ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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目の前で起こっている戦いは


正直、私達の遥か想像を超える戦いでした


魔王すら凌駕する存在相手に、あの人は──



第15話 古の戦い

 

ひしぎはセラフォルーを抱えたまま、結界を中和し新校舎の会議室へ乗り込んだ。

行き成り室内に現れたひしぎにロスヴァイセはオーディンを守るようにして、

咄嗟に身構える。

 

(──気配が無かった・・・!)

 

得体の知れない人物に警戒心を抱くが

 

「殺気を収めよロスヴァイセ、彼は今のところ敵ではない」

 

オーディンは焦る様子すら見せずに、優しげな視線で彼を見ていた。

当の本人は、二人の視線を無視したままそのまま部屋の中に進み、

ギャスパーの停止能力が解除され、解放されて状況の把握ができていない桃の

目の前に立つと、優しくセラフォルーを床に寝かしつけた。

 

「桃、この子の治療を頼みます」

 

「え? は、はい!」

 

状況が漸く飲み込めてきた桃は、セラフォルーの横で膝を付き両手をかざした。

すると、淡い光がセラフォルーの全身を包み込み始めた。

 

桃の法力治療がキチンと発動したのを確認すると、ひしぎは腰を上げ、

彼女達に背を向けて歩き出した。

 

「──あの時と変わらず強さじゃな」

 

隣を通り過ぎようとしていたひしぎにそっとオーディンが言葉をかけた。

その言葉に表情を崩すひしぎ。

 

「貴方はかなり年を取られたのですね──最初見た時、全然気づきませんでした」

 

まるで以前から知り合いのような口調で話す二人に困惑するロスヴァイセ。

 

「まぁのぉ。あれから何十世紀も経ったんじゃ。むしろお主が若すぎるんじゃ」

 

「──そうですね。我々は一定の年齢を過ぎると容姿に変化が殆ど無くなるので」

 

その言葉に笑い声を上げるオーディン

 

「まったく、羨ましい限りじゃ」

 

「──まぁ、とりあえず昔話は後ほど。私も貴方に色々聞きたい事がありますし」

 

「分かったわい」

 

既にひしぎの居場所を突き止めた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』がこちらに向けて、

徐々に近づきつつあった。

 

「ただ、私が相手をするのはあくまでも『陸の魔獣王(ベヒーモス)』のみです、

 邪魔すれば容赦はしない──と、伝えてもらえますか?」

 

勝手に乱入してくるのは別だが、魔獣以外ひしぎが戦う理由はないのである。

そして勿論の事、自身の戦いに邪魔を刺すなら容赦なく切り捨てると、

伝言をお願いしたのだ。

 

「分かった──ロスヴァイセよ。アザゼルとサーゼクスにそう伝えよ」

 

「──わかりました」

 

一瞬、傍を離れても大丈夫なのかと思案したが、黒尽くめの男からの敵意が

感じられない事を確認し、頷き外へ飛翔した。

 

ひしぎはロスヴァイセが伝言を伝えに飛翔したのを確認すると、

同じようにして開いている窓からそっと地面へ降り立ち、

腰に下げてあった夜天を構えた。

 

「オオオオ──!」

 

ひしぎ目掛けて突進してきた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は右前足を振り上げると、

頭部目掛けて拳を放つ。

 

ひしぎは焦る事無く顔を左に逸らし、振り下ろされた拳を回避し、そのまま懐に入り、

夜天の柄の部分で『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の顎と下から強打し、

巨大な体格を浮かせると、自身も跳躍しそのまま股の辺りから頭部まで夜天を

振り抜き一直線に切り裂いた。

 

空中で真っ二つにされた『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は大量の鮮血を断面から

噴出させ、咆哮を上げながら鈍い音と共に地面へ落ちた。

 

誰もが、倒したかの様に見えたが隣に降り立ったひしぎの表情は気を

緩めていなかった。

 

(肉質が変化している)

 

最初腕を両断した時の感触と、今両断した時の感触の感じが若干異なっている事に

気がついたひしぎ。

 

(先ほどより若干ですが、硬くなってますね)

 

肉質が先ほどより硬化していたのだ。

 

(それに、まだ生きている)

 

ひしぎの眼下では、急速に体が再生しつつある『陸の魔獣王(ベヒーモス)』。

無言のままひしぎは夜天を構え、トドメを、心臓を刺そうとすると──

 

「させません!」

 

今まで手も足も出せずに見ているだけだったカテレアが漸く事態の拙さに気がつき、

手に生成した魔力砲をひしぎ目掛けて放つ

 

「おっと、お前さんの相手は俺だ」

 

ロスヴァイセから連絡をもらったアザゼルは一番彼らとの距離が近かったため、

間に割り込み、防御魔方陣を最大展開し魔力砲を受けきった。

 

(なぜ、奴が出てきたのかが分からないが、この状況利用させてもらう)

 

陸の魔獣王(ベヒーモス)』との相性が悪いため、自身とサーゼクスでは、

足止めしか出来ないと悟っており、ひしぎが『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の相手を

すると聞いたため、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』さえこちら側にこなければ事態の収拾の

目処が立つので、このひしぎの行動を最大限に活用しようと考えたのだ。

 

「くっ・・・!」

 

道を阻まれたカテレアは表情を歪めながら、上空に居るヴァーリへ向けて叫んだ。

 

「彼の相手は貴方に命令していたはずですよ!?」

 

堕天使側を裏切り、アザゼルの妨害をした後、空中に待機していたヴァーリ。

叫ばれたヴァーリは表情は鎧により隠されていて読めないが、肩をすくめる様な仕草を

取りながらカテレアの傍に降り立った。

 

「──カテレア、忘れているようだからもう一度言う。確かに俺はお前達『禍の団(カオス・ブリゲート)』と

 手を組む事は了承した──が、俺に命令出来るのは俺が"認めた人物"のみだ。

 それ以外の命令はその時判断すると、組む条件として提示しそれはお前らも承知のはずだ」

 

「──なっ」

 

ヴァーリの言葉に言葉を失うカテレア

 

「分からないのなら言ってやる──俺はお前の命令は聞かない。戦う相手は俺自身が決める」

 

ヴァーリはそのままカテレアの横を通り過ぎると、こちらに向かって歩いてきていた

人物の前に向き直った。

 

「そういう訳だ──俺は今の君に実力を知りたい。我好敵手(ライバル)──兵藤一誠」

 

「ああ、俺もそんな気はしていた──受けて立つぜ」

 

ドライグから様々な歴代『赤龍帝』の話を聞き、避けては通れない道と判断した一誠は、

あの時、彼が学園を訪れてから覚悟を決めていた。

今の自分の実力では、はっきり云って足元にも及ばないかもしれないが、

逃げるような真似だけは仲間の前では見せたくなかった。

 

「いい顔つきだ──ならば存分に戦おう」

 

一誠の真剣な顔つきにヴァーリも嬉しそうな表情を浮かべる。

歴代『赤龍帝』でも最弱かも知れないと、相棒のアルビオンから前から聞いており、

ヴァーリは最初は落胆していたが、今日この日この場所で、再会した時に自身に向けられた

一誠の瞳には戦う意思が宿っていた事を知り、前から打診されていたアザゼルの

相手を放棄し、一誠と戦ってみたくなったのだ。

 

ヴァーリは堕天使側を裏切った理由──それは"最強を目指す"事であり、

3勢力側にはまだまだ自身より強い人物が大勢いる。

それらと戦うには、和平を組まれてしまったらそう簡単には戦えない。

戦えたとしても本気の戦いにはならないと悟り、

そして、もう一つの目的の為に裏切りを決意したのだ。

 

「──っ! この戦闘狂め…!」

 

カテレアはそう吐き捨てると、アザゼルの方に向き直った。

 

「まぁ、あの程度ではまだ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は消滅できません」

 

再生しているという事は、コアが無事な証拠であり、まだ『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は

戦闘継続が可能なのを確認した。

 

「では、堕ちた天使の総督よ! その命私が貰い受ける!」

 

「──はっ! やれるもんならやってみやがれ!」

 

 

 

 

 

振り下ろした夜天の刃が胸へ刺さり心臓へ到達する直前に、

突如左側から攻撃の気配を感じ、左腕で防御体制をとるが衝撃までは

防げなかったため、吹き飛ばされるひしぎ。

 

咄嗟に刀身を地面へ差し込み、飛ばされた勢いを止め着地する。

 

そして自身が居た場所に視線を向けると、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の尻尾が

ゆらゆらと揺れており、尻尾を使い勢いよく飛び起きた。

 

既に両断されていた部分は再生が終わり

 

「■■■──!!」

 

天に向けて咆哮を放った瞬間──『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の全身から、

赤黒い闘気(オーラ)が勢いよく噴出し全身の筋肉が盛り上がるが、全長は収縮し、

2メートル強ぐらいまで縮んだが、先ほどとは比べ物にならない位の威圧感を周囲に放つ。

 

「なるほど、それが貴方の本気ですか」

 

暴走状態であったが、不完全な召喚だったため全力が出し切れていなかったのである。

そして『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は漸く、本来の持てる力を全力で放出する事が

可能となったのだ。

 

そして、カレテアから奪ったオーフィスの『蛇』の力も取り込んでいるため、

先代魔王の『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の力は既に超えており、

初代魔王が使役したレベルに匹敵するぐらいの力を得ていた。

 

後ろ足でで大地を蹴った瞬間、暴風が生まれ周囲の砂塵などを舞い上がらせた。

 

(──速い)

 

セラフォルー戦の時より目に見えて敏捷さが上がっており、ひしぎは繰り出された

拳を避けるも、拳圧で服が裂かれた。

 

暴風のような拳を連続で放つが、紙一重で避けるひしぎ──ただ、その表情には

余裕さが消えていた。

 

"今"の彼の状態では、このパワーアップを果たした『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

攻撃をまともに食らえば無事ではすまない。

 

ひしぎがカウンターで何度か夜天を叩き込むが、かすり傷程度しか負わせれず、

相手の攻撃を緩める事すらできていなかった。

 

(やはり、斬撃による耐性が上がってきているのですね)

 

冷静に分析しながら、いたるところに斬撃を放ち、効果を確かめていた。

そう、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』のもう一つの特殊能力である。

『物理耐性』が発動し、体内に要する魔力を放出する事で、体の表面の防御力、

斬撃、打撃による耐性を高めている。

 

只の斬撃では既に大したダメージは与える事ができなくなっていた。

 

「では、これならどうです?」

 

横から放たれた尻尾の薙ぎを避け、そのまま地面を蹴って跳躍し、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の顔の辺りで左手を突き出したひしぎ

 

「──"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"よ」

 

掌の中央が上下に裂け、神々しい光を放ちながら"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"が姿を現し、

陸の魔獣王(ベヒーモス)』を睨み付けた。

 

その瞬間、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の頭と両足から灰化が始まる。

 

「■■■──!!」

 

 

足がなくなり、立つ事が出来なくなったため咆哮を上げながら倒れ込み、

決着が付いたかのように見えたが、ひしぎの目には思いもよらぬ光景が映っていた。

 

「──まさか、灰化より再生スピードの方が速いとは・・・」

 

灰化している部分より再生スピードの方が速く、一気に消えた部分も元通りになった。

 

ひしぎが全盛期に戻れば、完全に"悪魔の眼(メドウサ・アイ)"をコントロール出来る為、

一瞬で全身を灰化させることは出来るが、今の状態じゃ出力が足りず、

こういう事になるのだ。

 

何より『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は心臓と脳両方を破壊しない限り、

永遠に再生し続けるのである。

 

すると、カテレアと上空で激闘を繰り広げているアザゼルが、

眼下のひしぎに向かって叫んだ。

 

「──そいつは、心臓と脳の両方を破壊しなければ再生し続ける!

 倒すなら、両方壊さないと無理だぜ!」

 

「アザゼル! 貴様!」

 

弱点を晒されたカテレアは激昂のままアザゼルに向かって吶喊する。

 

(両方ですか──)

 

今の言葉を聞き、今までの攻撃では片一方しか破壊していなかった為、

再生していたのかと納得するひしぎ。

 

完全再生が終わった『陸の魔獣王(ベヒーモス)』はすぐさま体勢を立て直し、

ひしぎへ襲い掛かり、戦闘が再開される。

 

 

 

 

 

 

一誠はアザゼルから事前に貰っていた、腕輪のお陰で代償を払わずに

"禁手化"を発動させる事ができ、やや不利な状態だが何とかヴァーリの攻撃を

凌いでいた。

 

こちらの能力は倍加、向こうは半減であり、一誠がいくら倍加しても、

ヴァーリが半減を掛けて来る。

 

そして、半減した力はヴァーリ自身へと加算されていき、ヴァーリのみが

パワーアップしている状態である。

 

一誠がミカエルから譲り受けた聖剣アスカロン──龍殺しの力を帯びている剣が一太刀でも、

ヴァーリに当たれば大きなダメージを与える事が可能なのだが、

効果をアルビオンから聞いているヴァーリは簡単には当たってくれない。

 

剣術をまともに習っていない一誠の斬撃は高速で移動するヴァーリに簡単に避けられ、

カウンターで腹部に拳を貰う。

 

「ぐっ!」

 

衝撃で体がくの字に折れたかと思うと──

 

『相棒! 追撃がくる! 避けろ!』

 

咄嗟に籠手からドライグが叫ぶと、一誠はそれに反応し、無茶苦茶な体勢だが

両足で思い切り後ろえ飛ぶ。

 

飛ぶ瞬間に頭部に何かが掠った音を響かせたと思うと、先ほど一誠の居た場所に

ヴァーリの踵落しが地面へたたきつけられ、小さなクレーターが出来ていた。

 

「あぶねぇ・・・!」

 

あれをまともに食らっていたらいくら、"禁手化"状態でも意識を刈り取られるどころか、

頭部が粉砕されかねない威力だった。

 

「へぇ、今ので終わったかと思ったんだが、意外にしぶといね」

 

意外そうな声をだしながら、ヴァーリはこちらに向き直る。

そして──

 

「戦う意思は立派にもっているが──まだまだ、経験地不足だね。

 まぁ、つい最近まで人間だったのもあるが、これはどうしたものか・・・」

 

何度も何度も拳を受けながらも、立ち上がり、こちらへ攻撃を仕掛けてくる

姿勢にヴァーリは評価しているが、その立派な姿勢に実力が伴っていない事に、

ヴァーリは残念がっていた。

 

「この差を埋めるには、どうすればいいと思う?」

 

「知るかよ!」

 

痛む腹部を押さえながら、一誠は次の攻撃に備えて構えを作る。

だが、ヴァーリは構えすら取っていなかった。

 

「──ならば、兵藤一誠。一つ君に提案がある」

 

「なんだよ?」

 

「キミがもし俺に負けたら、君の両親、そしてキミの守るべき主を殺す

 ──そして、キミは復讐者となってこの"力の差"を埋めてくれるだろう」

 

一瞬一誠の頭にはヴァーリが何を言っているのかが理解できなかった。

 

「なぁに、ちゃんとキミに彼女はどんな風に泣いて、叫んで、懇願して、助けを求めて

 死んでいった様を教えてあげるから──安心して意識を手放してもいい」

 

その言葉で、一誠の頭の中でナニかが切れた。

 

「──ふざけんじゃねえぞテメェ──!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

一瞬にして一誠の周辺の大気が弾け、あふれ出した力により、

足元の地面はひびが入り、重力を無視したかのように割れた石や砂塵が浮き上がる。

 

「──やはり正解だったなアルビオン。彼は怒りによって力が桁違いに上がった」

 

『ああ、神器は単純で想いが強ければ強いほど力の糧とする。純粋に兵藤一誠の怒りは

 お前に向けられており、真っ直ぐな者、それこそがドラゴンの力を引き出せる

 心理の一つだ』

 

本当はそんな事をするつもりはなくただの挑発だったが、見事に一誠は引っかかり、

ヴァーリとの差を縮めるほどの力を体に宿したのだった。

 

「さぁ、第二回戦の始まりだ!」

 

純粋にそれが嬉しくも有り、ヴァーリは嬉々として一誠に向かって吶喊した。

 

 

 

 

 

 

ひしぎと『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の戦いの余波で、グラウンドの地面は

もう見る影もなく荒れ果て、全体的に数メートル陥没していた。

 

斬撃の痕は校舎まで及んでいた。

実力者でなければ、二人がどう云った戦いを繰り広げているか視認出来ない位の

速さであり、未熟な者達には台風のような二つの嵐がぶつかり合う感じでしか

判らなかった。

 

光の洪水が現れたかと思うと、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の体の一部が吹き飛び、

鮮血で辺りを彩っている。

 

だが、体の一部を飛ばされても完全に動くきを止める事無く攻撃を続ける『陸の魔獣王(ベヒーモス)

暴走状態ではあるが、本能が一度でも止まれば殺されると悟っており、

お構い無しに暴れ続ける。

 

(キリがないですね)

 

通常の斬撃ではあまり効果はなく、光斬撃による攻撃では効果的なのだが、

一つ問題があったのだ。

 

現状のひしぎの状態では連続で放つことが出来るのは2回なのである。

ただ、ひしぎの体の問題ではなく──『夜天』の方に問題があったのだ。

 

宿主であるひしぎの力が強すぎて、『夜天』が2回までしか耐えれないのだ。

夜天は業物の分類に入るが──ひしぎの力は強すぎるため、

特別にこしらえた物でしか耐え切れないのだ。

 

唯一、ひしぎの全力を耐えれる刀は──刀匠・寿里庵(ジュリアン)の創った

『白夜』のみである。

 

そして『夜天』は椿姫から譲り受けた物なので、大切に扱っていたがここに来て、

それが枷となっていたのだ。

 

(なんとか、他の方法を探るしかありませんね)

 

体術でも十分に戦えるが──この巨大な魔獣相手に決め手が無い。

むしろ戦いが伸びてしまい、体力的にこちらが不利になると悟った。

 

ひしぎが考えながら後方へ距離をとった瞬間、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は

両腕を持ち上げ、それを思い切り地面へ叩きつけた。

 

その瞬間地面は地割れを起こし、下から持ち上げられるかのように隆起し、

鋭く尖った岩の破片がひしぎに襲い掛かる。

 

ひしぎは、思い切り足に力を入れ、襲い掛かる岩の数が多すぎるため、

それらを回避するために跳躍し、上空へ逃げる。

 

それを待っていたかのように『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は口をあけると、

収束砲を放つた。

 

地上で交戦時、何度か他の吐息(ブレス)は耐えることができたが、流石に力を凝縮した

収束砲を食らえば無事では済まないと悟ったひしぎは、『夜天』を2度振り下ろす。

 

二つの光斬撃は収束砲とぶつかり、上空で大爆発を辺り一面を吹き飛ばしながら

相殺する事ができた。

 

そして、ひしぎの目に映ったのは2撃目を放とうとしている『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の姿だった。

 

(これはまずいですね)

 

空中では流石のひしぎでも身動きが取れない、そして光斬撃は連続で2発撃ってしまった為、

数分間、夜天の熱が収まるまで撃てなかった。

 

奥の手は残してあるが、万全の状態以外で使うのは危険すぎるため、出来なかった。

そして何より、それを使ってしまえば離れた場所で魔術師と戦っているソーナを

巻き込んでしまう可能性があったからだ。

 

(──今の状態でどこまで防げるか判りませんが)

 

そう、ひしぎが覚悟を決めた瞬間──夜天が輝きだし、ひしぎに語りかけてきた。

 

私の事は気にせず、撃ってください──と

 

「──夜天?」

 

2代目の愛刀の言葉に耳を疑うひしぎ。

 

「ですが、これ以上撃ったら貴方の体は」

 

『ええ、耐えれないかもしれません。ですが、貴方を失うぐらいなら壊れてもいい』

 

「…」

 

必死に語りかけてくる夜天

 

《私は貴方と出会えてよかった。これほど私を、刀を愛してくれる人に出会えたのは

 初めてです》

 

刀として生まれ、『夜天』は真羅一族に代々受け継がれてきた業物であり。

魂が宿った時には既に時代は刀が必要ではなくなっていた事も有り、一族の中に

使い手がいなかった為、倉庫で眠り、使ってくれる者をずっと待っていたのだ。

 

そして、椿姫が一族を破門されるさいに母親から託されたのだが、

椿姫は長刀が合ったためそのまま家で眠さされていたのだ。

 

そして漸く主であるひしぎと出会い、コカビエルの一件で刀としての存在意義が自分にも

合ったと証明された。

 

ひしぎは暇があれば、手入れ等をしたり、読書の合間に"会話"していたのだ。

そんな自身を大切に扱ってくれる主を、自身の力不足で失いたく無いと『夜天』は思ったのだ。

 

『短い間でしたが私は幸せでした。刀として生まれ、刀として死ねるなら本望です』

 

「…」

 

『だから、私に気にせず──あいつを倒してください』

 

その瞬間『夜天』の輝きが一層に増した。

そしてその光は優しくひしぎの周りを駆け巡り、体の中に溶け込んでいった。

 

「──貴方の思い受け取りました。ならば、貴方に私の全力を御見せします」

 

放たれた収束砲に向かってひしぎは、剣先を向けると呟いた。

 

「──全て消し去りなさい。『白夜調(闇無き夜の調べ)』」

 

一振りにて、5本もの光の洪水が発生した。

その瞬間、『夜天』の刀面にヒビが入る。 

 

上空の辺り一面が光る洪水に照らされ、その場に居る者全ての視界を奪う。

陸の魔獣王(ベヒーモス)』の瞳には先ほどと比べ物にならない

速さの光斬撃が映し出され、自身の収束砲が触れると同時に切り裂かれ、

そのまま巨大な光斬撃が自身へ降りかかってくる所まで見え──直撃。

 

轟音が周囲に響き渡り、直撃した衝撃で数十メートルの亀裂が縦横無尽に

地面に発生し、地上で戦って居る者全ての足場を揺らす。

 

そして、近くにいた者の中には直撃により発生した衝撃波により

吹き飛ばされ、地面へ転がる者も居た。

 

陥没したクレーターの中には胸から下が消滅している『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の

無惨な姿があった。

 

咄嗟に回避したものの、胸から下に全て攻撃が直撃し細胞が一つ残らず消されていた。

傷口の断面からは、心臓が見えており、おびただしい量の血が地面を染めていた。

 

そして──徐々に再生が始まる

 

だが、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の瞳にはもう一度構えを取るひしぎの

姿が映っていた。

 

「流石は『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の名を持つ者ですね。

 久々に楽しめました──ですが、これでお別れです」

 

落下しながらひしぎは、『夜天』を十字に振った。

 

「──『白夜の断罪(ディバイン・クロス)

 

太刀筋から先ほどの数倍以上の大きさの光斬撃が十字の形を取りながら放たれた。

数十メートルにも及ぶ光の十字架に咄嗟に吐息で相殺しようと放つが、

何の効果も無く、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』は全身を飲み込まれた。

 

先ほど以上の轟音と、衝撃が辺り一面を吹き飛ばし、近くの上空で戦闘中であった

ヴァーリと一誠すら吹き飛ばし、ミカエルたちの結界にすら悪影響を及ぼすほどの

威力であった。

 

地面には底が見えない十字型のクレーターが出来、グラウンドに大穴を開けていた。

 

落下しながらひしぎは『夜天』を見ると──刀身から柄まで亀裂が走っていた、

これは、刀にとって"死"を意味する事であり

 

「すみません、私がもう少し手数が多ければ貴方をこんな目に合わさずに

 済んだのに」

 

『気にしないでください。私は最後に貴方に勝利を与えて貰って満足です』

 

『夜天』は意識が消えかかる中、最後の力を振り絞っては答え

 

『さようなら、私の最初で最後の主様』

 

輝きを放っていた刀身は見る見るうちに光を失い──音を立てながら

全身にヒビが入り──砕け散った。

 

「──『夜天』短い間でしたが、楽しかったですよ」

 

砕け散った破片から、蛍火みたいな淡い微かな光が天へ上っていく

 

そして──『夜天』の中に宿っていた魂、少女の形をしたモノがひしぎに

優しく微笑みかけながら消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは戦闘が終わり、地上へ降り立つと周囲を見渡した。

 

「流石にやり過ぎてしまいましたね」

 

もうグラウンドとしてみる影も無い風景に、ポツリと呟き。

自身の体を確認し始めた。

 

服は至る所が裂けて破れており、その部分からは出血までしていた。

軽症だが服の着ていない場所に火傷が数箇所。

 

制限付きではあるが、今の出せる全力をだした戦闘だった。

 

そして、柄だけとなった『夜天』。

足元に落ちている『夜天』の破片をそっと優しく拾いながら、未だに激突音が聞こえる方に

視線を向けた。

 

「まだ、決着がついていなかったのですか」

 

彼の視線の先には、ヴァーリと一誠の壮絶な殴り合いが未だに続行されていた。

 

 

 

 

 

ヴァーリと一誠の鎧はお互い色んな部分が砕けており、顔を覆う兜の部分も破壊され、

顔がむき出しの状態であり、口や鼻から血を流しながらも、

お互い殴り合っていた。

 

ヴァーリは嬉々とした表情であり、一誠は怒りを灯した表情であった。

あの後、ヴァーリはさらに一誠を強くするために、周辺一帯を半減するといい、

偶々近くで戦闘していたアザゼルが恐ろしく噛み砕いて説明する。

 

「やつの半減の力で、お前の主や仲間たちの胸が半分にされるぞ」

 

と、聞いた一誠は更なる怒りで力を増幅させヴァーリを上回ったのだ。

一瞬にして一誠に与えていたダメージの倍以上が反され、

状況は一気に傾いたかと思うと、ヴァーリも底力を見せ、

五分五分に並んだ。

 

「オッパイを半分にされてたまるか!」

 

鋭くて重い拳が、腹部に突き刺さり口から鮮血を吐くヴァーリ。

だが、負けじと下から抉り込むように顎に目掛けて拳を放つ。

 

「楽しいぞ! まさか女の胸に関することでここまで強くなれるとは!

 面白い!」

 

「うるせぇ!」

 

顎に受けた衝撃で体が浮き、一瞬意識が飛びそうになるが気力でもたせ、

そのままヴァーリの顔を蹴り上げる。

 

同じように浮き上がったヴァーリは体をよじり、半回転させ一誠のわき腹に

蹴りを放つ。

 

その衝撃で、地面へ激突しボールのように跳ねたかと思うと、無理やり体勢を

整え、両足で思い切りヴァーリの方へ地面を蹴る。

 

蹴った後だったで体が後ろに向いていたため、一瞬反応が遅れ、

背中に思い切り頭突きが刺さる。

 

「ガッ!」

 

弓なりに背が曲がると、そのままヴァーリは吹き飛ばされ、一誠も地面へそのまま落ちる。

数メートル先で土煙を舞い上がらせながら倒れこんだヴァーリ。

 

二人は震える足に力を注ぎながら直ぐに立ち上がろうとする。

だが、正直体はボロボロであり、お互い殆ど力は残っていなかった。

 

一誠は魔力付与による打撃で内部にもダメージを負い、

ヴァーリもアスカロンの力が付与された拳で殴られているので、同じような状態であった。

 

「ははは、やっぱり面白い! これなら、この強さをもつキミになら、

 白龍皇の『覇龍(ジャガー・ノート・ドライブ)』を見せる価値はありそうだ!」

 

口から鮮血を拭いながら、ヴァーリは笑っている。

 

『ヴァーリ、その選択肢はこの場では良くない。それに、無闇に『覇龍(ジャガー・ノート・ドライブ)』を

 使えば、ドライグの呪縛が解けてしまうぞ』

 

アルビオンがヴァーリのやろうとしている事を止めようとする。

 

「それで、彼が強くなるなら願ったり叶ったりだ。アルビオン」

 

アルビオンの制止も聞かず、詠唱を始めようとし、一誠はその不穏な行動を止めようと

動こうとした瞬間──

 

月をバックに人影が一つ、彼らの間に降り立った。

 

「時間切れだぜぃ、ヴァーリ」

 

その人物は戦国時代の武将が着る鎧のような物を纏っていた。

 

「何をしにきた美猴(びこう)──今からいい所なんだ邪魔をするな」

 

ヴァーリは口元から流れる血を拭きながら、美猴と呼ばれる男を睨む。

 

「おいおい、それは酷いんじゃねぇ?! 相方がピンチだっーから遠路はるばる

 救援に駆けつけて来たのによぅ。それに本部からの連絡だぜぃ」

 

美猴の元にヴァーリが不利な状況に立たされていると情報が届き、魔術で転移して来る最中に

『禍の団』本部から、任務を失敗したヴァーリを連れて退却せよと指示が入り、

オーディンがアースガルズにいない情報を掴んだ本部は、この好機を逃さず、

アースガルズと一戦交える作戦を実行していた。

 

その話を聞き、ヴァーリは漸く構えを解いた。

 

「分った──兵藤一誠。この続きはまた今度にしよう。それまでに自力で

 "禁手化"になれるようになっていてくれ。そして今よりさらに激しく戦おう」

 

子供のような笑みを浮かべながら、一誠に向き直り言葉をかけたヴァーリ。

 

「お、おい待てよ!」

 

咄嗟に逃がさまいと、前に出る一誠だが体中に激痛が走り──"禁手化"が解除され

地面へ崩れ落ちた。

 

「では、またな」

 

そういい残し、ヴァーリは美猴と共に闇の中へ消えていった。

それと同時に魔術師達も撤退し、全ての戦闘が終了した。

 

今回の事件の首謀者であるカテレア・レヴィアタンは、

アザゼルとの戦闘中死亡。

 

『蛇』により強化されていたが、『陸の魔獣王(ベヒーモス)』の無理な召喚の代償により、

強化した力と、本来の何割かの力を奪われていたため、堕天使の総督であるアザゼルの

敵ではなかった。

 

力の差を知り、実力で勝てないと踏んだ彼女は体の一部を変化させ、

アザゼルの左腕に絡みつき呪術による自爆でアザゼルを道ずれにしようとしたが、

何のためらいも無く、自身の左腕を切断したアザゼルはそれを拒否。

 

既にカウントが開始されていたため──彼女は誰も道ずれに出来ず、死んでいったのだ。

 

ひしぎは、ソーナと小猫の無事な姿を確認した後、傍に行き

自身達より実力が上だった魔術師相手に怖気ず、果敢に戦った事を褒めた。

 

「よく頑張りましたね、二人とも」

 

褒められた二人は素直に喜んだ。

そしてひしぎは一つだけ頼みごとがあることを思い出し、ソーナに言った

 

「ソーナ一つだけ頼みがあります──会議室にいる御老人と後ほどお話する事があるので、

 生徒会室をお借り出来ますか?」

 

「はい、大丈夫だと思いますが──他の方もお呼びするのですか?」

 

オーディンと話し合うなら、他のアザゼルやサーゼクスも立ち会うのかと思いきや

 

「いえ、あの御老人とお付の方だけで結構です──ああ、貴方と小猫さんなら

 歓迎しますよ。まぁ、あまり面白くないお話ですが」

 

それ以外の者はきっぱりと拒否したひしぎ。

 

「分かりました。では、事後処理が終わり次第向かいます」

 

「私も行きます」

 

「では、私は先に生徒会室で待っていますので」

 

そういうと、ひしぎは二人の目の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずひしぎの事はソーナに任せ、サーゼクスやミカエルが事後処理に動き出し、

カブリエルとアーシアがセラフォルーの治療に協力する。

 

各勢力の3人が外部へ連絡を取り、学園を覆う結界の解除をすると

そこには信じられない光景が全員の目に映し出された。

 

数百を超える天使、悪魔、堕天使の軍勢は全て倒されており、

幸い、学園から住宅地へかなり距離があるため、住宅街への突っ込んでいる者は

いなかったが、学園周りを囲うかのようにして、折り重なるような形で全員が崩れ落ちていた。

 

サーゼクス達がすぐさま何があったか探るために、意識あるものを探す。

すると学園の壁側に体育座りをしながら震えている悪魔を発見した。

 

サーゼクス達はその者の近くに駆け寄り、何があったか優しく問い詰めると

 

「──わ、分かりません! 分からないんです! 人間が現れて──それで」

 

恐怖で震えながら若い悪魔は語った。

何らかの時間停止の力を受け、その呪縛が解けたかと思うと、空に展開していた

各勢力の者達が消滅しており、元々一触即発の雰囲気だった為、

それを切っ掛けにお互いの感情が爆発し、小規模な戦闘が発生た。

 

各勢力の者達の戦闘は、結界を張らず、縦横無尽に住宅街を飛び回り、

深夜ではあるが、人間たちに被害を及ぼす程の激しさを増していき──

 

突如、そんな彼らを囲むようにして結界が張られ、学園前に一人の人間が現れ、

3勢力に攻撃を仕掛けてきた。

 

乱入者が人間だった事もあり、彼らは五月蝿い蝿を追っ払うかのような仕草で

反撃し、戦闘を継続しようとした瞬間──大勢の者が"水の龍"によって蹴散らされた。

 

圧倒的な力の前に、3勢力の者達は一気に飲み込まれ、一人を残して

意識を刈り取られたのだった。

若い悪魔はそう言ったきり恐怖で口を閉ざした。

 

納得できる部分は無かったが、まずは目先の件を処理しなければならないので、

この件は保留となった。

 





こんにちは、夜来華です。

何度も何度も戦闘描写に納得がいかず・・・書き直しての投稿です。
無双には程遠いですが、限られた制約の中での全力戦闘でした。

原作とは違い、一誠の禁手化の仕方の変更。
一誠の方も色々と強化というか、弄る予定です。

後、ひしぎの光の斬撃ですが、そのまんま『光斬撃』と命名しました。
後は、オリジナル業も・・・増やす予定です。

そして、最後はお待ち兼ねの・・・

感想、一言頂けると嬉しいです。
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