「『トウカイテイオー、大差で華々しいデビュー』か……。」
大差でゴールした瞬間やその後のウイニングライブの写真が貼られている新聞を読みながらため息を零す。あいつの素質を考えればこんなもの当然の結果だ。トレーナーがいなくても余裕だったろう。やはり俺がいなくても……
「……ダメだ。思考を切り替えろ。」
ネガティブな思考を中断して水を口に含む。
今日は休日だが、初の公式レース後と言う事で数日は休みにした。先は長いから、ゆっくりと仕上げていきたい。
代わりに有力なウマ娘のレースを見て研究するように伝えたから、やっていてくれると思うが。
「……もう一眠りするか。」
流しにコップを置いてベッドに潜ると少ししてから眠気がやってきた。
「ん……?」
すんすんと鼻を鳴らす。この匂い、カレーか?近くの部屋で作っているのか?
「あ、やっと起きた。」
「テイオー?……全く、トレーナーの部屋に用事もないのに来るなと言っただろう。」
「え〜、せんせーの家だって何度も行った事あるんだから今更じゃない?」
そう言われると確かに……。
「じゃあ良いか。」
「やった!じゃあ、晩ご飯作ったから一緒に食べよ?」
「ああ、このカレーの匂いってテイオーが作ってたのか。」
「せんせーのママに教えてもらったんだよ!食べてみて!」
「お前いつの間に……まあ、可愛がられてたからな。」
俺の両親はテイオーが遊びに行くと連絡すると急に飯が豪華になるし、甘やかす。俺がガキの頃なんて何度も叩かれたぞ、理不尽だ。
「ん、美味い。」
「ふふーん!テイオー様は料理だって完璧なのだー!」
「そうだな。ところで、研究はしてきたんだろうな?」
そう言うと目を逸らして口笛を吹き始めた。
「はぁ……まあいい。リフレッシュも大事だからな。」
「ほっ。」
俺が気にしないとなると露骨にほっとしてカレーを頬張る。
しかし、俺が作るよりもずっと美味いな。
「テイオー、良かったらまた飯を作ってくれないか?休みの日で構わないから。」
「んぐっ!?」
「ほら、水。」
「んっんっんっ……ぷはぁ〜!!きゅ、急に何言うのさ!びっくりするなぁ、もう!」
「何かおかしな事を言ったか?ただ、お前の方が美味い飯が作れるから頼んでいるんだ。
……いや、やっぱりその時間を休養に当てた方が良いか。」
「やるやる!やるよ!ほら、最近は料理だって楽しくなってきたし、趣味にしちゃえばいいじゃん!今度はまた別の料理覚えてくるからね!
あ、何なら毎週でも良いよ!」
「たまにで構わないが……まあ、無理のないようにな。睡眠時間を削るなんて事はするなよ。」
「わかってるよぅ。」
これで隈でも出来たら説教だな。
「マックイーンがチームに入ったぞ!」
スクールの扉を思い切り開いて先輩達が入ってきた。
「ん、やっと決まったのか。」
「一人でトレーニングするより優秀なトレーナーに指導してもらう方が良いと思っただけですわ。まあ、悩んでいる時にゴールドシップにどうしてもと泣きつかれたのもありますが……。」
「……そうか。悩みがあれば聞くぞ。」
「ありがとうございます……。」
「なんだ、マックイーン悩みがあんのか?アタシが聞いてやるぜ?」
「貴方が悩みですわ……。」
ゴルシから逃げて先輩と合流すると、どこか先輩が悩むような仕草をした。
「なあ、そろそろチームメンバーを増やさないのか?」
「嫌ですよ。何度も言ってるでしょう?」
「しかしなぁ……。」
「それに、俺にはテイオーがいればそれで充分ですから。」
そう言うとうげぇ、とトゥインキーを初めて食べたようなおかしな顔をした。
「何かおかしな事言いましたか?」
「いや……。」
「ぼっ、ボクがいればいいって……えへっ」
「あー、まただよ……。」
先輩が疲れた顔をした。そんなに変な事だろうか?ただ、テイオーがいるから俺はトレーナーとして活動しているだけだから、テイオー以外に指導する気が無いという事なんだが。
スピカの面々に教えてるって?あれは授業だ。
「まあいいか。」
赤くした顔を隠しながらチラチラとこっちを見るテイオーを無視してこれからのメニューを考えた。
まずは次の出走はどうするかだな……。
「テイオー、まだメイクデビューを走ったばかりで分からない事ばかりだと思うが、走ってみたいレースなんかはあるか?」
「えへへ……。」
「?……まあ、いいか。」
テイオーの肩を掴んで椅子に座らせると半年のレースの予定表を開いた。
三冠路線と言ってるから弥生賞を走ってから皐月賞が順当だが、やはり経験は大事だ。もう一度くらいは走らせてやりたい。
「ああ、そうだった。今日トレーナー達で飲み会があるんだが来てくれないか?」
「嫌ですよ。」
「そこをなんとか!おハナさんからも呼ぶように頼まれてんだよ。お前の話を聞きたいってトレーナーも多いんだ。」
おハナさんまでか……先輩もそうだけど、世話になっただけあって断りずらい。
「……わかりました。今回だけですよ。」
「そうか!いやー、助かった。来てくれなかったらおハナさんに怒られるとこだった!」
「なんで先輩が?」
「結構自信満々で俺に任せてくれってカッコつけたからな!」
「……はぁ。」
「……うるさい。」
周りのガヤガヤとした声に顔を顰める。まだ乾杯してから十分そこらだが帰りたくなってきた。
しかも思ったよりも人が多い。
「お久しぶりです。」
「あ?ああ、どこかで会ったことあったっけ?」
新人らしい女性が隣に座る。
「もしかして覚えていませんか?」
「……まさか、葵か?」
「正解です。」
そう嬉しそうに言う。
葵との出会いは桐生院先生に指導してもらおうと何度も頼みに行っていた時だった。それから桐生院先生の指導を受けつつ、葵の勉強を見ていた。
……今思えばやよいの時と同じだな。
「トレーナーになるとは思っていたが、早かったな。どこのチームのサブトレーナーになっているんだ?」
「チームには所属してませんよ。一人で活動してます。」
「……流石桐生院。期待が重いな。」
普通サブトレーナーで経験を積んでからだろうに。
「あはは……確かにちょっと重いですけど、なんとかしますよ。
それにもう専属契約した子がいるんです。」
「へぇ、どんな子だ?」
「待ってくださいね……この子です。」
スマホには真っ白な髪の少しぼうっとしたウマ娘が写っていた。
「ハッピーミークというウマ娘です。」
「流石に写真じゃ分からないが、葵が見つけた子だからきっと良い子なんだろうな。」
「はい!でもまだまだ分からない事だらけなので、新堂さんとトウカイテイオーのような関係になりたいです。」
「俺がテイオーとどれだけ一緒にいると思っているんだ。」
「学園で見かける時も一緒に住んでいるのかと思うくらい仲良しですよね。」
「……そうだな。」
「え?もしかして……あっ」
何かを察したように葵が口元に手をやる。
「違う、テイオーが勝手に泊まりに来ただけだ。それに両親からの許可はちゃんと貰ってる。
今は寮に入ったから来るのもたまにだけだ……なんでもない。」
「羨ましいです。私もミークとお泊まりできるくらい仲良くなりたいなぁ……。」
「葵なら大丈夫だ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
ちょっと頭が固い所があるが、それもすぐに改善されるだろう。
葵のこれからの成長に期待を膨らませていると先輩に肩を組まれて引き摺られるように隣に連れていかれると、おハナさんと先輩に挟まれるように座らされた。
「なんですか?」
「いや、ちょっとお前に忠告をしておこうと思ってな。」
「態々飲みの席で言わなくても良いでしょう?」
「今が一番良いのよ。学園のウマ娘が入らない場所が。」
「はぁ……」
「昔お前の同僚にチャラチャラしたやつがいたろ?」
「いましたね。可愛いウマ娘と近付きたいって言ってたのが。」
トレーナーになった理由はどうかと思うが、GIIIやGIIでは度々勝っていたのを覚えている。そういえば、最近は記事でも見ていない。
「実はな……あいつ、うまぴょいしたらしい。」
「うまぴょいって言うと、あの?」
「ああ、あのうまぴょいだ。」
うまぴょいと言えば『うまぴょい伝説』が出てくる。あの曲は年一くらいでしか聴けないはずで、俺もライブを見るがあのトレーナーが育てたウマ娘は居なかったはずだ。
ただ、俺が見てなかっただけかもしれない。
「すごいじゃないですか。」
「……ん?お前、もしかして知らないのか?」
「何をです?」
マジかと言いたげな顔で先輩が俺を見てくる。
「貴方って、昔から興味の無いことにはあまり関心が無かったわね……。」
「え?」
「いいか?うまぴょいってのはな……」
ごにょごにょと先輩に耳打ちされる。そして、それを聞く内に顔が熱くなっていく。
「なっ、何言っているんですか!?」
「いや、マジなんだって!」
「う、ウマ娘がそんな事する訳ないでしょう!?」
「でもあいつの最後の目撃情報は空港でウマ娘達に抱えられて飛行機に詰め込まれたところなんだぞ。」
「きっと、慰安旅行でしょうよ!」
「は〜……いいか、よく聞けよ?」
先輩が肩を掴んでくる。
「次にうまぴょいされそうなのは正直言えばお前だ。」
「……なんでですか。」
「テイオーとの距離が近過ぎる。」
「近過ぎるって、そうでもないでしょう?兄妹くらいですよ。」
「休みの度にトレーナーの家に泊まるウマ娘がいるかよ……。」
「それは……」
言い返そうにも言葉が詰まる。それは確かにそうだ。
「別に仲が良い事は良いんだ。ただ距離が近過ぎるのもな考えもんなんだよ。と言うか、研修の時に聞いてないのか?ウマ娘との距離感を大事にするのも説明されるはずなんだが。」
「……。」
「さては、つまらないから別のことしてたわね?」
「……勉強していただけです。」
二人してため息を吐く。
「まあ、距離感を気を付ければ良いんでしょう?それくらいできますよ。」
本当かよ、というような二人の視線から逃げるように酒を飲んだ。
「それに俺とテイオーは倍ほども年齢が離れているんですよ?」
「ウマ娘にとっちゃそんなもん関係ないんだよ。」
「そういうものですかね。」
なんとなくテイオーが自分に告白してくる所を想像してみる。……ないな。ありえない。
そう思いながら先輩達からの言葉を聞き流していた。