「保険ーーーですか?」
「ええ、そうよ。ウチの眷属の裕斗に、魔法陣を組み込んだチラシをこっそり兵藤一誠君に渡すように命令したの。」
祐斗?あぁ、女子から人気ナンバー1でリアス・グレモリーの騎士に属している木場祐斗君ね。
興味はあんまりないなー、監視はしてたけど俺から見れば、速さだけが取り柄みたいだったし。
「術の効果としては第三者に渡った瞬間、掛けられた第三者ーこの場合兵藤一誠君の身体に、何か危害があった時に、いつでも私が瞬間移動で彼の近くに転移できるようにしたの。そうすることで、彼が例えチラシを捨てたとしても効果は持続させられるから問題ないわ。」
わざわざ、魔法の説明までサンクス。
ってか、そこまでして仲間に入れたいメリットが、この兵藤一誠という男にあるのだろうか?
父さんは俺が兵藤一誠の正体について質問をすると、いつもはぐらかしてうやむやにするから、この男がどんな能力を秘めているか分からないし。
母さんにいたっては、この任務の話でもすると、家に殴りこみに来て父さんと喧嘩になるから言えないし………………。
「というか貴方、いつまで私に背中を向けているつもり?そろそろ顔を見せてくれないかしら。それとも天使は、相手に背中を見せたまま人と話すのかしら?」
マズイ。長い時間考えすぎていた。まさか天使じゃない事がバレているのか?
でも、兵藤一誠について話してくれたって事は、まだ望みはあるはず……。
そうひとりで焦っていた時、ポケットの中に入れていた携帯電話の着信音が鳴り出した。
おそらく、電話の着信者は父さんだろう。
さっき学校で、電話して繋がらなかった時、着信履歴を残しておいたから電話してきたに違いない。
「申し訳ないですが、電話に出ても構わないでしょうか?多分ですが、上司から現時点でのレイナーレについての電話かもしれませんので」
父さん。ナイスタイミングだ。これでそろそろこの場から…………。
「ええっいいわよ。その代わり、私と向き合って電話に出てくれないかしら?貴方をまだ信用したわけじゃないから」
それに、転入生なんて今初めて聞いたわけだしという言葉を付け加えて。
「そうしたいのはやまやまなんですけど、私自身が一応極秘扱いとなっているので」
顔も含めた全ての俺についての正体が、ばれてしまっては任務失敗と同じだ。
堕天使界では失敗したというレッテルが張られ、なにかしらの制裁が待っているだろうし、俺を推薦してくれた堕天使総督の立場の父さんの信用も失いかねない。
なんとしてもここは踏ん張らないと・・・・・・。
「そういう理由ならば問題ないわ。私が直接…………」
【何で早く出ないんだよ~。こっちは心配病で死んじゃうぞぉ~】
【アっアザゼル様。少しは落ち着いてください。】
突然、蓮の携帯から泣き真似をしているアザゼルと、部下らしき人物のやり取りがリアスにも聞こえる範囲で流れた。
蓮は携帯をスピーカ設定にした覚えは無い。
ということは、父さんの改造癖で俺の携帯を勝手に、細工をしてスピーカー設定になるようにしたに違いない。
「アザゼル……様?」
リアスはというと、いきなり野太い声で泣いているおじさんの声が響いてきた上に、別の声から魔界と天界で目の敵にされている堕天使の総督、アザゼルという単語が出てきて、一瞬思考が停止した。
今確かにアザゼル様という声が聞こえてきたわ。天使がアザゼルと連絡を取っているのかしら?とすると堕天使側と天界は何か特別な繋がりがあるのかしら…?
「はぁ、【ファイア】」
父さんを一瞬尊敬した俺が、バカだったとため息をつく。
そして魔法の中では最も破壊力が低く、魔力を持つものならば誰でも防げる初級レベルの火属性魔法を、リアスに背を向けたまま直径5センチ程度の火玉を放つ。
火玉はありえないスピードでリアスの顔を目掛けて迫り、あと数センチに届く距離で消滅した。
「いきなり何をするの!!」
リアスとしては考えている途中に、いきなり攻撃してきたので受身を取ることなど出来るはずも無く、不意打ちという卑怯なやり方に怒りを隠せなかった。
「いやぁ~。俺のバカ上司のせいでもう隠し通せなくなったし、とりあえず誤解だけは解いておかないとと思っちゃって」
右手で後頭部をかきながら、まるでいたずらっ子のように舌を出していた。
「貴方、さっきの口調とまるで違うわよ」
「それは気にしな~い方向で。だって素のほうが楽だし、敬語とかだるいですし。」
蓮は一気に口調を元に戻し、肩を下げて両手を下ろし、携帯が入っているポケットに手を入れようとした瞬間、右腕に痛みが走った。制服のその部分が破れ、右腕からは少し血が垂れており地面にポタポタと落ちていく。
「貴方、何勝手に両手を下ろしているの?自分の立場が分かっていないようね」
リアス・グレモリーの右手からは、赤色の魔力が噴き出ていた。おそらく殺傷能力の低い魔法だろう、しかし当たれば怪我程度ですむはずがない。
蓮はリアスの魔力を探知して避けたが、それでも後ろからの攻撃に対しては一歩反応が遅れてしまったのだ。
お互いにとって今のは小手調べ程度、大体の強さが同じくらいだとリアスはそう結論をだして”しまった”
「立場分かっていないのはそっちじゃないのかな、紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンス)さん?俺はあんたの部下じゃないんだから、何をしようが勝手だろう。」
あーあ。もうちょっと穏便にしたかったけど、流石に俺も怒っちゃった。
「しかも、天使の俺が何でアザゼルと繋がっているか、情報を知りたくないの?」
「っそれは、貴方を捕獲した後、みっちり尋問するから問題ないわ」
「へぇ、この俺を捕獲するねぇ。魔王の妹だからってちょっと自意識過剰過ぎないかなぁ?」
突然蓮の足元から、徐々に白色のスモークみたいなのが一瞬にして当たりを覆い始めた。
霧よりも濃ゆくその範囲によって、相手の魔力の量が分かるのだが、蓮の場合はリアスのおよそ5倍以上。リアスの視界からは時既に蓮の姿は無く、代わりに声だけが頭に響いてきた。
「魔王の妹君にはこれから、二つの真実を教えてしんぜよう」
「何!この魔力量は!!今すぐこれを消して出てきなさい」
「却下。まず一つ目に天使の俺と、堕天使の総督アザゼルがなんで連絡先を知っているか。」
「天界と堕天使側が手を結んでいるという、戦争に発展しかねない危ない疑問を抱いているなら、それはありえない。だって俺だけが天界を裏切っているから」
「天界にスパイがいるってこと?」
「その質問にも残念ながら答えられない。最後の二つ目というのは、そこに寝転がっている兵藤一誠を殺したのは、レイナーレではなく"俺"だという真実のことだよ」
えっ?レイナーレが本当は殺したはずなのに、何で俺が殺したという嘘を言ったかって?
ぶっちゃけ只単に面白そうでしょそっちのほうが……。もう普通の日常は面白くないんだよなぁ。
「何を貴方は言っているの?」
「ってもうこんな時間かぁ。そろそろ帰んないと怒られそうだし、運が良かったらまた会えるでしょう。あっあと、そこで寝転がって死んでいる彼を、早く手当てしないと転生できなくなるよ」
さて、潮時だな。強制転移するための時間も稼げたことだし・・・。
「ちょっと、どういうことよ。待って!!!!!」
そんな叫びも虚しく、霧が晴れリアス・グレモリーの目の前には、死んで冷たくなっている一誠がいるだけで、蓮の姿は消えていた。
「とりあえず、お兄様に連絡してミカエル様にこの事を……ってまずはこの子を運ばないと」
そういって公園を後にした。