私達のURAファイナルズ   作:竹流ハチ

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URAファイナルズが全て終わり、少し後のお話。

次のエルグラはこれまでとは少し違い、レースには焦点を当てていないので少し時間が掛かるので合間合間にこの位の文量のSSを書きます。リクエストがある際は感想に投げて貰えれば、必ず目を通すのでよければ……何卒…

2500文字に込めたタキカフェの全て、此処に置いておきます。


EXレース1話 タキカフェ「自律神経失調とその対処法」

 

左足が使えなくなり、激しい運動が出来なくなってからというものの更に不健康に拍車が掛かってしまったらしい。

 

「かーふぇー、疲れたよー」

「っ、カップを持ってる時に引っ張らないでください……」

 

理事長に強請りに強請ってようやく手に入れた部室にはソファやホワイトボードといった基本的な調度品しかないが、カフェの私物であるコーヒーミルだけは使い古されていて異彩を放っている。

 

私とスカーレット君だけの筈だったチームに入ってくれたカフェは特別な活動は無いのに毎日顔を出してくれて、私の書類仕事も偶に手伝ってくれる。

 

「仕方ないからカフェには私の上に座る名誉を授けよう」

「そんな名誉はいりません……」

 

トレーナーになってからというものの書類仕事ばかりで疲れてしまい、淹れたばかりのコーヒーカップを持ったカフェが私の隣に座ろうとしたから手を引いて私の膝の上に座らせ、細い腰に腕を回して逃げられないようにした。

 

走れなくなってからは振り払いたい気持ちが振り払えなくなり、ふわふわとした熱源が胸に籠っても吐き出すのに苦労する。恐らくは負傷のストレスによる自律神経失調が原因だろう。

モルモット君と走っていた頃は健康に関しては彼が気にしてくれていたが、私一人になるとつい自分を疎かにしてしまう。早めに寝たり栄養には気を付けているつもりだが動悸が収まらない。

 

自律神経の回復には長い時間が掛かるが、丁度カフェが手にしているコーヒーに含まれるカフェインには自律神経を高める効果がある。でも私苦いのは苦手……なんだけど、今日はミルクの匂いもするじゃないか。

 

「んー、今日はミルク入りなのかい?」

「悪いですか……」

「いやいや、ミルク入りなら私も飲めそうだから失敬するよ」

 

丁度いい事にいつもブラック派のカフェがミルクを入れていると聞いては頂くしかないから、カップを拝借してから私の口に運んで一口頂いた。

 

いつもは渋いだけで眉間にグッと力が篭ってしまうがミルクの優しい甘さも口の中に広まると胸の詰まりが解れていく気がする。

 

「……飲めますか?」

「んー?んー、飲めなくはないかな」

「文句があるなら飲まないでください……」

 

人肌程の温度のミルクコーヒーが身体に染み渡ると書類仕事で固まっていたコリも溶けていくが、やはりコーヒーの味は舌に合わないからカップは返すとしよう。

 

とはいえ、カフェインの効果は検証済みで手放すには惜しい効果がある。仕方ないからカフェの艶のある黒い長髪に鼻を埋めるとカフェはこそばゆそうに身を震わした。

 

「何してるんですか…」

「君からはいつもコーヒーの匂いがするからね。コーヒーを飲んで間もない今なら、プラシーボ効果で匂いだけでもカフェインを摂取した時と同じ効能が得られるんじゃないかと思ったんだよ」

「……結果は?」

「コーヒーやトリートメントの匂いに混じって君の匂いもする」

 

カフェインの想像摂取が思いの外効果があったのか動悸も収まっていき、昂まっていた気持ちも鎮まっていくとカフェの心臓の鼓動さえも服越しに感じられる程感覚が研ぎ澄まされていく。

 

心臓の拍動音は心理学的にも精神安定の効果が見込まれる論文もあり、カフェインとの相乗効果でより落ち着く。髪から微かに香るラベンダーオイルの匂いも実に女性らしく不快感もない心地良さだ。

 

だが、こうして超至近距離でなければ分からないカフェ本人の匂いというのは言語化し難い匂いではあるが、不思議と一番落ち着くような気がする。

 

「何だか眠くなってくるね」

「仕事は…?」

「今日の分は終わってるよ」

「……じゃあ好きにすればいいんじゃないですか」

 

多幸感とでも言うのだろうか、カフェが腕の中に居るという事実に安心感を覚えている私がいるのは事実だ。大して走っていなかったのに、まだ走れるという事実にどれほど縋っていたのか思い知らされる。

 

まだ夢を追える、まだ夢を叶えられると信じて研究を続けていた生活がこれ程までに私を支えていたなんて。

 

「私は脆かったんだねぇ」

「……そうじゃなかったら此処に居ません」

「おや、つまり私が……いや何でもない」

 

カフェが嬉しい事を言ってくれるからつい揶揄おうとしたが、カフェの手が私の手に触れるとそういう気分ではないことが伝わってきてから私も口を閉ざした。

 

私に弥生賞で負け、体調を崩して菊花賞でのリベンジを狙っていたら私が走れなくなってしまった。そしてURAファイナルズでも私はカフェとの再戦よりもスカーレット君の未来の為に走り、足を壊した。

 

私の側にずっと居てくれたのに、私はいつも君の側からは離れるような事ばかりしてきた。それなのに君はまだ私の側に居ようとしてくれる。

 

「私はもう何処へも行かない……だから…」

「……」

「……また、君が淹れるコーヒーを飲ませてくれないかな」

 

自律神経失調による動悸も、カフェを意識した際の高鳴りも、こうしている間が一番楽になるが私に君を求める資格はない。

だから代替案としてカフェのコーヒーを飲めるように私も努力しようと提案すると、私の手に触れていたカフェは突然手を握り、私の膝の上で身体ごと私に向き直った。

 

そして顔を近づけて来るとまたミルクコーヒーの甘くほろ苦い味を感じ、目を丸くしていると近付いてた顔を離して鼻先まで真っ赤にしたカフェは何も言わずに立ち上がり部屋の扉の方へと向かった。

 

「カフェ」と呼び止めるとドアノブに触れたカフェの手が止まった。

 

「私が……貴女を連れて行きます。ずっと、この先も」

「……また迷惑を掛けるね」

「だから、偶に苦いくらい我慢してください」

 

カフェはそう言い残して部屋から出て行ってしまい、入れ替わるように入ってきたスカーレット君は何事かという視線で向けてきたけど「何でもないよ」と誤魔化し、すっかり眠気を飛ばされた私もまた資料を手に取りスカーレット君と打ち合わせをした。

 

スカーレット君の人生を背負う事になり私だけの問題じゃなくなったと思っていたけれど、そろそろ献身的なカフェにも報いないといけない頃合いかもしれない。

 

身体の不調を言い訳にすればまた機嫌を損ねてしまうだろうし、口八丁で何とかしようとする私の悪癖ともそろそろ卒業して心の内を曝け出す覚悟をするしかないようだ。

 

君を感じている時が一番心安らげる時間であると。




次のEXレースはテイマクか、ター南になります。ター南に関してはこういう感じの話というより、和気藹々とした話になります。

テイマクは湿度全開と共にサウナかと思うくらいの熱さを再現してみせます。

何かリクエストがあれば感想欄に書いて貰えればなるべく善処します。
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