「やっぱり、どっちにも入れない?・・・」
「・・・やっぱり入りづらい・・・、どっちの環にも・・・」
「そういう所、結構気にするんだね・・・」
「まぁ・・・、ねぇ・・・」
この臨時訓練所での生活も3週間が立ったある日。その日は休日だったこともあり、二人は砂浜に座り、すでに傾き始めた日を見ながら、訓練所でのお互いの知らないことを話し合っていた。ただ落ち着いた感じではあったが、その内容は気が重くなることばかりであった。
「秋雲さんは・・・、中途半端な存在なんだよ・・・。どっちからも見向きもされてなんだよ・・・」
「そんなことないよ。陽炎さんも夕雲さんもそんな人じゃないよ」
「でもなぁ・・・。そういう朧はどうなの・・・」
「やっぱり曙がね・・・。いい子なんだけど・・・」
「”艦の記憶”・・・、それに引きずられているんだろうねぇ・・・」
「・・・、もともと家庭が、ねぇ・・・」
「はぁ~・・・、みんな色々抱えてるんだねぇ・・・」
朧も秋雲もお互い、この訓練場の生活での悩みはなかなか大きいものであった。
秋雲は宿した”艦”が陽炎型とも夕雲型とも深い関わりがあるため、気負いしてどっちの環にも入れず、もっぱら同室の朧とつるんでいたのである。もちろん打開したいのであるが、秋雲自身の気にしがりやな性格がそれを邪魔していたのであった。なおのちに陽炎、夕雲、秋雲での三者面談が偶発的に発生し、その結果事態は収束に向かうのであるが、それは別の話であった。
一方朧も、艦娘になる前から親友であった漣、曙、潮とでグループを作っていたのであるが、艦娘になる前から人間不信の一面があった曙が、それを悪化させて周りとトラブルを起こし続けており、気を揉んでいたのである。こちらも曙と一番仲がよかった潮との劇的な出来事により改善に向かうことになるのだが、それもまた別の話である。
それらだけでも非常に大きな悩みであったが、やはり二人に共通する一番の悩みとは・・・、
「しかし、秋月は相変わらず・・・。なんだよねぇ」
「流石に見てられなくなってくるよね・・・」
「なまじ一緒の部屋だしねぇ・・・」
そう秋月であった。相変わらず他の人と訓練以外で付き合おうとはせず、勉強と体力づくりにひたすら打ち込んでいたのである。それでも使命を抱えている以上、他にもそうした子もいるのだが、秋月の場合はそれとも違うのであった。
「あんな・・・、精力を感じない目を見続けたら、いやでも気になるよ・・・」
「・・・あんまり考えたくないけど・・・、生に執着してない感じが嫌な想像しか出てこなくなるよ・・・。筆のノリも悪くなるし・・・」
「・・・、秋雲・・・。なにか掴めた?」
「いんや・・・、全然・・・。誰も何も知らないんだって・・・。教員もだ・・・」
「やっぱりか・・・」
「プライバシーがあるのはわかるけどさぁ~」
プライバシーや個人の安全など様々な問題があるため、艦娘たちの本来の名前等の個人情報は一切公開されておらず、艦娘同士で教え合うのも禁止こそされてはいなかつたがあまり推奨されてはいなかった。
そのためか二人がなんとか秋月の力になりたいという思いから色々秋月の過去について調べようとしていたのだが、現実はきじしいものであった。誰とも関わっていない秋月、そんな人の個人的な情報を持っている人などいるはずがなく、教員もプライバシーの問題があるから教えられない、の一点張りであった。こうした状況ではもはやさじを投げたくもなってくる。
しかし、
「・・・なんとかしないといけなんだよ。それが多分、秋月さんのためになるんだから・・・」
「いい加減スッキリさせたいしねぇ~」
二人は諦めていなかった。寝食を共にしている仲間を簡単に見捨てるわけにはいかなかった。
そんな二人の意思が神様に届いたのだろうか・・・、
「あのぉ・・・」
「うん?」
「お?」
神様は二人に”贈り物”をくれたのである。それは事態を打開するヒントではなく、”答え”そのものといえるほどのものであった。
「秋月姉の同室の・・、人ですよね・・・」
「は、はい・・・。そうですが・・・」
「見かけない顔だけど・・・、新人さん?」
二人に話しかけてきた人がいたのだが、今まで見かけたことのない子であった。ただ制服は秋月と若干の差異はあったが同じようなデザインであり、そこから秋月の姉妹艦であるということだけはわかった。
「私・・・、今日ここに来た秋月型防空駆逐艦2番艦、照月と言います。秋月姉なんですけど・・・」
艦娘としての能力が発現するのには個人差もあり、こうして遅れて訓練場にやってくる人も多い。現にこの日は照月と夕雲型の4番艦長波が配属され、同室となっていたのであった。
「・・・それが、誰とも関わりたくないようで・・・」
「寮室でも、教室でもあんな感じでして・・・」
「・・・、やっぱり・・・」
「「・・・?、やっぱり?」」
照月のその言葉に、思わず同時に反応する朧と秋雲は、
「やっぱり、ということは・・・」
「前から秋月を知ってる顔なの?」
とおもわず聞き返してしまった。
「・・・、秋月姉・・・、いや”汐里ちゃん”とは幼馴染で・・・」
「幼馴染・・・」
「てことは、ここに来る前のことを知ってる?」
「はい・・・」
思わぬ出来事に事態を打開できる期待を大きく抱いた二人ではあったが・・・、それは筆舌し難い程の秋月、いや”秋谷 汐里”の苦しみに触れることでもあった。
二人に促され、間に座った照月こと、”小山 照恵”はあの日秋月と一緒にいた幼馴染であった。数ヶ月前に起きたあの災害で汐里の身を襲った現実を、自身も家を失い、語ることも辛い中恐る恐る語り始める。
突然の体が飛ばされそうになるほどの揺れ、生まれ育った街が跡形もなく水で押し流されてゆく光景、両親の死とあまりにも寂しすぎる葬式、それから呆然と小さくなった”両親”の入ったタッパーを見つめ続ける毎日・・・。その悲惨な現実に二人は返す言葉を見つけることすらできなくなっていた。
一方の照月も二人から語られたここでの秋月の姿に、ついには泣き出してしまっていた。照月自身も震災の翌日から秋月の異変に気づいて、秋月が訓練所に行くまでの間、幾度となく寄り添おうと努力していたが、結局は振り向いてすらくれなかったのである。それでも訓練所で何かが変わるかもと思っていたのだが、そんな僅かな願いも砕かれてしまったのである・・・。
そして泣き止む気配がないまま、日暮れを迎えてしまっていたのであった。結局照月は二人に付き添われて寮室に戻らざる負えない状態で、着いたら着いたで長波に誤解されたのか二人は睨まれてしまったのであった。その時は泣きながらではあったが照月の必死の説明でなんとか誤解を解くことには成功したが、それでもお互いモヤモヤしたままそれぞれの寮室に戻ってのであった。