「響のことなんだけどさ」
「・・・」
「あんま背負いすぎんなよっていっても、きっと翼はもっと背負い込むと思うから言わないさ・・・けどさ、これだけは言わせてくれよ」
「?」
「響が今の状態になってしまったのは誰のせいでもない。いろんな状況が重なった結果」
「・・・」
「それに元はと言えば、アタシが響を戦場に巻き込んだのが原因だろ?だからアタシはそれを後悔してた。
けど響はそう思ってなかった。ちゃんと拳に想いを握り、胸に覚悟を抱いてた・・・出会って少しでしかないアタシでも分かったんだ。翼も知っているはずだろ?」
「えぇ、立花の戦士としての覚悟は理解している。だけど、それでも私の力も足りていなかった」
ネフィリムと戦闘した時の自分にもっと力があれば、今ほど侵食は進まなかったかもしれない
切歌と調の時も、もっと早く駆けつけていたら
とにかく後悔が募る
「そうだね、俺も足りないや」
そしてそれは弧仁も同じ、自身の両腕を見る
結果的とはいえ、自分の腕も命も自分を塗り潰そうとしている存在が救った
守るための力があってもそれを扱う弧仁は弱い
今だって、生かされてるようなものだ
「だから・・・強くならないとね。
戦う力をじゃなくて、心を強くしないと」
今までは守る力を得るためにガムシャラだった
だけど今は?
自分に問いかけるように拳を握って胸に据える
そこから感じる鼓動は間違いなく自分のもの
「弧仁」として生きてきた時間も、気持ちも全部全部自分のもの
「五条悟」や「幸詞」のものではない、皆がくれた自分だけの魂
それを最後まで塗り潰されないために
「最後まで皆と一緒にいたいから、もうちょっと強くなろうと思うよ」
最後まで足掻きたいのだ
惨めたらしく、醜くても
最後の一瞬まで、自分が自分らしくあるために
「「ッ・・・」」
今弧仁がなんの事情を抱えているは知らない
だけど、もう長い付き合いだ。弧仁が今どんな気持ちなのかくらい、分かる
その最後が近いうちにあることも、分かってしまう
それでもそれを受け入れ、前を向く姿酷く寂しいが・・・もう自分より何歩も前を行っている力強さがある
少しでも近づくために、歩み寄り添う
「私も立花や雪音、奏と弧仁や皆とずっと一緒にいて、共に歌いたいな」
「当たり前だろ、アタシらは仲間で家族で友達なんだ・・・離れたくねぇよ」
「うん・・・望んでるのはそれだけなのにね」
ただ、大切な人とずっと一緒にいたい
願いは単純なのに、叶えるのは難しく
綺麗なはずの夕焼けは、今の三人には少し眩しくて、目を反らしてしまった
・・・
奏と翼と分かれてから、響のお見舞いに行った
「やぁ響」
「!、弧仁!」
「よかった、元気そう」
「うん、明日には帰ってもいいだって」
「そっか、よかった」
「弧仁も元気そう・・・って声が」
「あぁ、うん・・・色々あってさ」
「そっか、そうなんだ・・・」
「「・・・」」
そして沈黙
おかしい、どこかぎこちない
いつも顔を合わせればお喋りが止まらないくらいなのに
「な、なんか!会うの久し振りな気がするね!弧仁と会っても私気絶してるもんね!」
「そうだね、俺もすぐにどっか行ってたし」
互いの状態は人伝に聞いたり、なんとなくで察している
「あ、私暫く休むことになったんだ」
「俺も暫くは安静にだって」
共通点だって多い
「その間未来とデートに行こうって約束してるんだ。水族館とか、ふらわーとか、色々行こうねって」
「いいなぁ、楽しそう・・・」
「そうだ!弧仁も来る?」
「ほんと!?いや、やっぱりやめとくよ。未来に悪いや」
「えぇ!?未来も絶対喜ぶと思うのに~!」
親友だって同じ・・・なのに
「なんでかは分かるでしょ?」
「ッ!!」
お互い、確信に触れられない
「・・・あ、あはは、そうだね。未来にあんまり心配かけちゃダメだもんね」
「うん、未来の心労を二倍にするのははダメだよ。俺は俺で未来と出掛けようかな」
「いいね、それならいっそ皆でどこかに行きたいなぁ。それなら問題ないし、弧仁はどこに行きたい?」
「うーん、温泉旅行かな」
「温泉?いいと思うけど、そんなに弧仁温泉好きだっけ?」
「別に普通・・・だけど、昔行ったとき楽しかったから」
「へぇ、師匠や奏さんと?」
「うん、後翼ちゃんも」
「わー!すごい有名人と行ったんだね」
「その時はまだそんなにだったよ。けど俺こんな見た目だから男湯行こうとしたら止められてさ」
「えぇー!?けど納得かも」
「それならこっちこいよって奏さんが女湯連れていこうとしてね・・・」
「うわぁ、すごい役得・・・」
触れなきゃいけないことには触れないで
ただの何気ない会話を交わす
もどかしさはあったけど、その時間はとても大切で、暖かい時間になった
・・・
お見舞いを終えて夜、割り当てられた病室のベットで眠る弧仁
「・・・」パチッ
目覚めたそこはいつもの自身の心の中
空と海との境目が分からないくらいに澄んでいたはずのここは今、今にも降りだしそうな曇り空とそれに従った黒い海
ここにこれるのは自分とここにいたはずだった存在・・・だけど今はいない
だから自分しかいないはずなのに
「や!やっと会えたね」
「・・・」クルッ
そこにはよく見知った姿をした男がいる
自分より遥かに高い身長の男の顔を見上げるように見る
「そう睨むなよ、別に敵ではないんだし」
「味方でもないでしょ」
「まぁその通りなんだけどさ」
自分が知っているのとは少し違う、眼の回りに巻かれた包帯の奥には自分と同じ瞳がある
「侵食に関しては悪く思わないでね、僕の望んだところじゃないからね」
「別にいい、目隠し本来の役割がそれだっていうのなら、受け入れるよ」
自分のことを労っているようで労っていない口振り
やはり、自分の先生とは違う
この存在は目隠しの意思そのものなのだ
そしてそれは『五条悟』に極めて等しいもの
「んー、それそのものの身からすると少し違うんだよねぇ。この目隠しに秘められていた願いという呪いは『装着者を五条悟に塗り替える』なんて呪いじゃない」
「それは、先生から聞いた。実験のせいでバグが生まれたって」
「そっか、それなら言わないでおくよ。そのバグをなんとかするために生まれたバグが君のいうところの擬きだったんだ。五条悟の全てを管理し、適切に装着者に付与していく存在」
「・・・」
「擬きのやったことはなにも間違ってない。だけどその存在は弧仁、君という存在に融けてしまった」
「ここに、いるんだよね」
「そうだね。その結果少し僕に対抗できてるみたいだけど・・・もう分かってるでしょ?」
「それも時間の問題ってこと?」
「その通り、もうじき君はこの僕に塗り替えられる。生得領域が変化しているのはその兆しだよ」
「だろうね」
「・・・にしては焦ってないね。分かってる?君はもう死ぬこともできない運命ってこと」
弧仁が最後まで弧仁であるために、自らを殺そうとしようが、常時反転術式が行われている今では死ねない
生きることも死ぬこともできず、ただ侵食を待ち、塗り潰されるだけの運命
「元々からっぽだった人間が満たされて死ぬところまで来たんだ。こんなに満足できることはない」
「その言い方面白いね、なんかのマネ?」
「好きなテレビ番組のやつだよ・・・別に貴方には関係ない」
「そうはいかないさ、君はもうじき僕になるんだから。こうして話すこともできなくなるんだから、たくさん話しておきたいと思うのは当然でしょ?」
「全部知ってるくせに」
「それでもだよ」
薄ら笑い皮肉を交わす両者、
もうすぐ消えるというのに楽観的な態度が酷く滑稽に見えるが、どこか面白い
そんな風に自身を嘲笑う存在が自分の力の源なのだからこちらも笑えてくる
「それでだ、君にいい知らせを持ってきた」
「?」
「僕が君を塗り潰した時にはね、君の大切な人たちを守ってあげようと思ってね。なんなら縛りをつけてもいい」
「!」
「君たちの皆は強く聡い仲間ばかりだ。特に響、切歌、調、はいいね。育ててみたいとすら思うよ。なんなら弧仁のこともそう思ってるけどね」
擬きもそんなことを言っていた・・・断られていたけど
だけど同じ言葉だとしても、なにも感じられない
だけど、これまで守るための力をくれたのは間違いなくこの目隠しの意思なのだ
そこについては感謝している
「嬉しい、俺も貴方のことは尊敬してる」
「!、へぇ珍し「でも信頼はしてない!」あぁんっ!?」
今でも使いこなせているのか怪しい呪術を操り、最強と呼ばれた五条悟のことは尊敬している
だけど、自分が憧れと共に信頼している人物は他にいる
「父さんや奏さんや皆のことはもちろん信用してるし、信頼してるし、憧れてる・・・だけどやっぱり一番は先生なんだ」
「へぇ・・・それで?」
「貴方がバグだといった存在は今俺の中にいる、そして俺と先生が揃ったら貴方に少しでも抵抗することができた」
「そこは僕も予想外だったよ。けど現に両眼の六眼に君の意思とは関係なく常時展開されている反転術式、侵食は止まらない」
「確かに、だけど・・・二度目がないとは言わせない」
「!」
「二度目どころか三度目四度目、俺が消え去るまで何度でも自分を取り戻してやる。貴方が・・・実際にお前が最強だとしても、俺にとってその称号はお前のものじゃない」
もう絶望的な状況?覆すことなんてもうできない?
・・・そんなこともう分かってるし、もうとっくに自分が消え去ることくらい受け入れている
だから今言っていることも虚勢にしかなり得ないということも、分かっている
だけど、最後の最後まで自分らしくありたいと、そう決めた
自分がなる、と決めた称号は
一番尊敬し、信頼し、信用した存在が、自分のためだけに掲げてくれた称号だけは
「それは五条悟擬き、俺の先生のもの・・・そして、俺『五条弧仁』が受け継いだものだ!」
例え虚勢だとしても、今はその虚勢こそが自分を鼓舞する言葉
「!」
「ぜぇーたいっ、あげない」アッカンベー
その言葉が自分を確固たる存在の証明になる
「くっ、くふっ、はっはっはっ!!!」
「・・・やっぱ、笑うよね」
「いや、いい。それでいい・・・いやーやっぱりいいね弧仁、君イカれてる」
「!」
「本当、できれば侵食じゃなくて擬きみたいに君の先生になりたい「断る」だろうね」
「俺の先生は先生だけ」
「うん、それでいい」
ガシッ、弧仁の頭に手が置かれた
「侵食は止まらないけどさ、最後の最後まで足掻いて見せてみろよ。君の生き様」
「・・・その綺麗な眼かっ開いてよく見てなよ。思う以上にしぶとく生きてやる」
その言葉を最後に、意識が浮上していく
・・・それから数日が経ったある日のこと
「んーと・・・」
二課を抜け出して隠れ家に使っているビルで一人、頼んでいた便箋とペンを手に、遺書を書き残す
書きたい人はたくさんいるけど、あんまり長すぎたらあれなので、一枚にまとめる
大好きな人達に向けた言葉と、お礼とそれから・・・
そんなことをしている弧仁に一本の連絡が入る
かかってきた携帯は普段用の携帯
連絡してきたのは弦十朗
ただごとじゃない雰囲気で告げられた連絡は
「未来が、行方不明?」
響とデートに行った未来が、ノイズによる被災に巻き込まれ行方が分からなくなったという連絡だった