【前回のあらすじ】
村の火事の犯人分かりません。
暦は村人から少女を助けました。
代わりに股の骨折られたよ、かわいそう。
傷を
だがしかし、悲しきかな。この世にはやった方がいいと思っているけどできない、という場合があるのもまた事実だ。適切な治療というのをやった方がいいということは分かっている。分かってはいるけれど、そのやり方の具体的な方法を知らないし、知ってたとしても技術や道具がないため行えないという場合だ。
このように最善の策を望んでいるにも関わらず、それを選ぶことができないという状況は人生には往々にしてある。
そんなとき適切な治療ができないからといって投げ出してしまうことは果たして正しい行いと言えるだろうか。確かに、実際にはやって後悔するよりやらないで後悔した方がいいとは思う。素人が下手に手を出すことで状況を悪化させることもあるからだ。
だが、誰にも任せられない状況というのはあるわけで、そういう時にその場を去ることは助けを求めている人を見捨てることに他ならない。
最善策はとれないが見捨てたくもない、そんな僕は次善策をとるしかないのだ。100点満点が取れないのならせめて80点以上を取るしかない。
というわけで、僕は
「なんでやねん!」
「ぐはっ!」
忍の拳が僕の
「お前様は本当に見境なしじゃのう」
「見境はあるさ、幅広いだけ」
「十分だめじゃが」
「いやいや、考えてもみてくれ。ここは火事があったばかりの家屋なんだ。軒並み日常生活に必要なものは焼けちゃってるだろ。当然、消毒液やガーゼなんかもない。だけれど、ここには傷を負った少女がいて僕たちはそれを治療しなくてはならないんだ。となれば、あとは分かるだろ?」
「ほうほうなるほど、据え膳食わぬは男の恥というやつじゃな」
「なんだよ、忍も分かってるじゃないか」
「ふむ、ならこうすれば問題ないわけじゃ」
忍はそう言うや否や、消毒液や絆創膏などが入ったいわゆる救急セットを具現化した。
「なにィィィィィィーーーッ!!」
こ、こいつバカな。据え膳食わぬは男の恥、という状況の据え膳の部分を失くしちまった! あとに残ったのは恥だけだぁ!!
グハァッ
「な、なぜだ、忍。僕はお前を信じていたというのに……」
「うむ、儂も信じておったぞ。あそこで止めなければお前様がやると信じていたからこそ止めたのじゃ。というか、言っておる場合じゃないじゃろ。早うこの娘っ子が起きる前に済ましてしまわんと」
そうなのだ。怪我を負った少女こと澪は家の中に入った途端、プツンと糸が途切れたようにして意識を失ってしまった。未だに顔は腫れているためはっきりとした表情は分からない。けれど、今にも死にそうなほど弱っているようには見えないので僕は少し安心してしまっていた。
だがまだ気を緩めてはならない。このまま何もせずにいたら命を失ってしまうかもしれないからだ。症状としては紫色に変色した打撲がほとんどであるが、中には土が食い込んだのか擦傷もあった。それらの症状を和らげるには、消毒や冷却などの応急処置は必須と言える。
しかし、応急処置には痛みが伴う。何せ傷に触るのだ。痛くないわけがない。僕としても澪がこれ以上痛がってほしくはない。せめて少しでも痛みを和らげるために澪が寝ている間に終わらせてしまいたかった。
つまり、手当をするなら今しかないのだ。
「なぁ、お前様よ。治療をするかはお前様の好きにしたらいいがの。一つ忘れていることはないか?」
「忘れていること……、なんかあったか?」
「傷の治療ならお前様の血を使えばいいじゃろ」
吸血鬼の血、それは人に浴びせることで致命傷も即座に完治させる力を持っている。確かに、それを使えば澪の傷はよくなるだろう。いくら僕らが最大で全盛期の十分の一ほどしか力を出せないとはいえ痛みを和らげたり傷の治りを早くしたりはできるはずだ。
だが、僕はそれをしたくなかった。
「忍、それは最後の手段だ。なるべく力を使わずにやろう」
「ああ、そうか」と、忍は口には出さなかった。忍にとってはあまり納得がいかない話だろう。力とは使われてこそ意味がある。力を使わないということはその存在を否定していると捉えられても仕方がない。
「力といえば、さっきのジイさんの話なんだけど」
僕たちは澪の応急処置をしながら話を続けることにした。
「ふむ、今度はジイさんか」
「いや、そういう意味じゃねぇ! あいつに惚れるやつは人じゃねぇから!」
「じゃあ、ピッタシじゃの」
「う、墓穴を掘ってしまった」
「お前様が攻めじゃったか」
「いや、おけつじゃなくて」
軽口を叩きながらも忍と僕は協力しながら澪の傷を治療していく。掠傷は洗い消毒液をかけ軟膏を塗ってガーゼを貼っていく。打撲はどこも変形がないようだったので氷袋を作り冷やしていく。
「まぁ、そうじゃな。お前様の思っておる通りじゃろう。ここの村人はおそらく特殊な力を持っておる」
「ああ……」
思い出されるのは僕の腿を折りやがったあのジイさんだ。あれは今にして思えば変だった。今まで轟々と燃えていた建物に近づくことなくその火を消した僕を怪しまないなんておかしいのだ。
僕が消火したと言ったとき理由を聞いてこないばかりか『どうせ聞いたって死んでも吐かん』と言っていた。そのことから想像するにあのジイさんは、未知の力や方法を僕が持っていたとしても不思議ではないし、その力や方法の秘密は命を懸けてでも守るだろうと考えていたわけだ。そう考えることができるということは、ジイさんはこの世に未知の力や方法があるという事実を知っておりそれに慣れている可能性が高い。
考えすぎだろうか。あのジイさんは僕だから死んでも吐かないと判断しただけもしれない。いや、それこそないだろう。僕に恩があると言っていたが、そこまで僕のことを買ってるようには見えなかった。
となれば、やはりこの村には未知の力や方法を持っている人がいるという説が有力だ。それも他人に知られたら不利になる、もしくは知られるのが恥だと思っている類いの力だ。
それも一人ではなく複数人いると考えた方がいいだろう。僕が消火をしたと言ったとき、ジイさんだけではなく村人たちも驚きこそすれ怪訝な目で見てはこなかったからだ。そう考えればあの周囲の目がある状況下でジイさんがああ言ったのに対して誰も疑問の声をあげなかったのも頷ける。
村人の中に最低でも二人以上、最高で全員がなにかしらの能力を持っている。
驚異的だ。しかし、驚いてばかりもいられない。なにせ、澪の家を燃やした犯人がまだ分かっていないのだ。もしかすると、彼女の家を燃やしたのは能力をもった村人の一人かもしれない。犯人の目的がなんなのかは分からないが、怨恨であるならば再び襲ってくる可能性がある。
ーーーーーーーもし、そうなったら、
僕が一つのことに覚悟を決めていると、忍が寂しそうな顔をしながら僕の目を覗き込んできた。なにかを伝えたそうだが、どこか戸惑っているようだった。次に出た忍の声音は意外にもそんな表情とは裏腹に強かで優しかった。
「なぁ、お前様よ。儂は元の世界へ帰りたい。……でも、一人は嫌じゃ」
忍の様子は聞き分けのない子どもを諭すにしてはどこか儚げで、僕はそんな忍を安心させてやりたいと思ったのに口から出たのは頼りない返事だった。
「……ああ」
僕は僕のその弱々しい声に驚いた。だけれど、忍には予想ができていたのか動じることなく滔々と言葉を続けていった。
「お前様が早く帰らないと、儂はその間ミスドへは行けないからのぅ。またセールへ行こうぞ、そしたら今度も半分こにしてやるからの」
ミスドか、懐かしいな。といってもまだ一週間以上行ってないだけだが。もう一度食べたくなるあの味も夢のような満足感を与えてくれる食感も僕は覚えている。
それにしても、半分こか。
「ふふっ、……買うのは僕だろ?」
「当たり前じゃ」
まぁ、そうだよな。
忍はそういうやつだった。
食べるにしても寝るにしても、本当に僕がいなかったら何にもできないのだ。忍がいなかったら何もできない僕と同じように。
頼りがいはあるけれど頼りすぎては潰れてしまう、心強くもかよわい忍と、これからも僕は二重螺旋を描きながら互いを支えていくのだ。
だからこそ、なあなあではいけない。忍なら分かってくれると口を閉ざしてはいけない。大切な関係だからこそ拗れないように言葉を交わすのだ。
僕は僕の我儘を忍にお願いする。
「僕は澪を助けたい。この子が傷つけられずに済むようにしたい。だから、力を貸してほしい」
「ふむ、よかろう」
何よりも、まずは澪についてだ。目にした以上は放ってはおけない。これが出すぎた真似であるとは自分でも思っている。忍の早く帰りたいという願いから遠退いてしまうだろうし、今のところは考えられない話だが何より澪自信がそれを望んでいない可能性もあるだろう。だが、それでも僕は無視して次にはすすめない。それは澪に対する同情心や、村人の理不尽に対する怒りが理由というよりは、単にそれが僕の性分だからだ。なのでこれは正義の話ではなく僕の我儘でしかない。
そんな我儘に忍は快く返事をしてくれた。それを受け、僕の胸が罪悪感にちくりと痛んだ。これはずるい質問だ。忍に断られたところで僕が止まることはない。そうなるともし忍が断った場合、ただ僕のリスクが上がり結果的に忍の二人で帰りたいという願いは叶えられなくなる可能性も高くなる。だから、忍は自身の願いを叶えるためにも頷くしかないのだ。
自分だけの願いを忍に押し付けるなんてことをしてはいけない。忍の願いは僕の願いでもあるのだ。だから、次の僕の願いは決まっていた。
「僕は元の世界へ帰りたい。帰って忍とミスドに行きたい。だから、力を貸してほしい」
「ふむ、当然じゃな」
そう、当然だ。誓うことも、叶えることも当たり前に行わなくてはならない。それだけが忍の優しさに報いる方法だからだ。
ようやく澪の治療が終わり、時刻は昼の2時くらいになっていた。次に僕たちは方針を決めることにした。
「まずは村人の能力の調査じゃろうな。じゃないと犯人も特定できんからの」
「そうだな。でも、どうやって能力を知るんだ? 普通に聞いたら怪しまれるだろ?」
「ふっ、それは儂に任せるのじゃ。考えがある」
「お、じゃあ任せるよ」
「うむ、大船に乗ったつもりでいるんじゃな」
僕は眠っている澪を見つめた。泥や血の汚れは落とされ、ガーゼやテープが身体中に貼ってあり、忍の出した衣服で身を包んでいる。安らかに眠る姿は年相応の幼さがあり愛らしい。
「なぜ、澪は痛めつけられていたんだろう?」
「それもまた調べなくては分からん。今のところは放火魔の犯人にしたてあげられ制裁を受けたのかもしれない、と予測をたてるぐらいしかできんの」
「そんなことをする子には見えないけど」
「まぁ、人は見かけによらぬもの、じゃからの。もし、村の者が儂の姿を見たとて、誰も吸血鬼であるとは思うまい」
「せいぜい思ったとしても、かわいい外国人の小学生くらいだろうしな」
「む、絶世の美少女の間違いではないか?」
「それって自分で言ってて恥ずかしくないのか?」
「ひどい! お前様はそう思ってくれていると信じていたのに!」
「もちろん、僕は思ってるけどさ」
「…………!」
「ああ、そういえば、祠にも行かないとだよな。霊的エネルギーがあるか確認しにいかないと。……忍?」
僕が視線を忍に戻すと、忍は顔をそらし踞っていた。
「なんだ、腹でも壊したのか?」
「……なんでもない……」
「そうか? なんかあったら言ってくれよ」
「……うむ……」
忍は思った。
(うそじゃろ、うそじゃろ、うそじゃろ。こんなんなるとは思わんかった! うおおおお、恥ずかしいいいい。まさか、乗ってくるとは思わないじゃん! そうなんだ、そうなんだ、儂のこと絶世の美少女って思ってくれてるんだ!! 嬉しい、すごく嬉しい。もう儂こやつと添い遂げたい! というか、もう既に死ぬまで一緒と誓った仲じゃけども!!! ………………ハッ! こ、これがあるじ様の天然タラシか…………。ぐっ、ぐぅぅぅ、他のおなごにも、こんな風に言っておるんじゃろぉなぁぁあ、やじゃなぁ、気分悪いわ。でも、いいもんね! ずっと一緒なのは儂だけじゃもんね。最近部屋にこもりがちだったときも儂だけは一緒にいたし、今だって一緒に平行世界に来てるもん!)
しばらくの間、顔を真っ赤にした忍は踞ったまま恥の灼熱に、喜びの楽園と、妬みの地獄をぐるぐるとめぐり続けるのだった。
読んでいただきありがとうございました!
オチに忍ちゃんを持ってくるのはまだやってもいい?
忍ちゃん諸々を含め、キャラ改編と指摘されたら「すみません、そうなんです」と頭を下げるしかない今日この頃。
そもそも西尾維新大先生に文体を似せたかったけど似せられなかった時点でもうお察しなんですよね……。
考えてみたのですが、呪術の世界って心の情動が呪力を生むんですよね。ということは禪院甚爾のように天与呪縛でもなかぎり、阿良々木君の呪力をなくすことは無理なわけです。もし呪力が呪術の世界線の人間に対する縛りによって発するようになったものだとしたら話は別ですが。
どうしよ。
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