「あぁ、貴方が新しく配属される予定の神器聖母の微笑を持っておられるアーシアさんでしたか。それにしてもなぜ悪魔側と一緒におられるのですかな?」
男が、新しく配属になる予定だったアーシア・アルジェントについて、把握していた情報はというと、
一、 彼女は魔族も天使も人間全ての種族を治癒ができ、心までも癒すことが可能な神器聖母の微笑の適合者
二、 北米にて天界と休戦状態にある負傷中の魔界に生息する魔族に治癒を施し、天界の異端審問会にて魔女認定をされる
三、 魔女認定後、審問会裁判長は死刑か罪を償わせる理由で原点に戻り、極東の地日本で一からやり直させる選択肢を与えた。
四、 アルジェントは罪を償い、また最初からを望んだため死刑は免れることとなる。
天界の者がどのようにして、堕天使のしかもはぐれが住み付く協会に配属されるようになったのかは、男を含むここにいるメンバーは、誰一人として知らない。
「それは私が、ここにいる皆さんと友達だからです!!」
涙を溜めながら力強く答えたアーシアは、兵藤一誠の方に駆け出した。
そして、神器が宿っている証として両手から、薄くやさしい緑色をした治癒魔法を放ち、彼の傷を癒し始めた。
兵藤一誠のお腹は、ぽっくりきれいな形をした穴が開いており、そこからは大量の血が流れている。
中からは粉々に変形している臓器で見るに堪えない姿をしているが、怯むことなく涙を流しながら治療に専念する。
常人ならば、耐え切れずに嘔吐しているであろう。
「これは一体どうなっているのかね?グレモリー家の次期当主よ」
レイナーレの上司は、戸惑いを隠せないのか顔は相変わらず無表情であるが、若干上擦った口調で質問した。
「今日のところは退いてくれるかしら堕天使…いや、はぐれのドーナシーク」
「なぜ私の名前を?そうですかこれも全て、あのお方の差し金ですか。」
ドーナシークは無表情から一変、なにかを考える仕草をし、独り言を言っていた時にも「あのお方」という特定の人物を指す単語を口に出した。
出血が一番酷い箇所を、必死に神器を使って癒しているアーシアの方を見て、ドーナシークは何かに気付いたのかニヤリと笑った。
「この子にちょっかいを出すのなら、容赦はしないわ」
「いいでしょう、今日のところはあのお方に免じて退かせて頂きますが、次会う機会がありましたら容赦はしませんのでご注意を」
「ご忠告痛み入りますわ」
ドーナシークは、まだ火を付けていないタバコを道端に捨て、黒い羽根を生やし空の方に目を向けた。
そして立ち去る直前誰かに宛てたのかは分からないが、言葉を残して消え去っていた。
「まさかここまでするとは、少し過小評価をしていたようです。神の力を継承せし者よ」
× × ×
「蓮様、どうやらドーナシークが立ち去ったようです」
部屋の中央に備え付けられている巨大なスクリーン。
そこには、先程のドーナシークとグレモリー眷属たちとの一部始終が、映し出されていた。
「ふぉうだふぁ(そうだな)」
蓮はまるで映画を楽しんでいるかのように、ポップコーンを頬張っては、コーラを喉に流し込んで至福の時を過ごしている。
主の呑気な様子に、ジークは思わず頭を抱える。
(このままでは蓮様はダメ人間いや、堕落の天使になってしまわれる。身分はもう堕天使ですが......。)
「ん?なに頭抱え込んでるんだ」
「いえ、こちらの話です。それよりも、この魔法はどういった構成で成り立っておられるのですか。」
ジークが疑問に思っている魔法とは、おそらく鮮明に映っている映像の事だろう。
「魔法なんかじゃないよ。これは人間界の素晴らしいテクノロジーで、超小型化されたカメラという機械なんだ。対象に設置することによって、その周辺の映像と音声を拾うことができる優れた発明さ」
「このようなものが存在するとは、人間界の中にも多少できる者がいるのですね」
「ところで、いつのまにそのカメラというものを設置したのですか?」
「オカ研(オカルト研究部)をアーシアに案内する時に、隙を見て修道服のフードのところに取り付けたのさ」
今思うに、安物よりも夜型対応の値段が少し高価なカメラを選んでおいて、良かったと内心ヒヤヒヤしている。
「なるほど。そういえば、ドーナシークがこちらに気付いてるかのようでしたが・・・」
ドーナシークは立ち去る前、カメラの位置がわかるかのように、じっと視線をカメラの方を捉えていた。
「それはそれで面白いことになりそうだ」
ニシシと笑う蓮をよそに、なにかを考え込むジーク。
「にしてもだ、ジーク。これで役者は揃った。そろそろ幕開けといこうじゃないか。」
「お楽しみのところ申し訳ないのですが、レイナーレはどうするおつもり」
最後まで言葉を発する前に、ジークはしゃべるのを止めた。
なぜなら、レイナーレという単語を口にした途端、蓮の目つきが険しくなり、まるで五歳児のように楽しんでいた雰囲気も一変し、冷たい感情を感じ取ったからだ。
「もちろん殺すよ?それ以外にないでしょ。」
昼間のレイナーレに対しての悲しげな表情はどこに消えたのか、今ではその欠片もないほど。
レイナーレのことは、無表情で冷たく、無機質な声で突き放した。
「馬鹿な質問してないで、さっさと今後の計画について話そうよ」
そういって蓮は、ボールペンと大きな紙を取るため、自室のドアを開けた。