女帝の横にいるあの人   作:高千穂牧場のカフェオレ

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歯車は小さな小石一つで噛み合わなくなり動かなくなる。
ならばもう一度動かすにはどうする?
私は


女帝の横にいるあの人 2

件のトレーニングをボイコットした翌日

私は奴を呼び出した。

 

心境の変化だけでは到底納得がいかない程に変わってしまった奴の態度について聞き出すためにできる限り声を荒げない様しっかりと話し合いをするのだと心を落ち着かせ生徒会室の前で待っていると目の端に奴が見えた。

奴もこちらに気づくと焦った様に早足で近づき

「遅れてしまい申し訳ありませんエアグルーヴさん」

と他人行儀に謝罪をしながら頭を下げてきた奴にまたふつふつと怒りが湧いてきた。

遅れてなどいないだろう、まだ呼び出した時間の10分も前だ

謝るな

私に頭を下げるな

喉元まで出かけた言葉を飲み込み部屋へと招き入れた。

 

「さあ話せ。何故急にその様な態度を私にし始めた理由を」

生徒会室に備え付けで置いてあるティーセットで紅茶を淹れ一呼吸入れてから私は奴に理由を聞く。

圧迫面接をしている様な重苦しい空気の中私は奴から理由を話されるまで口を挟まずただ真っ直ぐ奴を正面に捉え待った。

奴は思った事をしっかり私に話してくれた

だから私も奴には思った事をしっかりと話した。

信頼し合い

尊重し

対等な存在で

これが正しいトレーナーとウマ娘の関係なのだと思っている。

だが今はどうだ、落ち着かない様子で私と目が合うと目を外し、膝の上で組んだ手を握り締め、淹れた紅茶には手を出さない。

今までの奴の行動とは真逆にも等しいその様子に私も流石に声をかけずにはいられなかった。

私に何か落ち度があったかと聞くと奴はまた他人行儀に否定をする。

なら何故だと聞くとまた私の為だとしか言わない堂々巡り。

いつまでも進まない会話は私にとっても奴にとっても良しとしないのでまた改めて話そうと腰を上げると奴がまたすみませんと謝る。

駄目だ謝らないでくれ、私はお前のそんな姿は見たくない。

ティーセットを片付け生徒会室を後にし、寮へと戻る道中もお互い一言も喋らずまだ冷たい風を肌に感じながら歩く。

 

一体私はお前に何をしてしまったんだ?

わからない

こんなにも一緒にやってきたのに私はお前の事が何一つわかっていなかった事が情けなくて鼻が熱くなり、一粒道に落とした。

幸い奴には気付かれず会話もないまま栗東寮に着いた。

そこで別れお疲れ様でしたと頭を下げる奴に私はもう声をかけることができなかった。

 

寮に入ると寮長のフジキセキが入り口で待っていてハッとした表情で私を隠しながら急いで部屋へと連れて行く。

項垂れる私の肩を抱き手を引くフジキセキは焦りながらも私に声をかけ続ける。

エアグルーヴ、大丈夫だ、落ち着いて、エアグルーヴ。

こんなフジキセキは初めて見たなとははっと薄く笑う。

…昨日から初めてな事ばかりだ。

 

 

それからの私と奴の関係は変わっていった

前までは無駄に長く続いていたメッセージのやり取りも業務連絡の様な簡素なものになり、電話も同じだった。

向こうからかかってくる事は殆ど無くなり、休日一緒に出かける事がなくなった。

避けられていると感じるのは火を見るよりも明らかで理由を聞いてもすみませんと謝罪の言葉を並べるだけの奴に私は周りの目も気にせず大声で一方的な叱責をする。

理不尽な事をしていると自覚がある。

後輩達の模範ではないと分かっている。

だが今の私はお前の事が知りたい。

何故?どうして?

それでもお前は謝るだけ。こんな私に。

「すみません」「申し訳ありません」

もう聞き飽きた。

 

 

「エアグルーヴ、ここ最近君のトレーナーに対する態度は非常に目に余る。他の娘達やトレーナー達から苦情が来る程だ」

会長から呼び出しで私は奴への接触を禁止された。

連絡も禁止。

奴の私への態度の急変は側から見てもおかしく見えたのだろう。

奴は休職扱いでしばらく学園に来ないが、奴が作成した私のトレーニングメニューと今後の出場レースの分析表を会長から受け取る。

 

「これがトレーニングメニューだ。少し多めにしているらしいが君ならできるだろうと言っていたよ。怪我と無理だけはしないでくれと言っていたな」

「…ありがとうございます会長」

渡されたメニューは確かに少し多かった。

以前はメニューの中に落書きやイラストなんかもあったのだがそれもない。

テキストと表だけが打ち込まれ並ぶつまらないメニュー。

こんな所まで変わってしまったのかと気分が落ちる。

だがやれない事はない私は女帝だ。

私と奴で勝ち取った称号、これだけは無くせないと気持ちを一新させ頬を叩く。

お礼を言って部屋から出ようとするが会長から待ったをかけられた。

「君とトレーナーとの間に何があったか私は知らない。だが彼は君の事を裏切っていないということだけは断言する。だから君は彼を信じて待ってあげるんだ」

 

生徒会室を後にした私は会長の言葉を反芻していた。

「信じて待つ、か」

確かに私は急に変わった奴をただ問い詰めるだけで待っていなかったと思う。

奴から話してくれる日まで待ってみよう。

いい機会だ、これでしばらく会う事ができないのだから落ち着いてまず自分の気持ちの整理をしよう。それから会えたら私から謝ろう。少し気が楽になり重かった足が軽くなった気がした。

「まずは100mラン&ゴー50本か…多いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エアグルーヴのトレーナーを辞退させてください」

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