怪壊廻奇譚!   作:ぽっとでの急須屋

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パワハラ ダメ 絶対

【前回のあらすじ】
五条先生が洞窟で怪しげな集団発見。
戦って五条は負けました。
なんでかな?
一方、暦と忍は火事を見つけて急いで村へ行ってました。


第4話 パワハラの翁

 建物が火で燃えている。木造のそれは火に包まれ、バチバチと火の粉を咳き込みながらも辛うじて形を保っていた。

 山の中の昼、おそらく昼だ。僕は太陽の位置で時間が正確に分かるわけではないけれど、僕の真上辺りにそれがあるということは12時くらいということなのだろう。

 今日の天気は晴れ。山の中では木に囲まれ視界が悪かったが、村ということもあって辺り一帯は木が伐採されており、代わりに畑が続いているおかげで遠くまで見渡せた。

 だからこそ、よく見えた。

 その光景は異様だった。

 建物が燃えている。その近くに人集りができている。初めは消火活動をしているのだと僕は思った。村はかなりの田舎のようで、まともな消火用設備があるようには見えなかったからバケツリレーでもやっているのかと思った。

 違う。村人は誰一人としてそんなことはしていない。村人はそもそも誰一人として燃え盛っている建物を見てすらいなかった。

 老若男女関わらず、輪になって何かを囲んでいる。嫌な予感がした。そいつらは何かを叫び散らしながら夢中で手足をそれに向かって振り落としている。

 その輪の中心には少女がいた。

 

 「あんたら、何してるんだ!!」

 

 僕は地面を全力で踏み抜き、土が後方で爆裂するのを置き去りにして輪の中心に突っ走った。

 僕の怒号に気がついたやつが突っ込んでくる僕を避けようと体を傾け一歩を踏み出そうとする。だが、そんなものを悠長に待っていられるほど僕の気は長くはない。

 

 「どけよ、邪魔だ!」

 

 吸血鬼の力で村人を押しのけた。腹を押しぶっ飛ばして、背中を押しぶっ飛ばして、腕を掴みぶっ飛ばして、足を掴みぶっ飛ばした。

 くそっ、くそっ、何なんだ、これは!?

 僕は少女の傍に膝をついた。

 渦中の少女はボロボロだった。全身に青アザができ、衣服はもはや形を留めておらず、目は腫れ瞼が開かない。

 苦しそうで、痛そうだ。

 何でこんな酷いことをする? まだ小学生くらいの年齢だろう。この子が何をしたかは知らないがどんな理由があろうとこんなことをしていいはずがない。

 

 「何見てるんだ! 早く医者を呼べ!」

 

 村人たちは僕から離れてこそいるものの逃げることはせず、かといって僕の命令に従うこともせず、ただ現れた部外者に困惑している様子だった。何もしない、ただ見ているだけ。

 少女をよってたかってなぶっていた時はあんなにも力を振り絞っていたのに、少女の命を救おうという時はこれっぽっちも動かないっていうのか?

 

 「……ふざけるなよッ!」

 

 怒りがおさまらない。なんなんだこいつらは。なんなんだここは。揃いも揃ってどうなっているんだ? ここは本当に日本なのか? こんなことをして許されると思っているのか?

 

 「お外様よ、騒ぐでね。おめ余所者が口出すとぶっ殺すっちゃ」

 

 「んだんだ。おめには分からねこといっぺーことあるすけ、余計なことすんでね」

 

 怒りを露にした僕に対し、彼らは怯む様子もなく次々に方言で文句を言ってきた。

 ここの人たちの服装をよく見ると誰も近代的な服を着ていなかった。ジーンズやシャツやスカートといった服は、僕の生きていた世界ではいくら田舎であろうと見かけないことはなかったと思う。だが、彼らの中にそれらは見当たらず、代わりに彼らが着ていたのは麻の小袖と袴のようなもので足には足袋や草履を履いていた。中でも僕が驚いたのは男たちの頭の上に乗っている烏帽子だった。そんなものを日常的に着けている人は現代ではいないはずだ。もしかして僕はタイムスリップしてしまったのだろうか。だとしても遡りすぎだ。

 文化の違いというものに対する驚きは意外に大きく、腸が煮え繰り返るほどの僕の怒りは理不尽なことに対する苛立ち程度におさまってしまった。

 僕が次の言葉を放つことなく周囲の村人たちを睨んでいると、一人の杖をついた老人が僕に話しかけてきた。

 

 「おまん、どこのもんだっちゃ。火つけたのはおまんか」

 

 はあ? 何を言っているんだ、この老人は。

 僕が火をつけただと、今ここに来たばかりの僕がか? 駄目だ、頭が回らない。僕が火を放った後に山で隠れていたとでも言うのだろうか。馬鹿馬鹿しい。一つ言えるのはこの村人たちにも犯人は分からないということだ。

 

 「あんた、見た感じこの中で偉いんだろ。早くこの子を治療できる場所まで運んでやってくれ」

 

 そう僕が言い終わるより先に老人の杖が消え、次の瞬間僕の左足をぶった叩いていた。

 バキィッ

 イッッッッッッッッッテェェェェェエエエ!?!!

 こ、こいつ、このジジイ、折りやがった。杖を振って、初対面の僕の左足の腿を折りやがった! どういう神経してんだよ、クソっっ…!!

 

 「ガキゃ嘗めとんか? わしゃ聞いてんだて、質問に答えい」

 

 痛みのあまり今すぐ泣き喚きたかったが、流石にカッコ悪すぎるのでなんとか僕は意地で耐えた。

 ようやく分かった。この人たちとは話が通じない。方言や服装どころではなく、そもそも根本的に価値観が違う。怪我人だから優しくするとか、なるべく暴力をふるわないとか、そういった社会の中で形成されていくべき倫理観が全くない。

 それにしても恐ろしいのはこのジイさんだ。僕は吸血鬼化しているおかげで身体能力が底上げされ、反射神経や動体視力も上がっている。だというのに、僕はジイさんの動きに全く気づくことができず、いつの間にか足を折られていた。ジイさんが何かの武術の達人だとしても、相当人間離れした身体能力を持っていなければあり得ない話だ。それこそ、いつかの僕を助けてくれた忍野くらいでないとそんな芸当不可能だ。

 外見はそこまで逞しくない。どころか骨と皮ばかりだ。そんなジイさんですらこれだけ強いのならば、周りにいる筋骨粒々な村の若者たちは一体どれだけ強いのだろう。今更になって気づいたが、もしかして僕は物凄く危険な状況にいるんじゃないか。

 だが、僕はここを引くつもりは微塵もなかった。僕が引いたらこの少女はどうなる。今でさえ傷のせいで口も開けず体も動かせないでいるのに、これ以上痛めつけられてしまえばそれこそ命を失ってしまう。僕がここで立ち向かわなければ救えたかもしれない目の前の命が理不尽な暴力により失われてしまうのだ。そんなのはお断りだ。

 我が身かわいさに身を引くほど、僕は堕ちちゃいない。

 

 「火をつけたのは僕じゃない。むしろ、逆だ。僕は山を下ってる最中に建物が燃えているのを見つけたから消火しにきたんだ。その証拠に見ろ、もう火は消えている」

 

 僕が指をさすと同時に、話を聞いていた村人たちが一斉にその方向を見た。そこには所々木材の表面が炭になり、茅葺き屋根は穴が開いてはいるものの、どこの柱も欠けることなく堂々と建っている木造住宅の姿があった。

 その光景に村人たちは目を丸くした。何が起きたのか理解できないといった様子だ。

 

 「消火ぁ? おまんがなしてそんなことするんだっちゃ。おまんはこの村と何も関係ねぇだこって」

 

 だがしかし、ジイさんが聞いてきたのは意外にも方法ではなく理由であった。僕はここに現れてから一歩も建物の近くに寄ってないのに、どうやって消火したかとか不思議に思わないのだろうか。

 質問に答えずにまた骨を折られてもかなわないので、僕はさっさと答えることにした。

 

 「理由なんて単純だ。そこに困っている人がいると思ったから助けようとしたんだよ。建物の火が燃え移り山火事にでもなれば手遅れだからな」

 

 ジイさんが真っ直ぐと僕の目を見てくる。黒い目は瞳の奥に確固たる意志を感じさせる。鋼のような、決して人とは相容れない厳しい輝きがそこにはあった。まるで猛禽だ。殺意とはまた違う。押し潰すような圧が僕を襲ってきた。

 苦しい、息ができない。見れば見るほど苦しくなっていく。このジイさんにはどう足掻いても勝てない。そんな絶望の未来像が僕の視界を覆っていく。

 どれだけの時間が経ったのだろうか。一秒が万秒にも感じる辛いひとときだった。不意にジイさんは目線を外した。

 

 「おまんアホヅラじゃが、嘘つきじゃね。理由は理解できんが火を消してくれたのは確かだっちゃ。どうせ放っておいても周りに燃え移る物もないから無視してたんじゃが、一応礼は言っておく」

 

 周りに燃え移る物が無かったのか。確かにここの家はどこも隣り合っては建っておらず一つ一つが畑や道を隔てている。なんだ、じゃあ徒労みたいなものだったのか。これじゃ本当の骨折り損じゃないか。

 

 「どうやったかは聞かないのか?」

 

 「そんなんはどうでもいい。どうせ聞いたって死んでも吐かん」

 

 なんだ、やけにすんなり話が通るな。僕の足をへし折った人と同じ人だとは思えない。しかし、消火の方法を聞かれなくてよかった。大量の水を具現化することで消火を終えた後、忍は機転を利かせて村人にばれることなく僕の影へと潜っていた。忍の具現化の力が知られたら色々面倒だからな。それにいざってとき、僕一人だと思わせておいて忍が出てこられることの恩恵はでかい。牢屋なんかに入れられても忍に助けてもらえるし。

 

 「おまんは阿保じゃが、一応家を守ってくれた恩人じゃ。おまんさえよければ今日は客人としてもてなそう」

 

 そのジイさんの発言に周りの村人がどよめく。

 

 「村長、どういうことだっちゃ。まさかそいつ飼うつもりじゃないろ」

 

 村の若者の発言にジイさんの眉がぴくりと動いた。やばい、圧が変わった。

 バキィッ

 またもやジイさんの杖が消えたかと思うと、若者の足が折れていた。痛みのあまり立てないようで若者はその場にうずくまった。

 

 「黙れ、口ごたえするな。恩を仇で返すは一族の恥ぞ。おまん、一族の顔に泥塗る気か」

 

 若者は脂汗を滲ませながら首を横に振る。その気持ち僕には分かるぞ。痛いし、怖いし、キツいよな。よく考えなくてもこれってパワハラだし、やっぱりこのジイさんいかれてるよ。死ぬまで口には出さないけど。

 

 「澪、いつまで寝とる。早く起きい」

 

 ジイさんは未だ横たわっている少女にそう言った。

 無茶を言うなよ。あの傷は昨日の今日で治るものじゃない。そう思って澪を見ると、驚いたことに澪は手足を痛みに震えさせながらも何とか立ち上がろうとしていた。

 

 「バカッ、何でそこまでして!」

 

 力が入らず倒れそうになった澪の肩を、咄嗟に僕は掴んだ。

 

 「ぐっ……」

 

 「わ、悪い。痛いよな……」

 

 掴んだ手を緩め、澪の後ろに回し優しく背中を支えるようにする。何が少女をそこまでさせるのか。澪はこちらを見ずにただ一生懸命に立ち上がろうとする。だがやはり無茶だ。人の体には限界がある。気力だけでなんとかできるほど人の体は強くない。

 傷つけられ弱っている肉体に反して、澪の青あざと血に塗れた顔はやけに力強く感じた。苦痛に悶えながらもその瞳は光を失っていない。どこまでも目的のみに集中し、ただひたすらに立つことのみに専念している。力が入らず震えるばかりの手足も、瞼が腫れ何も見えない目も、痛みのあまり朦朧とする頭も、全ては立つことのみを目指している。

 僕はそんな姿を見て、「やめろ」なんて言えなかった。ただ、少しでも負担を減らせるように、なるべく痛くない支え方をするしかなかった。

 澪は立った。今にも倒れそうだが確かに澪は立っている。少しばかり僕に支えられてはいるものの自らの二本の足で立ったのだ。

 

 「ふんッ、甘すぎだっちゃ」

 

 このジジイ……、二度と口の聞けない体にしてやろうか。

 

 「まあいい。澪、おまんの家は辛うじて残っておる。だっけ、おまんは今日そこで寝え」

 

 はあ??? こ、い、つ……、嘘だろ。鬼畜にも程がある。この家は柱が残っているとはいえ、戸は焼けて使い物にならないし、中はおそらく煤塗れになっていることだろう。そんなところで傷だらけの少女に過ごせって言うのか? あり得ない。

 

 「澪って言ったか。君、家の人はいないのか?」

 

 澪は聞こえていないのか。僕の言葉に全く反応がない。

 代わりにジイさんが答えた。

 

 「澪に身寄りはおらん。そいつ一人だっちゃ。どちらにせよ、客人には関係ね。おまんはおれん家に泊まれ」

 

 このジイさんまたもや命令だ。何でもかんでも自分の思いどおりになると思っているのだ。

 

 「いえ、それには及びません。僕は彼女の家に泊まります」

 

 「何? おまん、わしの家より澪の家が良い言いよるんか」

 

 「そういうわけではありません。ただ、このままだと誰も彼女の世話をしなそうなので、僕が泊まって看病すると言っているのです」

 

 ジイさんが明らかに訝しんだ目で僕を見てきた。やはり僕の気持ちは分からないらしい。

 

 「好きにせえ、澪の家でまともに飯を食えるとも思わんがな」

 

 そう言い残すとジイさんは去っていった。ジイさんにつられて僕の周りを囲んでいた村人たちも離れていき、各々の仕事に戻るようだった。

 残された僕と、僕の影の中の忍と、澪は取り敢えず、澪の家に上がり怪我の手当てをすることにしたのだった。

 

 忍は思った。

 (こ、こやつ、天然タラシだとは思っておったが、平行世界でもなんなく少女の家に泊まるとか。しかも合法ロリとかじゃないぞ、真性ロリじゃぞ。犯罪の匂いしかせん。いや、まさか、流石にないとは思うが間違いは犯さんよな? ま、まさかの……。……一応しっかり見張っておくか)




読んでいただきありがとうございました!

村人の方言は伏線ですが、再現しようと頑張ったものの私の力量では難しく、クオリティーは低いと思われます。
気になった方は調べてみてください。
伝わったら嬉しいです。

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