私達のURAファイナルズ   作:竹流ハチ

1 / 14
中距離部門でメジロマックイーンが療養の為に欠場となり、その空き枠に滑り込んだのは出走者外での人気投票一位ツインターボだった。

錚々たる面子が揃う中、トウカイテイオーもツインターボが出走すると知るや否やツインターボを念頭に特訓を始める。
諦めない事を教わった帝王、絶対に諦めない韋駄天が運命を超えたトーナメントで雌雄を決する。



ツイテイ「絶対の約束」

トゥインクルシリーズで結果を残してきたウマ娘だけが出場可能なURAファイナルズ決勝戦、阪神競馬場右回り2200m。

 

その中でも最も熾烈を極める中距離部門で『スピカ』から出場したのは有馬記念で奇跡の復活を遂げたトウカイテイオーだった。幾度の骨折にも折れずに走り続けてきたトウカイテイオーは一番人気、同有馬記念で惜しくも二着だったビワハヤヒデが二番、二人に引けを取らないライスシャワーが三番人気。

 

他にもメジロパーマー、エアグルーヴ、メジロライアン、ヒシアマゾンとクラスの垣根を超えた錚々たる面々が並ぶ中、異質な存在が一人いた。

 

「やっと勝負できるな、トウカイテイオー!」

「お互い全力で走ろうね、師匠」

 

6番ゲートのトウカイテイオーの左隣、7番ゲートで遂にライバルとの決着を付けられると意気込むウマ娘は他の出走者と比べて残した結果はG2での一着数回だった。

 

しかしその後先考えない爆逃げでファン達からの投票が集まり、トーナメントへの出場が認められた。

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました』

 

蛍光色が強く腰まですっぽり隠れてしまい袖も余っている大きなパーカーワンピース、空の様に青い髪をゼブラカバーのリボンで纏めてツインテールにし、喜怒哀楽を全身で表現する小柄で少し幼なげなウマ娘。

 

『今スタートが切られました!早速先行集団を置き去って先頭を走るのはメジロパーマー!そしてその後ろピッタリ付いているのは18番人気ツインターボだ!』

 

チームカノープスから唯一の出走者、『ツインターボ』。メンバーの想いを背負いURAファイナルズを制すべ今走り出した。

 

 

 

「ターボ出れるの!?」

「どうやら決定していた出場者以外での人気投票がダントツ一位だったらしく、メジロマックイーンさんが欠場なのでその枠にターボさんが選出されたようです」

 

カノープスの部室でツインターボのURAファイナルズへの参加権獲得にメンバーの驚く声が上がり、トレーナーの南坂が詳細を説明するとツインターボはその場で飛び跳ねるように喜んだ。

 

「やったやったー!ターボが出れるんだー!」

「確かにアタシ等は成績パッとしなかったから出られなくても分かるけど、ターボもよく出られたね」

「人気投票が絡むレースは何かとターボさんは選ばれますからね。ターボさんの走りにファンも期待しているんだと思います」

「そうでしょそうでしょ!ターボが一番になるに決まってるんだから!」

「それで、トーナメントは何処であるんですか?」

 

南坂が「良くも悪くも」と付け足したのは舞い上がっているツインターボの耳には入っている様子はなかった。内心では悔しがりながらもツインターボが人気を集める理由が分かるイクノディクタスは気持ちを切り替え、チームメイトの勝利に貢献するべくレースの詳細も確認した。

 

「準々決勝は中山2000m、準決勝は京都2200m、決勝は阪神2200m。どれも芝で右回りです」

「ターボの走りの限界距離は?」

「無限!」

「2200です」

「ギリギリ射程圏内ですねー」

 

最初から後先考えない全力疾走が持ち味のツインターボがギリギリまで体力を削って走れる距離は2200m、2400mがあれば逆噴射間違いなしだっただけにツインターボを除く四人は胸を撫で下ろした。

 

だがその距離を得意とするのはツインターボだけではない。トウカイテイオー、ビワハヤヒデ、並み居る強豪が揃う中距離戦でツインターボが戦い抜くには相応の作戦が必要になってくる。

 

「ターボ絶対逃げ切ってやるんだから!」

 

「ツインターボに作戦を理解させる事ができるのか」四人が先行きを不安に思いながら知恵を絞り出している中、スピカの部室ではスペシャルウィークの驚く声が響いていた。

 

「マックイーンさん出ないんですか!?」

「折角の機会ですが事を急いて悪化させるよりも療養に専念しようかと」

 

トウカイテイオーが三度目の骨折から立ち直った矢先に繫靭帯炎を発症したメジロマックイーンは一度は走りを諦めた。

 

だがトウカイテイオーの復帰後最初のレースである有馬記念での一着を見て勇気を貰い、再び走る為に療養を続けていて走れるレベルまで治療は進んだものの、全力を出せば再発の可能性もある為にURAファイナルズは見送ることとなった。

 

中距離での出場はトウカイテイオーのみ、チームメイト内で被らなくて一安心したトレーナーだったがすぐにその顔を引き締めた。

 

「テイオーしか出ないなら1番の相手は今回もビワハヤヒデだろうな。ライスシャワーも中距離でのエントリー、メジロパーマーも怖いところだが」

「ごめんトレーナー。今回だけは相手をボクに決めさせてくれないかな」

「ん、実際に走るテイオーが決めるならそれでも構わないが誰か注意しておきたい相手が居るのか?」

 

中距離でエントリーしている選手を記した書類を手に持っているトウカイテイオーが既にライバルは決めていると言うと、選手の意見は尊重しようとトレーナーも意見を聞くとトウカイテイオーは頷いた。

 

「ツインターボ、今回のボクの相手はツインターボだけだよ」

「ツインターボ?確かにメジロパーマー同様逃げ切られれば厄介だが、そのメジロパーマーと比べれば」

「ううん、ツインターボは絶対に優勝する気で参加してる。それならボクが全力を出して競う相手として問題はないでしょ?」

「そりゃ問題はないけど…」

「いいじゃねーか、テイオーがやりたい相手が居るってんだからやらせてやれよな」

 

もっと強力な相手を目標にした方が練習に身が入ると感じているトレーナーが難色を示したが、ゴールドシップがルービックキューブで遊びながら助け舟を出した。

 

気まぐれだが面倒見がいいゴールドシップの言葉もあり「ゴルシが口を挟むのなら気を回せてない部分がある」とトレーナーも考えを改めた。

 

「分かった!なら今回はツインターボを追う形になる、あの爆逃げに惑わされずにペースを維持する練習からだ!」

「うん!マックイーンの分まで全力で走って、絶対勝つから応援しててね!」

「今回はツインターボさんが相手なのだから私の事は気にしなくて構いませんわ」

「んもぉ、そんな釣れないこと言わないでよー」

 

トレーナーも対ツインターボを念頭に置き、我儘を了承してくれたトウカイテイオーもやる気を見せるとスピカの面々もそれに協力しようと一致団結した。

 

そうして両陣営共にURAファイナルズに向けて特訓を始めた。だが、

 

『うぇー!?ターボ一番前がいい!』

『我慢です。最後に一番の景色を見るためなんですから』

『最初から一番がいい!一番が一番速いんだから!』

 

『ゼェ……ゼェ……最初から全力疾走って体力持たないって!?』

『お前が一番向いてんだから頑張れよ』

『やっぱりスカーレットでも爆逃げは再現も難しいか』

 

開始早々に特訓は難航した。

 

ツインターボはその気質から人の後に続く事を嫌い、トウカイテイオーはツインターボのような爆逃げが他のメンバーでは再現出来ず、お互いに効果的な練習が出来ずに日は廻っていった。

 

そうしてURAファイナルズ準々決勝。

 

『トウカイテイオー、二着のエアグルーヴに3バ身の差を付けて悠々と一着でゴール!ファンの不安を払拭する帝王の走りを見せてくれた!』

『大逃げ勝負を制し一着はメジロパーマー!そしてクビ差で惜しくも二着はツインターボ!決勝でのリベンジに期待しましょう!』

 

別のトーナメントで進んでいるトウカイテイオーとツインターボは無事に準決勝へ駒を進めたが、祝勝ムードのスピカとは裏腹にカノープスではツインターボの駄々が木霊していた。

 

「悔しい悔しい悔しい!ターボが勝てたのに!」

「メジロパーマーさんは完全にターボさんの燃料切れを狙ってましたね」

「そうなの!?」

「いやアンタが一番近くにいたんだから音で気付くでしょ」

「ターボ走ってる時全然周り見てないから気付かなかった!」

 

ツインターボの歯に衣着せぬ口ぶりにカノープスのメンバーは頭を抱えたが、それがツインターボが持つ最大の爆弾が引き起こしている現象の一つでしかない可能性があるとトレーナーは危惧していた。

 

一方で準決勝に向けたトレーニングの日程を確認し終えたトウカイテイオーは日が暮れてライトアップされた学園内のトラックに出向き、観客席から居残り練習をしているウマ娘達を眺めていた。

 

URAファイナルズで走っていた時に感じていた不思議な感覚を確かめるように左足を摩っていると、「隣失礼しますわ」とメジロマックイーンが隣の席に座った。

 

「マックイーン、どうしたの?」

「貴方が気の抜けた顔をしていたから気になっただけですわ」

「えー?そんな顔してないよー?」

「左足、また調子が悪いのですか?」

 

メジロマックイーンがトウカイテイオーの様子に機敏に反応を示し、「よく見てるねー」とテイオーも笑ってみせたが頭は横に振った。

 

「それが逆でね、滅茶苦茶調子良いんだ」

「あら、そうですの?」

「うん」

 

トウカイテイオーは嘘を言っていない、長い付き合いになるメジロマックイーンは声色から判断したものの同時に感じたのは喜びとはまた違うものだった。

 

「なら何がそんなに不安ですの?」

「……マックイーンはさ、もしも全力で走れるようになったらどうする?」

「私?勿論天皇賞連覇、有馬記念、そして貴方と決着を付けますわ」

「だよね、そう言うと思った。でも、何でだか分かんないけど重賞とかは出ちゃいけない気がするんだよね」

「出ちゃいけないって……」

「僕ね、本当はあの有馬記念が最後だったんだって思うんだ」

 

一年振りのレースで劇的にビワハヤヒデを降し、栄誉ある復帰を遂げたトウカイテイオーがその言葉を呟くと、マックイーンはその横顔を見て絶句した。

 

もしもただ泣き言を言ってるだけなら引っ叩いてでも立ち直らせよう、弱音なら背中を押そうと決めていたが『満足げに笑っている』表情を見せられるとどう声を掛けていいのか分からなくなっていた。

 

「最後が有馬記念で、マックイーンが見てるあのレースで本当に良かったって思ってる。だから最近のレースには出ようとは思ってなかったんだけど、URAファイナルズだけは何故だか凄く出たくなったんだ。出なきゃ絶対後悔する、そう思ってたらツインターボも出てたしね」

「どうしてそこまであの方に拘るんですか?侮る訳ではありませんが、彼女の実力が貴方に届くとは思えませんが」

「……僕もさ、あの子に同じ事言ったんだよ。マックイーンを負かしたライスシャワーに勝てる訳ないって。でもツインターボは勝った、それも僕が誰よりも尊敬する会長と同じように『唯一抜きん出て、並ぶ者無し』の状況で」

 

トレセン学園生徒会長であるシンボリルドルフがウマ娘達に向けて使う校訓『唯一抜きん出て、並ぶ者無し』。

人によって受け取り方も解釈も違うが誰もが目指すその絶対の走り、形は違えどツインターボも成し遂げた一人だと認めるトウカイテイオーだからこそツインターボとの決着に拘った。

 

一度は格下だと侮り、本番前のウマ娘に対して吐くべきではない暴言を吐き、それを結果で否定してみせたツインターボに挑戦したい。そして、その機会はURAファイナルズ決勝の舞台しかない。

 

「だから僕は負けないよ。ツインターボにも勝って今度こそ僕の走りが絶対だって証明してみせる。そうしたら今度はマックイーンとの決着だよ」

「……ふっ、ならその挑戦を受けられるように私も調整を進めないといけませんわね」

「ホントだよー、早く治してくれなきゃ一緒に走れないじゃんかー」

 

トウカイテイオーがメジロマックイーンの目をしっかり見て「決着は付ける」と宣戦布告をすると、心配の必要はないとマックイーンも肩の力を抜いてその挑戦を受けて立つ意思を示した。

 

そうしてお互いに準決勝に向けて練習を進める中、駄々を捏ねるツインターボを連れて身体の検査をする為に病院へやって来た南坂は検査結果を聞く為に医師と向かい合って座っていた。

 

「ターボ何ともないってば」

「不整脈ですね」

「ほらー………うぇっ!?ターボ何か悪いの!?」

 

丸椅子の上でクルクル回りながら医師の診断を聞き、一旦は何も無いと勘違いしたもののツインターボはすぐに医師と向き合い、南坂もその診断を聞いて神妙な面持ちを見せた。

 

「脈が一定ではない事です」

「それって死んじゃう系の病気なの……?」

「前回の検査では問題が無かったので恐らく疲れからのものでしょう。ツインターボさんは小柄なので余計に競技では疲労も溜まりやすいでしょうし、安静にされていれば自然と治りますよ」

「なーんだ、全然平気じゃん」

「一週間後のレース、三週間後のレースはどうですか?」

「止めた方がいいですね」

「うんうん、止めた方がいいってウェェェッ!?走っちゃダメなのッ!?」

 

今すぐ死ぬ病気ではないと分かるや否や、安心からいつもより余計にクルクル回るツインターボに対し、準決勝と決勝の出場を医師に相談すると医師はレースへの出場を辞退するように進言するとターボはズッコケそうになりながら医師に詰め寄った。

 

本来ならば一つのレースを走り終えた後は疲労を抜くためのインターバルを設け、そこから次のレースへの調整を進めていく。しかしURAファイナルズは二週間おきのトーナメント戦、一度のレースで不整脈が起こるツインターボを短期間でレースに出させ続けるのは重大な疾患に繋げかねない。

 

ツインターボの小さな身体に爆逃げはそもそも不向き、周りが見えなくなるという発言から酸素欠乏による意識低下を疑い、実際こうして明るみに出てしまった。

 

「やだやだやだやだやだ!ターボ出るもん!テイオーが出てるのにターボだけ諦めたくない!」

「ターボさん……」

「ターボは出なくちゃいけないの!ターボが出られるレースにテイオーが出たなら絶対に出なきゃいけないの!今しかチャンスがないの!」

 

『出場を辞退する』。ツインターボの未来の為に苦渋の決断を下そうとする南坂に対しターボは全力で拒絶し、またいつ交えるか分からない運命の勝負を後回しにはできないと強く叫んだ。

 

「ターボは絶対に大丈夫だから、心配しなくていいからお願い!このレースだけは走らせてトレーナー!」

 

普段のような我儘ではなくウマ娘として譲れない勝負であることを強調し、根拠の無い言葉だと分かっていても南坂の気持ちは確かに揺らいでいた。

 

二度あるか分からない夢の大舞台、ツインターボが未来を潰してでも望むのならトレーナーとして見届けるのも一つの道なのかと躊躇いが生まれた。だがそれをファンが、カノープスのメンバーが、未来のツインターボが望むのかと思うと安易に頷くことは出来なかった。

 

解決の糸口はないかとバッグから準決勝の出走者のリストを確認すると、次のレースは逃げ馬がマヤノトップガン一人であり他は先行か差しを得意とするウマ娘達が殆どであると分かった。

 

そこでトレーナーの脳裏には決勝に出場する為の手段を一つ思い付いたが、ツインターボの名誉を傷付け本人の意思とも反していると自分を戒めたがツインターボは何か案があるのだと気付くと南坂に縋った。

 

「お願い……走らせて…っ!」

「……なら二つ約束してください。僕達に隠れてトレーニングは絶対にしない、どんな逆境でも諦めない。それが守れるのなら僕はターボさんが優勝できるように全身全霊を掛けてサポートします」

「守るッ!絶対に言うことも聞くし、我儘も言わない!」

 

南坂が出した二つの条件をレースに出れるのならとツインターボは即座に頷き、それがレースに出る為だけの嘘ではないというのはこれまで付き合ってきたトレーナーには理解できていた。

 

だからこそ、

 

「準決勝では逃げないで下さい」

 

ツインターボの走りを封じた。

 

 

 

『URAファイナルズ準決勝、メジロパーマーはまたしても一着でゴール!対して一番人気のトウカイテイオーはメジロパーマーを意識し過ぎたのか、最終コーナーまで追走していたものの途中で順位を落とし4着!』

『ライスシャワーが見事にマヤノトップガンを見事に差し、一着だ!だが二番人気のツインターボ、今日は何と逃げずにビワハヤヒデの後ろを追うのみでギリギリ9着だ!』

 

準決勝の結果は大きな波乱を生んだ。

爆逃げのメジロパーマーを追おうとしたトウカイテイオーが潰れ、ツインターボは逃げずに決勝進出可能順位の中で最下位である9着でのゴール。

 

ファンからの人気がある二人だからこそそれだけ目が集まり、特に生涯逃げウマだと思われていたツインターボは期待に反しながらの決勝進出に『1着を諦め、決勝に出る為の走り』と報じられるとバッシングの声は更に高まっていった。

 

普段とは違う手段を使い不意をつく作戦は有効的である事はウマ娘達は理解し、特にツインターボが先行で走るなど想像していた者は居らず少なからず他の走者に与えた影響は大きかった。

それでも9位というのはツインターボの根本的なパワー不足、ビワハヤヒデの最終直線での末脚に付いていけなかっただけ。

 

ツインターボは先行では一位になれないという現実が突き付けられただけだった。

 

「………はぁ」

 

予想以上の反響に南坂は夜が更けてもトレーナー室でパソコンと向かい合ったまま深いため息を吐いた。ある程度の批判は上等での作戦だったがツインターボの人気がそのまま跳ね返ってきていて、勝利は少なくとも人々に勇気を与えてきたツインターボの経歴に泥を塗ったのだと改めて実感していた。

 

ネットの掲示板に「ツインターボの走りはトレーナーの指示」という旨の書き込みを投稿し、少しでも批判が自分に向くように工作をしていると、「ツインターボのマル秘情報かー?」同じく資料と睨み合い唸っていた沖野がいつの間にか南坂の隣に立ってパソコンを覗き込んでいた。

 

「何でもありませんよ」

「何だよ、折角ツインターボの走りの秘密を知れると思ったのに」

 

本当にツインターボの情報ではなかったもののホーム画面に戻すと、沖野はあからさまに落胆するような素振りを見せた。

 

「沖野さんは凄いですね」

「俺?」

「スピカの面々は軒並み凄い素質を持ち、沖野さんはそれを見事に磨き上げた。僕に彼女達を教えろと言われても無理だと思います」

「アイツ等は俺が走りを教えなくても勝手に上がっていったさ。俺がアイツ等に教えられたのはライバルの大切さ位だよ」

「ライバル、ですか」

「今回のURAファイナルズ、テイオーはツインターボをライバルだって言ってたぞ」

 

トゥインクルシリーズ、その中でも新設されて間もないURAファイナルズ最初の栄冠を手にする戦いでトウカイテイオーがツインターボをライバルとして認めていると初めて知った南坂は目を丸くした。

 

「テイオーさんがですか?」

「俺は遠回しにビワハヤヒデとかの方がいいんじゃないかって言ったんだがな、どうしてもツインターボじゃなきゃ駄目だってんだ。そしてツインターボは決勝の舞台まで本当に上がってきた」

「……」

「途中経過か、結果かなんて俺達トレーナーが気にしてもしょうがないだろ。ウマ娘が走りたいレースに出させてやる方法を考え、勝たせてやるのが俺達トレーナーの役目だ。9位だろうが何だろうが、その9位に負けた子達だって居るんだ。お前が胸張ってやんなきゃ付いてくる奴等に示しがつかないぞ!」

「ッタ!?」

 

勝ち目が殆どない作戦を選ばせた責任を感じている南坂に沖野が激励の言葉を掛けると思い切り背中を叩き大きな笑い声を上げた。

 

「困った人だ」と思いながらも、面倒見のいい先輩でもある沖野の励ましに悪い方へと考えが転んでいた南坂も思い直すことができた。

 

ツインターボに走りにくい作戦を選ばせたのは決勝に出る為じゃない。決勝で必ず勝つ為にどうしても必要な経験だったからだ。

 

悔しい思いをバネに変え、勝ちたいという気持ちを燃料にできるツインターボを信じたからこその作戦。相手が誰であろうと南坂の答えは決まっていた。

 

「必ず勝ちますよ、僕達のツインターボさんは」

「ならトウカイテイオーに狙われた事を後悔させてみせるさ」

 

相手があの『帝王』だとしても、ツインターボにはウマ娘の中でもほんの一握りしか持っていない才能がある。お互いに自慢の教え子が勝つと牽制し合う中、日が落ちてからツインターボはカノープスの監視の目を掻い潜って寮から出ると、一人で大樹のウロの前までやって来ていた。

 

南坂に『このマスクは寝る時とお風呂の時以外は常に付けてください』と言われて付けている高地トレーニング用マスクを外し、中がすっぽり空いている切り株に手を付くと思いの丈を叫んだ。

 

「ターボのアホーッ!何でビワハヤヒデを抜けなかったの!抜けば勝てたのに!何で……ッ…何でターボは抜けないの…!」

 

小さい頃は走って競うのはそんなに好きではなかった。

 

皆みたいに上手くゲートも出られないし、身体も大きくはない。集団に巻き込まれれば追い抜くだけの力もないターボにとってレースは不利な条件が余りにも多かった。

 

でも日高に居た時のトレーナーに「ターボは逃げるのが一番向いてる」と教えられ、デビュー戦で初めて大逃げで走るとこれまで苦労していたコース取りも自由になり、何よりも一番の景色を誰よりも長く見られる快感を知ったターボの心には火が点いた。

 

誰よりも速く、誰よりも長く、誰よりも一番であり続けるという不屈のモチベーションを得たツインターボが初めてそれ等を全て捨てた準決勝。成長した今の自分なら少しは善戦できると思っていたのに結果は決勝すら危ういものだった。

我儘を言わないと約束したツインターボは「決勝で見返す」と強がったものの、本気で走って負けたのに嬉しい筈がなかった。

 

負けても次の勝負を前向きに見据えてきたツインターボが自身の情けなさに涙している姿を遠巻きに眺めているカノープスの面々もどう声を掛けたものかと顔を見合っていた。

 

するとそれを尻目にツインターボに近付いていくウマ娘が現れ、ツインターボも足音が聞こえて慌てて涙を拭って振り返った。

 

「っ、トウカイテイオー……」

「そこ、僕も使っていい?」

「えっ?」

 

ツインターボの前に現れたのは他でもないトウカイテイオーだった。ジャージを土で汚しているテイオーが指差す先には切り株があり、ツインターボも退くとトウカイテイオーは切り株の淵を力強く握り大きく息を吸ってから叫んだ。

 

「ボクのアホーッ!何でパーマーが落ちてくるなんて油断したんだ!爆逃げするような子に常識なんて通用する訳ないだろー!そんなんじゃツインターボには勝てないだろー!」

 

ツインターボと同じ爆逃げを得意とするメジロパーマーに勝負を挑み、中盤から少しずつ速度を上げてメジロパーマーに付いて行ったトウカイテイオーは初めて爆逃げのペースを経験した。

 

常にトップスピード、スタミナが切れてきてもそのスタミナで出せる限りのスピードを出し続けるには天性の素質と呼ぶべき根性が必要になる。

どれだけ苦しくても先頭で孤独な勝負を続け、いつ迫ってくるかも分からない後続に怯えながら走るのは辛く、テイオーですら自分のペースを見失った程だった。

 

相手の作戦が成功しようがしまいが関係ない、トウカイテイオーの『絶対の走り』とは運に頼らず湛然不動の実力を持って勝利する帝王の走り。

 

それが爆逃げ相手では通用しなかった事に悔しさを募らせていたテイオーの叫びを聞き、ツインターボは驚いていると悔しさを吐き出したテイオーはスッキリしたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやー、スッキリしたー!ボク初めてここで叫んじゃったけど、叫ぶのって気持ちいいね!」

「トウカイテイオー……」

「ん?どうしたの師匠?」

「ターボと走ってくれるの…?」

 

同じ舞台で逃げを捨て惨敗したツインターボはトウカイテイオーが自分と競ってくれるのかと不安げな表情を見せると、テイオーも面食らったように眉を上げた。

 

「当たり前じゃん、だって決勝に来たでしょ?」

「でもターボはテイオーみたいにちゃんと走れてなかったし…」

「師匠以外にも先行の子達は沢山いた、その中でも一番勝率が高いビワハヤヒデを選んで、割って入られないように適度な距離も保とうとした。でも慣れてないから終盤で囲まれて出られなくなった、ボクでもそういう経験はあるし師匠なら尚更走りにくかったと思うよ」

 

ツインターボは自分の走りがトウカイテイオーと競うのに相応しいのか思い悩んでいてが、テイオーはツインターボの走りをビデオで確認してレース展開からターボが難しい位置にいた事を的確に指摘した。

 

何で自分のレース展開を知っているんだとターボは驚いていたが、「ボクが勝てないかもしれない相手だから研究くらいするよ」と何の気もなしにテイオーは言うと自信を無くしたターボの手を両手で握り締めた。

 

「トレーナーの指示だったんでしょ?」

「っ、違う!トレーナーはターボに負けろなんて言ってない!ターボがビワハヤヒデに付いて行けるって信じてくれてたから、その通りに走れなかったターボが悪いの!」

「トレーナーの指示、守れたんでしょ?」

「それはっ……途中まで付いて行けてたけど…」

「なら周りが何て言おうが関係ないよ。僕に諦めないって事を教えてくれた師匠は自分の走りでなくても決勝に上がってきたんだ。決勝では間違いなく逃げ、それもメジロパーマーを念頭に置いた作戦になる筈。だからボクはメジロパーマーに勝つ師匠が見たい、そしてその師匠にボクは勝ってみせる」

 

今トーナメントで一番のキレを見せて既に二人に勝っているメジロパーマー。その大きな壁を越える為の作戦だったと既に見抜いているトウカイテイオーはツインターボがパーマーに勝つと信じ、そしてターボに勝ってみせると宣言した。

 

世代最強の一人であるトウカイテイオーが結果を出せていない自分が勝つと信じてくれている、それがターボの再び火をつけるとテイオーの手を強く握り返した。

 

「ターボもう負けないから!パーマーにもテイオーにも、誰にも負けない爆逃げを見せてやるんだから!」

「ボクはそれを越えていくよ!」

「勝つのはターボだもん!」

「いーや!ボクだ!」

 

最高のコンディションのツインターボと競う為にトウカイテイオーが拍車を掛け、すぐに元の自信を取り戻し言い争うターボに「影響を受けやすい子だな」と遠くから見守っていたカノープスのメンバーが胸を撫で下ろした。

 

世代を牽引するトウカイテイオーと最後の個性派ツインターボ、二人の間には世論もファンの期待も関係は無かった。『自分が勝つ』、ライバルへの対向心をお互いに燃やしながら残りのニ週間を迎える事になった。

 

最初の1週間はトレーニングマスクを付けるのみで休養していたツインターボは再び病院に通い、不整脈が悪化していない事を確認してからのトレーニングとなり、スタミナ強化の練習だと意気込んでいたが南坂が提示したトレーニングは予想を裏切るものだった。

 

「ターボさんにはコーナーでゆっくり走る練習をして貰います」

「ゆっくりしてたら勝てないのでは?」

「最後までそれで走ればそうなりますがターボさんは直線のみ全力で走り、コーナーでは出来る限り内側を走り力を温存しながら走って貰います」

 

南坂の言うトレーニングはウマ娘なら基本的な走行テクニックであり、全力でコーナーを曲がる際のスタミナ管理はウマ娘なら必須のテクニックとも言えるものだった。

 

ツインターボには全力疾走時に内側をキープ出来るほど筋力に余裕は無い、それならば内側を攻めながらスタミナを少しでも温存して直線で勝負を仕掛ける方が勝ち目はあるという判断からその作戦を考えた。

 

だがその作戦には欠点があるとイクノディクタスが手を挙げた。

 

「決勝に上がってきているのは誰もが最高の面子です。一度抜かせればターボさんが抜き返すチャンスは無いのでは」

「その通りです。だからこそ抜かせません」

「どういう事?」

「ターボさんには逃げ差して貰います。その為の特訓です」

 

南坂が決勝での作戦の詳細を説明する中、スピカでも同じようにメジロパーマーやツインターボのような爆逃げ二人をどう攻めるのかという議論が交わされていた。

 

「うーん、どうすればいいんですかね?」

「メジロパーマーは準決勝では息切れをしなかった。テイオーが全力で走って追い付ける位置を把握するとして、そこまで体力を温存しながら集団から抜け出すしかないな」

「けど外過ぎたら体力使い過ぎるだろ?」

「かと言って内じゃスピード出ないわよ」

「何言ってんだよ、内でもスピード出せばいいだろ」

「貴方と同じ芸当が誰にでも出来ると思わないでくださいまし」

「となると、集団の先頭を取るしかないか」

 

ビワハヤヒデやライスシャワーがいるだろう集団で先頭を取る、それも同じ作戦を狙うであろう相手同士での競り合いはお互いに潰れる可能性もある。

 

ライバルと競り合う作戦を選ぶか、可能性は低いが賭けに出るか。何方の方が勝率が高いか沖野達はシミュレーションしていたが、トウカイテイオーは決勝が行われる阪神競馬場のトラックの詳細をジッと見ていた。

 

何度も頭の中でレースを繰り返しては自分が負ける結果が繰り返され、作戦を変えても自分を抜く相手が変わるだけで優勝への道は少しずつ閉ざされていった。

だが、一箇所だけ誰も攻めていない場所があり其処を攻めた際のシミュレーションをしてみると、最後の直線で集団から確実に抜け出しパーマーを抜く結果を出すことができた。

 

それと同時に南坂がツインターボに与えた指示の意味をようやく理解すると、決勝でどんな作戦を使ってくるのかを予想し思わず笑みが溢れスピカの面々は呆気に取られていた。

 

「ごめんごめん。でも、やっぱりツインターボを意識してて良かったよ。じゃなきゃボクも潰されてたかも」

「何か思い付いたのか?」

「うん。ツインターボが攻めるのは多分此処、あまり出遅れると抜け道が閉じちゃうからボクは此処で一気に攻めるよ」

 

トウカイテイオーが導き出した勝利への道を指差すと沖野も最初は困惑した様子を見せたが、ツインターボがある動きをした際に起きるであろう事態は早く抜け出さなければ後続は全員潰される。

 

他のウマ娘ならばそうならないかもしれない、だがツインターボなら確実に罠に嵌められる。自分達の名誉を傷付けてでも勝利しようとする後輩の策略に沖野は乾いた笑いをあげた。

 

「ハハ、南坂の奴考えたな…!」

「今のボクに必要なのは此処を全速力で走る力。差しじゃダメだ、ボクは全力で追い込むよ」

「だな!ウチには追い込みのプロがいる、この二週間はハードだぞ!」

 

両陣営共にライバルを意識し、特訓に明け暮れると月日は瞬く間に過ぎていった。

 

 

 

 

「やっと勝負できるな、トウカイテイオー!」

「お互い全力で走ろうね、師匠」

 

6番ゲート2番人気トウカイテイオー、7番ゲート18番人気ツインターボ。

 

決勝当日の人気投票ではツインターボは大きく順位を下げたが、二人の眼に映るのはゴールただ一つ。隣に立つ運命のライバルを相手に特訓を重ねてきた二人からは覇気が溢れていて、人気とは裏腹にツインターボを意識するウマ娘は多かった。

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました』

 

最高のスタートダッシュを切る為、全員が体勢を整えると歓声は止み会場は静まり返った。

そして、ゲートの開く駆動音と同時にウマ娘達が大地を蹴る鈍い音が鳴り出した。

 

『今スタートが切られました!早速先行集団を置き去って先頭を走るのはメジロパーマー!そしてその後ろピッタリ付いているのは18番人気ツインターボだ!』

 

URAファイナルズの頂点を決めるレースが始まるとウマ娘達は走り出し、その先頭を走るのは1番人気メジロパーマーだったがその真後ろに陣取っているのは同じ爆逃げのツインターボだった。

 

「やはりツインターボは逃げに戻ったな。だが相手は一度負けたメジロパーマー、同じ逃げじゃ逃げ切れないぞ」

「どうした急に」

「メジロパーマーとツインターボでは体格が違う。体格の差はスタミナ、パワー、スピード、ウマ娘に必要なフィジカル全ての差になる。更にメジロパーマーは今トーナメントで最高のコンディションを維持し続けていて今日もキレはいい。それに先行ウマが勝ちやすい阪神だというのに現時点で出遅れているトウカイテイオーでは抜けないかもしれないな」

「テイオーさんが差し勝つもん!」

「そうです!マックイーンさんが出ないならテイオーさんが勝つんです!」

「「ご、ごめん」」

 

スタンドで応援している観客の歓声を受けながら坂になっている最初の直線を駆け抜けていくウマ娘達はメジロパーマーを先頭に第一コーナーに差し掛かったが、メジロパーマーに付いて行くツインターボに対してトウカイテイオーはエアグルーヴに続く後方から二番目。

 

期待を裏切る形でのスタートにファンは響めいているが、トウカイテイオーはそれに動じる事なく冷静にレースの流れを読むことに専念していた。

 

『第一コーナーから第二コーナーへ!先頭は変わらず大逃げのメジロパーマー、それに続いてツインターボ!その5馬身後ろにビワハヤヒデ、その後方にはライスシャワー!』

 

準決勝の先行が嘘のようなツインターボの走りにビワハヤヒデも『ツインターボに迫られる』という違和感から解放され、一番の障害であるメジロパーマーに改めて的を絞った。

 

大逃げは仕掛け所を誤れば潰されるというのはトウカイテイオーがその身を以って実証した。ならば私が超えてみせると意気込むビワハヤヒデ、それを追うライスシャワーは第二コーナーを超えると少しずつ前へと競り上がっていった。

 

メジロパーマーとツインターボは一足先に向正面に入り、後続に追い付かれないようにペースを保ってはいるがメジロパーマーは想像以上に苦戦を強いられていた。

 

『メジロパーマーは此処に来てペースを上げましたね。どう見ますか?』

『ツインターボと一緒に掛かっているかもしれませんね。ペースを取り戻せるといいですが』

 

メジロパーマーの真後ろに付いているツインターボの足音は歩幅が短い為にメジロパーマーよりもワンテンポ早く、その足音をずっと前で聞かされているメジロパーマーの足もそのペースに合わせてしまいそうになっていたのだ。

 

合わせてしまえば楽でいいが、此処で上げ過ぎてはスタミナが持たない。走り辛くてもツインターボが先に倒れるのを期待して走るメジロパーマーは後ろから聞こえる音に気を取られないように専念した。

 

それに対してツインターボは特訓の成果と作戦の効果をその身で実感していて、メジロパーマーの足が一定のペースを保てていないのを確認する余裕すらあった。だが此処からが正念場だというのは南坂も再三ツインターボに念押しし、カノープス全員で勝つと決めたツインターボを意を決した。

 

 

 

 

あー!滅茶苦茶走り辛い!ヘリオスと走ってる時とは違ってテンポが違い過ぎる!でもレースは半分!勝てる、私なら勝てる!

 

気持ちで負けちゃダメだ、勝つのは私なんだ。絶対に勝つって気持ちで走っていると後ろからずっと付いて来てたツインターボの足音が少し小さくなったのに気付いた。

 

またスピードを上げ過ぎてしまったのかと思ったけど、ペースは一定の筈。それなのにツインターボの足音はどんどん後ろに下がっていく。こんな所で足を貯める逃げ馬なんていない、なら答えは一つ。

 

「よっしゃアタシのスタミナ勝ち!」

 

ツインターボが先にスタミナが底をついて下がっていき、私が単独で第三コーナーに差し掛かると観客は私の方を見て大盛り上がりしている。

 

メジロ家の誇りとかはマックイーンに任せてたけど、私だってウマ娘としての誇りならある。何度も悔しい思いをした、でもこのレースなら勝てる気がしたから出場してみたらコンディションは最高であのトウカイテイオーにすら勝てた。

だから私は優勝して逃げ方を教えてくれたヘリオスに最高の恩返しがしたい。その為にはこのレースのトロフィーが必要なんだ。

 

第三コーナーを超えて第四コーナーに差し掛かっても誰も追い付いてこない。何馬身離れてるかなんて見てる余裕はないけど、ビワハヤヒデ達が後ろで潰し合ってるなら好都合。

このまま単独で逃げ切れる、そう思った矢先に右後方の遠くから足音が近づいて来た。常に最高速だから内側を開けるしかない私とは違って後ろの子達は其処を突ける、それ位は想定済みだったけどその足音の様子はおかしかった。

 

私の右後ろにいた筈なのに第四コーナーから抜け出すに連れて少しずつ私の真後ろに音が移動し、なのに足音は少しずつ近くなってきてる。その足音は更に移動を続けて遂には私の左後ろにまで付くと独特な息遣いまで聞こえる程迫られていた。

 

プシュッと勢いよく息を吐き、それを小刻みに繰り返すその息遣い。

 

その音と似た音を爺やが運転する車の中で聞いたことがある。確かあの時は信号で止まっていた時で、隣に停車していた少し古めのスポーツカーは信号が青になると甲高い排気音を鳴らしていた。

 

『今の音は何なの?』

『アレはターボという装置の音ですね。エンジンで燃料を爆発させる際、排気ガスを勢いよく吐いてより多くの空気をエンジンに送り込む装置です。あの車はその中でも珍しいタイプでしたが』

『珍しい?』

 

その力強い足音はどんどん近付いてくる。

車の排気音かと思ってしまう程の甲高い呼吸音が近付いてくる。

 

『ターボはどうしても加速するまでラグがある。ならばターボを小さくして二つ付け、稼働効率を上げた装置。それが』

 

私の視界端から上がって来たのは蛍光色の勝負服、風に靡く蒼いツインテール。6番ゲート辺りで感じてた覇気はトウカイテイオーのモノかと思ってたけど違った。

 

一度落ちたのにまさか此処まで上がってくるなんて…!

 

『「ツインターボッ!」』

 

 

 

 

やはりツインターボは何か仕掛けていたか。第3コーナーに入る前にメジロパーマーから離されてからビワハヤヒデ達に呑まれるかと思いきや、ツインターボはコーナーの内側を走りながら二番手をキープし続けている。

 

先行集団はツインターボを追い抜こうと速度を上げて外回りをしているが、こうして後ろから見ていれば分かる。

 

レース序盤ではメジロパーマーの真後ろに付くことでスリップストリーム、第三コーナー付近から減速する代わりに内側の経済コースを走る事でツインターボは足を溜めている。

 

それも落ちると思わせて他のウマ娘に経済コースを選ばせず、少しずつペースを上げる事で内側に入る事も許さず集団を丸ごと掛からせている。

 

「意外な伏兵だな」

 

あんな器用な走りができる子ではないと思っていたが、やはりこのレースは何かが違うな。

 

しかし、私も第三コーナーに入ったが未だ上る様子のないトウカイテイオーは一体何を待っているんだ?外側はもう先行集団が埋め尽くしている、走るなら内側しかないが悪いが内側は私が先に使わせてもらうぞ。

 

この位置からの勝ち筋である内側を選んで走ると速度を出し過ぎて内側に入られない集団の後方を少しずつ抜いていき、先行集団の中には今からでも内を狙おうとする者がいるがもう遅い。内側を走るのに必要なパワーは走り慣らされた芝とは訳が違う。

 

「勝つのは私だ!」

 

第四コーナーに差し掛かる前に遂にビワハヤヒデ達と並び、内側を走っている分私の方が有利だったが突然右後ろから『聞こえてくる筈がない』足音が近付いてきた。

 

私は他のウマ娘よりも内側を走っている。ビワハヤヒデ達を抜くスピードと内に入る為にパワーのバランスを考え若干のスペースは空いていて、一人くらいなら差せるスペースがある事は間違いない。

 

だが私よりも内側を走りながら私を抜くなんて芸当は余程のフィジカルを持ったウマ娘でなければ無理だ。私の後ろにいたのはヒシアマゾン、そしてトウカイテイオー。

考えている間にも迫ってくる足音は外側に出るつもりはないのか、そのまま突っ込んでくる。ブロックしてしまえば抑えられるが、それでは私の勝ちは遠ざかる。自分の勝ちを捨ててまで他者を堕とす位なら勝負した方が幾分マシだ。

 

ビワハヤヒデを抜くと同時に迫ってきていたウマ娘が私の右隣に並ぶと、その横顔からは一見会長と見間違えてしまう程の威圧と覇気を感じたが栄光を示すような白い勝負服が私を我に帰らされた。

 

そうか、帝王はもう此処まで来ていたのか。だが女帝としてのプライドがまだ負ける訳にいかないと叫んでいる!

 

「勝負だ、トウカイテイオー!」

 

 

 

 

「『先頭を走るメジロパーマーはツインターボを引き離し第4コーナーへ!今日は早めの逆噴射でツインターボは後続に……後続に……抜かされない!?』」

 

第3コーナー前で大きく減速したツインターボは後続の先行集団に抜かされると誰もが思い、それは実際に走っているビワハヤヒデ達もそうだった。

 

だがツインターボを抜かそうとしても速度を落として内側を走っている筈なのに何故かその距離が縮まらない。内側と外側の差かと更に速度を上げてもツインターボを抜かせないまま第4コーナーに差し掛かり、既に全速力を出している事に気付くとようやくツインターボの罠に嵌められていると自覚した。

 

ツインターボが一度減速すれば誰もが『ツインターボが逆噴射した』と錯覚する。これがサイレンススズカやマルゼンスキー、セイウンスカイならば再加速する為に足を溜めているという発想にも至ったかもしれない。

けれどこれまで幾度となく逆噴射で負けてきたツインターボが落ちてきたと先入観で判断し、内側を走るのも苦し紛れの策だと避ける道を選ぶ。

 

南坂がツインターボに勝たせる為に選んだのは、勝っても負けても注目されてきたツインターボにしか出来ない『他の走者全員を掛からせる』作戦だった。

 

「『ツインターボが再点火!第4コーナーで再び後続を突き放しメジロパーマーに並んだ!続いて内側からエアグルーヴから一気に差し、更にその内側からトウカイテイオーが差している!?』」

「『トウカイテイオーはこのレース展開を読んでいたみたいですね。見事な追い込みです』」

「『これが天才のみが成せる技なのかトウカイテイオー!並ぶ先頭二人にエアグルーヴとトウカイテイオーは1馬身差!ビワハヤヒデもその後ろで追い縋る!』」

 

エアグルーヴよりも内側を走りながらスピードを上げているトウカイテイオーは普通の走法とは違い、内側に身体を傾けて遠心力のみで身体を支える事でそれを可能にしている。

 

当然それは誰にでも出来る芸当ではない。慣らされていない芝を踏みしめる力を殺さずに柔軟な足首の関節を曲げ、身体の角度と遠心力の絶妙なバランスを保っていられるのはそれがトウカイテイオーだから。

皇帝を超える帝王にしか出来ない走り、それこそがトウカイテイオーが描いた『絶対の走り』だった。

 

「『エアグルーヴが落ちているのか!?いやこれはトウカイテイオーが更に上がっている!トウカイテイオーはまだ止まらない!トウカイテイオーがメジロパーマーの隣に並ぶ!阪神最後の直線400mを制するのは誰だ!』」

 

実況にも熱が入る最後のデッドヒートに観客達も大盛り上がりを見せているがメジロパーマーには既に両隣にいる二人しか見えていなかった。

 

全員を掛からせる事で逃げ差したツインターボ、作戦を読み切り自分の走りを見せつけたトウカイテイオーに挟まれたメジロパーマーは理解していた。

この二人に勝てたのは運ではなく実力だった。二人とも相手を油断させる為に手を抜くようなウマ娘ではない、だが真剣勝負だからこそこの二人は諦めなかった。

 

きっと大変な特訓をしたんだろう。きっと幾つも靴を使い古したんだろう。私はどうだろう、この二人に負けないくらいの努力が出来ていただろうか。

 

「くっそォォォォ!」

「『メジロパーマーがジワジワと落ちていく!誰がこのレースの展開を予想できたのか!残り300m、先頭で栄冠を争っているのはツインターボとトウカイテイオーだ!』」

 

ツインターボにスタミナを削られ続けたメジロパーマーの足が悪くなりハナ、クビと次第に落ちていくと遂にトウカイテイオーとツインターボを阻むモノが無くなり二人の隣を走っている相手を視認した。

 

だが互いに驚きはなかった。「あのツインターボだから」、「あのトウカイテイオーだから」、信じ合っていた親友が隣を走っている。

あとは隣を走るライバルを抜き去るだけなのだから。

 

「「勝負だァァァッ!」」

「『残り200m、二人の前に立ちはだかるのは最後の上り坂!この上り坂を制して栄冠を手にするのは誰なんだ!』」

 

阪神競技場2200mの最後の200mには急勾配な上り坂があり、そこで落ちるウマ娘は少なくないが先頭を争う二人は一気に駆け上り始めた。

 

誰もが此処でツインターボが落ちると思っていたが、南坂が決勝で勝機を見出したのはまさにこの上り坂だった。高山トレーニング用マスクで鍛えていたのはスタミナではなく、今のツインターボの走りを支える『呼吸』だったのだ。

 

ツインターボの身体で身体の大きい相手と争う場合、当然ツインターボは限界ギリギリまで力を振り絞るしかない。だがツインターボの小さな肺では走るのに必要な酸素を溜め込むことも、溜まった二酸化炭素を吐き出すのも両立させられなかった。

 

だからこそ2週間一日数時間走り込んで付け焼き刃のスタミナを付けるよりも、トレーニング用マスクを日頃から付けることで一度の呼吸での酸素と二酸化炭素の交換効率を上げる特訓を毎日24時間続けた。

そうする事で理想的な逃げ、どのレースにおいても驚異となり得る『ヨレない逃げウマ娘』をこの試合に間に合わせた。

 

「『今日のツインターボのエンジンは絶好調、若干苦しいのはトウカイテイオーの方か!しかしトウカイテイオーも帝王の意地を見せ横に並び続けているぞ!』」

 

坂道を駆け上っていく二人に観客は大歓声を上げチームメイト達も応援する中、滝のような汗を流しながら身体に鞭を打って走るトウカイテイオーはツインターボの異変に気付いていた。

ツインターボの呼吸が走るのに比べて明らかに回数が少なく、視線も前を向いてるだけで微動だにしていない。

 

「そっか……凄いよ、師匠は」

 

トウカイテイオーと並んで走っているツインターボには殆ど意識がなく、勝ちへの執念がその足を動かし続けているのだ。

 

自分の限界を引き出した上で尚限界を超えて走り続ける事がどれだけ凄い事なのか、そして最後まで諦めない姿をまたしても見せ付けるツインターボにトウカイテイオーは報いるべく覚悟を決めた。

 

「『トウカイテイオーがジワジワと上がっている!ツインターボはこれには付いていけないのか!』」

 

持てる全てを出し切り優勝する為、トウカイテイオーも残る100mでキッチリ体力が無くなるようにペースを上げ、ツインターボはそれに付いて行こうとはしなかった。

 

「『さぁ、坂を登り切ったラスト100m!このままトウカイテイオーが勝ってしまうのか!』」

 

半馬身、1馬身と差が付いていく中で二人は坂を登りきり、トウカイテイオーの足色が衰えることはなくスタンドの前を駆け抜けていく。

 

端の方から白く掠れていくツインターボの視界はトウカイテイオーの背中を呆然と眺めていて、カノープスのメンバーはツインターボが置いて行かれていくのを見て声を上げられなかった。

 

『ツインターボが負けてももう責める人は居ない』、『トウカイテイオーやメジロパーマー相手に良くやった』、『2位でも凄い成績だよ』。

 

「ターボさんッ!」

 

そんなありきたりな言葉では済ませたくない感情を誰よりも大きな声で張り上げ、ツインターボの背中を押したのは南坂だった。

 

 

 

あれ?ターボ、何でテイオーの後ろにいるの?

 

ていうか、坂登り切ってるし。

 

「ターボ走って!まだ抜けるよ!」

「走ってくださいツインターボ!」

「アンタ負けたくないんでしょ!」

「全部を出し切ってください!」

 

何でだろ、色んな人が声を上げてるのにカノープスの皆の声は聞き取れる。よく分かんないけど、もう残りは少ない。えっと、最後はどうやって走れってトレーナー言ってたっけ?

 

「「「「考えないで走れェッ!」」」」

 

了解!

 

「『何という事だ!ツインターボが更に加速した!トウカイテイオーに必死に食らい付く、ツインターボは諦めないッ!』」

 

ターボの為にカノープスの皆は特訓に付き合ってくれた。ターボの我儘をトレーナーは沢山聞いてくれて、ターボを此処まで走らせてくれた。

 

その皆が考えないで走れって言うんだ。ならターボは何も考えない、トウカイテイオーを追い抜くだけだ!

 

「『天才か、それとも根性か!互いに見る者に夢を魅せるウマ娘同士、栄冠は譲れない!』」

 

ターボが一番走りやすい体勢で、ターボが一番慣れてる呼吸で、ターボが一番好きなポジションを奪う為にテイオーに並ぶとテイオーの驚く顔が端に見えた。

 

でもテイオーだって諦めてない。それでこそ終生のライバル、ターボが勝負するのに相応しい相手だ。

 

「『残り50m!完全に並んでいる!お互いに一歩も譲らない!』」

 

あと少し、ターボが勝つまであと少しだ!

 

「『残り20m!』」

 

勝つのはターボなんだッ!

 

「『今二人が並んでェッ!?』」

 

絶対にターぼォッ!?

 

 

 

 

何だか白い天井が見える、あれ?

 

「……あれ?」

「ターボ目が覚めたの!?」

 

さっきまでターフでトウカイテイオー達と走ってた筈なのに気が付くと何処かに寝ていて、ネイチャ達とトレーナーがターボの顔を覗き込んでいた。

 

鼻の頭が少しムズムズするくらいだから普通に起き上がるとネイチャ達が思いっきり抱き着いてきて、壁に頭をぶつけて悶絶してるとネイチャ達も慌てて離してくれた。

 

「ご、ごめんね!」

「大丈夫ですか!?」

「うん……此処は?」

「医務室ですよ。レースの最後、覚えてますか?」

「んー?何かあったっけ?」

「アンタ顔面からゴールと同時にズッコけたんだよ」

「マジで!?」

 

だから鼻がムズムズしてるのか、納得。

 

「追い風が吹き、それに煽られて前のめりに倒れながらゴールしたんです。すぐにトウカイテイオーさんが抱えて出てきてくれましたが、結果は写真判定でした」

「何方が勝ったの!?ターボだよね!?」

「それは……ライブ会場が教えてくれますよ」

「へ?ライブ?」

「ウイニングライブ、三人揃ってなきゃ始められないから2時間くらい待ってるんだよ」

「嘘!?じゃあすぐ行ってくる!」

 

ターボが2時間も寝てる間を皆が待っててくれてたと聞いてはすぐに行くしかないからベッドから降りてすぐに部屋から出ようとしたけど、扉を開けてから言わなきゃいけないことを思い出して振り返った。

 

「ありがとう、みんな!」

 

最後まで応援してくれた皆にお礼を言ってから通路を走っていくと、会場までの道のりは分かりやすく目印が貼ってあってその通りに進んでいき、スタッフさん達もターボを見ると無線で連絡を入れ始めた。

 

ターボが勝ったのかテイオーが勝ったのか。まぁターボが勝ってるとは思うけど、テイオーも簡単には譲ってくれないだろうから五分五分でターボが有利だったかも。

 

ステージ下の奈落までやって来ると既に準備を終えたトウカイテイオーとメジロパーマーがこっちに手を振っていて、スタッフさんにマイクとかを付けてもらってから昇降装置の上で合流した。

 

「遅いよー!」

「怪我は大丈夫?結構派手に転けてたけど」

「ターボは全然平気!それよりお客さん帰ったりしてない!?」

「さぁ、どうだろうねー。もしかしたら無観客ライブかも」

「折角の決勝なのに無観客なの!?」

「揶揄ったら駄目だってテイオー。ターボも準備はいい感じ?」

「うん!」

 

パーマーは後ろから転ける所を見てたみたいで心配してくれたけど、ターボもよく覚えてないから多分大丈夫な筈。

 

「それじゃあ…!」

「ちょっと待って」

 

パーマーがスタッフさんに合図を出そうとするとテイオーが何故かそれを止め、不思議に思ってるテイオーはターボと向き合って真剣な表情を見せていた。

 

「一個聞いてもいい?」

「どしたの?」

「師匠はさ、あのレースで僕に勝てたと思う?」

 

そしてこれもまた不思議な質問をしてきた。もしかしてテイオーも転けて覚えてないとか?

 

でも、どっちにしたってターボの答えは決まってる。

 

「当たり前じゃん!だってターボはいつだって1番なんだから!」

 

1番人気になれればもっと頑張ろうって気持ちにもなるし、1番でゴール出来たら嬉しいとは思うけど、それ以上にターボの事を1番に応援してくれる人達が居るならターボはいつだって1番だ。負けて悔しくても応援してくれる人達が居る限りターボは誰かの1番で居続けたい。

 

誰かに負けたかもなんて疑ってたら応援してくれる人達に合わせる顔もない。だから当然ターボが勝ってるとは断言すると、「ターボは凄いや」とテイオーが優しい笑顔を見せてから昇降装置は動き出した。

 

特別なレースで優勝した時しか歌えない特別な歌。その始まりのファンファーレが鳴り響く中、ターボ達がステージの上にゆっくりと登ると観客の皆は一斉にペンライトを振り歓声を上げた。

 

「今日の主役は君だよ、ツインターボ!」

 

ペンライトの色は見渡す限り一面青色で、トウカイテイオーがターボの手を引っ張って立ち位置を真ん中に変えると、他の子達もターボが来るのをずっと待っててくれていたんだ。

 

やっと、ターボは皆の期待に応えられたんだ。

 

ファンファーレが止み、あとはターボのコールを言うだけ。それだけで最高のライブが始まるって言うのに声が出ない。

 

「『いちにっ、ついて…ぇ…ッ!』」

「『はいはい、そんなんじゃ始めらんないよ。ターボが今日の主役なんだから、皆に笑顔を見せなきゃ』」

「『っ……うん…!』」

 

涙で視界が滲んでよく見えなくて、声も掠れ掠れで始めようとしてもテイオーに止められてしまい、何とか泣き止もうと服の袖で涙を拭った。

 

すると観客席からは「頑張れー!」とターボのことを応援する声が沢山聞こえてきて、レース後ではターボが聞けなかったターボコールが会場で震えるくらい響いてきた。

 

ターボは1番なんだ、1番が泣いてちゃ他の子達だって泣きたくても泣けない。

 

「もう大丈夫?」

「うん…ッ!」

「よし、それじゃあアゲてこっか!」

 

1番を取ったならターボが1番笑わなきゃいけないんだ。

 

「『位置についてー!』」

 

始まりのコールをターボが叫ぶとターボコールも少しずつ小さくなっていき、会場が完全に静かになって両隣にいるパーマーとテイオーに目配せをした。

 

二人とも凄く速くて、凄く凄いウマ娘だったけど此処では一緒に歌う仲間なんだ。二人の手を握ると二人も握り返してくれる。

 

「『よーい!』」

 

観客席にいる人達の顔は見えないけど、きっと其処には居る筈だ。ターボのことを応援してくれた人、テイオーを応援していた人、パーマーや他の子達を応援していた人が。

 

だからその期待に応える為、大きく大きく息を吸って

 

「『どん!』」

 

最高のライブのスタートを切った。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、会長」

「何を謝っているんだ?」

「会長が僕を応援してくれてた声が聞こえたからさ。期待に応えられなくて」

 

最後のゴール直前、僕は絶対に勝てると思ってた。僕は練習通り、一切非の打ちどころの無い完璧な走りが出来ていた。

 

だけど、最後の最後に吹いた追い風はターボの味方になった。僕よりも小さな身体なのに僕が着てもダボダボな勝負服、風が吹けば空気抵抗をモロに受ける勝負服が勝負の決め手になるなんて思ってもみなかった。

 

「勝負服が福の差になるとはな」

「会長から見て、ボクの走りはどうだった?」

「……完璧だったよ。テイオーはレースの流れを完全に読み切っていた。あれはテイオーにとっての『絶対の走り』だった」

 

何故か耳を垂れさせてる会長に会長から見てボクの走りを見てどうだったか聞いても、やっぱりボクにできる最高の走りというのはボクと同じ意見みたいだ。

 

「テイオーとメジロマックイーンのようなライバルも良いものだ。お互いに引っ張り合い、お互いに高め合うライバルというのは大切にすべきだろう。だがそれと同じくらい家柄でも血筋でもなく、本人の精神の強さに依存する『諦めないウマ娘』というのはいつの時代でも貴重な存在だ。どれだけ優秀なウマ娘でも心が折れそうになる時がある、そんな時に彼女達の存在の大きさが分かる。テイオーもその一人だろう?」

「うん」

「不撓不屈、彼女の走りもまた『絶対の走り』だった。だが勝負は時に運が絡む、勝利の女神が彼女に微笑みを向けてしまったのが敗因だろう」

 

ボクにあれ以上の走りはできない、だけどボクの走りがターボに負けてたも思わない。

 

「………」

「よくあの場は我慢したな、テイオー。1番の彼女よりも泣きたかったのに、彼女の背を押せたテイオーを私は誇りに思うよ」

 

会長がこれまで手にしてきたトロフィーが飾られているショーケースの中にある真新しいURAファイナルズ長距離部門のトロフィー。

 

出来ればその隣にボクのも飾りたかった。会長だって飾りたかった筈なのに。

 

「偶には、人の胸で泣くのも悪くはないさ」

「っぐ……うわぁぁぁん!」

 

悔しい、実力では負けてなかったのに運を手に出来たのが悔しい。あんなに前向きに自分を信じられるツインターボのようになれていたら。

 

いや、ボクはなるんだ。

 

「次は……次は絶対に、勝つから…!」

「ああ、それでこそテイオーだ」

 

皇帝を超える、帝王に。

 

マックイーンにも、ツインターボにも負けない唯一抜きん出たウマ娘に。




次回
王は媚びないわ。
たとえ情けなかろうが、最後に頂点に立つのなら泥だって被る。
王は退かないわ。
たとえ相手が強者でも、最後に頂点に立つのは王者である私よ。
王は折れないわ。
たとえ敗北しようとも、最後に頂点に立つ為にまた立ち上がる。
 
王は決して許さないわ。
たとえ王の名を冠していようが私の友を貶したのならその報いは受けなさい!
キングは一人で十分、王道は私の為にある道よ!
サクラバクシンオー、貴方を降して頂点に立つのはこのキングヘイローよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。