繋がれた親子の絆   作:マツケン-2

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第五章

「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

 

小雨が降るなか、市民から封鎖されている海岸を見られるのを防ぐために建てられた工事用の壁を横目に秋月は無心で走っていた。何も考えることもなく、浮かんで来ることすらない、ただ体を強くするためだけに走っていた。

 

こうして走っているのも、早く海で戦うため。そして誰にも見られることなく、静かに波間に消えるため。それがどれだけの人間に迷惑をかけるか、秋月にもわかっていた。しかしもう現世では両親との再会は永遠に敵うことがなく、信じていたことには裏切られ、重い十字架と背負うであろう責任、それらに心が押しつぶされた秋月には気にならなくなってしまっていた。

 

両親は海に奪われた、後を追うのであれば同じ海でありたい。それは両親に近づきたい子供心なのだろうか、全てははやく海に出るためであった。

 

周りの風景にも目をくれず走っていると、やがて進路上に3人の人がいることに気がつく。

 

同室の二人、それに幼馴染、いや今は姉妹艦の照月であった。小雨が降っている中、自分の進路を塞ぐ形で立ち、自分をはっきり見据えて真剣な眼差しを向けていたのである

 

しかし秋月はそんな三人に目も合わせず、すこし道を逸れて3人の脇を通過し、走り続けようとしていた。

 

「汐里ちゃん!、だめだよ!!。お父さんお母さんはそんなことは望んでないよ!!」

 

ただ照月のその声に、足が止まってしまっていた。

 

「照恵ちゃんから聞いたんだ・・・、震災で両親が亡くなったことを・・・」

 

「だからって後を追うなんて馬鹿なことを考えるのはやめなって!。自分で命を断っても行くのは地獄!、両親になんて会えないだからさ!!」

 

朧は秋月の過去を聞いたことを話し、秋雲も「この世は魂を修行するための学校であり、自殺はそれの放棄であって、天国には行けない」というキリスト教や仏教などで共通で語られている事柄を持ち出していた。それは秋雲が訓練所に来る前の学校で、先生から来た話であった。。

 

「・・・どうしてわかるんですか。私の家族でもなにのに・・・。”わかった”というのはふりではなのですか・・・?」

 

しかし秋月はゆっくり振り返ると、そう言い返す。照月はたしかに幼馴染ではあったが、家族ではない。それは変わらない事実であり、他の二人にいたっては知り合って2ヶ月も経ってない”他人”である。

安易に家族のことを持ち出して、思い留めさせようとする行為に感情が抜け落ちていていたはずの自分から怒りの感情が込み上げきていたのである。

 

それは3人にもにじみ出ている秋月からの圧という形で感じていた。明らかに人を軽蔑し、怒りを覚えているという感情の圧である。その圧力は確証のない薄っぺらい正義感が簡単に吹き飛ばされるほどであった。3人も思わず少したじろいでしまうほどである。

 

しかし秋雲がその圧を押し返すかのように少し離れていた秋月に近づくと、

 

「証拠?。あるよ、ここに」

 

といい、手に持っていたコピー用紙の束を手に持たせた。

 

「・・・、なんですか、これ・・・。・・・!」

 

「両親は秋月さんのことを本当に第一に考えていたんですね・・・」

 

「じゃないと、こんなことしないよ!!」

 

そのコピー用紙に書かれて内容に朧と照月は感銘をうけていたのである。秋月自身もそれを見た瞬間、目つきが変わっていた。

 

そのコピー紙はある手紙の文面をコピーしたものであった。そしてその手紙とは、

 

「この字は・・・、お母さんの・・・」

 

両親が秋月宛に書いていた手紙であった。ただその手紙はすぐに本人に渡すためのものではなかった。

手紙の最後に書かれた日付は秋月の誕生日であった。他の手紙も誕生した年の年末や誕生翌年以降の年の暮れとなっており、それは秋月が成人したときに渡すつもりで毎年、両親二人が内緒で書いていた、一種のタイムカプセルであった。

 

一通の手紙に両親がそれぞれ半分づつ書いており、生まれたときの感謝や決意の言葉から始まり、その年の出来事や成長の記録、来年への決意など、事細かに書かれた手紙の数々はなかなかできるものではなく、並々ならぬ愛情があったことが如実に示されていた。

 

動揺を隠し切れない秋月がその手紙のコピーを読み進めている内に、とある年の手紙が目に止まった。それは震災の2年前、両親が家を建てることを決意した年の手紙、その父親が書いた部分であった。

 

『こんな小さな会社では大層立派な家を建てることは出来ないが、汐里が将来ずっと住んでいられるように頑丈な家にしたい』

 

と書いてあり、将来的に秋月に譲るつもりであることからしっかりとした家にしたいという意思表明であった。事実、あの地震でもびくともしていなかったのである。

 

しかしそのあとにはこうもあった。

 

『でも将来、なにかあったらこの家を手放すことになったとしても惜しくない。それで汐里の将来に暗い影を落とすくらいなら家なんていらない。汐里が立派な大人になってくれさえすれば、私達は何もいらない』

 

言葉は違えど、母親の方も同じことが書いてあったのである。それは秋月が立派な大人になることがただ一つの願いである、それが両親が影で持っていた気持ちであったのである。

 

「あっ・・・、あぁ・・・」

 

雨で既に湿気ていたコピー紙に一際大きな水滴がつく。そしてその水滴は後を追うように次々とついて行く。それは紛れもなく秋月の目から出てきたものであった。

 

震災の翌日、両親の死を知ってから凍りつていた心がようやく溶け始め、あの寂しすぎた葬式のときから本当は流したくて仕方のなかった涙が今、ようやく出てきたのである。

 

「お父さん・・・、お母さん・・・、うぅ・・・、ごめんなさい・・・」

 

嗚咽混じりの声を出し、その場にへたり込む秋月。抱きかかえたコピー紙は両親が抱いていた思いも知らずに後を追うようなことをしていた自分への後悔、両親への謝罪と感謝に反映してか、強く握りしめられぐしゃぐしゃになっていた。

 

しかしそれを気にすることもないまま、秋月は泣き続ける。今まで溜め込まれた感情を押し出すかのように泣き続ける。それみていた3人も目尻は薄っすらと涙が浮かんでいた。

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