怪壊廻奇譚!   作:ぽっとでの急須屋

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2.3話後に呪術師が出るといいましたがあれは嘘でした。

※注 
このお話からはオリキャラが登場します。
苦手な方はブラウザバック推奨。
原作キャラだけのクロスオーバーが読みたかった人はごめんなさい。

【前回のあらすじ】
呪術の世界へ連れてこられたのは誰かの思惑がありそう?
山を歩く暦と忍、村の火事を見つける。


第3話 博打女

2018年3月8日(木)_AM10:12_某所

 

 洞窟内は暗く湿っており、ときどき現れる松明のみが光を放っていた。その暗がりの中をコツンコツンと一定のリズムで音が反響している。その音は一ヶ所にとどまっているというよりはどこかへ向かっているようだった。

 

 「ねぇ、君たちさ。こんなとこでなにしてんの?」

 

 洞窟の奥にたどり着くと男は足を止め、暗がりに向かって声をかけた。男の格好は端的に言うと変だった。銀髪は直立し、両目には一枚の黒い布が巻かれている。服装は黒い制服のようであったが、若い男は学生には見えなかった。

 声をかけたところに何かがいるのだろうか。目を覆っているのに加えて、常人であれば何も見えない暗闇だというのに、男の目にはそれらが正確に捉えられているようだった。飄々とした言動とは対照的に、はっきりと揺らぐことなく男は正面を見据えていた。

 

 「無駄だよ」

 

 突如、暗闇からナイフが現れる。何者かが投擲したのだろう。

 飛来するナイフはわずか10mという距離を瞬きする暇もなく詰め、男の心臓へ向かって突っ込んできた。対する男はそのナイフに気づいていたにも関わらず、その場を動こうとしない。棒立ちである。

 当然の帰結として、避けようとしない男に的確に投げられたナイフが突き刺さった、かに思えた。

 男は棒立ちのまま受け止めた。いや、違う。正確には受ける前に止まった、という方が正しいか。不思議なことにナイフは男に触れることなく宙で制止していた。

 

 「僕のこともしかして知らない?」

 

 男は宙に止まったナイフを右手に取ると、左手の人差し指を刃先に強く押し当てた。

 バキバキバキッ。

 ナイフは男の指を刺すこともできず、また男の手から逃れることも叶わず、万力に挟まれたがごとく悲鳴を上げながらゆっくりと形を変えていった。

 

 「返すよ」

 

 ぽいっと、男は放るようにして暗がりにナイフだった球体を投げた。暗がりの主はそれを見たのか、一つの確信を得たようだった。

 

 「五条悟…!」

 

 「正解。よかったよ、薄汚い田舎者でも知ってくれてるみたいで」

 

 ドッと怒気が噴出し、暗がりの中から新たに何かが飛び出した。ナイフなどではない。そして、また人でもない。

 速度はナイフを遥かに超え、一瞬で間合いを潰す。

 身長は2mを越え、頭部は牛だ。筋骨粒々の肉体は頭部から足先にかけて太い血管が隆起している。目は血走り顔は激しく歪んでいた。全身が憤怒に彩られ理性など蒸発してしまったかのようだ。

 暴力の権化と化したその異形者は、丸太のような剛腕を悟の顔面めがけて振り落ろした。

 

 「やめろ、牛鬼!」

 

 その一喝とともに牛鬼は動きを止める、寸前まで孕んでいた衝撃が暴風となって洞窟内に吹き荒れた。

 松明の光が激しく揺れる。部屋の形が湾曲し、今にも天井が崩れ落ちてきそうだった。

 

 「ふーん、凄いね」

 

 「そう、思ってもないことを言うな」

 

 次に暗闇から現れたのは狐顔の女だった。黒髪は後ろに結い、黒留袖を着て、草履を履き、左手には煙管を持っていた。

 妙な色気を纏った女は堂々とした佇まいで悟の前に立ち塞がった。

 

 「あたしらに何のようだ、現代最強?」

 

 「知らないふりするなよ、狐顔。隠しきったつもりかもしれないがバレバレだ。ここで何を企んでいる?」

 

 

 

 

 

 僕が訊ねても全く動じた様子がない。それは僕の六眼に基づいた確かな事実だ。呪力を精密に読み取るこの目は、心の動きによって作り出される呪力量の僅かな変化も感じとる。この女の呪力からは、朽ち果てた枯れ木のごとく微塵の変化も感じられない。となると、呪力コントロールの優れた手練れか。もしくは相当な胆力があるのか。どちらにせよ、大したやつだ。

 数秒の静寂のあとに放たれた言葉は僕の予期せぬものだった。

 

 「何も?」

 

 ふっ、と呆気にとられた僕を馬鹿にするように女は笑った。ばれていないと思っているほど馬鹿ではない。ばれたところで返り討ちにすればいいという自信があるわけでもない。この女は、「知ってるのならば早くすれば? 殺したければ殺せばいい」と自棄になっているのだ。

 僕が戦ってきた中には弱いやつも強いやつもいた。だが、こんな風に全てを捨てたやつと出会ったのは初めてだった。何もない。後悔も、恐怖も、嫌悪も、絶望も、期待も、羨望も、希望も。この女は人として生きるうえで必要な感情というものが欠落しているようだった。

 

 「君、人間か?」

 

 今度は女が驚いたようだった。珍しいものでも見たかのように、目を見開きそして笑った。

 

 「ふっ、はははっ…、あっはっはっはっはっ、あっはっはっはっはっ」

 

 女は腹を抱えて笑った。女の声が洞窟内に響き渡る。女は笑いすぎて息がまともに吸えないようだった。洞窟内の影がそれにあわせて揺れていた。

 

 「はー、苦しい。そんなに不思議がるなよ。見ての通りあたしは人間だ。しかし、まさか人間離れした君に言われるなんてね、とんだ傑作だ」

 

 女は涙を拭くと、僕を正面から見据えた。まるで獲物を捕らえた捕食者のようだ。僕より弱いはずなのに、その目はなぜか底がしれない。百戦錬磨の勝負師のようでありながら、はなから勝負を捨てているようにすら見えた。

 

 「ゲームをしよう。何、簡単なゲームだ。ここに賽子がある。こいつを振って、6が出たらあたしたちを見逃す。それ以外が出たらあたしたちを好きにすればいい」

 

 「何?」

 

 「難しい話ではないはずだ、構わないだろ? ちょっとした余興だよ。君はあたしたちを不審には思うものの断罪できるほどの確信がない、そしてあたしたちも君には勝てないがここを逃げ出したい。状況はイーブンだ。拮抗してるんだよ」

 

 僕が妨害する暇もなく、目の前に一つのテーブルが置かれた。その上にはお椀が乗せられ、中に一つの賽子が入っていた。

 このテーブルや賽子たちは呪具でも呪物でもなく、どこにもおかしなところはなさそうだった。どうやら素材はプラスチックというわけではなさそうだが特別仕掛けがあるわけでもなさそうだ。

 

 「これでも君の強さを理解しているつもりだ。六眼と無下限術式の抱き合わせだろ? 相当強い、腕っぷしじゃ勝てないね。だから、その分譲歩してる。君の勝てる確率は5/6、あたしたちの勝てる確率は1/6。いいじゃないか、君の目なら不正も見抜ける。公正で高潔な賭事だよ」

 

 何を言っている、こいつは? この女は? 僕も何故動かない。一理ある、と思ってしまうのは何故だ。こんなやつ黙らせればいい。誤認逮捕なんてこの界隈じゃよくある話だ。疑わしいことをやってるやつが悪いんだ。何も殺すわけじゃない。蒼を使えばこんなやつら一網打尽だ。なのに、何故動けない?

 目の前にいる女から目が離せない。やけに楽しそうだ。実際楽しいのだろう。事実僕は何もすることができず、今はただこの女のなすがままにされている。

 ひたりと汗が頬を伝う。あせ、汗だと? 術式を使わなくとも特級呪霊をなんなく祓うこの僕が、焦っているとでもいうのか。いや、そんなわけがない。命を狙われているわけでもないのに焦る理由が分からない。だが、この女は得体がしれない。嫌な予感がする。

 

 「おいおい、物騒なことはするなよ? そして、つまらない真似もだ。いいか、これは何の問題もない正当な賭事だ。この結果誰かが不公平に傷つくわけではない。ただ停滞している状況に白黒つくってだけだ。さぁ、振るぞ」

 

 そう言って女が着物の袖を捲り上げ白く細い腕を伸ばす。お椀の中の賽子を握り、振りかぶって投げた。お椀のなかで賽子が跳ねる。カランカランと乾いた音が洞窟内に幾度も響く。結果が出るのに一秒も待たない。この間、誰も動かず、誰も呪力に変化はない。故に、お椀の中の賽子は何からも影響を受けず、神聖な賭事はただ天のみがその結果を決める。

 不可侵の領域だ。これに文句を言うことは、すなわち天の理を否定すること。誰も抗うことはできない。この僕でさえも。

 出た目は6だ。

 音も鳴りやみ、もはや賽子は微動だにしない。結果は出た。

 

 「運否天賦。あたしの勝ちだな。最強の呪術師五条悟は最強であっても絶対ではないってわけだ」

 

 「待て!」

 

 「おっと動くなよ。大人だろ? ごたごた言うのは無しだ。それとも抗ってみるか? やる価値はあるかもな。だが、代償は払ってもらうぞ、絶対にだ」

 

 動けない。動いてはいけないと、僕の眼がそう言っている。何をされた? 誰かの術式だったのか? しかし、何かされたようには思えなかった。

 ただ一つはっきりと言えるのは、僕は目の前のこの女に負けたってことだ。

 

 「名前を言え」

 

 「入登山(いりとざん)、勝利の女神さ」

 

 そう言って入登山たちは洞窟内から去っていた。残穢も見えず、気配も感じない。完全に逃してしまった。

 あの奥にもう一人いた。得体の知れない集団だ。何を企んでいたのかは分からない。だが、確実に何かを企んでいる。

 ここを中心に展開された結界。これは呪力を周囲からかき集める結界だ。電気だけが大量にあっても電気製品がなきゃ無意味なように、呪力だってただ集めるだけじゃ意味がない。使う目的があるはずなんだ。

 

 「クソ!!」

 

 珍しく敗北した。無下限術式を完全修得してからは負け無しだったというのに。

 だが、負けて終わりなわけじゃない。アイツらの情報を上に報告して協力を仰がないと。

 ……!?

 違和感。それはかつてない感覚だった。アイツらの顔が誰一人も思い出せない。名前すらもだ。おそらくあの奥にいたヤツの術式だ。記憶操作? いや、何をしたかまでは分かる。だが、肝心のやつらの人相や名前が思い出せない。これでは誰かに協力を仰ぐことも、自分で探し当てることもできない。

 手がかりは何かないのか?

 僕は探った、正体に繋がりそうなものを。ここでやつらは長い間過ごしていた。来たときには家具さえあった。何かあるはずだ。用心深いやつらとはいえ、六眼によって隠れ家が突き止められたように、どこかに抜け目はあるはずなんだ。

 ふと、やつらが残していったお椀を見た。彫りもなく黒塗りのそれは一見何も特徴がないように見える。僕はそれを手に取り、裏返した。

 果たしてそれは見つかった。高台内に彫られている模様。柊だ。柊の葉が一枚、それと魚の頭が描かれている。

 

 「柊と鰯、か……?」

 

 手がかりと言えるかは分からないが何もしないよりはマシだ。おそらく僕は敵の術式の効果でやつらを探しても見つけることができない。ここは人を雇った方がいいだろう。一人は即座に思い浮かんだ。僕の信用の置ける後輩だ。もう一人は消去法であの人だろう。金を積まれさえしなければ情報を洩らすことはない。彼女なら索敵も戦闘もそつなくこなしてくれるはずだ。

 

 「やられた、か……」

 

 気持ちが落ち着いてくると、アイツらが残していった椅子に座った。自分が負けたというのに何故か心踊っている自分がいる。

 

 「久々に楽しめそうだ」

 

 そう言って僕は笑った。




○独自解釈ポイント
六眼のくだり

オリキャラ第一弾 入登山です。
名前がかわいくありませんが、結構気に入ってます。
五条悟を負かしたのはやりすぎです。
彼は最強なので次は勝ちます。
次回はまた阿良々君に話が戻る予定です。
それにしても阿良々君はかわいいなぁ。

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