次のステージへ上がる為に日々練習に励んでいたが、出版社からの依頼が入った。それは『自伝本を書いてみないか』というもので、トレーナーはそれを次回URAファイナルズの出走レースに活かすべく引き受けることとなった。
そこに綴られたのはキングヘイローと最強を目指すトレーナー『ガヴリエラ・ハーウッド』が歩んできたこれまでの道のり。
そして、その本の続きを目指すべく、二人は新たな一歩を踏み出す。
『私のトレーナーは正直言ってかなりの変わり者だ』
『幾ら叔母にあたる私のお母様から頼まれたとはいえ、フランスのトレーナー育成機関を首席で卒業したのに、フランスで一度もウマ娘を担当せずに日本に来るだなんて普通断る話だ』
『なのに私のトレーナーであり、英国屈指の名門トレーナー一家に生まれたガヴリエラ・ハーウッドは私のトレーナーになるべく日本へ渡り、
「キング、私の説明はいいからレースの話をして」
「何よ、私が選んだトレーナーなのだから当然書くに決まってるでしょ」
URAファイナルズ短距離部門を制してから早一ヶ月が経つ5月のゴールデンウィーク。私は月刊トゥインクルを発刊している大手出版社から依頼を受け、私のこれまでの人生について自伝本を書く事になった。
次回URAファイナルズに向けた練習の合間を縫い、私の生い立ちやキングとしての在り方を書きつつ、トレーナーの事も書いているとそのトレーナーからストップが入った。
ウマ娘の尾のように纏めた金髪に澄んだ蒼い瞳、私よりも高く細身な身体にはスーツがよく似合う。しかし、相変わらず表情だけは滅多に変わらないのも本人のストイックさの表れだろう。
「キングの自伝本なんだから私はいいよ」
「貴女と私で歩んできた道よ。今更恥ずかしがる事ないじゃない」
「恥ずかしいとかじゃなくて、キングがまだ走れる事をアピールする為に受けたんだから私の事は二、三行でいいの」
トレーナーは人に言うだけはあって本当に聡い人だ。この自伝本のオファーだって私は断るつもりだったのに、URAへのアピールに利用する為に受けるだなんて考えもしなかった。
私は今のままでは短距離部門にしか出られない。でも、ファンからの投票が集まれば一度優勝した経歴とこれまでの出走レースを加味する事で中距離にも出られるようになるかもしれない。
私達は絶対に勝たなきゃいけないレースが一つある、そのレースに出る為に今は筆を取っているのだ。
「分かったわ。貴女のことはあまり書かないから、貴女は自分の仕事をしてなさい」
「後で検閲するからね」
「せめて添削になさい」
余程私が信用ならないのかトレーナーは後で確認すると聞かず、仕方ないからそれで妥協して私も筆を進める事にした。
『私達が出会ったのは私がトレセン学園に来て間もない頃だった』
あの頃の……一流のウマ娘だったお母様の幻影を追いかけていた頃の私は、とにかく一流の成績を残すべくトレーナーも一流の人間を選ぼうとしていた。
今思えば痴がましい事かもしれないが、トレーナーの選び方なんて知らない私にはクラシック三冠を狙えるくらい優秀である以外の条件なんて思い付かなかった。
だけど、お母様の名前は日本でも広く認知されていて、そんな募集の仕方でも多くのトレーナー達が私のトレーナーになろうと立候補し、私はその中から一人を選ぶ必要があった。
その中にはスーパークリークさんのトレーナーでもある奈瀬トレーナーも含まれていて、三冠を狙う私には願ってもないチャンスだった。
『奈瀬さんも狙ってたかー』
『あの人相手じゃほぼ決定ですね』
スーパークリークさんはヤエノムテキさんやサクラチヨノオーさんといった強豪を相手しながらも最強を決める菊花賞、春秋天皇賞を制覇している。中長距離で実践級の指導が出来るこの人を選ぶしかいないと思った。
だけど、集まっていた他のトレーナー達がベテラントレーナーを前に尻込みする中で唯一手を挙げて私にアピールする人が居た。一目で分かる外国人、真新しいボタンを見れば誰だって新人トレーナーなのは分かる。
けれど、その表情には自分の実力を信じて疑わない人のみが放つ威圧感があり、お母様にも似ているそれは奈瀬トレーナーに勝るとも劣らなかった。
『私が貴方のトレーナーになるよ』
『君、見ない顔だね』
『一昨日この学園に来ました』
『そう。それじゃあ君から見たキングヘイローの武器を聞かせて貰おう』
『短い距離で最高速度に達する秀でた加速力。同期の子達と比べればその一点に於いては勝るウマ娘は居ない』
『つまり、スプリンター向きだと?彼女が求めているのはクラシック三冠を狙えるトレーナーだよ』
『彼女が望むのなら私はどんなレースでも勝たせる。私は負ける為の指導なんてしない』
歴戦のトレーナーに向けるとは思えない言葉の数々に周りはたじろいでいたけれど、ジッとその目を見つめていた奈瀬トレーナーはふと笑うと、『なら僕は降りよう』と言ってその場から去っていった。
その後ろ姿に大した興味も持たなかったトレーナーは私の方を向くや否や、『私はガヴリエラ。これからよろしく、キング』と随分と慣れ親しんだような呼び方と共に手を差し出してきた。
けど、当時の私はその傲慢さに負けるのが嫌で『私が貴方を一流のトレーナーにしてあげるわ』と言い返し、差し出された手をしっかり握った。
「へぇ、キングちゃんのトレーナーさんって前からこんな感じなんだ」
「何かキングと似てるね」
「似てないわよ。あんな堅物」
昼休みにいつもの五人で食堂に集まり、談笑する中でも私は筆を進めていると、私が書いた原稿用紙を勝手に読み回している四人は各々感想を言っている。
勝手に読むのは分かってたし添削代わりになると思って止めはしないけど、目の前で感想を言われると少し気恥ずかしい。
「ほぉほぉ、つまりそれがご結婚の決め手になったのですか?」
「何処にもそんな事書いてないでしょ!」
「あははは、冗談冗談。でもキングがこういうの引き受けるの意外だよね」
「そうかしら?キングたるもの、己の生き様を語り継ぐのも使命なのよ」
「えぇ?『あら、一流であるこの私がわざわざ筆を取る必要なんてないわ。伝説は他人が綴ってこそよ、オーホッホッホ』くらいは言いそうなのに」
「「「言いそう」」」
「っ、言わないわよ!」
スカイさんが私の真似をすると他の人達も同調したけど、今の私はそんな事を言ったりしない。まぁ、少し前の私ならちょっと言いそうかもと感じたりもしたけど、一流である事に拘っていた弱い私はとっくの昔にターフに置いてきた。
「キングは常に進化するものよ。その在り方も、走り方もね」
「何かキングちゃんカッコいいね!」
「当然よ、何故なら私はキングだから!オーホッホッホ!」
私は一流である事に拘っていた。私があの人の娘だからではない、私自身が一流だから強いのだと証明する為に。
けれど、私は同期のウマ娘に恵まれた。私の行先を悉く遮る強者達は私が如何に傲慢な夢を抱いていたのかを教えてくれた。
目の前で楽しそうに話している四人を見ていると原稿の続きが思い浮かび、その思ったままを書き綴った。
『私とトレーナーは奇跡的に相性が良かった。恐らく、何方が別のパートナーを選んでいても結果は変わっていただろう』
本格化を迎える前から走っていたもののその頃は誰からの指導を受けておらず、トレセン学園に来てから生まれて初めてトレーナーからの指導を受けた私は愕然とした。
『遅い。練習なのに何で緊張してるの?』
『足に無駄な力が入ってる。走り難くくないの?』
『何でスキップしてるの?楽しいことがあったの?』
『よそ見しない。してる暇ないでしょ』
一応初めてトレーナーの指導を受ける事は伝えてはいたけど『問題無い』と言われ、ひとまず安心してから300mの直線を数本走っただけでこの有様だ。
私のトレーナーは決して声を荒げたり、威圧もしてこない。けど独学だった私の走りは全否定され、僅かにあった私の走者としてのプライドは粉々に砕け散ったと言っていいだろう。
これが的外れだったり、理想論だけだったなら幾らでも反論はできた筈だ。けど、トレーナーが考えるメニューは私が全力を出し切れれば可能なメニューばかりで、決して無理は言わなかった。
『出来るの?出来ないの?』
やるかやらないか、困難を私に突き付けて常にその二択を迫るのだ。それをやらないと言っても特に気にしないのだろう。キングヘイローにはやれない事がある、そう手帳に記して別のメニューを考えるに違いない。
私のトレーナーには凡ゆる場面を想定し、それに対応するだけの資質と才能がある。だが、私にだって意地とキングとしてのプライドがある。
『出来るに決まってるでしょ!』
『キングは不器用だから序盤は他の子達に合わせるのを意識して、最終コーナー前から自分のペースまで上げて』
たとえ一二回ミスをしようとも、その日全てを費やそうとも私はただの一度もトレーナーからの難題からは逃げなかった。いや、逃げたくなかったんだ。
無機質な目で見つめてくるトレーナーと私のミスばかり指摘するお母様の姿が重なり、これ以上逃げたくなかった私は全力で練習に挑み、少しずつ私の走りは変わった。
ペース配分が苦手な私が不器用に逃げるのではなく、末脚を活かして後半で捲る走り方は合っていた。その為に長所を更に伸ばしていたトレーナーの言う通り、最初の3レースは難なく頂点に立った。
次戦のラジオたんぱ賞では惜しい結果に終わったが、私自身は何時迄も上手くいくとは思ってはいなかった。勝負は時の運、悪い運を早めに出したと切り替えていたけど、トレーナーはその日のレースの結果を見て眉を顰めていた。
『惜しかったね』
『ここまでは前哨戦よ。本番はクラシック路線、絶対に三冠を取るわ』
『今のままじゃあ他の子達に出し抜かれるかもしれないから、少し練習をハードにしないとね』
『あら、流石の貴方も緊張してるのかしら?』
『……勝てると思ってたからね』
今思えば、自分の実力を信じて疑わないトレーナーがそんな事を言っている時点で私達は泥沼に嵌っていたのだろう。
私達が日々成長しているのと同じように、ライバル達も日々成長している。幾ら優秀とはいえライバルの日々の成長までは逐一調べられないのだから、トレーナーは相手の成長を見越して時間が許す限り私を仕上げていた筈だ。
私とトレーナーは奇跡的に相性が良かった。だけど、他の子達もそうであったと早くに気付くべきだった。
「やっぱり私の事書いてる」
「いいじゃない。私を語るなら貴方抜きにはできないわ」
「いつもみたいなキング節を書けばいいの。自信満々で、無茶ばかりして、大体後悔してて」
「今のを自己紹介として書いてあげてもいいわよ?」
中距離戦に向けた練習の合間を縫いベンチに座って原稿の続きを書いていると、データを打ち込み終えたトレーナーは顔を覗かせ、文を読んであからさまに嫌そうな顔をしている。
写真やテレビ番組だとかは映っても特に気にしないのに今回に限っては異様に嫌がっているわね。
「何がそんなに嫌なのよ?顔が映るわけでもないのに」
「顔は自信があるから良いの。毎日手入れもしてるし、常に完璧を保ってるから」
「恐ろしい自信ね……」
「でもキングが書く文だと何を書かれるか分かったものじゃないから」
「そんな変な文書かな……!」
また私を弄ってくるから少し灸を据えようとしたけど、今の言い方からすると私が何を書く気か分かっているから嫌がってるのかしら?
「ダービーの事を書かれるのが嫌なの?」
私も引くくらいに自信家のトレーナーが嫌がるならあのレースの事かと思い聞いてみると、あからさまにバツが悪そうな顔をしていてどうやら図星のようだ。
私が出来もしない逃げを打って、絶好調にも関わらず14着に沈んだあのレースは私達の大きな転機になった。
あの日の身勝手な行いによって私はトレーナーの経歴に大きな傷痕を残した。だからそれを弁解しようと思っていたのだけど、トレーナーはそれが嫌なのだろう。
「あれは私が体調管理できてなかっただけで、キングのレースには関係無かったの。止めても逃げてたでしょ」
「今更たらればの話なんてしても分からないわよ。でも、私は自分の事しか考えてなくて、貴方の事を何も考えていなかったのは事実よ。それを弁解するにはこの本の中でするしかないのよ」
「しなくていいのに」
「私がすると言ったらするわ。貴方は気にせず他の事をしてなさいな」
トレーナーは嫌がっているけど、これはキングとして果たすべき責務でもあるから私が譲らない態度を示していると、『また沖野先輩に揶揄われる』と溜息混じりに私から距離を取った。
スペちゃんの、延いてはチームスピカのトレーナーでもある沖野トレーナーは少人数のチームとはいえ一流のウマ娘を数多く輩出しているベテラントレーナーだ。
私達は何度もスペちゃんと沖野トレーナーに苦戦を強いられてきたけど、私のトレーナーだって理論武装をさせれば沖野トレーナーにも決して劣らない。
けど、沖野トレーナーには『経験』が数多くあり、ウマ娘が不調の時も下手に指摘せず一つの経験として敗北に甘んじることができた。
指導者としての経験という点においては、どう足掻いてもトレーナーに勝ち目はなかった。
「書かなきゃ、私の責任だと分かってもらえないのよ」
トレーナーは私のコンディションにはいつも細心の注意を払ってくれて、今の私の走りはトレーナーが居るからこそ成り立っている。
だが、トレーナーは一つ勘違いしていた。そんな当たり前のことさえ分からず、指摘されなければ我儘に走るウマ娘を担当しているという事を。
私はクラシック三冠の一つ目である皐月賞を目の前で逃してしまい、三冠の夢は初戦で露と消えたがすぐに頭を日本ダービーに切り替えた。
日本ダービーは幸運な者が手にする冠。それを実力で掴み取るべく私達は全力で調整を重ね、加速力に更なる磨きを掛け、日本ダービー当日の私のコンディションは完璧というべき仕上がりだった。
『貴方、本当に大丈夫なの?』
『うん……ケホッ…』
しかし、控室まで付いて来たトレーナーはマスクをしていても分かる位に顔を真っ赤にしていて、普段は歯切れの良い返事もフワフワと地に足が着いていない様子だった。
『全く、貴方が体調を崩してどうするのよ』
『ごめん……次は気を付けるよ…』
『まぁいいわ。幸いにも私は最高過ぎるくらいに調子は良いし、この際だからスタンドから私の勇姿をしっかり見ておきなさい』
あまりにもフラついているから私の代わりに椅子に座らせるとすぐに項垂れていて、とてもじゃないがマトモな判断が出来る状態ではなかった。
一眼見ればそんなこと分かる筈、子供だって分かる筈。なのに私はトレーナーの事も知らないのに、自分の事も知らないのに口にしてしまった。
『最高のスタートが切れたらそのまま逃げてもいいのでしょ?』
逃げていい訳がない。私は出会って次の日に私はベース配分が下手だと言われ、それをただ治すのではなく良い方向へ向けるべく差しの走りを教わったんだ。
それを逃げに使えば何が起きるのかなんて火を見るよりも明らかなのに、私は調子が良いからとトレーナーに逃げる許可を求めた。
きっとトレーナーも気を利かせた冗談だとでも思ったんだろう。顔を上げて焦点の合わない目で私の顔を見つめた後、『大丈夫だよ……』と少し笑ってみせた。
嬉しかった。お母様とは違って私が成長したから許してくれたのだと、あの堅物が私の実力を信じてくれたのだと。
実際は私がそこまでバカじゃないと信じていたのに、舞い上がった私はこれまでのトレーナーの指導と信頼を全て無視して逃げる事を選択した。
そして、私は最高のスタートダッシュを切ると同時に逃げに転じ、ペース配分を誤って直線で失速。苦手なダートを走ったフェブラリーステークスよりも低い14着に沈んだ。
走り切った後、私は最高だった筈のコンディションで負けた理由を探し、そんな物一つしか思い浮かばず意気消沈していると係員から『スタンドでトレーナーが倒れた』との一報を受けた。
着替えるよりも先にトレーナーが運び込まれた病院に向かい、個室で点滴を打ちながら眠っているトレーナーの側に駆け寄った。
『ごめんなさい……私が心配を掛けたから…!』
私が本当に逃げるとは思わず、血の気が引いたと同時に倒れたんだろう。こんなじゃじゃウマ娘を担当しているなんて思ってもいなかっただろう。
私は取り返しのつかないミスをしてからようやく事の重大さを理解し、目を覚さないトレーナーの手を握っているとハンガーラックに掛けられたトレーナーの上着から着信音が聞こえた。
練習中も誰かと連絡を取っているのは知っていたけど、個人的な連絡にまで口を出すつもりはなかった。だけどトレーナーが倒れてしまった事を知らせておく必要がある相手かもしれないと思い、スマホを手に取ると通話相手は『奥様』と表示されていた。
嫌な予感がした。
何故わざわざフランスのトレーナー育成機関を卒業したのにまた日本で資格を再取得する二度手間を踏んだのか。
何故これだけ優秀なトレーナーが他のウマ娘ではなく最初から私を選んだのか。
何故他のウマ娘はフルネームで呼ぶのに私を初めから『キング』と呼んだのか。
通話相手がその答えを知っているような気がして、通話ボタンを押した。
『ガヴリエラ、今日のキングの走りはどういう事なの?』
聞き慣れた声だった。何度も何度も聞いてきた叱責の声だけど、その日は普段以上に明確な怒りが込められていた。
『キングの走りを誰よりも知っている貴女が何故逃げる事を許したの?ハーウッド家の娘として、あれが責任を持って最高の走りだったと説明できるの?私はあんな惨めな思いをさせる為に貴女を呼んだ訳じゃないのよ』
此方の話を聞こうともしないその声の主は私の知りたかった事を全て教えてくれた。
ファーストネームしか知らなかった私のトレーナーがお父様と同じトレーナー一家の娘。そして、私の為にお母様が呼んだトレーナーだった事を。
トレーナーは初めからお母様に雇われていたから私の担当に名乗りを挙げたのだ。けれどそれが私にとって重荷になるから何も言わず、ただの変わり者として振る舞ってくれていた。
すぐに通話ボタンを切り、私が理解しているより遥かにマズい事態だと分かった。意識が遠くなりながらもどうにか椅子に座り、どうすればトレーナーの名誉を回復できるか考えた。
きっとトレーナーは責任を取る為に担当を降りると言うに違いない。でも、専属契約を交わした上に前任のウマ娘がこの始末では次のウマ娘に選ばれる筈もない。
このままでは本当に才能のあるトレーナーが『親の七光り』の一言で片付けられてしまう。
『ごめんね……キング…』
『……貴女の所為じゃないわ』
『次の人にはちゃんと説明するから……』
目を覚ました後、私の失態を責めるどころか気高いトレーナーが泣いて謝っていた。本気で自分の失態だと後悔していて、そんなトレーナーを捨てて私が何も背負わずに走るなんて虫のいい話がある訳がない。
私の所為で誰かが人生を台無しされて終わりだなんて、キング云々以上に私自身のプライドが許す筈がなかった。
勝つしかない。何度も負けても、何度泥を被ることになろうとも、絶対に退けないラインに立ってしまったからにはトレーナーと一緒に勝つしかない。
一緒に勝って、トレーナーが『あのキングヘイローをG1で勝たせた』と言われるまで走り続けるしかない。
『私のトレーナーはガヴリエラ、貴女一人よ。代わりなんていないし必要も無い。私は貴女に最高の指導する権利をあげる。だから、』
たとえ私達の出会いがお母様の望み通りだとしても、選んだのはお母様ではなく私自身。だからガヴリエラがトレーナーでいられるように私は契約続行を一方的に押し付け、私がお飾りの『キング』ではいられないようにした。
私に必要なのはガヴリエラというトレーナーなのだから。
ガヴリエラに必要なのはキングヘイローというウマ娘なのだから。
『私を勝たせてみせなさい、ガヴリエラ』
私はガヴリエラと共にキングの道を走り切ると決めたんだ。
「中距離部門出走おめでとうございます、キング!」
「当然!何故なら私が!」
「「「キングだから!」」」
「オーホッホッホ!」
私の出走部門決定を祝し、食堂で少し早いお祝いを取り巻きの子達と一緒に行った。少し時間を取られたものの自伝本も無事出版され、それに合わせて今年度のURAファイナルズの出走登録を行うと、無事に第一志望である中距離出走が決定した。
他の子達が皆G1タイトルを取っているような強豪の中で、私が出走できたのも全てはトレーナーの働きかけがあってのものだ。
当の本人は、
「これが世に……」
私の自伝本を手に複雑そうな顔を浮かべながら椅子に座っている。結局私とトレーナーが歩いて来た長い道のりを主に置いた筋書きになっていて、日本ダービーの事も載せたからウマッター等でもトレーナーを労う声は増えた。
特に去年のURAファイナルズで競ったカレンチャンさんとサクラバクシンオーさんにも献本したら、二人ともSNSで紹介してくれて、目に見えて注文が増えたとも聞いている。
お陰でトレーナーの目論みと共に私の目的も達成できたんだ。多少無理をした甲斐はあるわね。
「凄く良かったですよトレーナーさん!」
「ありがとう」
「最後の独白の部分も感動しました!やっぱりキングのトレーナーさんですね!」
「最後の独白?」
取り巻きの子達も私のトレーナーが苦労人であると再認識したようだが、書いた覚えの無い独白の話をトレーナーにしていて、トレーナーは指を口元に寄せて「シー」と諌めた。
「何の話よ?」
「何でもないよ」
「……まぁいいわ。貴女の事だから何か考えがあるんでしょ。好きになさい」
何も聞かされてはいないけど、私の負担になるような事なら黙っている筈が無いから恐らく何かしらの加筆修正をしたのだろう。
元々検閲するとまで言っていたのに結局しなかったのだし、その位なら私がわざわざ確認する必要もない。
トレーナーを信じて言及せずにいると何故か取り巻きの子達は感嘆の声を漏らしているが、いきなり後ろから両手で視界を遮られながら「キーング」と悪戯好きの声で呼び掛けられた。
「もう、何の用なのスカイさん」
「ありゃ、バレてた?」
「声で分かるわよ」
声の正体を当てるとパッと手を離したスカイさんが後ろから現れ、取り巻きの子達に席を勧められても「すぐ終わるから」と言い、私に要件があって会いに来たようだ。
「スペちゃんが『生徒会室に来て』だってさ」
「スペシャルウィークさんが?」
スペシャルウィークさんは前回のURAファイナルズで唯一のMVPに選ばれ、その功績を認められて次期生徒会長にも任命されている。度々生徒会室に呼ばれて作業の引き継ぎを行なっているのは私達も知っているし、何度か手伝った事もある。
また何か手伝う事が増えたのかと私も席を立ったが、「キング」とトレーナーに呼び止められたから其方を見た。するとトレーナーは何も言わなかったが、何を伝えたいのかはすぐに分かった。
もうその時期が来たのだ。来月に控えたURAファイナルズに向けて私も準備を始めないといけないわね。
取り巻きの子達には申し訳ないがお祝い会はお開きにし、場所を変えて体育館裏までスカイさんを連れてから電話であと2人呼び出した。
その内の一人は遠くからでも聞こえるくらいの物音を立てながら掛け走っていて、裏まで来て私達を見つけるや否や体当たりでもしそうなくらいの勢いで迫ってきた。
「途中担任に絡まれてちょっと遅れましたわ!」
「早過ぎるくらいよ」
「それで用ってのはなんですのキングさん!」
可愛らしいティアラを頭に乗せ、桃色の髪もあって黙っていれば少し幼げだが、他に類を見ない程に元気溌溂過ぎる私の後輩『カワカミプリンセス』さんは口調には合わないくらい肩で息を整えている。
私と同じようにプリンセスになる事を目指し、トレセン学園に来てから何かと縁があって私も練習に付き合ったりしている。
もう一人も遅れてやって来ると、普段から交友のあるスカイさんとそれほど関わりのないカワカミさんを見比べて「どういうメンバーかしら?」と首を傾げている。
黄色の布地に青のボーダー柄の入ったスカーフで鼻まで覆い、栗毛の長髪に目立つ額の流星は彼女の品の良さと芯の強さを表しているようだ。
彼女は事情を話せば理解してくれるだろうし、カワカミさんには今後の話もある。そしてスカイさんは……個人的な付き合いも多いしこの三人には先に話しておくべきだろう。
「三人には先に話しておこうと思ったのよ」
「何か話されるような用事ってあったっけ?」
「まさか遂にチームキングを発足するんですよ!?」
「違うわ。でも、とても大事な事なの」
「何かあったのかしら?」
私達でチームを組むというのも悪い話じゃないけれど、先に私が走る道は決めてしまったからまずは其処を走り終えてから考える事だ。
前年のURAファイナルズを終えてからずっと考えていた今後について三人に全て話すと、三人とも凄く驚いていたが私が無理をして中距離部門に出走しようとした理由は理解してくれたみたいだ。
「その話マジですの!?」
「こんな嘘吐かないわよ。だから貴女には少しの間迷惑を掛けることになると思うの」
「私を頼ってくれて嬉しいわ。キングちゃんの代わりが務まるかは分からないけど、誠心誠意頑張るわね」
二人とも私の事を応援してくれているが、残るスカイさんは下を向いている様子から言いたい事があるのだろう。それを察して「それじゃあカワカミちゃんは私と並走しましょうか」と二人は遠くへ離れていき、二人の姿が見えなくなってからようやくスカイさんは顔を上げたが、穏やかではあるが酷く大人びた笑顔を見せていた。
「キングの人生だから、私は応援してるよ」
「ごめんなさい……不明確な話で貴方を戸惑わせたくなくて」
「分かってる。分かってるから、はい」
私の我儘を聞いてくれたスカイさんは両手を広げ、私もそれに応えてその腕の中に入るとスカイさんは茶化す事なく力強く抱き締めてくれた。
エルコンドルパサーさんが引退する時もスカイさんは何とか引き止めようとした。私は引退する訳じゃないから引き止める事だって出来るのに、私が選んだ道を尊重してくれている。
「中距離部門、勝たなきゃダメだよ」
「ええ。絶対に栄冠を掴んでみせるわ」
URAファイナルズ中距離部門。
その栄冠を狙うのは二部門制覇を狙うシンボリルドルフ会長、二連覇を目指すツインターボさん、そして最初にして最後のMVPに選ばれたスペシャルウィークさん。
他にも多くの強者が集い、たった一つの栄冠を奪い合う。けれど、私はその栄冠が無ければ先へと進めない。
「それじゃあスペちゃん達も待ってるだろうし行こっか!負けた方がアイス奢りね!」
「あっ、ズルいわよ!」
私の夢は、その先にあるのだから。
URAファイナルズ中距離部門決勝当日。
天気に恵まれた前年とは違い粉雪が舞い散る寒空の下、決戦の舞台である東京競技場は波乱続きのレースに熱気で渦巻いていた。
『雪が舞い散る中、東京競技場は重場となっていますが細江さんは今日のレースをどう見ますか?』
『やはりURAファイナルズという短期間での連戦への仕上がりが前年とは大きく変わり、切り札とも言うべき持ち味のあるウマ娘が残ったという印象ですね』
『持ち味と言えば、やはり優勝のツインターボも決勝に上がってきましたね』
『彼女の強みは意外性のある逃げですからね。準決勝ではシンボリルドルフとテイエムオペラオーが一着でしたが、人気のみで語れるレースではないのは確かですね』
解説と実況が各ウマ娘を紹介していく中、控え室では決勝に進出したウマ娘達が最後の激励をトレーナーや友人と交わしている。当然決戦まで上がったキングヘイローもトレーナーとベンチに座って話しているが、普段と特段変わっている様子はない。
「お母様から何か連絡は?」
「まだ何も、今回は日本にも来てないみたい」
「折角の娘の勇姿を観に来ないだなんて、相変わらずね」
以前はキングにとって重荷だった母親からの連絡も前年の優勝を皮切りに頻度も少なくなり、予選準決勝と一着になれずともその電話が鳴る事はなかった。
「それだけ信頼されてるんだよ。今のキングは強いって知ってるから」
「それを口にして欲しいのよ、全く」
「……本当に強くなったよ、キングは」
キングがベストコンディションで緊張している様子もなく安堵しているガヴリエラは、決勝前日になって初めてずっと読むのを躊躇っていたキングの自伝本を読んでいた。
其処にあったのは自分の視点からでは分からなかったキングの苦悩。完璧だと思っていた自分の指導の甘さ。二人で歩んできた数多くの挫折の道が綴られていて、最高のトレーナーであろうとしていた自分の傲慢さにはガヴリエラも苦笑を漏らしていた。
だが、キングはガヴリエラを否定するような言葉を一切使っていなかった。共に競技人生を歩んできたトレーナーに対する敬意を、そして一人のウマ娘として人生を共にしたガヴリエラに対する敬愛が込められていたキングの自伝本は人として成長した証でもあった。
「私、キングのトレーナーになれて本当に良かった。奥様にも、キングにもどれだけ感謝しても足りないくらい感謝してる」
「何よ改まって」
「私が最強のトレーナーであり続ければキングはずっと一流でいられる。そう思ってたのに、いつもキングは私の予想を超えていくね」
『最強のトレーナー』、その称号に拘ってきたガヴリエラはそれがどれ程険しく難しい道のりかを知っている。
トレーナーである以上、その優秀さはその教え子の成績によって決まる。負けてそのウマ娘の所為にするのは簡単でも、自分の何がいけなかったのかを判断できるトレーナーはそう多くはない。だが、現実にはそれが出来る一流のトレーナーは存在するのだ。
そんなトレーナー達に囲まれ、幾度も経験の差で負けてきたガヴリエラにとってはそれは最早夢でしかなかった。
だが、キングが自伝本の最後に綴っていた言葉は、そんなガヴリエラの夢さえも既に背負っているのだと気付かされた。
「ありがっ
たとえ最後になろうとも、ガヴリエラは感謝の言葉を告げてから送り出そうとしたがその言葉はキングの人差し指によって遮られた。
「その言葉を口にする権利はまだ与えないわ。私が勝ってからになさい」
キングの尊厳な態度を崩してコンディションを落とさせない為に忠臣を演じていた筈のガヴリエラも、いつの間にか望んでキングに主導権を握られていた。
自分の主がそう望むのならとガヴリエラも命令に応えるべく言葉を飲み込み、他の選手達が誘動員に従って控え室から移動を始めるとキングも立ち上がってから背を大きく伸ばした。
「よしっ、それじゃあ貴女はスタンドから貴女が育て上げたキングの勇姿を見てなさい」
キングはいつになく余裕を見せていて、「キング」とガヴリエラが最終確認をする為に呼び止めたがその足は止まる事はなく、手をヒラヒラと振るのみだった。
ガヴリエラはそんなキングを信じて控室を出ていき、スタンドへと上がると既に人で埋め尽くされていたが、「おーい!」と沖野が手を振っているのが見えたガヴリエラはトレーナー達が集まっている先頭へと人の波を掻き分けながら移動した。
「遅いから心配したよ」
「貴方に心配されたくないでしょ」
「ハナさん酷い!?今のパワハラにならないのか南坂!?」
「ならないかと……」
チームスピカの沖野、チームリギルの東條、チームカノープスの南坂。他にも教え子を決勝の舞台まで引っ張ってきたトレーナー達が揃い踏みしているが、トレーナー同士でいがみ合うような事はない。
競い合うのはあくまでも教え子、自分達は出来る限りを尽くしたのだから信じて見守るのだと知っているからだ。だが、ガヴリエラはトレーナー同士の交流がどうしても苦手だった。
勝負で負けたからには其処には必ず理由がある。其処に感情を挟めばきっと判断を見誤り、次の負けに繋がる。それがガヴリエラの信条であり、もしも自分が『ウマ娘』ならばそれをトレーナーに望むからだ。
「『1番8番人気キングヘイロー。前年は短距離部門を制覇したウマ娘ですが、中距離部門の壁は厚いのか予選準決勝での順位は芳しくありませんね』」
「『彼女の末脚の恐ろしさは知られていますからね。ここまで事前に対策を打たれての順位ですので、此処は外寄りのゲートが欲しかった所でしょうね』」
「『彼女は自伝本の中で中距離部門を制覇すると豪語していましたが、並み居る強豪を斬り伏せる事はできるのか期待しましょう』」
キングが自伝本を中距離部門出走へのアプローチとしてどう活かすか考えた結果、回りくどい言葉ではなく『今年度は最高のトレーナーと共に中距離部門を制覇する』と断言しURAに直談判する形で中距離部門出走は決定された。
それが正しい決断だったのかはURA内でも意見は分かれているが、URAファイナルズは数多くのウマ娘達に機会を与える場でもある。
キングヘイローにとってURAファイナルズ中距離部門決勝戦、『東京競技場左回り2400m』は雪辱を晴らす舞台だ。
「『各ウマ娘ゲートに入り、体勢が整いました。間もなくスタートです』」
ゲートの中では0.01秒でも速くスタートダッシュを切ろうと各ウマ娘が集中力を高めていて、特にツインターボは先頭に立つ為にゲートの練習を重ねてきている。
練習に付き合ってくれたチームメイトと南坂の為に二連覇の栄光を掴むべく既に領域へと踏み込んでいて、シンボリルドルフ達も前戦の勝利による余裕は一切見せなかった。
前年度とは違い、レース前から流れるウマ娘達の威圧感にスタンドは自然と静かになっていき、ゲートが開く音が競技場に響くと一斉にウマ娘が駆け出した。
「『今スタートしました!最初に踊り出てたの4番ツインターボ!続く1番キングヘイロー、3番ミホノブルボン!好スタートを切った三人を先頭にスタンドの前を駆け抜けていきます!』」
「『良いスタートですね。逃げる二人に紛れてキングヘイローも先頭集団で第一コーナーへ行きますが、此処からペースメーカーとしてレースを作っていく展開でしょうか』」
同じ逃げのミホノブルボンにさえ3馬身差を付けるツインターボ、それに惑わされずに自分のペースで走るミホノブルボンに続いてキングヘイローが第一コーナーを回っていき、後続も逃げ切られないようにペースを上げている。
序盤からハイペースなレースが予想される中、その展開を読んでいた南坂は当然その対策も用意している。先頭を走るツインターボは経済コースを走って先頭キープと体力温存に努め、その流れは見切っていたミホノブルボンは早期に決着を付けるべく更にペースを上げた。
「『第二コーナー先頭は依然4番ツインターボ、しかし3番ミホノブルボンが上がってきている!1番キングヘイローも後続に2馬身差を付けている!中団先頭を9番シンボリルドルフ!』」
「『キングヘイローはまだペースを落とさないみたいですね』」
シンボリルドルフも先頭が逃げ切らないように中団の先頭で様子を窺っているが、前を走るキングヘイローのペースは落とすどころかミホノブルボンのペースに合わせている。
スタンドの観客はまた暴発かと響めいているが、自伝本を読んだファンやトレーナー達はキングヘイローとガヴリエラが中距離を選んだ理由をすぐに察した。
「これは予想外というか、この為に出てたのか」
「日本ダービーのリベンジ、『逃げて勝つキングヘイロー』という訳ね」
日本ダービーで味わった屈辱を晴らすべく、キングヘイローとガヴリエラは一年を掛けて生まれ持った脚質ではなく実力で逃げを完成させていた。
全てはウマ娘とトレーナーとして『不可能はない』という自分達のプライドの為に、絶対に諦めないという確固たる意志をその走りで表しているのだ。
予想外の刺客に同じターフを走るウマ娘達も暴発は期待出来ず、その末脚を残されると先頭二人は差し切られると容易に想像が付いた。第四コーナー前までに並ぶ必要があると判断し、第二コーナーを抜けると向正面の直線で一斉に領域へと踏み込んでいった。
「『第二コーナーを抜けて先頭の4番ツインターボが向正面の直線に入るが、後続もぐんぐんと前に詰めていく!先頭から最後尾まで間伸びしていた差が8馬身を切ったか、中団はほぼ団子状態だ!』」
「何でこんな詰めて来てるのー!?」
先頭を走るツインターボは後続が凄まじい勢いで追い掛けて来ている事に動揺してペースを上げたが、後続が睨んでいるのはハイペースに耐え得るスタミナを持っているミホノブルボンとキングヘイロー。
シンボリルドルフは後続を警戒して少しずつ外へ流れていき、その隙にテイエムオペラオーが前へと詰め、その後ろをウオッカも追従していく。
「『ツインターボを躱してミホノブルボンが先頭へ!半馬身差のキングヘイロー、1馬身差のシンボリルドルフテイエムオペラオーが続いていく!』」
向正面を駆け抜けていくキングヘイローを追い掛けるのはチームリギル屈指の強豪二人。意外性のある走りにも十分対応できる二人は惑わされる事なくハイペースな先頭争いに参加し、徐々にその差を詰めていく。
「『先頭集団は第三コーナーへ!少しずつ疲れが出てきているのかペースは落ちてきているが、ミホノブルボン先頭は譲らない!』」
「『流石に歴代でも類を見ないハイペースですからね。意地の見せ合いになりそうです』」
長距離で走るよりもスタミナを消費したミホノブルボンは少しでも最後の直線に向けてスタミナの回復に努め、キングヘイローが横に並ぼうとも自分のペースを保った。
その外からはシンボリルドルフが巧みなコーナーリングで詰めていき、横並びの三人に前を塞がれたテイエムオペラオーは焦らず三人に隙間が生まれる瞬間に狙いを定めている。
だがその更に後ろ、集団最後尾から先頭を走るミホノブルボンでも感じる程の覇気が放たれると、前を走る全員が遂にそのウマ娘が上がり始めたと察した。
「『先頭は第三コーナーを超えたが、此処で後続から上がってきたのは10番スペシャルウィーク!足を残していたのか大外から集団を抜け出して快調に先頭へ迫っていく!』」
日本総大将スペシャルウィーク。キングと同じ黄金世代であり、並々ならぬ底力を秘めているスペシャルウィークは中団のウマ娘達を横目に駆け上がり、その目は既に先頭を捉えている。
「これも読まれてましたか」
「俺がというより、スペの直感だ。本を読んで、『キングちゃんなら逃げると思う』って言ってたんだよ」
「……やはり、敵いませんね」
キングヘイローの逃げを予見するスペシャルウィークの直感もだが、沖野はその直感を一蹴するのではなく一度思案する余裕を持っている。レースに絶対は無い、キングヘイローが逃げる可能性も考慮して前半のハイペースに倣う必要はないと決めていたのだ。
トレーナーとしての意地さえも見抜かれ、自分の指導だけではどうしても勝てないのだとガヴリエラは改めて実感させられた。しかし、ガヴリエラの表情に悔しさはない。
ただ「自分は弱い」という事実を受け止めている。
「最強のトレーナーになるのは諦めます。やっぱり私はキングの実力に頼っていただけだと分かりました」
「何もそこまで……」
「私は私の夢をキングに押し付けてました。こうすれば勝てる、ああすれば勝てると私が走る姿をキングに投影していた」
ガヴリエラが幼い頃から抱き諦めていた『最強のウマ娘になる』という夢。最強と名高い叔母の走りに憧れ、人に生まれた時点で叶わないと分かっていても、せめて最強のトレーナーになって担当を思い通りに走らせれば間接的にでも達成できたと思えるのではないかと夢見てきた。
そして、その叔母の娘ならば夢を叶えてくれるのではないか、そう願って引き受けたキングのトレーナーとしての道は最強には程遠いモノになった。頑固で、意地っ張りで、言う事を聞かないウマ娘はガヴリエラ自身の生写しのようで、妹を見ている錯覚すら覚えていた。
「『先頭は第四コーナーへ、1番キングヘイローがミホノブルボンと右隣に並ぶがその外から9番シンボリルドルフが抜け出し先頭へ!大外から迫った10番スペシャルウィークもキングヘイローと横並びになった!』」
「『スペシャルウィークは前年の借りがありますからね。此処1番の意地を見せてますね』」
「『シンボリルドルフがキングヘイローの行手を阻むように内へ寄っていく!徹底的に懸念要因を排除するその走りはまさに絶対の走り、スペシャルウィークは絶対を覆せるのか!』」
短距離での加速力に秀でたキングヘイローが逃げれば嫌でも序盤はハイペースになり、最後の直線勝負ではキングヘイローが有利になる。スペシャルウィークとの一騎打ちを想定しているシンボリルドルフが先にキングヘイローの勝利の芽を摘んだのだ。
「悪いが、君には行かせない」
シンボリルドルフの絶対の走り、そこには一切の妥協も慈悲もない。
前と左右を固めれてキングの行手は完全に塞がれ、最早キングの勝利は絶望的になった。
だが、あの日を誰よりも後悔し、悔やんできたガヴリエラは研究に研究を重ね、遂に完成させていた。誰でも何処でも勝たせるようになるという自分の完璧主義に反した、『キングヘイローが日本ダービーで勝つ為だけの作戦』を。
「『第四コーナーを超えて先頭は9番シンボリルドルフ!だが10番スペシャルウィークもそれに並んで…、1番キングヘイローがシンボリルドルフに並んでいる!?』」
レースをずっと見ていた実況は目の前で起きたというのにあり得ないものを見たかのようにキングヘイローがシンボリルドルフに並んでいると伝え、そんな筈がないとトレーナー達もコースに目を向けた。
シンボリルドルフはキングヘイローの末脚を警戒し、直線に入る前にキングが加速できないように内に寄ってキングの前方を塞いだ。そして左右にミホノブルボンとスペシャルウィークが並んでいるキングヘイローが前に出るには、一旦速度を落として外にいるスペシャルウィークの隣まで流れるしか道が無い。
だが、それではシンボリルドルフに並んでいると説明する筈がない。ならばキングヘイローが通った道は一つしかない。
「『1番キングヘイロー、ラチ側を走るミホノブルボンの前に飛び出し頭一つ抜けた!最終直線先頭はキングヘイロー、しかし後続も追い縋っている!』」
キングヘイローはシンボリルドルフとミホノブルボンの間にある僅かな隙間を狙い、全力の加速でミホノブルボンの前に出ていたのだ。
当然ミホノブルボンの走りを斜行で妨害したと言われる可能性もある。だが、コーナー且つ外回りから内側を走るミホノブルボンの前に出るというのは途轍もない加速力が無ければそもそも叶わない話。
現にその光景を目の前で見せられたテイエムオペラオーは選ぼうとはしなかった。無茶な走りや接触を嫌うキングヘイローが強引に前に出てくると思っていなかったシンボリルドルフとスペシャルウィークは同時に領域に踏み込んだ。
「『残り400メートル!先頭はキングヘイローだが、シンボリルドルフとスペシャルウィークは食らい付く!』」
絶対の無いレースで絶対を魅せる為。誇れる自分になる為。
二人はただ領域に踏み込むだけでなく、自分の夢を重ね合わせてそれぞれの輝きを放ちながらキングヘイローに迫っていく。
大歓声の中へ飛び込んでいく三人の内誰が勝つのか、誰にも予想の付かず誰も知らない展開にトレーナー達が固唾を飲んで見守る中、ガヴリエラは誰よりも大きな声で叫んだ。
「キング勝てェェ!負けるなァァ!」
一度もキングに強要しなかったガヴリエラが声を張り上げて初めて勝利を求めると、歓声の中からでもしっかりとその願いを聞き届けたキングの闘志は更に燃え上がった。
更に足に力を入れつつ、ストライド走法に切り替える事でその力を前へ踏み出す力に効率良く変換する。勝つのは隣にいる相手ではない。
今の自分を超える為に、更なる高みを目指すキングの足に迷いはなく、新たな領域へと踏み込んだ。
「『しかし、キングヘイロー突き放す!残り200m、リードは1馬身!このまま決められるかキングヘイロー!』」
一流の先にある『超一流』を目指すというキングの新たな夢に果てはなく、キングを追い掛けるウマ娘達とは別格の輝きを生み出している。
数多の一流ウマ娘達を置き去りにして駆け抜けていくキングヘイロー。その勇姿を見送るガヴリエラの瞳には涙が溢れ、それでもしっかりと自分が共に歩む道と決めたウマ娘とのラストランを見届けた。
そして、キングヘイローがゴール板の前を通過すると一斉に歓声が沸き、続くスペシャルウィーク達もゴールしていく中、徐々にスピードを落としいったキングヘイローは第一コーナー付近でようやく足を止めて膝に手をついて息をしていた。
だが、電光掲示板には審議の文字が表れていて、アナウンスからも第四コーナーを抜ける際のキングヘイローの斜行についてだと説明が入った。
「キングちゃんお疲れ様」
「ハァ……ハァ……随分とっ、余裕ね…!」
「キングちゃん程全力を出し切れなかったから。もう少し早く攻めておけば良かったかも」
審議の最中、スペシャルウィークは係員から貰ったペットボトルの水をキングに渡し、それを浴びるように飲むキングの身体からは雪を寄せ付けない程の蒸気を発している。
余裕の展開にたかを括り、全力を出し切れなかった事が自分の敗因だと語るスペシャルウィークはそれを見守るシンボリルドルフと視線を交わし、次期生徒会長として聞かなければならない事を口にした。
「『Eclipse first, the rest nowhere.』。この言葉の意味が分かる?」
「んっ……何よそれ、生徒会長の真似?って、次期生徒会長か……『唯一抜きん出て、並ぶ者無し』でしょ。貴方が選んだ副生徒会長が知らないわけないでしょ」
以前、スペシャルウィークに呼び出された黄金世代の四人は『生徒会役員になって欲しい』と頼まれていた。信頼と信用の置ける相手を選ぶ必要があり、見知った四人なら引き受けてくれるだろうと選んだスペシャルウィークに対し、四人もそうなるだろうと予想はしていた。
グラスワンダーとキングヘイローが副生徒会長、書紀にセイウンスカイ、庶務にエルコンドルパサー。それが一番適役だと決められ、キングヘイローもそれを断ることは無かった。
「………そう、だよね」
キングはスペの質問には100点の回答はしたものの、スペが求めていた回答ではなかった。次期生徒会長として厳しい判断を下すべきか、シンボリルドルフも口は出さないものの二人に手を差し伸べる真似はしなかった。
だが、「それと、私は他人の言葉で着飾ったりしないわよ」と息を整えたキングヘイローが顔を上げてから付け加えると、其処にはいつもの自信に満ち溢れ自分を疑わない『キング』の表情があった。
「え?」
「『緑の勝負服、不屈の塊!』」
電光掲示板にあった審議に文字が消え、3着から順位が発表される中キングが拳を空高く突き上げその人差し指は天を差すと、その姿を見たガヴリエラがキングコールが始めた。
まだ勝利は確定した訳ではなく、コールが判定に影響する事は決してない。だが、自分の勝利を信じて疑わないキングだからこそ、『キングヘイローに付いて行きたい』と思わせ、コールが伝播してスタンド全体へ広がっていくと会場はキングが完全に支配してみせた。
「勝つのは、このキングヘイローよッ!」
「『お待たせ致しました。URAファイナルズ中距離部門決勝レースは、審議を致しましたが到達順位の通り確定致します』」
コールが響くスタンドの中でもキングの勝利宣言は轟き、電光掲示板に1着1番の文字が表示されると更なる歓声が湧き上がった。
「『キングヘイロー、日本ダービーの雪辱を晴らし一着でゴール!2着スペシャルウィーク、3着シンボリルドルフ!』」
「『キングヘイローの完封勝利と言っていいでしょうね。常にレースの流れを掴み、最後にしっかりと決めてきた。まさに彼女の目指したキングの走りです』」
キングヘイローの走りは前を取られたミホノブルボンですら危うさを感じなかった程の加速力があり、余りある末脚をコーナーでの勝負に使えるようになったキングヘイローの実力を疑う者は誰も居なかった。
スペシャルウィークも自分の答えを見つけられたキングヘイローが普段よりも大きく見え、その様子なら問題はないだろうと笑顔を向けた。
「行ってらっしゃい、キングちゃん」
「……全く、貴方達には敵わないわね」
キング達が中距離部門に拘ったもう一つの理由。『アメリカ遠征』を予見していたスペシャルウィークは笑顔で送り出し、そんな様子にキングも朗らかに笑っていた。
「いつ位に帰ってくるの?」
「分からないわ。そう長く居るつもりはないけど、お母様のスタジオで手伝いもするから」
「アメリカ土産忘れないでねー」
「多分一緒に買いに行った方が早いと思うわよエル」
キングヘイローがアメリカへ遠征に行くと知り、最初こそ動揺した友人達もキングの母親の事も思えばそれも当然とすぐに納得していた。
一流のウマ娘であった母親に少しでも早く追い付き、いつか追い越した先で『超一流』を目指すキングはアメリカこそ次の舞台に相応しいと思っていた。
しかし、短距離部門制覇だけではアメリカに行っても出走できるレースは限られていて、その幅を広げる為に中距離部門を制覇したキングは遂にその道を開いた。
空港の国際線のターミナルでキャリーバッグを二つ引きながら友人達と話すキングに対し、後ろからそれを眺めるガヴリエラの胸は空虚感で埋め尽くされていた。
「本当に一人で行くの?」
「……ええ。私は向こうでやることがあって、トレーナーには日本でやる事があるもの」
キングヘイローが教えていた後輩達、延いてはカワカミプリンセスは気性も荒く並のトレーナーでは手が付けられない。
その為、斜行で1着を逃したエリザベス女王杯以降は不調が続くカワカミプリンセスに託す形でガヴリエラとの専属契約を切る事になり、ガヴリエラは新たにカワカミプリンセスと専属契約を結んだ。
カワカミプリンセスも憧れの先輩を指導したトレーナーともあり喜んでいるが、セイウンスカイが気にしているのは寧ろガヴリエラの方だった。
「意外だね。キングが契約を切るだなんて」
「お互いのステップアップの為よ。仲違いした訳じゃないし、貴方が気にする事じゃないわ」
最強のトレーナーになる夢を諦めたガヴリエラにとってキングとの契約終了は時期としては合っていた。担当ウマ娘に合わせた指導をガヴリエラ自身も学ぶ為、キングに従いはしたがその心は未だキングの側にある。
決して諦めないキングヘイロー以外に上手く指導が出来るのか、ガヴリエラは自分の指導力に不安を持っていたのだ。
セイウンスカイも『素直に言えばいいのに』と変わらないキングの頑固さに呆れていて、搭乗ゲート前まで来るとキングも振り返り改めて頭を下げた。
「ごめんなさいスペシャルウィークさん。頼まれて引き受けたのにすぐに不在にしてしまって」
「ううん、気にしないで。ラグちゃんも手伝ってくれるって言ってたし」
「気を付けてねキングちゃん」
キングが副会長を頼まれると予想した上で代理を頼んだのは黄金世代と同期、そしてマイルCSでキングを降した『エアラグナロク』。
多くのライバルの中でも最も適正の高いエアラグナロクに副会長代理を頼む事で、キングは生徒会役員として最初の役目を果たしたのだ。
「キーング」
エアラグナロクの返事にキングも安堵しているとセイウンスカイが突然前に出て来てキングも何かと思っていると、セイウンスカイはキングの目の前に来るや否や、つま先立ちになってキングの額に触れた。
まさか衆人の前でされるとは思わずキングも顔を真っ赤にし、やった本人も顔を赤らめているが、「早く帰って来なきゃ遊びに行くから」と意地悪そうに笑うセイウンスカイを見ると怒る気力は奪われた。
「貴方って人は……せめて来る日は連絡しなさいよ」
「りょーかい。ほら、ガヴリエラさんも挨拶しなきゃ」
セイウンスカイは少なからず恩のあるガヴリエラの背中を押し、皆の前に出すとキングも緩んでいた表情を引き締めた。
ガヴリエラはどうすれば自分の気持ちが伝えられるか分からず、自分の気持ちを表そうとその場に跪いてキングの右手に触れてその指先に口付けをした。
「I have been waiting for you for a long time. So I wish you good luck and good health. My lord.」
それがガヴリエラが絞り出せた精一杯の別れの言葉。自分の主を遠くから見守る忠臣としての言葉をキングは目を閉じながら聞き、そしてキングとして出来ることをしようと目を開くとガヴリエラの手を払った。
そして、呆然としているガヴリエラの頬を叩き、乾いた音が鳴るとガヴリエラは目を丸くした。
「There is no need to wait. You have your roud. And one day, run with me again.」
トレーナーとしてあるまじき発言を律し、あくまでも自分の道を進むように助言するキングヘイローは決して怒りは見せていなかった。
「So be proud, I'm your king.」
其処にあるのは長年連れ添って来たパートナーを励ます『キング』としての姿があり、最後まで引っ張られてばかりだとガヴリエラは涙を流していた。
その背中を押すように「あの時の権利、今あげるわ。せめてその言葉で送り出してちょうだい」とキングに言われ、何とか泣き止もうと涙を拭った。
そして、キングのトレーナーとして立ち上がり、その手をしっかりと握って想いを伝えた。
「今までありがとう。キングヘイローのトレーナーでいられた事を誇りに思うよ」
「こちらこそ、ガヴリエラ・ハーウッドがトレーナーだった事を誇りに思うわ。カワカミさんの事、よろしく頼むわね」
「任せて、何度だって勝ってプリンセスにしてみせるから」
これまでの感謝とこれからの健闘を祈って二人はしっかりと手を握り合い、そして惜しみながらも手を離すとキングは見送る友人達に手を振りながらゲートの向こう側へと歩いて行った。
キングヘイローも飛行機に搭乗し、荷物を置いてから自分の席に座るとその手には自分の自伝本が握られていた。
取り巻きの子達が言っていた『最後の独白』というトレーナーが書いたであろう部分を未だ読んでおらず、本人の近くで読むのは気が引けていたキングは初めてそれを読むことにしたのだ。
本を開きページを捲っていくと、最後の1ページだけガヴリエラが書いた文が載せられていた。その文はキングヘイローの文に比べれば1ページにも満たず、編集者も困惑しただろうとキングからも笑みが溢れた。
「もぉ……相変わらず自信家ね」
其処に書かれていたのはガヴリエラが夢を諦め、代わりにキングと共に歩んで得た確かなモノに満足したガヴリエラの想いが綴られている。
だが次第にその文字が滲んでいき、本に涙が落ちていくと大切な本を濡らすまいとガヴリエラの言葉を胸に仕舞ってから本を閉じた。
「ほんと…っ……似た者どうしなんだからっ…!」
血の繋がったもう一人の自分。トレーナーの頂点を目指すパートナーの為に自分も更なる高みを目指し、キングヘイローは新たな舞台へと旅立った。
『編集者の意向により、何故か私も書くことになりました。私はキングの原稿を殆ど読んでいませんが、私の紹介は不要だと思うので省略します』
『私は決して最強のトレーナーではありませんでした。最強のトレーナーは大事な勝負で風邪を引かないし、G1に拘って何敗もしません。これが他のウマ娘だったならきっと契約は切られてます』
『ですが、キングは最後まで私を選んでくれました。私はどんなウマ娘でも勝たせられる最強のトレーナーにはなれなかった。ですが、』
『キングヘイローにとって、最高のパートナーでいられたのなら私はそれに満足しています。次の中距離部門、勝つのはキングヘイローただ一人です』
キングは最初こそガヴリエラをただのトレーナーとして付き合ってた。けど、自分の我儘に人生を費やさせていると気付いてから一緒に走るパートナーだと気付いた。
ガヴリエラもキングが自分の代理でしかなく、完璧を要求した。けど、自分自身が完璧ではないと気付いてから、キングの事ばかり見ていて自分の道を見失ってた。
だから
MY LOAD=マイロード=私の主人
自分が進むべき道を道を示してくれるキングに忠誠を誓った。
でも、最後にキングはあくまでも『キング』であって、対等な存在だと示す為に
YOUR ROAD=ユア ロード=貴方の道
ガヴリエラに自分の道を行くように背中を押した。
最強の尊みタイトルが完成しちまったなァァ〜!!
これでノーベル文学賞は俺んモンだぜ〜!!
ガヴリエラのモデルは当然キングヘイローの父であるダンシングブレーヴの調教師だけど、もう一つのモデルはダンシングブレーヴの息子である『コマンダーインチーフ』という名馬。
キングのお兄ちゃんであり、名前の意味は『最高指揮官』。だからトレーナーとして最強を目指すという設定が入ったり、父方の家系でキング母に憧れたり、キングヘイローに自分を投影していました。
この世界線で実はもう5話くらい書く予定だったのですが、次のカフェタキが難産すぎて諦めたので、キングの話だけ投稿しました。