「じゃぁ改めて・・・。駆逐艦朧、です。よろしくおねがいします」
「駆逐艦秋雲さんだよ!。これからよろしくね♡」
「・・・、秋月です。・・・よろしくおねがいします」
あの激甚な津波災害が発生してから2ヶ月ほどがたった5月初旬、鳥取県鳥取市にある鳥取砂丘にほど近い場所に作られた「鳥取臨時艦娘訓練所」、その宿舎の一部屋で朧と秋雲、秋月は新たに寝食をともにする寮室のメンバーとしてのささやかな親睦会を始めようとしていた。
艦娘や深海棲艦という存在がまだ世間に全く明かされていない中、秘匿しつつ艦娘艦隊を運営するために作られた国内5箇所に作られたの地下鎮守府では、実戦が行える艦娘が生活するだけで精一杯である。その上で艦娘としての能力が発現しているとはいえまだ何も知らない新人を育成することは困難であった。
そこで人の目を避けつつ新人の育成をしてゆくために、防衛庁が管轄している日本最大の砂丘である青森県下北郡にある猿ケ森砂丘、またの名を下北試験場、その場内に艦娘育成のための施設「下北艦娘訓練所」が作られていた。
しかしこの年に発生した東日本大震災での津波によって、その訓練所も少なくない被害を被っており、すぐに復旧が出来ない状態となってしまっていた。
しかし深海棲艦からの驚異が深刻さが増していっている以上、悠長に復旧を待つわけに行かなかった。そこで米軍の力も借りて下北訓練場の復旧を急ぐ一方で、臨時の訓練所を設置することになった。
周囲から隔離されており、人が住んでおらずある程度の陸地が確保できる海沿いの場所、つまり海岸砂丘が艦娘訓練所には理想的な場所であり、艦娘の存在が露呈するリスクを下げるためにもできるだけ巨大な方が良い。そこで「第二次世界大戦中、日本軍が鳥取砂丘に大量の弾薬を分散して地下に保管していた」という偽の情報を発表し、国内第二番目の巨大海岸砂丘である鳥取砂丘を一時的に封鎖、隔離したのである。
もちろん長期的な封鎖は出来ず、場所の関係上陸上での砲撃訓練も行えない。そこはあくまでも下北訓練所が回復するまでの間、座学や海上航行、海上での簡易的な射撃訓練を行うためだけの施設であった。
爆発物撤去のための工作員の宿舎として偽装された艦娘宿舎。それぞれの部屋は小さな机をどかしたらようやく数人が囲んで座れるほどの小さな寮室に簡易的な三段ベットと小さな机が3つ押し込まれた窮屈な空間であった。ただ艦娘というあまりにも貴重な人材であるのが考慮されたのか、冷暖房だけは完備されていた。
その一室で3人はお互いの顔を見合う形で囲んで座り、臨時施設が故にその寮室に持ち込める飲食物は水のみであったので、それだけを飲み合うだけの親睦会が始まったのである。
「本来の訓練所では、ジュースとお菓子の袋を一つだけ持ち込めるらしいんだけどね・・・」
「くそぉ・・・、津波めぇ・・・。記憶に残るこの会をこんなひもじい会にしやがって・・・」
「しかたないよ・・・。それで私達の能力が覚醒したんだから・・・」
「・・・、はいはい!。暗い話はここまで!。もっとパァッと明るい会にしようよ!。ただでさえひもじい会なんだし」
「・・・、そうですよね」
悲観的になり始めた空気をなんとか修正した秋雲、その真意に気が付き、気持ちを切り替えた朧。明日からのことを考えても今は明るくしてゆきたいというのは同じであった。
ただそんな二人をよそに、
「・・・秋月さん、どうしたの?。ずっと顔色が優れないけど・・・」
秋月だけはうつむいたまま、渡されたペットボトルの水を開けもせずに、ただ見つめているだけであった。
「なになに~?。明日からの訓練が怖くなってきたのかなぁ?」
「ま、まぁ確かに不安は感じてますけど・・・」
「・・・、すみません・・・。秋月はもう寝ます・・・」
そういうと秋月は、三段ベッドの一番下のベットに潜り、ベットのそれぞれの段に備え付けられているカーテンを閉めてしまったのであった。未開封のペットボトルだけが秋月が座っていた場所に残された。
「・・・、なんか気分が良くないようだねぇ・・・?」
「・・・、そう思っても仕方ないのかも、多分・・・」
「・・・・ま、まぁ、気を取り直して二人で始めますか・・・」
「・・・、そうですね」
うっかり口を滑らしてしまった秋雲、まさに後悔後に立たずであった。結局その日はあまり盛り上がることはなく、消灯時間を迎えてしまうのであった。