歌を奏でる装者と無限を操りし少年   作:アユムーン

9 / 92
「地獄」の進み方

ライブ会場の悲劇から数日後

 

「ライブにかこつけた、聖遺物の起動実験ね・・・今回のこと、想定はできてたの?」

 

とある病室で孤仁・・・ではなく、目隠しを着けた五条擬きと頭に包帯を巻いた弦十郎が話していた。

 

ライブ会場で起こった爆発、それはツヴァイウィングのライブによる奏、翼、そして観客のフォニックゲインを用いた完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」の起動実験によるものだったらしい

 

ただし、ノイズが現れたこととは完全に想定外、因果関係は明らかではない。

 

「爆発にノイズの出現、全て俺や研究員、そして了子君も予想外だった」

 

「そう」

 

「・・・孤仁はどうだ?」

 

「怪我のことなら心配ないよ。意識を失ったタイミングで僕が体の支配権を借りて、反転術式で自己再生した。脳への負荷がかなりヤバかったけどね。まだ意識を取り戻さないのは精神的ストレスだろうね。ま、もう起きるでしょ」

 

「・・・そうか」

 

「なにか言いたげだね?」

 

目隠しを上にあげて、弦十郎を見る擬き

 

「・・・すまなかった、いくら怪我を癒すことが出来たとはいえど、孤仁の身を危険に晒した。弁解のしようもない」

 

「なーんだ、そんなことか別に気にしてないよ。今回のことが完全に事故なんだったらね?」

 

「!?それはどういう「そんなことはどうでもいいよ」っ!」

 

「それはそっちで何とかすることだよ。でも一度身内を綺麗に洗ってみることをおすすめするよ。だから別に君達に怒っていることはない。僕が怒ってるのは別のところだ」

 

「別・・・だと?」

 

「そ、別だよ。」

 

・・・それから数時間後

 

「・・・」パチッ

 

孤仁が目を覚ました。いるのはいつかの病室だ

 

自分は確か・・・そうだ!ライブでノイズが出てきて・・・響と翼と奏は!?慌てる孤仁に・・・

 

『おはよう、孤仁。体が痛むところはあるかい?』

 

「!・・・」ブンブン

 

『そう、ならよかったよ・・・声出そう?』

 

「!・・・!・・・」ブンブン

 

『そっか、一時期だったのかもね・・・それより立って、お出掛けいくよ。』

 

「?」

 

五条擬きに案内されて、たどり着いたのは別の病室。

ここは先程五条擬きと弦十郎が話していた病室だ。

 

『そこに入って』

 

「?」

 

病室のドアを開く・・・そこには

 

「!・・・孤仁、か?」

 

「!」

 

ひどくやつれた翼・・・そしてベッドには

 

「息もしているし、心臓も動いてる、体にもなんの別状もない・・・なのに、起きないの」

 

死んだように眠る奏がいた。

 

「・・・」

 

「シンフォギアの切り札・・・自爆技ともいえる『絶唱』を使ってフォニックゲイン・・・装者のエネルギーを上昇させて敵にダメージを与える歌」

 

「・・・」

 

「ただし、その代償として歌った者にバックファイア・・・反動が現れる。奏はそれで消失しかけた。」

 

孤仁の脳裏に甦る・・・光と共に消失しそうになった奏の姿

 

「だけど奏は消失しなかった。原因はどう考えても孤仁なの。だから教えて、奏に何をしたの?」

 

「っ!」

 

響を救った力、あれを奏に使ったが救えなかった。

 

それでも諦められなくて、生きていてほしくて、側にいてほしくて、ガムシャラに呪力を出していたことは覚えている・・・だけど

 

「・・・」フルフル

 

分からない、奏が消えなかった理由も、起きない理由も、なにも分からないのだ

 

「・・・そう、奏の状態については櫻井女史も分からないらしくて。やっぱり考えられるとしたら孤仁がなにかしたらからじゃないかって・・・」

 

「・・・」

 

「孤仁が・・・奏を救おうとしてくれたのは分かってる

 

だけど、ごめんなさい・・・今だけはほっておいて」

 

そう言って奏の手を握り、項垂れる翼

 

その姿に何も言えず、病室を後にした

 

・・・孤仁の病室

 

『孤仁、見えてたでしょ?』

 

「・・・」

 

『その片目しかない六眼でも、はっきりと見えたはずだ・・・奏の体を纏わり付く呪力が』

 

「・・・」

 

『五条悟の過去の生徒の中に、好きな女の子が死んで、その子を呪ってこの世に縛り付けた生徒がいた。

 

ここまで言ったら分かるよね?』

 

呪力を見ることのできる片目が見たのは、奏の体を纏わり付く呪力

 

この世界で始めて見た自分以外に纏わる呪力・・・その呪力には見覚えがあった

 

それは他でもない・・・自分のものだった

 

そして先程の五条擬きの言葉・・・それはつまり

 

 

 

 

 

『奏の死を拒み、奏を呪ったのは孤仁だよ』

 

 

 

 

 

 

信じたくない一言だった。

 

『なぜ奏が呪霊にならないのか、どういう縛りによって奏に呪いをかけたのか、そうしないための解呪方法、これからどうなるのか、全部分からない・・・けど下手すれば奏は一生このまま、もしくは呪霊になる。その時この世界で奏を殺せるのは孤仁だけになる。』

 

「っ!」ギリィッ

 

『今の奏を生きていると言っていいのか分からないけどね』

 

「・・・」グググッ

 

『歯を喰縛って、拳を固く握ったところでなにもかわらない・・・しっかり現実を受け止めろ、奏を生ける屍にしたのはお前だ』

 

「!!」

 

『確かに君には人の傷を癒す力があったのかもしれない、だけど勘違いするなよ。結局の所その手に備わっているのは呪いの力だけだ。』

 

「」

 

『その力は確かに使い方によっては人を助けることはできる。だけどそれは力の使い方を知っている者だけだ。今の君はただ説明書を持たされて、それを見ながら操作してるだけだ。そんなの使ってるとはいえない』

 

「っ!」

 

『今回は状況が悪かった。だけど孤仁がしたことはなくならない、例えそれが善意でも愛でも起こしたことは変わらない。奏を呪ったのは君だ』

 

「・・・」ガクッ

 

膝をついて顔を手で抑える。

脳裏に甦る奏との存在する記憶

 

初めて怒鳴られたてそれから仲直りした時

 

ご飯を美味しいと言ってくれた時

 

翼と三人で遊びに行った時

 

学校で喧嘩して弦十郎に怒られて泣いてたら、慰めてくれた時

 

・・・全部全部大切な記憶だ、なのに

 

「っ、あ、あぁ・・・」

 

自分を大切にしてくれた奏を

 

「うあぁぁぁぁ!!!!」

 

自分が呪った

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

呪ってしまった

 

ガンッ!ガンッ!!

床に何度も頭を打ち付ける。血が流れても打ち付け続ける。

 

「あぁぁぁぁ!!!!」

 

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

奏は死ぬことに後悔なんてしてなかったのに、己の欲望のためだけに、呪って縛って、生かしてコロシタ

 

ガンッガンッガンッガンッ!!

 

「し、ね!・・・しね、よ!!!」

 

なんのために自分は生きてる?

大切な人の想いを踏みにじり、縛り付けて

 

ガツンッ!!

 

「しね『死んで終わりと思うなよ。』!」

 

『これから何度死のうとしようが、何度でも僕が治す。死んで逃げて終わりなんてさせない。』

 

「な、んでぇ・・・」

 

『先生だからだよ』

 

「!」

 

『孤仁が間違えたなら、今度はその間違いを正させないといけない、そして犯した過ちから逃げるというなら、それを止めてきちんと向き合わさせないといけない

 

このままには絶対にさせない、責任から逃げるな』

 

「!!」

 

『今が選ぶ時だ孤仁、君は力を得た。その力をどう使う?君の地獄はこれから始まるんだよ。この地獄をどう進むのか、自分で選べ。』

 

「・・・」

 

ゆっくりと顔を上げる。

 

呪い、間違い、責任、地獄

 

全部逃げることはできない、自分の運命

だとするのなら・・・心のなかで願う。

 

『・・・そうか、それが君の選んだ道なんだね。ならその道の進み方は僕が教える。一緒に行こう』

 

・・・とある病院、そこには

 

「響・・・」

 

ベッドで横になる響とその側につく未来がいた。

 

あのライブの日から響は眠り続けている。病院で搬送された響は、周りの出血量から重症のはずだった。

 

だが、体の何処にも外傷は見当たらず、残っていたのは胸の傷跡のみで、命に別状はなかった。

 

そのことに医者も誰もが匙を投げた。だが、響の家族と未来は響の無事を喜んだ。

 

だが、未来にはもう1人心配している人物がいる。

 

「・・・孤仁」

 

あのライブの日から、連絡もとれず、安否が分からない孤仁の身を案じていた。

 

「何処にいるの・・・『ガラガラッ』!、響のお母さ・・・!!」

 

病室のドアが開く音、響のお母さんかと思い振り向いた。しかしそこにいたのは・・・

 

「孤・・・仁?」

 

「・・・」コクリ

 

「その髪、それに頭の怪我も・・・何で今までなにも連絡もくれなかったの?」

 

髪や怪我など気になることはあるが、無事に生きていたことに安心し、涙を流す未来。

 

そんな未来を見て、続いて眠る響を見て・・・

 

「・・・」ガシッ

 

「?孤仁?」

 

未来の手を引いて病室を出た。

行き先は病院の休憩室、そこで飲み物を買って未来に手渡す。

 

「ありがとう・・・本当に孤仁が無事で良かった。きっと響もすぐに目を覚ましてくれるよね。そうだ、この後一緒に響の・・・」

 

話す未来の唇に人差し指が優しく置かれた。

 

「孤仁?」

 

どんな時でも自分達の話を聞いていたのに、止められたのは初めてだった、そして

 

ガサガサ・・・サッ

 

「これは手紙?私に?」

 

「・・・」コクリ

 

手紙には見慣れた孤仁の文字、だがそこに書かれていることは・・・

 

「・・・嘘でしょ?」

 

「・・・」フルフル

 

「嘘だよね?」

 

「・・・」カキカキ

【嘘じゃない】

 

「そんなんじゃ分からないよ!なんで、なんで!

 

なんで孤仁が死んだことになるの!?」

 

手紙に書いてあったこと、

 

それは孤仁は今後死者として扱われることだった

そして、自分のことは忘れてほしい、と書かれていた。

 

「響にはどうやって伝えるの?」

 

【目を覚ましたらお医者さんに俺は死んだって伝えてもらうことになってる】

 

これは未来に伝えてもらうのは酷すぎる、という擬きの判断だった。

 

「!、なんでそんなこと孤仁ができるの?」

 

「・・・」

 

「ちゃんと教えて!、じゃないと響に本当のことしか伝えられない!私が納得できないことを響に伝えるなんてできない!」

 

「・・・」

 

『孤仁、分かってると思うけど弦十郎や、奏や翼のことは機密事項だ。伝えることはできないよ。』

 

擬きの忠告、それはずっと前から守ってきたことだ、分かってる。

 

【それならそれでいい、けど未来なら約束守ってくれるって信じてるよ】

 

「!」

 

【俺は、これから外側から二人のことを守るよ。

 

だから、未来は響のことを傍で守ってあげて。】

 

そして立ち上がり、病院を出ようとした

 

「孤仁っ!!」

 

それを止めるために孤仁の背を抱き止める未来

 

「行かないで!行っちゃダメ!孤仁が独りぼっちになっちゃう!!」

 

「!!」

 

叫んで、きつく孤仁を抱き締める。

 

未来は孤仁が行動と何も言わないことになにか理由があるって分かっていた、そしてもう自分ではどうしようもないことだって分かってる

 

だけど、それでも・・・引き留めずにはいられなかった。

 

「・・・」

 

振り返って、未来のことを抱き締め返せたらどんなにいいだろう

 

全部話して、ちゃんと理解してもらって、いってらっしゃいって送り出せてもらえたらどんなにいいだろう

 

いっそ、全部やめにして今まで通り、未来と響と過ごせたらどんなにいいだろう

 

・・・でも

 

「・・・」スッ

 

そっと優しく、未来の手をほどいた

 

「孤仁!「み、く」!」

 

そして、振り向いて未来の顔を見る

 

未来の瞳から溢れる涙、胸が張り裂けそうだ

 

謝りたい、慰めたい、それから笑いあいたい

 

ずっと一緒だって約束した

 

だけど・・・今の自分ではそれはできないから

 

「・・・ばい、ばい」

 

唇を噛み締めて涙を堪えて、手を振る。

 

あぁ、初めて聞かせることのできた言葉がこんな言葉だなんて・・・本当に自分は呪われている

 

・・・

 

それから歩いて病院から出た。

未来は今度は止めなかった。

 

きっと未来は約束を守ってくれる、響を一番傍で支えて守って助けてくれる。

 

だったら自分はそんな二人を外から守りたい。

 

「孤仁さん。お迎えに来ましたよ。」

 

「!」

 

特異災害対策機動部、第二課のエージェント兼ツヴァイウィングのマネージャーだった緒川が病院の前で待っていた。

 

「孤仁さんの希望が受理されました。

 

まず風鳴孤仁の死亡です。それにつきまして新しい名前が必要となりますが・・・いかがなさいますか?」

 

「・・・」

【別に同名でもいい?】

 

「構いません。司令もそこは変えるつもりはないようです。」

 

【なら、孤仁のままがいい。俺が初めてもらったものだから】

 

『!、孤仁・・・』

 

「分かりました。そして、一番に孤仁さんが希望していた立花響、及びその親族の保護も取り付けることができました。金銭的補助と・・・擬きさんが考えていた通り、生存者へのヘイトが集まりつつありました。それらからの保護も二課から派遣させていただきます。」

 

『どこにでも腐ったやつはいるものなんだね』

 

「・・・そして、最後に先程の孤仁さんからの要求を承諾する対価として聖遺物兼特級呪物『五条悟の目隠し』の適合者、孤仁さん。

 

貴方の特異災害対策機動部第二課の入隊が決まりました。」

 

「・・・」コクッ

 

奏を呪ったと自覚して、死のうとして、それが逃げだと教えられて

 

孤仁は今の自分が進むべき道を見つけた。

 

『孤仁、君がこの道を進むのはなんとなく分かってたよ。』

 

自分に力はある、だけどそれを扱える器として自分はまだ足り得ないということが痛い程分かった

 

器足り得ぬ自分がなにかを救おうとしたところでこの手は呪うことしかできないから

 

この力をちゃんと使いこなし、器として足り得る存在となり、誰かを守ることができるまで自分は・・・否、自分と先生はこの地獄を進むと決めた

 

『多分この世界にも上は馬鹿ばっかりだとおもうけどさ、楽しい地獄にしようよ孤仁』

 

そしてこの世界の唯一の呪術師として、いつか奏の呪いを祓う、それが孤仁と五条悟擬きの進む地獄だった




詳細な設定

孤仁の声→少しだけ喋れるようになりましたが、言語機能の欠陥があるので長文は話せません。

白くなった髪→五条悟の情報を多量に取り込んだ末、黒かった髪は白くなりました。

奏を呪った→呪術廻戦の乙骨と里香の関係に近い、奏を救いたい一心で孤仁は奏を呪ってしまいました。なぜ奏は意識を取り戻さないのか、呪霊にならないのかはまだ判明していない・・・ただ孤仁と奏、双方が望んでいたことが鍵になるかもしれません。

死者、風鳴孤仁→風鳴孤仁はライブ会場の惨劇により死亡した扱いとなりました。そしてもう一度「ただの孤仁」として、戸籍やその他諸々を用意してもらうことになり、風鳴や孤仁の交遊関係を一度リセットした。

外から守りたい→自分の道を決めた孤仁、そのために響と未来から離れました。傷つけることだって分かっていた、だけど生半可な自分の力では二人を守れないこと

そしてなにより、大切な存在を呪ってしまったことがトラウマとなり、彼女たちの近くにいることが恐かった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。