「グオォォォォォァァァァァ!!!!!」
黒い影に包まれながら雄叫びをあげる幸詞
聞きたくないその声を耳にしながら響に抱えられながらその場を離れる切歌と調
「こーじがまた…」
「!、そうだ!イグナイトを解除すれば!「ダメだよ切歌ちゃん」!」
胸のギアペンダントに手を伸ばした切歌を響が制止する
「今解除したら幸詞君もあの状態から戻る。そうなったらあの場で幸詞君は無防備になっちゃう」
「!」
「こーじ…」
「今は耐えよう…私たちも幸詞君と一緒に」
一人で背負い込むなと話したばかりだというのに一人で危険な道を進む幸詞に怒りを覚える
だけどそれ以上に幸詞をその道に進ませてしまった自分自身が許せなかった
…
暴走形態特有の赤い瞳が睨み付けるのは眼前のカースとアルカノイズ
ズンッ…
「ッ!、凄まじい呪力だ」
暴走形態が初見のカース、その作られた肌でも幸詞が放つ呪力を感じとれた
先ほどまでとは違う激しい呪力に思わず口角が上がる
「その形態の強さがどれほどか試してみたかったとこ『ズババババッ!!!』!?」
カースが言葉をいいきる前に一陣の風と引き裂く音が響き、気づいた時には辺りにいたはずのアルカノイズが消えていた
辺りにそのアルカノイズの灰が舞う、その中心で幸詞はカースを視中にとらえていた
「!、一瞬で祓ったのか…」
想像を軽く越えた暴走の力に戦慄を覚える
戦闘による高揚とは違う、生身の身体なら震えが止まらないであろうそれは…
「これが…恐怖ッ」
「ルァァァァ!!!」
ゴッ!!…ドゴォ!!!
黒き拳を握りしめ、それがカースに叩き込まれた
辛うじて呪力を込めた腕でガードしたが堪えきれずに壁に叩きつけられた
そこに幸詞が迫る
「(無限の防御が遅れたッ!!)だが」
「グォォォ!!!!」
同じ轍は踏まない、倒れ付したまま無限のバリアを発動
それにより追撃の拳が…ピタッ
「!!」
「残念だったな」
カースに届くことはなかった
「いくら速度や力が強かろうと当たらなければ…「ウァォォァァァ!!!」!」
グッ!…ピタッ
グッ!!…ピタッ
それでも届かない拳を何度も叩きつける幸詞
「現状が分かってないのか?」
グッ!!!…ピタッ…
「そうかその姿では自慢の知性も獣に墜ちるんだったな」
グッ!!!!…ピタッ…グググッ
止まった拳に更に力を込めているが届かない
「家族を守るために己を捨てるのか?」
グググッ…グッ…
「グッガァァォォ!!!」
「私に自分が最強だと、孤仁になるなどど吠えたのにその様か」
「ギィアァァァァ!!!!」
グンッ!!!…グググググッ…
分かってるかは定かではないがカースの挑発に叫びと共に振るった拳、それが…
ペチッ
撫でるかのような感触ではあったがカースの頬に触れた…否届いた
「!!?」
驚くカースを他所に再び繰り出される拳は
「ウ゛ァァァァァァ!!!!」
何にも遮られることなく、真っ直ぐにカースを撃ち抜く!!
ゴッ!!!!!
「!!!!」
メキメキメキメキィ!!!
カースは床へと叩きつけられ壁にめり込む
「ハヒャッ!!グヒャハハハハ!!!」
ようやく当たった拳に歓喜の声を上げる幸詞
ドッ!!ドコッ!!メキャッ!!バキッ!!
子どもが玩具を叩きつけるかのように無邪気に何度も倒れ付したカースを踏みつける
「お前、なぜ無限を…」
無限を突き破る方法は二つある
一つはこの世界由来の高いフォニックゲインによって無限を生み出す呪力を圧殺すること
そしてもう一つは…より高い呪力で中和すること
しかしどちらも現実的ではなく現在に至るまでも前者の方法で無限を圧殺し触れることができたのは立花響のみ
あのフィーネでも孤仁の呪力切れという偶然の産物がおこらないと無限のバリアを突破できず孤仁を追い詰めることができなかったほどだ
そして暴走形態でも幸詞の負の感情が沸き上がれば当然呪力は捻出されて増す
つまり幸詞が拳を撃ち抜けた理由は後者
暴走状態のきっかけとなる装者の負の感情による呪力と幸詞の噴き上がった呪力が合わさり、無限を突き破った
「ヒヒヒッ!!!」
動かなくなった
「だが私もまだ…
キィィィンッ
「!?」
カースと幸詞の間に赫い光が現れる
「術式反転『赫』!!」
ズドンッ!!
カースがそう叫ぶと同時に両者ともにそれぞれの後方へと弾き飛ばされた
「ッ!…これは私も気を付けないといけないな、だが」
見えないほど遥か遠くで壁が砕ける音が聞こえた…恐らく幸詞だろう
これで時間を稼ぐことができる
「くっ、まさか撤退することになるとはな」
テレポートジェムを割り転送
「どうやら倒せそうなら倒すなどというスタンスではダメそうだな記憶しておこう」
その呟きは誰にも聞かれることはなくカースはチフォージュシャトーへと帰還した
…
そしてそれから一時間後、SONG艦艇内メディカルルームにて
現場を到着したマリアによって幸詞はここに担ぎ込まれベッドで眠っている
当然そこには装者一同そして未来とエルフナインが集まっていた
「ったく、無理のない範囲での無茶しろって言っただろうが」
「まったくよ」
当然ご立腹の奏とマリア
「こーじ…」
「私が弱いからっ…」
「あ、あんまり気にすんなよ!前と同じで身体に怪我一つないからすぐに起きるってエルフナインも言ってるだろ!」
落ち込む切歌と調をなんとか慰めようとするクリス
「それでも幸詞さんが心配です…」
「うっ、わりぃ」
その幸詞の診察を行ったエルフナインも心配そうに寄り添っていた
「しかし鳴届がそうせねばこちらも痛手どころではなかっただろう。無下限術式の恐ろしさは私も知るところだ」
「一矢報いるに相応の無茶だったってことかよ」
幸詞のした無茶でようやく敵を撤退させることができたということ…将を射たとしても敵が強大であることに戦慄する一同、その時
「…マリアさん」
「響?」
響が声をあげた
「今回、私が最初にペースを乱して幸詞君に無茶をさせることになってしまいました…ごめんなさいっ!」
頭を下げる響、共同構内に侵入する前のことが引っ掛かっているのだろう
「…なにがあったかは聞かないわ」
「…」
「それに例えなにかあっても今この子が倒れているのは自己責任よ」
「!マリア?」
「切歌と調にも言っておくわ。この子が勝手に無茶して、手に負えない力を使って勝手に倒れた…全て自己責任、貴女達が気負うことはない」
「「「!」」」
「おいマリア「けど」?」
「貴女達が胸になにか思うことがあるというのなら早くそれをなんとかしなさい。この子が無茶したことを無駄にするな」
「「「…」」」
そう言われ俯く三人
「分かったら今は私がこの子の面倒を見るから身体を休めなさい。エルフナインは残ってくれるかしら?」
「分かりました!」
「ほら響いこう?切歌ちゃんと調ちゃんも」
「うん」
「はいデス」
「…」
未来に連れられて響達がメディカルルームを後に
「ほら翼達も」
「待てマリア、なぜ私たちも出ていかせようとする」
「後輩がぶっ倒れたってのに休んでる場合かよ!あたしらにもなんか手伝わせろよ」
「そ、それは…」
なにやら困り顔のマリア、そんな彼女に助け船を出したのは…
「まぁまぁ、たまにはマリアにかわいい弟を独占させてやろうぜ?」
「!、奏」
同じ姉としてマリアと意気投合した奏だ
「む、奏がそういうなら」
「しゃーねーな、でもなんかあったらすぐに呼べよ。それから今敵襲が来てもソイツが出ていかないように見張っとけよ」
「えぇ、もちろん」
「んじゃアタシら飯でも行ってくるから…ゆっくり時間は作ってやるよ…な?」
マリアにしか見えないようにウインクを飛ばして奏は翼とクリスを連れてメディカルルームを出ていった
「!、ありがとう」
どうやらマリアの思惑は奏にはお見通しのようだ
「それでマリアさん?ボクはなぜ残され「皆行ったわよ」?マリアさん誰に話しかけ「オッケ、ありがと姉さん」!?幸詞さんっ!?」
マリアが誰かに話しかけたかと思えばそれに答えるように幸詞が目を覚まして起き上がる
「え、えぇ!?「はい着替え」「ありがと」わわっ!///」
驚くエルフナインを置いて入院着を脱いで着替える幸詞
慌てて目を反らしたエルフナインとは対照的にマリアはなんてことなくそれを眺めながら話す
「ここまで計画通りにいけたわね」
「うん、ありがと」
「けどちゃんと後であの子達に謝りなさいよ。特に調が一番気にしてたみたいだから」
「了解…っていうかマリア姉さんの説教が俺にも突き刺さってるんだけど」
「自業自得よ」
「へーい」
そうして上着を着たところでようやくエルフナインが幸詞と話せた
「こ、幸詞さん、お身体は大丈夫なんですか?」
「あ、ごめん、エルフナインちゃんにちゃんと伝えてなかったか…とりあえず身体は大丈夫だから安心して、寝てたのも芝居だし」
「それならよかったです…でもなんでこんなお芝居を?」
「それについてもちゃんと話す、それからエルフナインちゃんに協力してほしいことがあるんだ」
同時刻…チフォージュシャトー
帰還してから以前と変わらずガリィがいた台座を眺めるカース
「カース、身体は大丈夫カ?」
そこにミカがやってきた
「あぁ全く問題ない」
幸詞との戦闘によりかなり損傷したはずだったが今のカースにはヒビ一つない
「便利だ力ダゾ」
「偶然の産物といえど反転術式により皆の傷も直せるようになったしな」
孤仁の術式情報を得たことで習得した反転術式、それによりカースは自己の修復だけでなく他のオートスコアラーの修復も可能となったのだ
「本来なら人の身体を活性化させることで傷を癒す力だが、私が行うと性質が変わるようだ」
「ならそれでガリィのことは直せないのカ?」
「…それはできないよ。計画のためにも」
「そうだったゾ」
「…ミカももうすぐだろう?」
「…うん」
呪力で動くカースを除いたオートスコアラー、そして錬金術のエネルギーとなる想い出、それを採取し分配することができるのは破壊されたガリィだけだった
戦闘に特化しているため想い出を採取する機能のないミカはガリィによる分配以外に想い出を蓄える機能がない
それは遠からずミカが停止することを意味していた
「それでもちゃんとお仕事は果たしたのだからえらいですわ」
「!、ファラ」
自身の台座で二人の会話を聞いていたのかファラがいつものポーズのまま話しかける
「そうだな、派手にひんむいたお陰でこれからの狙いも丸裸だ」
今回のミカの任務、初めてイグナイトを使ったあの戦闘で発電施設が破壊され現在首都全域の電力が低下している
そして電力などのエネルギー経路となっている共同構内で今現在優先的に電力が流されている政府の地点を探ること、それが任務だった
それにより首都構造が露となったのだが…
「…それならもういいナ」
もう用はないと、どこかに向かおうとするミカ
それを止めようとファラが動いたが…
「!、どこへいくの?まもなく想い出のインストールが「待ってくれファラ」カース?」
カースがそれを制止する
「行くんだな?」
「うん、ちゃんと任務は遂行する。だから後は好きにさせてほしいゾ」
後は好きに…それは別れを意味していた
キャロルの掲げた世界を解剖する万象黙示録の完成、その計画のためにミカはその機能が停止する前に装者と戦わなければならない
それはずっと前から分かっていたこと
だけどガリィを失った時と同じで、分かっていても上手く飲み込めない
本当なら今すぐにでも止めてしまいたい
「分かった…ならなにも言わないさ」
…だけどそれをミカは望んでいないから
「ありがとう!やっぱりカースは自慢の妹ダゾ!」
「!…私もガリィやミカのような姉を持てて幸せだ」
きっとガリィならまたバカなこと言ってると切って捨てるだろうからずっと言わなかったこと
だけど心の底ではずっとそう思っていた
ただの人形がこんなことを思うのはおかしいかもしれないけれど
「じゃあ行ってくるゾ!!」
「あぁ…いってらっしゃい」
そうしてミカはシャトーを出ていく
カースは黙ってそれを見届けた
「付き添わなくていいのか?」
「…行かない、今私が行ったらミカの邪魔になる」
「なら派手に手が震えているのはなぜだ?」
レイアの指摘に自分の手が固く握られ震えていることに気づく
「!…これは最近記憶した。これは『恐怖』だ」
最近どうにもおかしい
ないはずの感情がふつふつと目覚めているような感覚
「きっとそれは失う恐怖なのでしょうね」
「失う恐怖…」
そうしてファラの言葉に納得する
怖いのだ、大切な姉を失うことが
今も、そして…これからも
「これは五条孤仁も同じだったのか…?」
五条孤仁も二度と姉を失いかけたと記憶している
「だとしたら五条孤仁はこの恐怖を乗り越えて強くなったというのか」
少しは追い付いたと思っていた…だがまだまだだ
「なら私はもっと強くならなくてはな…全てが終わった世界でもう一度皆に会うために…私は五条孤仁になってみせる」
その身をかけて大切なものを守りきった彼のように更に強くなるとカースは誓った
その瞳は今までより一際強く蒼く輝くのだった
じゅじゅしないフォギア
少し前のこと
ガリィ「しっかしまさかお前に直される日が来るとはね」
ガリィがカースの修繕を急いだためまだ破損していたガリィの腕をカースが反転術式で修繕した
カース「私も驚いているよ。まさかこんなことができるとは…」
続いてファラの修繕に当たるカース
ヒビが自然と直り、壊れていた腕が元通りにくっついていく
正直今までの自分達の苦労はなんだったんだという光景に…
ガリィ「それどうやってやってんの?」
思わずガリィが問う
カース「これか?言葉にするとすれば…ひゅーとやってひょい!だ」
ガリィ「は???」
カース「だからひゅーとやってひょいって感じだ。分からないか?」
ガリィ「分かるわけねぇだろ!?」
カース「ガリィはセンスがないなぁ…」
ミカ「センスの問題なのカ?」