テイオー様と俺   作:黒色エンピツ

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一話:ガキと俺

 

 

 

 

 

 

『あんたなんかが、トレーナーじゃなければ良かったのに!』

 

『……すまなかった。でも、医者が言うには……また歩けるように……。』

 

『歩けるじゃだめなの!もう、もう走れないんでしょ!もう来ないでっ、顔も見たくない!』

 

『……ああ。』

 

俺が無茶をさせたせいで彼女は足を壊してしまった。

ただ、勝たせたくて、焦って、結果を残したくて。

その結果、彼女に耐えられない無理なトレーニングをさせてしまった。彼女の限界を見極められなかった。

そして、俺はトレーナーを止めて昔自分の通っていた小学校の教師になった。

 

 

 

 

「せんせー!」

 

「……。」

 

「せ・ん・せ・ー!」

 

「職員室なんだから、どの先生かはっきり言えー。」

 

「和樹せんせー!」

 

「先生の名前くらい苗字で呼びなさい。」

 

見ていたレースの動画を止めて椅子を後ろに向けると鹿毛に白のメッシュが入ったウマ娘が立っていた。

俺の担当しているクラスにいる五年のトウカイテイオーだ。

 

「んで、なんだトウカイテイオー。」

 

「昔トレーナーやってたってほんと!?」

 

「……どっから聞いてきたんだよ。」

 

「こうちょーせんせー!」

 

あったま悪い言い方しやがって。にしても校長はなんで言ったんだよ。

 

「それ聞いてなんなんだよ。」

 

「ボク、速くなりたい!」

 

「……。」

 

何度かボールペンで頭を叩く。

彼女の事がつい頭に過ぎってしまう。

ウマ娘は走る事が好きだ。だからもし近くにトレーナーだった人がいる場合にトレセン学園に入る前に簡易的な指導をしてもらうこともたまにある。例えば名家のメジロ家なんかは幼少期からトレーナーを入れてはいないが厳しく指導されていると聞く。

 

「嫌だね。なんで俺がガキの指導してやんなきゃいけねぇんだ。」

 

「えー!いいじゃんいいじゃん!

何さ、どーせ担当したウマ娘だってそこまで強くなかったからそんな事言うんだ!」

 

「おい、彼女の事を悪く言うのは俺が許さない。」

 

「ぐすっ……うぇ……そ、そんな声出さなくったっていいじゃん……。」

 

しまった、ついドスの効いた声が出てしまった。

大きく震えて隣の席の先生の後ろに隠れる。

 

「あ、こら逃げるな!」

 

「新堂先生、可哀想ですよ。」

 

しかも、隠れたのが入ってからお世話になっている先生だから言い返せずに口を閉じる。

 

「いーっだ!」

 

「……〜っはぁぁぁぁああ。」

 

ペンを放り投げて椅子を回す。

 

「分かった。じゃあ軽く2000m一本走ってみろ。」

 

あ〜、とりあえずマイルと中距離なら大体は適正あるだろ。

 

「走ったら見てくれるの!?」

 

「あー、うん、素質あったらな。」

 

「じゃあ早速!」

 

「三十分後な、アップしてろ。」

 

「うんっ!」

 

仕事パパッと切り上げねぇとな。

ライセンス、ちゃんと更新してて良かった良かった。

 

 

 

 

コースは体育の先生にお願いして石灰で引いてもらった。

ちゃんと測量して2000mのコースを引いてくれたらしい。マジかよ、割と雑で良かったのに。

 

「はい、スタート。」

 

ピッ、とホイッスルを吹くとトウカイテイオーが飛び出した。

 

「……何?」

 

500mを超えた所で驚く。まだ、小五だよな?才能の塊かよ。

いや、でもなんだ……違和感が……。

ガンガンと警鐘が頭に響く。くそ、あの時から良くない事があるとこうだ。

頭痛を堪えながら目を凝らす。昔からのクセで自然と懐からキャラメルを取り出して口に放り込む。これのせいで甘い物口に入れとかないと集中が出来なくなってしまった。

しかし、なんだ、何がおかしい。とっとと気付けバカ野郎。

………………足首か!!

 

「止まれ!ああ、急に止まるなよ!ゆっくりと止まれ!」

 

「えっ!?」

 

止まったトウカイテイオーに近寄ると肩を掴む。

 

「お前、その走り方いつからだ。」

 

「えっと……多分最初から?」

 

「……その走り方、少し変えてくれないか?」

 

「え〜、でも……。」

 

「怪我してからじゃ遅いんだ、頼む。」

 

「わかったよぅ……。」

 

ほっ、と一息つく。

 

「ねぇねぇ、ボクどうだった?」

 

「文句なしだ。ちょっとだけトレーナーやってやるよ。」

 

「ほんと!?やったー!!」

 

ぴょんぴょんと俺の周りを飛び跳ねる。

ああ、引き受けちゃったよ……二度とこんな事するつもりなんてなかったのに。

 

「はぁ〜……。」

 

とりあえず、あのフォームで走っても大丈夫なように改良案も考えないと。最初は馴染まないだろうけど、我慢してもらおう。

 

 

 

 

「子供のレース?」

 

テイオーのトレーナー擬きを始めて数ヶ月。なんとかフォームを修正してみて分かったが、やっぱこいつおかしいぞ。多少遅くしたとしてもあれなら元に戻したら適正距離なら本当に無敵になるかもしれない。

 

「そうそう!ねー、良いでしょー?」

 

「ん、まあ、そうだな。」

 

ずっとトレーニングばかりってのと子供にはつまんないか。

……ところで、誰もツッコんで来ないけどさ。なんでこいつ普通に膝に乗ってるんだ?

ガキだっつっても俺が小学校の頃こんなことしてるやつなんていなかったぞ。……知らないだけ?

 

「じゃあ、移動係お願いね!」

 

「ああ……ああ?お前、親は?」

 

「二人とも仕事なんだってー。」

 

頭痛くなってきた。

 

「……許可は?」

 

「せんせーなら大丈夫だって!」

 

たまに夜遅くなる事もあって家に送ってやってるからか、妙に信頼されている。

……録り溜めてたレース見る予定だったのに。

 

「わかったよ……。」

 

 

 

 

「意外と人が多いんだな。」

 

テイオーは大丈夫かと後ろを確認するとレースが楽しみだと鼻息を荒くしていた。

緊張してないのは良い事だ、彼女のデビュー戦はどうだったか……いや、やめておこう。

 

「参加するウマ娘の方は受付までお願いします。」

 

出走の受付はどうするのかと思っていると、仮設テントの拡声器から聞こえてきた。

 

「行くぞ、テイオー。」

 

俺の名前とテイオーの名前を書く時に関係を聞かれたが教師と生徒だと言うと納得してくれた。

 

「ぶっちゃけると、今日のレースはお前がほぼ間違いなく勝つ。」

 

「そうなの?」

 

「ああ、トレーナーから指導を受けたってウマ娘はいなさそうだしな。それにこの歳であんな努力するウマ娘はあまりいない。

だからって油断はするなよ?後怪我もしないように。」

 

「一着だったらご褒美ってある?」

 

「ご褒美?」

 

ああ、そうか。子供だから着順よりもご褒美の方がわかりやすいか。

 

「じゃあ勝てたら俺の知ってる美味い店に連れてってやるよ。」

 

「約束だからね!」

 

俺がそう言うとやる気が出たのか足早に他のウマ娘達のいる方へ向かって行った。

あの調子なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

「まあ、当然の結果か。」

 

最初から最後まで先頭を突っ切って大差で勝利したテイオーが手を振りながらこっちに向かってくる。

 

「せんせー!」

 

「はいはい、見てたぞ。」

 

興奮したままレースがどうだったかを説明してくる。

スタートがどうだったとかみんなが自分を応援してくれたとか喝采がすごかったとか、

 

「あの、よろしいでしょうか?」

 

「はい?」

 

振り返るとペンとメモ帳を持った女性がいた。

ん?この人どこかで見た事が……。

 

「乙名史悦子です。覚えてますか?」

 

思い出した。俺がトレーナー時代に来た記者見習いの人だ。

 

「ええ、久し振りですね。」

 

「まさか新堂トレーナーがまたトレーナーをやってるとは思いませんでした。」

 

「こいつに頼まれたんで卒業までのトレーナー擬きですよ。ほら、テイオー挨拶。」

 

「無敵のトウカイテイオー様だよ!よろしくね!」

 

「調子に乗るな。」

 

軽く頭を叩くと恨めしい目で俺を見上げる。

 

「ぶー、褒めてくれたっていいじゃん。」

 

「はぁ……後でな。」

 

「ふふっ。あ、すみません。なんだか昔と印象が違うので。」

 

「まあ、人は変わるものですよ。それでどうしたんですか?」

 

「あ、そうでした。今私の担当している雑誌の『月刊トゥインクル』で未来のウマ娘の記事を書くことになってて、是非トウカイテイオーさんと新堂さんに取材をさせて頂きたくて。」

 

知ってますか?と取り出された雑誌は俺が愛読している雑誌だった。

 

「取材!?せんせー!取材だって!」

 

「……あ、ああ、そうだな。」

 

まさかこの雑誌を書いていたのが彼女だったとは。

それからテイオーにはいくつか簡単な質問をして、俺には普段のトレーニングについての質問をしてきた。

 

「それでは、最後に一枚写真を撮ってもよろしいですか?」

 

「大丈夫!」

 

ビシッとポーズを取るテイオーを見て少し離れる。

 

「あ、新堂さんも一緒にお願いします。」

 

「え、俺も?」

 

「はい、お二人の事を書きますから。」

 

「……じゃあ。」

 

メインはテイオーだから隣にしゃがむとテイオーが首に抱き着いてカメラにピースサインをする。

 

「おい。」

 

「え〜、こっちの方がいいよ!」

 

「撮りますよー。」

 

まあ、初レースで頑張ってたし、このくらいは良いかと片手をテイオーの頭に乗せるとシャッターが切られた。

 

 

 

 

「ね、ねぇ、せんせー。ここ本当に大丈夫……?」

 

「ああ、気にするな。」

 

結局テイオーは最初から最後まで先頭を走り、余力を残して一着と取ったため、昔から何度か来ている店にテイオーを連れて来た。

普段行く店と違う雰囲気だからか周りを見渡している。まあ、実際高いし。

トレーナー時代の貯金も全く減ってないし、買い物なんて日頃の食事に酒くらいで後はレースくらいしか見てないから今の職場の金だってある。

こいつのご褒美に使う金なんて切れ端程度だ。

 

「好きなの頼め。」

 

「やったー!じゃあココからココまで全部!」

 

「……あ?」

 

「かしこまりました。」

 

「……食える、のか?」

 

「大丈夫!」

 

「ああ、そう……。」

 

……降ろしてきた分で金、足りっかな。

 

 

 

 

早いもので一年が過ぎて六年生になった。

テイオーはより早くなった、動きも良いし、フォームも最初の少し危険なものから洗練されたものに変わった。これならもしトレセン学園に入ったらデビュー戦は間違いなく勝てるだろう。

ただ順調過ぎて、何かが起こりそうで怖い。まだ、彼女の事を引き摺っているみたいだ。

 

「せんせー!せんせー!」

 

まあ、その辺は俺や未来のトレーナーがなんとかする。

 

「せーんーせー!」

 

「……うるさいぞ。」

 

「シンボリルドルフさんのレース見に行きたい!」

 

「んじゃ、行くか。」

 

「あれ?良いの?」

 

「なんだ、行かないのか?」

 

「行くけど〜、今まで自分から行こうとしなかったじゃんか。」

 

「それだけ俺も注目してんだよ。」

 

俺だって重要そうなレースは現地で見てるようにしてるんだよ。全く。

 

 

 

 

「テイオー!どこ行ったー!」

 

会場内を必死に探す。どこ行きやがった、あのガキ。後は今やってるインタビューの会場くらいだけど……関係者立ち入り禁止だけど。

 

「ボクは、ボクはシンボリルドルフさんみたいに強くてかっこいいウマ娘になります!」

 

「見ぃ〜つけたぁ〜。」

 

シンボリルドルフに対して宣戦布告をしているテイオーの襟後ろを掴み上げる。

 

「お前、今何言ったか分かってんのか?」

 

「わかってるよぅ……。でも、ボクとせんせーなら絶対に出来るよ!」

 

「あーもー、俺はトレセン学園行くまでだって。

って、こんな所で話す事じゃないか。

すみませんね、こいつが。」

 

「あなたは、もしかして……。」

 

「え?ああ、こいつの小学校の担任の新堂です。

ほら、行くぞ。」

 

「あ、あ〜!ボク、トウカイテイオーです!」

 

持ち上げてぶーぶー文句を言うテイオーを連れて帰ろうとすると腕を掴まれた。

 

「え?」

 

「す、すまないが、待って欲しい。」

 

「は、はぁ。テイオーが何かやらかしました?」

 

「そうではなくて……。」

 

周りの記者の目が痛くなってきた。いい加減行こう。

 

「では、何かあればこちらまで連絡をしてください。」

 

懐から名刺を取り出して渡すと急ぎ足で会場を後にする。

 

 

 

 

「……彼はやはり。」

 

受け取った名刺に書かれた『新堂 和樹』と書かれていた。

 

 

 

 

「だぁー!お前のせいでまたこの名前が出てきちまったじゃねぇか!」

 

「ふふーん!」

 

「誇れる事じゃねぇよ、くそ!」

 

イラつきながら雑誌をぶん投げる。

開いたページの見出しには『壊し屋の再来!?』と書いてあった。

 

 

 

 





なんか色々ガバガバです。

ウマ娘、やってると時間が消し飛んでますよね。
ところでうちにテイオーはいつ来るんですか?
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