ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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本当にアレが人間なのかよ──

あの特大の光の槍をまともに喰らって無傷とかありえないだろ

もう、俺の常識が今にも崩れそうだ




第9話 慈悲

リアス達の目には、あれほど一方的な強さを誇っていたコカビエルが一方的に

やられる様を見せ付けられていた。

 

「まずは、一本」

 

光の剣を振りかぶり、上段から切り掛かってきたコカビエルに対して、ひしぎは体を少し

ずらすだけで回避し、すれ違いざまに剣を握っている薬指と小指を掴み、そのまま逆の方向へ、

鈍い音を出しながらへし折った。

 

「がっ!」

 

痛みを堪えながら、相手の手を振りほどき勢いよく体を回転させ、ひしぎの居た場所に剣を

薙ぐが、すでに彼は居なくなっていた。

 

彼の姿を探そうと顔を回していたら、背中に拳が叩き込まれ、正面から地面へ

倒れこんだ。

 

「────!!」

 

既に声にならない叫びを上げるコカビエル──だが、彼の目はまだ死んではおらず、

必死にひしぎに喰らい付こうとして、震える四肢に力を込め立ち上がった。

 

「く・・・・貴様・・・!」

 

「ふむ、まだ言葉を喋れる元気はありましたか──では」

 

その瞬間またもやコカビエルの視界から彼の姿が消えうせ──

 

「あああああああ」

 

口の両側に生えていた上の牙2本を無理やり抜かれ、口周りから血が噴出した。

剣を落とし、口を押さえるコカビエルだが、血は止まらず、

腕と翼の傷は筋力に力を入れ、魔力で補強したお陰で血は止まっていたのだが、

ここに至るまで流しすぎて、意識が朦朧とするコカビエル。

 

自身をここまで追い詰め、一方的な実力差を感じた瞬間、恐怖が心を襲った。

 

人間如きに後れを取る事など──考えてもなかった。

特殊な『神器』、『神滅具』を持っているなら、まだ納得、理解は出来るのだが、

この人間は、そういう類の物を一切持っておらず、武器はただ腰に掛けてある

大刀のみだった──なのに、これほど圧倒される事が理解不能で、

コカビエルの脳内は混乱を極めていた。

 

「──貴様・・・本・・当に、人間・・・か」

 

口の中が血の味で充満しながらも、漸く搾り出した言葉に、ひしぎは

漸く動きを止めた。

 

「──ええ、ただの人間ですが何か?不思議ですか?堕天使である自分が、

 ただの人間にここまでされる事が」

 

「あたりまえだっ!たかが人間如きに、堕天使である俺が負けるはずがない!」

 

コカビエルの咆哮に鼻で笑うひしぎ。

 

「──それは貴方の持論です。世の中には、人間であっても貴方達の云う"神"と同等以上に

 力を持つ者もいるのです。たかが数世紀生きただけで人間を下等と蔑む貴方は、

 世界を知らなさ過ぎる」

 

そう、ひしぎの考えが当たっていれば、この日本中のある場所にコカビエル以上の力を持つ

人間はいる。

 

「それに、先ほど貴方は自身の欲望の為に戦争を再開すると言っていましたよね?」

 

確認すような口ぶりで聞き返すひしぎ。

 

「ああ、そうだ!俺はこの世界を、俺の欲望を満たすためだけに混沌に落とす!

 誰にも邪魔させねぇ!──戦争の中こそが俺の故郷だ!戦いこそ俺の生きがいで全てだ!

 戦いの中で死ねるなら本望だ!俺の望みは戦争の中にしかない!

 戦いのない日常など、滅びてしまえばいい!戦うために"力"を持ったのに、

 それを使わずして何に使うと云うのだ!アザゼルもミカエルもサーゼクスも

 俺から言わせてみればみな腑抜けだ!牙、爪のない肉食獣ほど怖いものは無い」

 

「コカビエル貴方・・・!どこまで魔王様を侮辱すれば気が済むの!」

 

コカビエルの叫びを聞いていたリアスが憤る。

 

「はん!戦わぬ魔王を侮辱して何が悪い、本当の事だろう!

 本来悪魔は、戦うべくして生まれた存在だ、その存在意義を忘れた時点で

 悪魔は滅びるべきだ!天界もそうだ!悪魔の存在を野放しにしている時点で、

 同罪だ──だからこそ、本来あるべき姿に戻す、あの頃のようにな!」

 

コカビエルは確かに戦争を望んでいた──だが、自身の欲望ともう一つ理由があったのだ。

天使、悪魔、堕天使は本来あるべき姿に戻って欲しいと、言葉には出さないが

深層心理の奥底で願っていたのだ。

 

牙を失った彼らを見ていると、存在意義をどんどん忘れていき、将来全ての種族が

消えてしまうのでは無いのか、と思っていたのだ。

 

先の大戦後、徐々に戦闘意欲が失われていく中、一つの解決策を思いついたのだ

──戦争を起こせば再び彼らは存在意義を思い出し、闘争本能が目を覚まし、

自分達が何者であるかを思い出すと。

 

(俺は俺である為に戦いを欲した!)

 

戦争の無くなった日々は、徐々に自身の心を大きく蝕み、精神が磨り減り、

自分自身の存在が無くなるとさえ思えるようになり、恐怖まで感じたのだ。

 

そして、このまま戦争のない日々を生き、朽ちていくなら──戦闘の中で死にたいと

思えるようになり、残った部下に自身の意思を伝え、行動に移したのだ。

 

だからこそ、こんな所で躓くわけにはいかなかった。

 

「俺は──俺は!俺の存在意義を確かめる!──だから邪魔をするな!人間!」

 

コカビエルの心からの叫びに、目を伏せたひしぎ

 

(ああ、なるほど──自分自身が失われていく恐怖を感じていたのですね)

 

言葉にしていなかったが、彼の深層心理を読み取り理解した──だが。

 

「──貴方の言っていることは分かりますし、否定もしません。

 確かに、貴方の言っている世界こそが本来あるべき世界なのかも知れません」

 

「ならば、なぜ俺に攻撃する!」

 

自身の言葉を肯定するひしぎの考えが分からなかった。

 

「私は、この世界がどうなろうと興味がありませんし、戦争が起ころうが起きまいが

 興味ないです。知ったことではありません。

 ──だけど、貴方はソーナの命を狙い、私の教え子を傷つけた」

 

戦争を再開するための生け贄としてソーナを殺そうとした事、彼と戦い傷ついた小猫の為に

剣を振るうのだ──それ以外の理由など無い。

 

「──たった、それだけの理由でか?」

 

そんなちっぽけな理由で自身の行動を阻害されたコカビエルは怒り散らした。

 

「ふざけるな!ふざけるなよ!たがか、小娘達の為に邪魔をするだと!?

 たったそれだけの事で俺の夢を、願いを壊されてたまるか!」

 

「貴方にとってはちっぽけと思いますが、私にとっては世界よりそちらの方が

 重要でなのです」

 

第二の人生を歩み始めたひしぎにとって、世界がどうなろうと関係なかった。

 

自分が思うように生きると決めたので、降りかかる火の粉は振り払うが、

積極的に世界に干渉しないと決めたのだ。

 

ただ、例外となるのはソーナと小猫の二人の事。

 

自身の存在を認めてくれた子と、自身が見てあげないと壊れそうな子、

二人を守るためならば、この忌むべき力すら全て使用すると決めた。

 

故に、ソーナを殺そうと画策した事、小猫を傷つけたコカビエルを許せなかったのだ。

 

「──ですので、もう死んでください」

 

ひしぎが大刀を抜き、上段から斬りかかり、コカビエルはそれを受け止めようとして、

光の剣を横に構えるが

 

「無駄ですよ」

 

大刀と光の剣が接触した瞬間、光の剣は一瞬で真っ二つになり、そのまま肩から、

腹部まで縦に切り裂かれ、血しぶきが舞う。

 

そのまま、ひしぎは動きを止める事無く、背後に回り一閃、

前のめりになるコカビエルを正面に移動し、アゴを蹴り上げ浮上させた。

 

「彼女の痛みはこれだけではありませんよ──」

 

ひしぎがコカビエルの体を浮上させるように斬り上げていく。

彼の体は斬られる度に、空中へ上昇していき──浮上した直後は、

どうにかもがいていた彼だが、十を越えた辺りで既に抵抗らしい抵抗は無くなり、

斬られるままに上昇していき、高さが数十メートル越えたときに、ひしぎは斬るのをやめ、

彼の上へ回り込み、体を捻り回転させ勢いをつけ、彼の腹部に右足をめり込ませ、地面へと叩き落した。

 

轟音と共に地面へ激突し土煙が舞い、数メートルのクレーターを生成する。

煙は晴れ、陥没した地面の中心には全身血まみれで咳き込んでいる

コカビエルの姿があった。

 

「ごふ」

 

全身を斬り刻まれ、今の蹴りで内臓数箇所と背骨が折れ、

既に立つ事も、剣を握る握力さえも失っていた。

 

辛うじて意識を繋ぎ止めているコカビエルの心は既に、恐怖と絶望に塗り替えられていた。

 

(なんなんだコイツは・・・!──殺される!)

 

いかに歴戦の猛者であったコカビエルであっても、ここまで一方的に蹂躙され、

遂に心が折れてしまったのだ。

 

空中から自由落下を始めるひしぎは、コカビエルの姿を視線に入れると、

『夜天』を鞘にしまい、居合いの形を取る。

 

(やばいやばい!逃げなければ!)

 

その形を視界に入れたコカビエルは必死に腕や足に力を入れるが、まったく

動かなかった。

 

既に上空に斬り上げられた際に、肩の腱、足の腱、手首の筋肉を両断されており

痛みのあまり、いつの間に斬られたのかが分かっていなかった。

 

(光が──光の洪水が来る!)

 

自身の最大魔力をつぎ込んだ光の槍を割った攻撃が──来ると感じたのだ。

 

「・・・・」

 

ひしぎは無表情のまま、光速で2本放った──

 

光の斬撃は2本、コカビエル目掛けて放たれた。

 

「あぁぁ──あああああああああ!」

 

もう叫ぶ事しか出来ないコカビエル──無慈悲にも光の洪水が彼に降り注ぐ。

 

大音量の大地を割る轟音と共に、衝撃波で周りの視界が土煙で塞がる。

 

「きゃ!」

 

あまりの圧倒的な戦闘であった為、言葉を忘れたような感じで凝視していたリアスと

グレモリー眷属達は、突如発生した衝撃波により、吹き飛ばされてしまう。

 

「うぉ!」

 

「くっ!──一誠君捕まるんだ!」

 

咄嗟に祐斗は聖魔剣を地面に突き刺し、飛ばされていた一誠を掴み、足に力を入れ踏ん張り始める。

 

「リアス、掴まって!」

 

「──っ!ソーナ!」

 

予めソーナに周辺に結界を張っていたひしぎ、そのお陰でソーナは余波を受けずに居た。

 

飛ばされてくるリアスと朱乃を咄嗟に掴み、結界内に引き込む。

 

そして、勿論小猫の周辺にも張っていたので、小猫とアーシア、治療中の

ゼノヴィアも結界内に入っていたので飛ばされずに済んだ。

 

「・・・これは」

 

その轟音で、コカビエルに切り刻まれた際に意識を失っていた小猫が目を覚まし、

周辺を見て呟いた。

 

「行き成り、ソーナ会長と黒ずくめの男の人が助けに来てくれて、今黒ずくめの方が、

 コカビエルと戦闘中なのです」

 

アーシアは事の顛末を簡単に説明する──すると、アーシアに治療されている

ゼノヴィアが補足した。

 

「戦闘中──いや、蹂躙中と言った方があっている気がする──私たちが、束になっても

 かすり傷しか負わせられなかったコカビエルが手も足も出ない状態なんだ」

 

自身達に圧倒的な実力差を見せ付けたコカビエルが、まるで赤子扱いされている。

 

「──恐らく、アレはまだ実力の半分も出しておらず、コカビエルをギリギリ生かしながら

 痛めつけているように見える」

 

ゼノヴィアの言うとおり、ひしぎは実力の半分以下しか出していないのだ

──体が回復しきっていないので、今出せる力を調整し、コカビエルを生かしながら、

斬り刻んでいた。

 

本来ならば、一太刀で楽にさせてあげるほどの優しさを持つ彼だが、ソーナの命を狙い、

小猫を傷つけた報いとして、戦闘しながら死ぬ事が本望だと、言ったコカビエルの

願いを叶えさせない為に、徐々に命を削り、絶望と恐怖を与える事にしたのだ。

 

──それが、彼がコカビエルに与える罰。

 

「──ああ、見ているこっちが恐怖を感じるほどの実力差──まるで『処刑人』だな」

 

ゼノヴィアの目には、罪人を断罪する処刑人に見えたのだ。

 

「・・・・」

 

小猫はゼノヴィアの言葉を聞きながら、黒ずくめの男を捜し、正体の確認を急いだ。

 

(黒ずくめの男性──あの人しか居ない)

 

既に脳裏に映し出しているのは、白衣を来たひしぎ──ただ、本当かどうかを

確認したかったのだ。

 

そして、漸く視界に写す──ひしぎはゆっくりと地面へ向けて降下中だった。

 

(──ひしぎさん)

 

「ちなみに、小猫ちゃんの体の治療をしたのもあの人です」

 

アーシアがひしぎを指差す。

 

「──え?どういうことですか?アーシア先輩の力ではなく?」

 

その言葉に耳を疑った小猫。

 

「残念ならが本当の事だ。アーシア・アルジェントは君を治療していない、

 あの男が君に手をかざすと、彼女の『神器』と同様に暖かい光が

 体を包み込み、体を癒したのだ」

 

コカビエルに切り刻まれた小猫を治療すべく、アーシアは駆け寄ろうとするが、

あまりにも戦闘が激しく、余波も激しく近づけずにいた。

 

そして、漸く小猫の元に辿り着き治療を開始し始めようとした時に、あの槍が

投げつけられたのだ。

 

その瞬間アーシアは目を瞑り、近くで倒れていたゼノヴィアは虚ろな目で

その槍を凝視して──死んだ、と思った瞬間に、行き成り黒い影が彼女達の前に表れ、

片腕でその槍を地面へ叩き落としたのだ。

 

その衝撃に呆気に取られていたゼノヴィアの視界に、黒ずくめの男が立っており、

そのまま横たわる小猫の横に膝を付き、優しく顔を撫でた。

 

「──よかった、間に合いました」

 

黒ずくめの男──ひしぎは、安堵をもらすとすぐさま椿姫と匙に施した様に、

小猫にも法力治療を開始した。

 

「──だ、誰ですか!?」

 

漸く目を開けたアーシアは正面に居たひしぎにびっくりして後ずさった。

 

「怪しいものではありません。ソーナと共に助っ人に来た者です」

 

ひしぎはそう言うが、彼女達の目には黒ずくめで怪しい人物にしか見えなかった。

 

「──小猫さんの治療は終了したので、貴方はそちらで倒れているお嬢さんを

 治療してあげてください」

 

そう言ってひしぎは立ち上がると、彼女たちを庇うようにして立った。

 

「あの者は私が処理しますので、安心してください」

 

そして、コカビエルとひしぎの戦闘が開始されたのである。

 

 

 

 

「と、云う状況だったのだ」

 

ゼノヴィアの説明に漸く事態を把握した小猫──でも、一つ腑に落ちないことがある。

 

「──あの人もアーシア先輩と似た『神器』を持っていたんですか?」

 

その疑問に、ゼノヴィアとアーシアは首を振る。

 

「いや、『神器』の気配はなかった」

 

「ええ、感じたのだ彼の"(オーラ)"だけでした」

 

『神器』を使用していたのならば、それ特有の気配があるのだが、まったく

ひしぎにその気配を感じられなかったのだ。

 

そして、アーシアは"気"の流れが彼から放出されている事ぐらいしか分からなかったのだ。

 

「──謎ですね」

 

小猫の呟きに、二人は頷く。

 

そして、そのまま小猫はひしぎの姿を再び視界に入れ──

 

(──助けに来てくれた)

 

自身を治療し、あまつさえコカビエルと戦ってくれている彼の姿を見ているだけで、

心の奥底が暖まる感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは静かに陥没した地面の中心に降り立つと、眼下に横たわっている

コカビエルを無表情に眺めた。

 

「ぅ・・・・ぁ・・・・」

 

既にうめき声でさえ消えかかっているコカビエル。

 

今の攻撃で残った片腕と片翼5枚、両足が両断されており、四肢全てを失った。

 

涙と血でぐちゃぐちゃになっているコカビエルの表情はとても痛ましいと、

思えるほどであったが、ひしぎは顔色一つ変えなかった。

 

ただ、この惨劇はあまり他には見せたくない──と、心の中で思うだけであった。

丁度地面が陥没しており、彼女たちからはコカビエルがどんな風になっているかが

ハッキリ見えないのが幸いであった。

 

「・・ご・・・ごろ・・じ・・で・・・ぐ・・れ」

 

必死に声を絞り出し、懇願し始めたコカビエル──既に痛みで気が狂いそうなほどであり、

唯一戦士としての本能が、それを押しとどめていたのだ。

 

「──貴方はこの戦いで、満足できましたか?死ぬ寸前まで、戦えたのに、

 どうしてそんな事を言うのです?」

 

彼は、戦いこそが本望と言っていた──だが、既に心が折られたコカビエルには

それを反論する事すら出来なかった。

 

「だ・・のむ・・・」

 

答えになっていないコカビエルの返答に、ひしぎはため息を付くと──

 

「──分かりました。流石にこれ以上苦しませるのは私の趣味ではありません」

 

そう言ってひしぎは腰を屈め方膝を地面へつき、左手の掌を彼の目の前に突き出した。

 

「──せめてもの慈悲です、痛みはありませんよ。塵も残さず消えるだけなので」

 

ひしぎは目を瞑り、左手に宿っている"力"に語りかけた。

 

(左手に宿りし"悪魔の眼(メドウーサ・アイ)"よ、今再び姿を表せ──)

 

コカビエルは見た──つき出された左手の掌が上下に割れ、その中から見るもの

全てを惹きつける、悪魔の魔眼が表れ、自身を凝視し脈を打っている。

 

目を直視した瞬間、彼の切断された両手両足部分は石化が始まり"灰化"し始めた。

更々と砂が崩れるような音が、聞こえ始めた。

 

「・・・な・・・に・・・」

 

そして、自身の体が石化した部分から灰化していく様を見、呟いた。

 

「この眼を見たモノは全て"灰化"する──では、さようなら堕天使の若き戦士よ」

 

"悪魔の眼(メドウーサ・アイ)"を掌から消すと、ひしぎはコカビエルを一瞥

すると、立ち上がり背を向けた。

 

既に頭、顔も"灰化"が始まっていたコカビエルは、呟く事も出来ず、そのまま灰になり、

風と共に散っていった。

 

コカビエルが消滅した為、校庭あった魔法陣も光が消えていき、同じく消滅した。

 

これで、街が消滅せずに済んだのだ。

 

そしてその光景を見て、何も言葉が出ないリアス達。

少なくとも自身達は悪魔であり聖剣使いであり、ただの人間より強いと自負していたが、

今までの彼女達の常識を多い覆す出来事が一度に起こり、整理する

時間が必要になった。

 

「──そんな・・・あの古の化け物が、ただの人間に負けるなんて」

 

リアスの脳内ではコカビエルを圧倒できる者は、数える程度しか思い浮かばなかった。

 

それが、突如表れた人間がやってのけた事実が、よほど衝撃的だったのだ。

 

ソーナは先ほど実力を目の当たりにしていた事で、立ち直りが早かったが、

流石に、コカビエルさえもここまで圧倒できるとは予想外だった。

 

「──ひしぎさん」

 

漸く、ソーナは思考を切り替え、ひしぎの元へ駆け寄ろうとした瞬間。

 

「──ソーナ。戦いはまだ終わっていないみたいです」

 

ひしぎは言葉で静止を掛け、視線を空へ向け──

 

「あの者が残っているので、そのまま結界内にいてください」

 

ひしぎの視線を追い、彼女たちも視線を空へ向けると、そこには白き全身鎧(フルプレート)

身を包み込んだ者が居た。

 

顔も鎧の一部に覆われており、中に居る者の表情が伺えない。

 

背中から生える8枚の光の翼は神々しさを醸し出しており、見るもの全てを魅了する

美しさであった。

 

だが、彼女たちには見覚えのあるシルエットだった。

 

──そう、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

一誠の鎧姿と酷似していたのである。

 

『・・・・『白い龍(バニシング・ドラゴン)』』

 

ポツリと呟いたのは、一誠の籠手に宿る『赤い龍(ウエルシュ・ドラゴン)』であった。

 

ひしぎと彼女達の視線に気が付き、白の全身鎧が降下してきた。

 

「・・・ふふふ、俺の存在にも気が付くとは」

 

全身鎧から発せられる声は男の声であり、存在を感知された事に喜びを感じていた。

 

「──早速で悪いが、勝負だ!」

 

男はそう言い放つと、一直線にひしぎに向けて降下し始めた。

目にも留まらぬスピードは白き閃光と化し、夜闇を切り裂きながらひしぎへ突撃をしかけ、

拳を振りかぶった。

 

金属がぶつかる音と大地が割れる音が同時に発生し、周囲に響かす。

ひしぎは鞘から抜いた『夜天』の刀面で白き龍の拳を受け止めいた。

 

だが、降下の勢いと白き龍の実力が合わさり、受け止める事が出来たが、

ひしぎの足元には地面がその威力、衝撃が殺せず地割れが起きてしまった。

 

そのまま『夜天』に力を入れ、白き龍の腕を弾き返したひしぎ。

 

「──っ!」

 

弾き返された勢いに身を任せ、白き龍は距離を取る──ただの人間に、

力で負けるとは思っていなかったのだ。

 

「まさか力で俺が負けるとは──面白い!」

 

白き龍は構えを取り、再度突撃を掛けようとした瞬間、白の全身鎧に埋め込まれていた

宝玉が突如光を発した。

 

『待て!ヴァーリ!弾かれた腕を見てみろ!』

 

ヴァーリと呼ばれた男は声の指摘に素直に従い、弾かれた右腕を見た。

すると──小指の部分から肘にかけて鎧が斬られていたのだ。

 

「なん・・だと・・」

 

ひしぎは彼を弾き返す瞬間に、刀面を一旦下げ、腕が進む前に一瞬で刃の部分と入れ替え

弾いて見せたのだ。

 

『腕は切られていないが、踏み込みが後1歩前進していたら腕は裂かれていた』

 

冷静に分析する宝玉の声に、ヴァーリは鎧の中で歓喜な表情を浮かべていた。

 

(こいつは──本物だ)

 

足に力を込め始めると8枚の翼が今まで以上に光を発した。

 

(次の一撃で──決める)

 

彼を中心に、地面は力の圧力が掛かりひび割れ始め、圧倒的な力の流れに、

物理法則を無視して石が上空に舞う。

 

小細工などひしぎには通用しないと思い、全身の力を足と腕に集中させる。

既に一撃目で実力差を感じていた──だが、彼にはソレは戦闘を止める

理由にはならなかった。

 

彼もコカビエルと同じく、戦いを愛するものであり、戦闘狂であったのだ。

 

故に──コカビエルと戦えると期待していた彼の視界に入ったのは、

圧倒的に蹂躙されるコカビエルの姿だった。

 

その姿を見ていたヴァーリはアザゼルからの命令を忘れ、

戦ってみたいと思ったのだ。

 

「ハァァァ!!」

 

膨大な力の奔流を体に巻きつかせながら、咆哮と共に地面を蹴るヴァーリ。

蹴られた地面は力によって爆発し、周囲に石や砂を撒き散らかす。

 

「・・・・」

 

先ほどより突撃速度が上がっていたが、ひしぎは無言のまま彼を見据え、

一瞬で距離がゼロとなり、拳を突き出すヴァーリ

 

(今度こそ──捉えた!)

 

自身の視界には避けず、ただ佇むひしぎが写っており、拳が彼の腹部に

突き刺さろうとした瞬間──頭部が掴まれ地面へそのまま叩き付けられた。

 

「がはっ!」

 

自身の突撃の衝撃をそのまま頭部に受け、

顔の鎧が割れ、苦悶をもらすヴァーリ、叩き付けられた威力により、

彼の中心から約10メートルのクレーターが出来上がった。

 

「──まったく。行き成り襲い掛かってくるとは、お仕置きが必要ですね」

 

ひしぎはそう言って、左手で彼の頭部を押さえ込み、右手に力を込め振り下ろす。

 

「ぐっ!」

 

鎧で覆われていたはずの左足は、鎧を砕き割られ、そのまま中の足の骨まで粉砕された。

足を潰された事により、悲鳴が漏れそうになるが我慢するヴァーリ

 

「──さて、質問します。貴方は何をしにここに来られたのですか?」

 

ひしぎはとりあえず目的がわからないので、質問した。

 

「──っ!」

 

割れた鎧の中から見える銀髪で端正な顔立ちの男──ヴァーリは、

ひしぎを睨み付け、言葉を発さなかった。

 

言葉を発してしまったら、戦いが終了してしまうと思ったのだ。

 

「──ふぅ。答えないつもりですか。分かりました。

 ──全身砕き割られる事がお望みなんですね」

 

答えるつもりが無いと判断したひしぎは一旦ため息を付くと、もう一度右手を振りかぶり

今度は腕を砕こうとした瞬間──

 

『堕天使総督アザゼルからの命令でコカビエル回収の為にやってきた!

 貴殿と戦う為に来たのではない!』

 

いきなり宝玉が光を発し話し始めた。

 

「っ!アルビオン!お前!」

 

突如事情を話しはじめた宝玉──アルビオンにヴァーリが止めようとするが。

 

『ヴァーリ!お前はここで再起不能にされるのが望みなのか!違うだろう!

 少し頭を冷やせ!私達は、戦いに来たのではない!』

 

アルビオンに言われ、ヴァーリは下唇を噛んだ。

確かに彼ら悪魔側と戦いに来たつもりでは無かった──故に言い返せなかったのだ。

 

「──訳を話してもらえますか」

 

ヴァーリを拘束していた左手を離し、宝玉へ語りかけるひしぎ。

 

『相方の暴走を謝罪する』

 

アルビオンはヴァーリの取った行動を謝罪し、自身達が来た理由を語り始めた。

 

元々堕天使の総督であるアザゼルは、コカビエルの不穏な行動に早くから目を付け

監視をつけていた。

 

そして不穏分子を全員炙り出す為にそのまま泳がし、監視していた。

そして漸くコカビエルが動いたので、自身の部下である『白い龍』に事態の収拾、

即ち、コカビエルの回収を頼んだのだ。

 

居場所を突き止め、現地に着いた頃には既にコカビエルはボロボロであり、

負けていた。

 

元々コカビエルと戦う気でいたヴァーリーは相手をとられた事により

不完全燃焼に陥り、そのまま暴走してしまい、ひしぎを襲ったのだ。

 

「なるほど、貴方達の事は理解できました──ですが、彼は私が消してしまったので」

 

『ああ、それはこちらでも確認した。だから、そこで伸びているエクソシストだけ

 回収する』

 

裕斗に負けたフリードは依然意識が無いまま、校庭に転がっていた。

 

「──では、早々にお願いしてもいいですか?」

 

『了解した──ヴァーリ。仕事だ』

 

「──ああ。分かったアルビオン」

 

アルビオンの話を黙って聞いていたヴァーリはその間に頭を冷やし、頷いた。

 

左足は砕かれて使えないが、翼で空中を飛び、フリードを肩に担ぎ上げ、

ひしぎの方に顔を向けた。

 

「──貴方、名前は?」

 

「ひしぎと云います」

 

ヴァーリの質問に名乗るひしぎ。

 

「また、いつか俺と再戦してくれ──」

 

続く言葉に目を丸くするひしぎ──彼は、実力差を見せ付けられてもなお、再戦を

希望する。

 

ヴァーリの目はコカビエルとは違い、生き生きとしていた。

 

(──なるほど、厄介な人に目を付けられたかもしれませんね)

 

まるで、おもちゃを見た子供のように無垢な表情を浮かべているヴァーリ

 

「──ええ、分かりました。いずれまたお相手しますよ」

 

そういう表情を見せられたら、断りきれなかったのだ。

 

その答えに満足したのか、そのまま飛び去ったヴァーリ。

 

その姿が消えるまで見届け、漸く長い戦いが終了した。

 

誰もが予想できなかった、一方的な蹂躙でコカビエルの死。

 

白き龍の到来。

 

その二天龍の片割れすらも圧倒した人間の存在。

 

今までの彼女達の常識を多い覆す出来事が一度に起こり、整理する時間が必要に

思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその30分後大急ぎで来た魔王直属の援軍が到着し、リアスとソーナは

事の顛末をとある部分を濁し、改ざんしながら説明し、事後処理を彼らに任せ、

体を休めるために皆、帰宅した。

 

 

 




こんにちは、夜来華です。

ちょっとやりすぎた感のある話です。
そして、ヴァーリーがひしぎに興味を持ち、一誠を無視しての撤退。

原作乖離の部分がまた徐々に浮き出て来ました。
ちなみに、アーシアのコカビエルの呼び方は呼び捨てだったでしょうか?
調べてみたのですが、見つからず呼び捨てで書いてみました。

感想、誤字脱字、一言頂けると嬉しいです。
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