私達のURAファイナルズ   作:竹流ハチ

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舞踏会に参加する事になったマックイーンとテイオー。

しかし社交ダンスは退屈だと文句を言うテイオーの為、マックイーンはある秘策を思い付いた。


EXレース二話マクテイ「私の帝王」

『お手をどうぞ、お嬢様』

「ひゃ、ひゃい!?」

 

どうしてこうなったんだろう。会長も来るって聞いたから参加しただけなのに、こんな大勢の前で踊ることになるなんて。

 

「舞踏会?」

「ええ。各界の著名人が集まりますの」

 

URAファイナルズが終わり、それぞれ次のレースに向けて練習を再開する中、ランニングをしているスピカではメジロ家の屋敷で行われる舞踏会が話題になっていた。

名家であるメジロ家が誇る令嬢マックイーンは当然ながら、生徒会長のシンボリルドルフや母親が有名人であるキングヘイローといった見知った仲のウマ娘も何人か参加している。

 

舞踏会ならば当然そのペアになる相手が必要だが、マックイーンはその相手に誰を誘ったものかと頭を悩ましていた。

 

「そういうのって男の人にリードして貰うもんじゃないんすか?」

「そうよね、マックイーンさんはドンと構えてたらいいと思うけど」

「ウマ娘の相手はウマ娘と相場で決まってますの。ほら、私達力が強いですし」

「「あー」」

 

女性ではあるものの常人とは比べ程にもならない筋力があるウマ娘の相手というのは男性でも難しい。

ましてや全員が視線を向けているゴールドシップのように文字通り相手を振り回しかねないウマ娘がいる以上、社交場のルールとしてウマ娘同士のペアが好ましいとされている。

 

「アタシだって普通の奴相手なら加減するっての」とズレた弁解をするゴールドシップは選択肢から除外した。

 

スピカのメンバーはそういった場での経験は少なく、無駄に気を遣わせてしまう可能性がある為に除外。同様の理由でライスシャワーやイクノディクタスといった見知った相手も除外。

 

そうなると関わりのあるウマ娘は基本的に良家の娘であり、既にパートナーを選んでいるという事実に気付いてしまった。

 

『ハイハイハイハイハイ!カイチョーが行くなら僕が行ってあげる!』

 

本人にやる気があり度胸もあるテイオーが走りながら手を挙げていて、マックイーンもテイオーならば多少教えればリードにも連れて来られるだろうと頷いた。

 

「それではテイオーにお願いしますわ。ダンス用のドレスは……お持ちではありませんわよね?」

「ボクがスーツ着るからいいよ!スーツも持ってないけど!」

「最初は皆ドレスで女性らしさを表現し、その後男性服に着替えて女役をリードする。社交界の常識ですわ」

「何それ訳わかんない!2着持ってかなきゃなの!?」

「2着目は事前に会場に送っておくものですわ。私が用意しておきますから、テイオーは早めに屋敷に来てください」

 

セミフォーマルのドレスを持っている事はマックイーンも授賞式などで確認していたが、ダンス用となれば気を付けなければいけない点も多い。

 

相方を頼むのであれば恥を掻かせる訳にはいかないとテイオーの為にドレスなどをマックイーンが準備する事にして、テイオーもそれに乗っかる形で舞踏会に参加することが決まった。

 

そうして月日は経ち、舞踏会当日になるとテイオーは人が集まる前に屋敷を訪れた。マックイーンが用意した黒ドレスを纏うと自分の持っているドレスとは違い丈が長い事に違和感を覚えながらも、顔を見せる時間までは二人でダンスの練習をして時間を潰し、夕方になるとマックイーンと共にホールへ顔を出した。

 

「それでは私は挨拶回りがありますから、テイオーは自由になさってて下さい」

「はーい」

 

メジロ家代表であるマックイーンは招待客への挨拶に向かい、一人ホールの端に置いてある椅子に座ったテイオーは既に集まっている招待客の顔を見回した。

知っているウマ娘に何処かで見たことがあるイケメン、政治家でもやってそうな貫禄のある初老等に対して対外的な知名度は引けは取らないものの、テイオーは場違い感を薄々感じ取っていた。

 

日本でトウカイテイオーの名を知らない者は少ないとはいえ、中身は普通の少女なのだから各界とのコネがある訳でもなく、何かしらの目的があって当たり障りのない笑顔を振り撒いている招待客等がどうにも性に合わなかったのだ。

 

「おめかしをした会長に会いたかった」、それだけの為に来たテイオーは立候補した事を少し後悔し始めた時、マックイーンが話しているのがルドルフである事に気付くとこれ幸いと椅子から飛び上がって側に駆け寄った。

 

「今日は招待感謝するよメジロマックイーン」

「いえ、日本ウマ娘の誇りたる生徒会長をお呼びしなかったらメジロの名が泣きますわ」

「そう言って貰えて嬉しいよ」

「カイチョー!」

「テイオー?」

 

マックイーンの招待で来たルドルフは緑色のドレスを着ていて、招待したマックイーンと談笑していたがテイオーがルドルフに抱き着くと驚いた顔を見せた。

 

「何故テイオーが此処に?」

「マックイーンのペアで呼ばれたの!」

「……そうか。こういう場に来るのも良い経験だ。将来私と同じ立場になりたいのなら社交界でのマナーも必要になってくるからな」

「うぇー?こういうの何回も来なきゃなの?」

「描いた未来図を形にするには私一人の力なんて無力さ。ならば踊りさえすれば名前を覚えてくれるこういった場は有難いものさ」

 

ルドルフもいつもより少し強く抱き締めてくるテイオーの心境を察していた。だがこれも大切な経験だと諭すように語るルドルフの言葉にテイオーは理解を示し、ルドルフから離れて連れてきたダンスのペアを見ると眉を上げた。

 

「あれ、グルーヴじゃないの?」

「ん?ああ、彼女もこういった場は疎いからね。彼女の人気を悪用しかねない者から守る為にも、人の見極め方を覚えて貰おうと思ってね」

「よろしく」

 

ルドルフの後ろに隠れていたのは笠松の英雄、そして病気で引退を囁かれながらも有馬記念を制したオグリキャップだった。

 

地方から中央にやって来て二度も有馬記念を制したオグリキャップは人生そのものがシンデレラストーリーで、その人気にあやかろうと画策する者は多い。当の本人が裏のある話は複雑である為によく理解できず、分からないことはルドルフに相談する癖を付けていた為に難を逃れたケースも少なくはない。 

 

そんなオグリを独り立ちできるように社交界での経験を積ます為に灰色のドレスを用意し、『美味しい料理が食べられる』と誘うとオグリは二つ返事で参加する事にした。

 

「それじゃあ私達は行くとしよう。マックイーン、もし迷惑じゃなかったらテイオーにも気を使って貰えないだろうか」

「ちょっと!子供扱いしないでよ!」

「ハハハ、では頼んだよ」

 

テイオーは子供扱いされたと憤っているものの、テイオーの事は誰よりも知っているルドルフにそんな事を頼まれたマックイーンも目を瞬かせていたが、テイオーの性格を考えるとすぐに思惑を理解した。

 

「仕方ありませんね。ではテイオー、彼方に料理が用意されてますので其方で休憩しますか?」

「マックイーンだけには子供扱いされたくない!」

「そういった所が子供っぽいんです」

 

地団駄を踏むテイオーを連れてマックイーンが料理が置かれたテーブルに向かい、招待客も軒並み顔を揃えるとメジロ家の当主が壇上に上がり感謝の言葉を述べた。誰もがその話に耳を傾け、話が終わると共に舞踏会は始まり、普通の男性と女性がペアになりプロの音楽家達の演奏に合わせて踊り始めた。

 

ウマ娘のライブとは違い極端な激しさや刺激はないものの互いに息の合ったダンスには華やかさがあり、招待客等は時折拍手をしているがテーブルの側に置かれた椅子に座っているテイオーはそれを詰まらなさそうに見ていた。

 

「もうちょっと派手にしないの?」

「そういう事をする場ではありませんわ。ステップを踏みながら相手との対話も楽しむ、それが社交界でのダンスですわ」

「ふーん、つまんないの」

「つまらなくても態度には出さないものですわ」

「マックイーンもつまんないって思ってるじゃん」

「走るのと比べれば、ですわ」

 

勝つのはたった一人、中には人生で一度しか走れないレースもある。その為に青春の全てを注ぎ込むウマ娘からしてみれば上部だけの社交界は退屈で仕方がなかった。

 

すぐ隣に座っているマックイーンも内心では同調するもののメジロ家の代表としてそれを表に出す訳もなく、今にも頬杖を突きそうなテイオーの手を掴んで行儀良くさせた。

 

「やっぱり、ボクこういう所向いてないや」

「……それでは私が面白くして差し上げますわ」

 

テイオーは不意に本心を口に出してしまい流石に自分から頼んでおいて我儘過ぎたと思ったが、マックイーンはその言葉を聞いてから立ち上がると人混みの中を掻き分けて何処かへと行ってしまった。

 

もう少しで自分達の番だというのに機嫌を損ねてしまい、そろそろタキシードに着替えないといけないが場所が分からないテイオーがソワソワしていると、突然目の前が手で覆い隠され『だーれだ』と聞き覚えのない声で囁きかけてきた。

 

「ええ…!?ホントに誰……!?」

「正解はー、セイウンスカイちゃんでした〜」

 

テイオーの視界を隠していた本人はアッサリと正体を明かし目隠しをやめると、テイオーも後ろを振り返ったが其処にいたのはスペシャルウィークの同期であるセイウンスカイだった。

 

水色のドレスを着て品のある格好をしているものの、逆向きで椅子に座っている姿は奔放そのものでテイオーも何故揶揄われたのかと不思議に思っていたが、「ちょっとは落ち着いた?」と言われると自ずと理由が分かった。

 

「ごめん……ちょっとマックイーンに悪い事言っちゃって」

「悪いことか〜。まぁ、こういう所ってつまんないしね。誰かと喋ってなきゃやってらんないよ」

「ちょ、声が大きいって…!」

「別にダンスが好きで此処に居るわけじゃないし、次からは断るからいいよ」

 

テイオーでも周りには聞こえないくらいの声で不満を漏らしていたが、スカイは周りの目など一切気にせず本心を語っている。自由に振る舞いながらも意志の堅いスカイにテイオーも感心していたが、同時に疑問も湧いてきた。

 

「じゃあ何で来たの?」

「ん〜、何でだろうね〜?」

『それでは次はウマ娘の皆様の入場です』

 

退屈するのは目に見えていたのにスカイが来た理由を聞こうとすると、いつの間にか男女ペアのダンスは終わっていて、司会の人間が着替えに行っていたウマ娘達に入場するように声を掛けた。

 

話すのに夢中になって着替えるのを忘れてしまったとテイオーは焦って立ち上がったけれど、「迎えを待つのも女役の役目なんだってさ」とスカイがテイオーの手を引っ張って座らせた。

 

「違うんだって……!ボクが男役なの……!」

「でもマックイーンが着替えに行ってたんじゃないの?」

「……へ?」

 

我儘を受け入れてくれたマックイーンに恥は掻かせられないとテイオーは抵抗したが、目を丸くして首を傾げているスカイがマックイーンは着替えに行っていたのではないかと疑問符を投げ掛けると、少しの逡巡の後に気の抜けた声を出した。

 

そんな事をしていると「何で席を移動してるのよ!」とタキシードを着たキングヘイローがスカイの前に現れ、「バレちゃった」と悪怯れるようもないスカイに呆れながらもキングはスカイの前で膝を付き、真剣な面持ちで手を差し出した。

 

「それではスカイさん、貴女に一流のエスコートを受ける権利をあげるわ」

「……キングのそういう面白い所好きだよ」

「なっ!?こっちは真剣なのよ!」

「分かってるって。ほら行こうよ」

 

キングからのダンスへの誘いに一瞬揶揄うことも忘れてしまったスカイは何とか絞り出した言葉で動揺した気を取り戻しキングの手を握ると、キングも仕方ないといった様子で手の甲にキスをしてからスカイを席から立ち上がらせた。

 

キングが特別仕来りを重んじているのか、それとも相手がスカイだから丁重に扱っているのかはテイオーには分からなかったが、顔を真っ赤にさせたスカイをしっかりリードする姿はテイオーの目からも格好良く見えた。

 

『テイオー?』

「ひょえ!?」

 

自分もキスされたりするのだろうかと気が気でないテイオーは目の前に立っているタキシードを着たマックイーンに気付かず、声を掛けられてからようやく気付いたが変な声も一緒に出してしまい、その様子にマックイーンも微笑んでいた。

 

「何を緊張していますの?」

「な、何でマックイーンがタキシードを……」

「面白い事、したいのでしょう?」

 

練習ではずっとテイオーがリードする立場だったのだから、本番では逆の立場にして新鮮さを出そうとしたマックイーンの計らいはほんの少し前ならテイオーの気も晴れただろう。

 

だがほんの少し前にリードされる女役がどんな扱いを受けるのか目の当たりにしたテイオーにとって、目の前に立っているマックイーンが自分に対して『男役』をするのだと考えると思考が止まってしまった。

 

「お手をどうぞ、お嬢様」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

ダンスで邪魔にならないように髪を一房に纏めたマックイーンがエスコートをする為に片膝を着いて手を差し出すと、まだ覚悟が決まっていないテイオーは反射的に手を握ってしまった。

 

しかし、マックイーンはキスをする様子はなくそのまま立ち上がるとテイオーを釣られて立ってしまい、ホールの中心へと移動して背に腕を回すと本命の準備が出来たと共に演奏が鳴り始めた。

 

何故キスをしないのか、して欲しいわけではないけどされない理由も無いテイオーは困惑しながらマックイーンのリードに合わせて静かに踊り始めた。

 

「あ、あのさ…」

「何ですか?」

「その、手の甲にキスとか、するんじゃないの?」

「それは特に親密な方と踊る時などにする一種のパフォーマンス、仕来りにはありませんがアンチマナーという訳でもありませんわ」

「そ、そうなんだね…!そういうの初めて見たからビックリしちゃったもん…!」

 

皆がそうする訳ではないのだと知りテイオーも一息吐くと、マックイーンもその様子から緊張していた凡その理由を察した。

 

「して欲しかったなら仰れば良かったのに」

「言う訳ないじゃん!」

「それはそれで傷付きますわね」

「あ、いや、マックイーンが嫌いだとかそういうんじゃなくて、ほらあるじゃん?その、恥ずかしいとか、そういうの見られたくないーとか、ね?それだよ」

「ふふふ、今日のテイオーは可愛いですわね」

「揶揄わないでよ!」

 

珍しくテイオーが押されていると周りのウマ娘達も笑っていて、初めこそ和やかなムードで踊っているように見せていたが、その様子を周りで見ている招待客等には彼女等が少しずつ苛立ってきているように感じた。

 

わざと動きを大きくし、わざと他のペアに近付いて意識させようとしていたり、社交の筈が少しずつ競い合い始めているのだ。

 

「皆さん、もう限界のようですわね」

「ボクももう合わせるの疲れちゃったよ」

「全く、後で怒られるのは私なんですよ」

 

何故ウマ娘が男役と女役に分かれるのか、何故その仕来りが生まれたのか。紐解けば古くからある常人とウマ娘の差が齎した軋轢を最大限良識的に捉え、都合の良い歴史解釈の為に生まれた現代の仕来りはあくまでも『ただのウマ娘』を想定している。

 

しかし、この場にいるのは誰もが認める優秀且つ勝利に獰猛な『優駿』。隣で踊っている者達より少しでも派手に、少しでも目立つ為に次第に動きが大きくなっていく。

 

「付いて来られますか、テイオー」

「望む所だよ、マックイーン」

 

最早我慢の限界、仕掛けるのならばこの場で唯一引き金を引く権利を持つマックイーンがテイオーに持ち掛けると、テイオーもやるからには勝ちを取りに行こうと頷いた。

 

そして遂にテイオーが大きく背を倒しながら片足を上げ、マックイーンがしっかりとそれを手で支えてポーズを取ると、音楽家は予定に無かったダンスに演奏を止めてメジロ家の当主は頭を手で押さえた。

 

そして演奏はクラシックからジャズへと変わり、社交から勝負へと変わったウマ娘達のダンスの勝利条件は単純明快。『他のペアよりも大きく動き、付いて来られなければ負け』、あくまでも社交ダンスの体は保ったまま何処まで競い続けられるかで勝負は決まる。

 

ウマ娘達は音楽に合わせながらもそれぞれの踊り方に切り替え、中にはブレイクダンスでペア同士でも競う者までいる混沌としたホールはそれでも招待客等の視線を釘付けにした。

 

「凄い……」

「あの子CMに使えないもんかな……」

「うん…一応話通しといて……」

 

日頃から身体を鍛え、並々ならぬ体幹もあるウマ娘達のダンスは技術面では粗が多くとも見栄えが良く、ウマ娘という存在が遠く感じていた招待客等は常人と同じ分野でも人並み以上に熟すウマ娘達にある芯の強さを体感した。

 

どれを取っても一級品のパフォーマンスの中で一番の輝きを放つのはルドルフとオグリのペア。スタンダードの踊りに徹しながらもホール全体を見渡す余裕のあるルドルフの完璧なリード、関節の柔らかさを活し動作をより自然でスムーズに魅せる事を無意識に行えるオグリの天性の勘。

 

他のペア達を避けながらもホール全体を使って存在感を示すダンスは招待客等を魅了し、敵わないと脱落するウマ娘達も多いがマックイーン達は決して引けを取っていなかった。

 

「会長達カッコイイなー!ボク達もぉっと、あんな感じにしようよー」

「私達の身長じゃ彼処まで映えませんわ。それよりも自分達の武器を最大限活かしますわよ」

 

テイオーの駄々を往なしながらリードするマックイーンはルドルフと同じスタンダードで争っても勝ち目ないと、ラテンアメリカの静動のメリハリのある情熱的なダンスで対抗している。

 

背格好では敵わないルドルフ達に見劣りしないのは、マックイーンのリードに対して一切の疑念を持たずに演じ切れるテイオーの柔軟な対応力もだが、何よりもお互いを信頼し合っている二人のダンスからは『熱』を感じられるからだった。

恥じる事なく大胆な演技に徹し、時に見つめ合う二人からは特別な感情を想起させ、見る者を惹き込む魅力があるのだ。

 

次々に脱落者が出る中、意地でも喰らい付くキング達と変わらず余裕の演技をするルドルフ、そして汗を流し口数は減っても熱は上がる一方のマックイーン達は演奏がクライマックスを迎えるのに合わせてラストスパートを掛けている。

 

「負けられない」「譲れない」「勝ちたい」、互いの気持ちが交差する中で3ペアがフィニッシュに合わせてホールの中央を目指し、センターを取ったペアが勝者だという共通認識が流れるとマックイーンはテイオーに目配せをした。

 

相方の想いを汲んだマックイーンはテイオーの腕を引き大きく数回ターンさせる事で他のペアよりも先に中央を取った。そして演奏の終わりに合わせてお互いに握った手の指を絡め、大きく体を反ったまま倒れるテイオーの背中を片腕だけで支えつつ、互いの鼻先が触れるほど顔を近づけ見つめ合う二人が情熱的なフィニッシュを決めた。

 

他の2ペアもその横でしっかりフィニッシュを決め、一瞬の静寂の後にホール全体から拍手と喝采が湧くと踊り切った3ペアは改めて招待客等に礼を払った。

 

 

 

 

「どうだった?」

「滅茶苦茶怒られましたわ」

 

当然と言えば当然なのですが、舞踏会が滞りなく終わったけれどおばあ様に「仕来りを軽視してはならない」と散々叱られ、私から仕掛けた事なのだからぐうの音も出ない私は何の反論もせずにその言葉を胸に受け止めた。

 

最後には「それでもセンターを取ったのはメジロ家の意地を見せましたね」と褒められ、顔には出さなかったもののおばあ様も内容自体は満足されているようだ。

 

先に自室で待たせていたテイオーは怒られたと言っているのにニシシとはにかんでいて、誰の為に身を切ったかを説教しようとも思ったけど、それ以上に目に付いたのはテイオーが着ている寝間着だった。

 

「それ私の寝間着ですわよ」

「うん、知ってるけど?」

「勝手に着ないでくださいまし」

「だって他に着てよさそうなの無かったんだもん!」

 

今日は泊まりになるのは承知していたし湯浴みを先に済ませているのは気にしないけれど、私が普段着ている寝間着を勝手に着てソファに寝そべってるテイオーは歳半ばの乙女とは思えない程だらけている。

 

シワになるから寝そべるのはやめて欲しいのだけど、今日は私のリードにもしっかり従ってくれたから多少は多めに見てあげるべきなのかもしれない。

 

「私もシャワーを浴びてきますから、先に寝てて下さい」

「えぇ!?遊ばないの!?」

「明日もトレーニングですのよ?遊びたいのならまた遊びに来たらいいじゃありませんの」

 

テイオーは「ぶーぶー」と不満を漏らしているけど私は聞く耳は持たず、備え付きのシャワー室で汗を流した。

 

教えてもないラテンアメリカのリードをした私に完璧なまでに合わせたテイオーは恐らく踊りではなく、私に合わせる事に集中していたからあそこ迄の踊りが出来たのだろう。

 

何をやらせてもすぐに吸収して自分の力に変えてしまうなんて、天才というべきか子供というべきか。

 

「……そんな貴女だから並んで走りたいというのに」

 

テイオーは私の為に奇跡を起こした有馬記念を最後に、普通のレースには出ないと私に言った。URAファイナルズに出たのは虫の知らせでツインターボが出ると察し、決着を付けるために出ただけ。

 

私と競う為には出てくれないなんて、今思えば冷たい事を言われたものですわね。でも私に誇り以外の理由で走りたいと思わせてくれるテイオーが居るから私も諦めずに療養しているのだから、あまり私を押し付けるのも気が引ける。

 

汗を流しながらテイオーと走ることばかり考えていると、つい長く浴びてしまっていたようでデジタル時計が30分進んでしまっていた。

 

そろそろ寝ないと肌にも悪いからシャワーを止め、バスタオルを巻いてから髪を乾かしたり肌の手入れをしてから浴室から出ると、テイオーも待っていられなかったのか先にベットに入って寝てしまっている。

 

客人を待たせてしまったと私も反省しながらベッドに近寄ると、ベッドの中央で堂々と仰向けに寝ているテイオーも寝息を立てていて寝たフリとかではなさそうだ。

 

私もその横に潜り込んでから枕に頭を預けると、完全に気が抜けているテイオーの顔は踊っている時とは違って随分と可愛らしい。

 

「……絶対振り向かしてやりますから覚悟しておいて下さいね、テイオー」

 

私の気なんて知りもしないし、考えもしないだろうテイオーへ宣戦布告の意も込め、無防備な頬に口付けをした。

 

テイオーはそれにも無反応だったけれど、今はこれくらいが丁度良い。続きは私の足が治って、テイオーとの決着が付け、貴方の側に相応しい存在になれたら考えるとしよう。

 

それまでは私の少し前に立っていてくださいね、テイオー。

 




一瞬のキンスカに永劫の輝きを感じる。

次の本編はかなり時間が掛かるので、次はキンスカかタカカフェになります。

本編の出来は過去最高を更新しているので、気を長くして待っていただければ。
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