ざわざわと、賑やかな雰囲気が流れている教室の隅で、蓮は今朝作ってくれたジークお手製の弁当を、一人寂しく頬張っている。
周囲の目を気にしながら食べるご飯ほど、不味いものはないので、いつも立ち入り禁止になっている屋上を利用し、空を眺めながらボーっとするのが、彼の学校唯一の楽しみである。
しかし今日は生憎雨が降っており、蓮は周囲のイヤホンで耳を塞ぎ、音楽を聞きながら黙々と食べるしかない。
次からサビに入るという絶妙なタイミングで、突然音楽がピタリと止まり、代わりにラインのお知らせ音に遮られ、若干機嫌が悪くなる。
ラインの差出人がアザゼルということもあって、ポーカーフェイスを得意とする蓮でも、苛立ちの表情は隠しきれない。
《最近駆王学園付近に建てられた教会があるだろう?
どうもそこの協会がはぐれ堕天使の隠れ家になっているらしいんだが、そこに明日から配属されるアーシア・アルジェントというシスターを、上手くリアス・グレモリーと接触させ、可能ならば眷属に迎え入れるように仕向けよ
アルジェントの画像は一時間後に送る
追伸
この内容に関する情報を理解したら即削除せよ》
なにこの無理ゲー?今日は早く帰ってポケ○ン見なくちゃいけない日なんだよねー。
「今日は忙しいからパス」と蓮は、はっきりと拒否する返信を送り、食事を再開したがまたすぐにメールが届いた。
《情報によれば、駒王学園前バス停に五時二分到着予定となっていて、シスター服を着た金髪の可愛らしい少女とのことなので、すぐに分かるはずだ。
では成功を祈る。
あと、たまには家に帰ってこいよ》
俺の回答を無視するなんてちょっと酷くないですかね父さん・・・・。
てか天界側を魔族側に取り入れろって、俺に仲介役をしろとそーですか。
母さんに脅s・・・・別の人に任すように頼むかと考えていると、またもラインが届いた。
苛立ちが最頂天に達し、スマホを乱暴に扱いラインを見ると、宛先名はアザゼルからではなくジークと表示されていた。
《蓮様、本日のお弁当の味付けはどうだったでしょうか?》
お前は俺の母ちゃんかと、周りの目を気にせずに苦笑するさなか、兵藤一誠と悪友の三人組の間で、何やら揉め事が発生していた。
どうやら、人々の記憶に天野夕麻もといレイナーレの存在だけが、すっぽり消え去られていたのを認めたくないのか、何やら必死になって説明をしている。
取りあえず、美味しかったよとジークに返信をし、しばらく兵藤一誠の状態を観察することにした。
彼は少々オーバー気味に声音を出し、興奮状態が収まらず、顔を真っ赤にして悪友二人に詰め寄っている。
目は少し涙ぐみ、現実を受け入れたくないのか、同じ質問を繰り返し繰り返し聞いているが、悪友二人はオロオロと一誠の対応にどう返していいか分からないでいる。
すると、しびれを切らした兵藤は元浜の胸ぐらを掴み、がくがくと揺すり出した。
「頼むから……いたって言ってくれよ」
兵藤一誠の消え入りそうな声は野次馬達の馬鹿騒ぎによって消え去り、騒ぎを聞きつけた指導係の教師は、その元凶である兵藤一誠を一旦職員室に連れて行き、その場をおさめた。
う~ん、これはマズイな。兵藤一誠がこんなに騒がられたら、このクラスは生徒会にも目を付けられる。
ジークは急な時期の転入生とのこともあって、既にグレモリー眷属達からは怪しまれていると思うし、面倒くさいけど父さんの依頼を受けて、注目をアーシア・アルジェントに移させるか。
俺はこのことをすぐさまジークにラインで伝えた。
《ジーク、俺の容姿を兵藤一誠に見せることは可能?》
《ええ、幻覚の類を使えば、可能ですが・・・・》
《よし。なら、放課後駒王学園前のバス停近くに来て欲しいんだ。》
《畏まりました。人払いはどうされますか?》
《それもよろしく》
《畏まりました》
これでよし。後は、アルジェントをどうやって勧誘しようか・・・・・・そ~だいいこと思いついた。
ガヤガヤと場が収まらない教室で蓮は一人、ニヤリと口元を曲げた。
放課後の駒王学園前バス停
西洋風の顔立ちをし、純白のシスター服で身を包んだ金髪のアーシア・アルジェントは、バスの運転手に英語でお礼を言い地面に足をついた。
初めての異国ということで、空港から離れてからずっと緊張しっぱなしの彼女だったが、幸いにも出会う人全てが協力してくれたので、無事に目的地に着くことができた。
日本の皆さんは親切心に溢れていて感激です!
目をキラキラと輝かせ、彼女が信仰する女神ミカエルにお祈りを捧げている時、一人の少年が近づいて来た。
「お嬢さんはアーシア・アルジェントさんでお間違いないですか?」
「はい!今日初めてこの国に来ました。それにしてもよく私が英語を話せると分かりましたね。」
親切な人達のお陰なのか、この少年に何の警戒心も持たずに自らの名前を肯定した。が、えへへと無邪気な幼女のように笑みを浮かべるかたや、鋭い質問が返ってきた。
「挨拶が遅れました。私の名前は兵藤一誠と言いまして、この付近にある駒王学校の一生徒です」
そう言って少年は、学生証を見せてきた。
「学生さんなのですね、英語がお上手なのも納得です。それにしても、なぜ私の名前をご存知なのですか?」
「実はこういう身分の者でして」
兵藤一誠はそう言って、十字架の形をした銀色のネックレスを、制服の胸ポケットから出した。
天界の者以外には一見、何処にでも流通していそうな普通の十字架のネックレスに見えるだろうが、アーシアの目に写ったネックレスは、金色の輝きを放っている。
「そのネックレスの光はっ!ガブリエル様直属の部下である証。」
アーシアは目を大きく開け、驚きのあまりに開いた口が塞がらない。天界の者であれば、それを一度は手にして町を歩き、すれ違う人達からの憧れな眼差しを受けてみたいと願うであろう…
「私は極秘にガブリエル様から、貴方を守るように派遣されてきました。」
「ガブリエル様が私を・・・どういうことですか?」
若干不信感が顔の表情で見られていたが、天界の者である証を出した途端、一気に彼女の疑心暗鬼は吹き飛んだ。
これは俺を完全に信用したな。後は、奴らが動くのを待つだけか。
「実はアーシアさんが配属される協会は現在、はぐれ堕天使の巣窟となっておりまして、それを知らせるために来ました。」
「あなたがお持ちの神器を狙う輩が、どうやら協会の異端審問の時に紛れ込んでいたようで、方法は分かりませんが、この場所に仕向けたようです。」
「私の・・・・・神器ですか」
兵藤一誠はアーシアに近づき、手紙のような物を渡した。
「この手紙は、ガブリエル様が個人の伝達にご使用される特殊な紙で造られたものです。私はもちろん、世界中でガブリエル様とアーシアさんにしか、開くことは出来ません。」
アーシアは早速手紙を開き、その内容を確認した。
「親愛なる我が子アーシア・アルジェント
私が送った使いの者が、責任を持って貴方を危険から守ってくれます。
これから貴方は、駒王学園へ行きオカルト研究部を尋ねなさい。それが貴方にとって一番良いと言えるでしょう。
貴方の無事を祈ります。」
手紙を読み終えたアーシアの目には、涙が浮かんでいた。
ガブリエル様が異端の身である私を心配なさるなんて・・・
「後は、この事を信じるか信じないかはアーシアさん次第ではありますが・・・」
アーシアは一瞬迷った素振りを見せたが、やがて決心し、力強い目で兵藤一誠の目を見つめた。
「一誠さん!私を駒王学園まで案内して下さい。」
「ええ畏まりました。」
彼らはバス停から数分歩き、駒王学園の正門が見えてきた。
「ここが、駒王学園になります。ここを真っ直ぐ進んだ後、右の方に見えるレンガ造りの建物内に、オカルト研究部の部室があります。」
学園の校庭からは、普段通り野球部の暑苦しい掛け声や、サッカー部のキャプテン目的で応援している女子の黄色い声援、カップルで帰っている生徒の近くで、睨みつけている負け組の集団がいる。
日本では珍しい格好をしているアーシアを、下校する生徒たちには当然視界に入るが、誰一人として気に留めないでどんどん学園を去っている。
それは、近くで様子を見ているジークが、周囲の人に彼らを認識しない幻術魔法をかけているせいである。
「唐突で申し訳ないのですが、私はここから先進むことはできません。」
「どうしてですか?」
リアス・グレモリーがいる部室まで、一緒に付き添ってくれるとばかり思っていたアーシアは、一誠の顔を見つめ不安げな声を出した。
「ガブリエル様は極秘に私を派遣されましたので、ここにはいないことになっているのです。仮にリアス・グレモリーに会えば、彼女との衝突は避けられないでしょう。」
「そう・・だったのですか。リアス・グレモリーさんは魔王の妹さんですよね?私はお会いしても大丈夫でしょうか?」
「それにつきましては心配には及びません。彼女にとって我々天界の者は天敵でありますが、既にが様が手を打っているそうなので・・・」
「そうですか。一誠さんがおっしゃると何だか大丈夫な気がしてきました。」
「それは嬉しい事です」
「はい!」
アーシアは元気よく返事をした後、一歩足を踏み出し駒王学園正門をくぐった。
「一誠さん!次はいつ会えますか?」
兵藤一誠の顔を直接見れず、頬を赤らめてモジモジしながらアーシアは質問した。
「近いうちに会えると思いますよ」
兵藤一誠はニコッと笑みを浮かべて答えた。