「初レースであの結果は上等だけど、これはなぁ。」
トレーナー室に座ってコーヒーを飲みながら読んでいた新聞を机に投げる。
新聞の一面には天を仰ぐスペが取り上げられていた。他のメンバーもダンスはからっきしだ。……ゴルシは少し違うがな。
「先輩も忘れていたんだろうな。」
ただ……他の三人もだとは思っていなかった。
「こっちもそろそろメイクデビューか。」
パソコンで最近のテイオーのデータを開く。
メイクデビューは何か突発的な事故がなければ一着になるだろう。
データを眺めているとドアをノックされる。
休憩時間ではあるが、テイオーじゃないな。誰だ?
「どうぞ。」
「失礼する。」
「ん、ルドルフか。」
前に連絡先を交換してから定期的に連絡をとってはいたが、直接とは何かあったか?
「どうかしたか?」
「相談なんだが……。」
「珍しいな。」
「テイオーにサイレンススズカ以外のスピカのメンバーにダンスの指導をしてもらいたい。」
「……ああ、なるほど。」
流石にあれは無いよなぁ。学園としても優秀な生徒なだけに情けない所を見せられないのだろう。
「わかった。テイオーには俺から話しておく。」
多少トレーニングの時間は減るが、息抜きも大切だろう。
予定を少し変えるか。
「……ところで先生くん。最近ちゃんと休んでいるのかな?」
相変わらずその呼ばれ方は慣れない。普通に先生と呼んでほしいが、それはどうも他の先生と被るからとくん付けされた。
「ああ。」
「しかし、この前テイオーから居眠りをしていたと聞いたよ。それに今も隈が濃い。」
ルドルフが俺の顔に手を添えて上に向けると目元を親指で撫でる。少しくすぐったい。
「テイオーの為だ。俺の時間を削ってでも考えて、知識を溜め込む。」
「それで君が体調を崩したら悲しむのはテイオーだ。」
「……それは分かっている。」
「なら休もう。何、放課後までまだ時間はあるからね。」
無理矢理立たせられると備え付けのソファに寝かされる。
「……寝ればいいんだろう。」
ため息を吐くと目を瞑る。
「おやすみ、先生くん。」
頭に手が置かれる。
ガキじゃないと言ってやりたいところだが、思ったより疲れていたらしく、すぐに眠気がやってきた。
「……ぁ、やべっ!?」
しまった、今何時だ!
起き上がって窓を見ると既に夕日が沈みかけていた。
「……はぁ、やったな。」
寝過ぎた。テイオーもトレーニングは……先輩がやってくれたのか?
「先輩には後で連絡するか。」
今度酒でも奢ろう。
「あ、せんせー。」
ドアからテイオーが入ってきた。見た感じ、トレーニング後にシャワーを浴びてから起こしに来てくれたのか。
「トレーニング見てやれなくてすまない。」
「ううん。それよりせんせーは大丈夫?」
不安そうに眉を下げる。
「俺の事は気にしなくていい。自己管理が出来ていなかっただけだ。
トレーニングは終わったんだろう?なら帰ろう。」
「い、一緒に帰らない?」
基本的にはトレーナーはやる事があったりして、ウマ娘を先に帰らせる事が多いからな。
たまには良いか。
「ああ、いいぞ。」
「ほんと!?」
やったー!と飛び跳ねるテイオーを横目に帰る準備をする。
「……そうだった。テイオー、ルドルフがスズカ以外のスピカのメンバーにダンスの指導をしてほしいって言っていたぞ。」
「カイチョーが!?うん、ボク頑張るね!」
ルドルフの事になると元気が良くなるな。
今もご機嫌にステップを踏んでいる。
「場所とかは任せるから好きにやってくれ。」
当日はオフだな。ならその日は俺がトレセン学園を辞めてから出来たらしいスイパラにでも行こう。
「あら、先生。奇遇ですわね。」
放課後になり、スイパラに向かう為に街に出るとマックイーンに出会った。
「ああ。今日はトレーニングはしていないんだな。」
「毎日の積み重ねは大事ですけれど、適度な休養は大事ですわ。」
「そうだな。トレーニングの疲れが取れずにレースで結果を残せなかったウマ娘もいる。」
会話をしながら並んで歩く。てっきりどこかの分かれ道で別れると思っていたが、同じ方向のようだ。気を遣っているのかとも思ったがそうでもなさそうだ。
「俺はここまでだ。この店に来たかった。」
「先生も?」
「なんだ、マックイーンもか?」
「え、えぇ、少し意外ですわ。」
「そうか?」
確かにそこまで会話をした事もないから俺がキャラメルを常備している事も知らないか。
「じゃあ、ここは奢るから一緒に入ってくれないか?実は男一人で入るのは少し緊張していたんだ。」
男でも最近はこういう店に来るとは聞くが、それでも女性の方が多いのだろう。丁度良かった。
「それは構いませんが……別にお金は出して貰わなくても結構ですよ?」
「それは分かっているが、学生に払わせるのは気分的にな。」
「はあ、それでしたらお言葉に甘えますわ。」
席を案内されると二人同時に立ち上がり、思う存分スイーツを取ると席に戻る。
俺はなるべく汚く見えないように取ってきたが、マックイーンは美しく盛り付けられていた。
これが育ちの良さなのか、と少し思いながらケーキを頬張る。
「……ふふっ。」
「どうした?」
「いえ、スイーツを食べている時は眉間のシワが無くなるのが面白くて。」
そうだったのか……知らなかった。
片手で眉間を触ると確かにシワが無かった。
「……好物を食っているからだろう。」
「そうですわね。」
少し恥ずかしくなって顔を背けると、また笑われてしまった。
一時間程スイーツを楽しみ、店を出る。
俺は間に少ししょっぱいものを挟んでいたが、マックイーンはずっとスイーツを食べていた。女の子は凄いな。
外が暗くなってきたからマックイーンを寮へ送っていると、カラオケからテイオー達が出てきた。
「あれ、せんせーと……マックイーン?」
「ここでやっていたのか。」
後から出てきた先輩がこっちを見て顔を抑えた。
どうしたのだろう。また金欠だろうか?
「ねぇ、せんせー。どうしてマックイーンと一緒にいるの?」
少し肌寒くなってきた。暑くなってきたはずだが、既に暗いからか?
「偶然会ってな。一緒にスイパラに行っていた。」
「うぅ〜……デートじゃんか〜。」
「別にデートじゃないだろう。お前も何度も外食しただろう。」
「でもスイパラは行ったことないもん。」
……面倒だな。
「分かった。今度連れて行ってやるから。」
「……ほんと?」
「ああ。」
「約束だからね!」
「はいはい。」
機嫌が直ったのか腕に抱き着いてくる。
「やっと終わったか……帰るぞ。」
少し疲れた顔の先輩が先導する。
今日のレッスンな大変だったのだろうか?
周りを見ると、スズカとスペはいつも通りで、ゴルシはルービックキューブを弄り、ウオッカはよく分かってなさそうな顔をしていたが、スカーレットとマックイーンは先輩のように疲れた顔をしていた。
「まあ、いいか。」
そのままテイオーに腕を引かれながら帰る事になった。
遂に、テイオーのメイクデビューの日だ。
一応緊張しているかの確認のために控え室に向かう。
「テイオー、緊張しているか?」
「大丈夫、万全だよ。」
「そうか。」
笑ってそう言うテイオーを見て大丈夫そうだと判断する。
「せんせー。」
「なんだ?」
「ボクの伝説の幕開け、ちゃんと見ててね。」
「……ああ。」
別にG1ではないからそんなに気合いを入れる必要もないんだが……まあ、目に焼き付けよう。
特に見所もなくレースが終わった。
予想していた通り、大差でテイオーが一着となり、華々しいデビューを飾った。
その後のウイニングライブも完璧だったと言える出来だった。
記者に囲まれないかが心配だ。それに、もし俺の事を知っているやつがいたら面倒だな。
……よし、決めた。
「す、少し質問させてください!」
「待ってください!次の出走予定は!?」
その声を無視して走る。腕の中にはテイオーを抱えているが、このくらい軽いものだ。軽く鍛えていた事がこんな所で生きてくるとは思わなかった。
「悪いな、テイオー。」
「……えっ?う、うん、いいよ。」
妙にぽわぽわしたテイオーを見て、やはり初めての公式レースだから疲れたのだと判断する。
数日休養を取らせるべきだろう。
それにしても鬱陶しい、軽くならまだしも、廊下にそれなりの人数がいたからそれでは済まないだろう。
「……はあ。」
またスイパラに行きたくなってきた。
この前怒られたからデビュー記念にテイオーでも連れて行こう。
「しまった。先輩達置いてきてしまった。」
連絡を入れて後で合流しよう。
あ、乙名史さんからメールが届いているな。このインタビューは……いや、テイオーと相談してからだな。
あれやこれや書きたいと時間がかかって仕方ないっすね。
という訳で四話でした。