誰もが夢物語だと言う
だけど、私はそれでもこの夢を叶えたい
大広間はあの後駆け付けたスタッフにより、魔力で補修されほぼ元通りになり、
改めて若手たちが一部を除いて集まり、皆用意された椅子に座りテーブルを囲った。
見知ったものも居るが、眷属達もいるので自己紹介を始める事にした。
「私はシーグヴァイラ・アガレスと申します。『大公』、アガレス家の次期当主です。
以後お見知りおきを」
シーグヴァイラは立ち上がり皆に聞こえるように挨拶をし一礼をして座りなおした。
『大公』と聞いて、各眷属達が騒然としていた。
魔王の代理として指示を細かく出す家柄である為、生粋の悪魔でなくても
一度は耳にした事のある家柄だった。
シーグヴァイラから時計順に挨拶する事が決まり、次はリアス。
彼女も立ち上がり、先に一礼してから
「ごきげんよう、私はリアス・グレモリーです。グレモリー家の次期当主です」
そう言って椅子に腰を落とし、隣を向くとソーナが頷き
「私は、ソーナ・シトリーです。シトリー家の次期当主です。よろしくお願いします」
挨拶の後一礼して座り直す。
そして隣に居た先ほどの若い男が立ち上がり
「俺はサイラオーグ・バアル。『大王』、バアル家の次期当主だ」
威風堂々とした態度で挨拶をするサイラオーグ。
彼は現在集まっている若手の中でもナンバー1の実力を持ち、そしてリアスの
母方の従兄弟であった。
そして、次に優しげな笑みを浮かべた青年が立ち上がり
「僕はディオドラ・アスタロトです。アスタロト家の次期当主です。皆さんよろしく」
微笑みながら腰を落とし、そして、次は──空席だった。
ここには本来先ほどサイラオーグに打撃を与えられた男が座る予定だったのだが、
未だに姿を現さず。
名はゼファードル・グラシャボラス、グラシャボラス家の次期当主候補だった。
なぜ彼が次期当主ではなく、候補であるのかはサイラオーグが皆に説明した。
先日グラシャボラス家で騒動があり、本来の次期当主が不慮の事故で亡くなられたと告げ、
そして、彼が候補として急遽抜擢されたのだ。
今回召集を受けた若手悪魔が全員集合し、そうそうたる顔ぶれだった。
そして、少し皆で雑談していると、使用人が漸く会場の準備が整ったと告げ、
皆を魔王と評議員たちが待つ会場へ案内した。
皆が案内された場所は異質の部屋だった。
かなり高いところに席が用意されており、そこに座る議員達。
更に上には議長が座り、その上に魔王たちの席があった。
流石に今日のセラフォルーの服装は正装であり、心の中でホッと息を撫で下ろすソーナ。
少しだけだが、姉が奇抜なあの服装でいるかもしれないと思っていたのだ。
そして少し遅れてゼファードルが一同の横に並ぶ。
腹部には拳のあとがくっきりと残っており、痛々しい打撃痕。
全員が並ぶと、『王』である彼ら6人は眷属達をその場で待機させ、一歩前に出てた。
すると、初老の男性悪魔が厳かに6人へ向けて告げる。
「よく集まってくれた。今日この日、次世代を担う貴公らの顔を改めて確認する為、
集まってもらった」
この会合は一定の周期ごとに開催し、若い悪魔たちを見定める為の会合と告げ、
そして、次に比較的若い男性悪魔が、先ほどの騒ぎを皮肉げに言い、
それをサーゼクスが嗜め、そのまま色々説明し、彼らがゲームに本格参戦する前に、
お互い競い合い、力を高めてもらう為にゲームの開催を提案した。
サーゼクスの提案に皆、察しがついていたのかあまり驚いた雰囲気は無く、
サイラオーグが挙手し質問の許可を求め、サーゼクスは頷いた。
すると、サイラオーグはレーティングケームには関係なかったが、
現状取り巻く環境、特に『禍の団』の襲撃について質問し、それらに対して
自分たちも戦線投入されるのかと問うた。
すると、サーゼクスの答えは、今のところ不明と答えた。
ただ、若い悪魔たちを最前線に投入したくないと思っていると答え、
自身達はまだ若く次世代の冥界を担うもの達故、失う代償の方が大きい為、
大事に段階を踏み、成長して欲しいとサーゼクスは彼らに言い聞かせた。
そしてその後議員達から今後のゲームについてなどを言い聞かされ、
最後に、サーゼクスが6人へ質問を投げた。
「最後にそれぞれ今後の目標や夢を聞かせてもらえないだろうか」
その問いかけに一番最初に答えたのが、サイラオーグだった。
「魔王になる事です」
正面から、迷いもなく言い放った一言に評議員達は感嘆な声を上げた。
その次にリアスが答えた。
「私はグレモリー家の次期当主として生き、レーティングゲームの各大会で
優勝する事が今の目標です」
その言葉に、一誠は初めてリアスの目標を聞いた事に、驚きの表情を作っていた。
今の今まで、そのような事は聞いたことがなかったためである。
次にシーグヴァイラ
「私もアガレス家の次期当主の名に恥じない行動を取り、レーティングゲームの
ランカー入りを目指します」
その次にディオドラ
「僕は冥界に役立つ機器の開発、研究などに携わり冥界へ貢献することが
第一目標です」
その次にゼファードル
「俺はグラシャボラス家に自身の力を証明し、『次期当主候補』という肩書きではなく、
『次期当主』として認めてもらう事です」
そして、最後にソーナ
「私は、レーティングゲームが出来る学校を建てる事です」
その言葉に眉をひそめる議員達、現在でもレーティングゲームを学べる学校は
いくつか存在している為である。
そう一人の議員が指摘すると、彼女はこう答えた。
「現状あるのは、上級悪魔と特権階級を持つ悪魔のみしか行く事が許されない学校です。
私が建てたいのは、下級悪魔、転生悪魔も通える身分関係無く、
分け隔ての無い学び舎──そして、レーティングゲームに興味の無い悪魔も、
勉強できるように二つの要素を取り持った学校を建てる事なのです」
レーティングゲーム参加したくても出来ない悪魔は数多におり、
それらは全員下級、中級、転生悪魔なのだ。
ゲームに参加するには、上級悪魔に認められ『眷属』と云う形でしか参加できず、
『王』になり眷属を持つ事が現状不可能なのだ。
だからこそ、ソーナはその者達も『王』になれるようにそういう環境を
作りたいと考えていたのだ。
下級、転生悪魔が『王』として上級悪魔を使役する事も可能になるのだ。
そしてもう一つ、全員がレーティングゲームに参加したいという事は無く、
ゲームには興味が無く、ただ勉強がしたいと云う者おり、その者達も普通に勉強できる
場所を提供したいと思っていたのだ。
現状、レーティングゲームの学校と少しにていて、上級悪魔、名門の家柄を最優先で入学させ
下級、転生悪魔には残った枠でしか入学させない学校が数多あり、
実際勉強したくても、学校に行けない子供悪魔が大勢存在するのだ。
だから、その二つの要素を取り入れた学校をソーナは建てることを夢見ていた。
だが、議員達は──大声で笑い、否定した。
「それは無理な夢だ!」
「夢は寝てから見るものだよ」
「これは傑作だ!」
「夢見る乙女そのものではないか! 可愛らしいのう!」
今の冥界が変わりつつあるが、上級と下級、転生悪魔の間には差別的な要素が
根強く残っているのだ。
ソーナはそれを承知の上で言い切った。
「私は本気です」
すると、一人の悪魔がソーナに冷徹な言葉を口にした。
「上級悪魔に下級、転生悪魔が仕えるのは世の摂理。
その様な事をすれば、誇りや伝統を重んじる旧家柄を根本から否定する事になる。
確かに、冥界は変わりつつあるが、変えてもいいものと悪いものもあり、
そなたの言ったことは悪いほうに分類し──冥界の築き上げてきたものを
壊すつもりか?」
その言葉に真っ先に反論したのが──匙だった。
「なぜそのようにソーナ様の夢をバカにするのですか! 叶えられない事では無い筈です!
俺達は本気なんです!」
「口を慎め、転生悪魔の若造よ。これは冥界が出来た当初からある決まりなのだ。
転生悪魔風情が意義を唱えていい事ではないのだよ。
──ソーナ殿、眷属の躾がなっていないようだか?」
この言葉に、ソーナは一切表情を変えず淡々と言葉を口にする。
「申し訳ありません。あとで言ってきかせます」
その言葉に匙は納得できない様子だったが──ソーナの手を見た瞬間、
息を呑んだ。
彼女の右の手のひらに爪が食い込むほど握られており、今にも血が流れそうな感じであり、
匙は悟ったのだ。
自身よりソーナ本人の方がよっぽど悔しくて反論したいが、ここで反論しても意味が無いと
知っていた。
なぜなら、現状ただ夢を語っただけなのだから。
それを見た瞬間、匙は一気に熱が冷め──ソーナの気持ちを汲み。
「申し訳ありません」
匙は評議員達に向けて頭を下げたが、笑い声は止まる事はなかった。
何も言わずにソーナは議員達を凝視していたが──急に会場の温度が下がったような
感覚に陥った。
すると、魔王の下の席に座り、目を瞑りながらソーナ達の夢を聞いていた議長が瞼を開け
「──セラフォルーよ。魔力が漏れておるぞ」
その言葉に議員達は自分たちの上に座る魔王セラフォルーに視線を向けた瞬間、
背筋が凍る感覚に陥った。
彼女の瞳には色が無く、周囲の椅子と机が漏れた魔力により凍りかけてており、
そして彼女は、議員達に向けて言葉を紡いだ。
「ねぇ、おじいちゃん達。私の思い違いかなぁ? 若い子達の夢を笑う為に
聞いたんじゃなく、どのような夢でも肯定し、応援して希望をもってもらう為の
質問じゃなかったのかなぁ? 」
微笑みながら語るセラフォルーに議員達は心底凍りついたような感覚に陥っていた。
気まずい雰囲気が流れ──会場の笑い声が消え、音も無く時が止まったような感じだった。
「さ、寒いな」
すると、彼女の隣で自身の腕を擦りながら熱を取っているザーゼクスの姿に
議長が苦笑し、他の場所からも笑いを堪える声が聞こえた。
セラフォルーは無表情のままサーゼクスを見つめる事数秒、
軽く息を吐き、溢れ出る魔力を止めた。
そのお陰で、冷たい雰囲気から一気に柔らかくなる感じが漂った。
そして、サーゼクスが腕をまだ擦りながらだが、言葉を口にした
「ちょうどいい、先ほど提案したゲームをしよう。
リアス、ソーナ、戦ってみないか?」
その言葉に息を呑むリアスとソーナ。
「元々リアスの方は近々ゲームをする予定だったが、まだ君たちの中で
相手が決まっていなかったんだが、ソーナ、そこで君の覚悟を見せてくれないかい?」
そう、近日中にリアスの対戦相手を決める予定だったのだが、急遽魔王権限で
ソーナを指名した。
若手同士の最初の試合であり、各勢力からも観戦者が来る予定なので、
そこで彼女の、夢に対する本気を見せてもらおうと踏んだのだ。
二人はお互い顔を見合い──微笑み、了承した。
初の若手同士の試合は、幼馴染でもあり駒王学園の生徒対決だった。
「対戦の日取りは、人間界の時間で八月二十日。それまで修行するなり、勉強するなり
好きに動いて構わない。詳細は後日改めて知らせる」
そう言って若手会合は終了した。
少し議員達の言動に頭にきていたセラフォルーだが、意識を切り替え、
ひしぎの待つ部屋へと駆け足で急いだ。
会う予定となっていた時間はすでに過ぎており、彼女は急いだ。
廊下ですれ違う悪魔たちが魔王が疾走している姿を見て何事かと振り返るが、
お構い何し、走り──数分後着いた。
彼女は扉を開ける前に一度深呼吸をして息を整え、服装が乱れていないか
確認し、そしてドアノブを回し大きな扉を両手で開けた。
すると、中には部屋の端にある本棚の前で立ちながら読書をしているひしぎの姿と、
備え付けのソファーに座り、冥界の通販番組を真剣に視聴しているロスヴァイセの
姿があった。
「ひしぎさん! これ! これ見てください!」
物欲しそうに画面を指差すロスヴァイセ、呼ばれたひしぎは微笑みながら
「欲しいものがあれば、後でソーナに頼んでみては?」
「はい! メモメモ・・・!」
そう促され、テーブルの上に合った紙にペンを走らせるロスヴァイセ。
「さて──セラフォルーさん。そこに立っていないで、中に入ったらいかがです?」
本に目を落としながらひしぎは、呆然と立っていたセラフォルーに声をかけ、
その言葉に呆然としていたセラフォルーは我に返り、扉をしめて
入ってきた。
「ごめんね。お待たせして」
セラフォルーは予定より少し待たせてしまった事に謝罪し、空いていた
もう一つのソファーへ腰を落とす。
ひしぎも手に持っていた本を本棚に直し、先ほどまで座っていたソファーに戻り、
腰を落とした。
ロスヴァイセはテレビを消し、真剣な表情を作った。
彼女、ロスヴァイセがひしぎの護衛に付いたという事はセラフォルーの耳に入っており、
だから、彼女が居ても何の驚きは無かった。
だが、彼らにとってはまだ交友でない陣営の部屋で
あそこまでリラックスしていた事に先ほど驚いていたのだ。
「では、改めて──あの時は助けてくれてありがとう」
セラフォルーは満面な笑みを浮かべながら頭を下げ、ひしぎにお礼を言い
自分は今冥界を離れる事が出来ず、書面や、伝達などでは気持ちが伝わらない為、
申し訳なかったのだが、こちらに招待したと伝えたのだ。
ひしぎは彼女の気持ちを汲み、お礼を素直に受け取った。
そして彼女が何かお礼をしたいと申し出たが、気持ちだけで十分と丁重に断った。
なぜなら、昨晩エリオットからも申し出を受け、何度も断ったのだが、
相手も引かず、先に折れたのがひしぎであり、既にお礼をもらっていたのだ。
お礼をもらう為に助けたのでは無いので、これ以上もらう意味が無いと
判断したのだ。
彼女もまたエリオットの娘なのでそう簡単には引き下がってくれなかった。
だから、ひしぎはある提案を彼女に言った。
「なら、もし私が困った時に直面した場合、手を貸して頂けたら幸いです」
そう言って彼女を納得させたのだった。
その後も彼女の雑談や、先ほど起きた出来事の愚痴を二人は、
頷きながら聞いていた。
すると、扉の向こうから控えめなノックが聞こえ
「レヴィアタン様。そろそろお時間です」
彼女の秘書が時間だとつげ、時計を見たら1時間は有に過ぎていたのだ。
「あ、もうこんな時間になの?! もっとお話したかったけど、そろそろ
私は仕事に戻るね──今日は本当にここまで来てくれてありがとう」
セラフォルーは名残惜しそうに、ソファーから腰を上げ、
黙って自身の話に付き合ってくれた二人に感謝をし、使用人を呼び寄せ、
二人を出口まで案内させるように指示をだした。
本来なら、自分が出口まで見送りたい所なのだが、大量の仕事がまだまだ残っており
1分1秒すら惜しい状況なのだ。
ひしぎとロスヴァイセもソファーから腰を上げ使用人が待つ扉へ向けて
歩き出し──すると、ひしぎが立ち止まり、背を向けながら
一つセラフォルーに質問した。
「貴方は、危険な力を持つ私を──どうして警戒しなかったのですか?」
そう、あの日自身を見たもの全てがひしぎに対して強い警戒心を抱いていた。
そして、再会したセラフォルーからそのような警戒心が一切感じられなく、
ひしぎの強さに対する疑問や、正体などすら一切聞いてこなかった。
普通のものならば、少なからず疑問に思い会話の中で言葉を使い探りを入れてくるはず
なのだが、それすら無かった。
だからこそ、最後に聞いてみたくなったのだ。
「え? 私やソーナちゃんを助けてくれた恩人を疑うわけないよ。
だって私は貴方を『信じてる』から」
何の躊躇いも無く答えを口にするセラフォルー。
その答えに一瞬あっけに取られたひしぎだが、口元を緩め
「──そうですか。では、またどこかでお会いしましょう」
そういって部屋の外まで歩いていき、ロスヴァイセは部屋出る直前に
向き直りセラフォルーに向けて一礼をして出て行った。
その様子を手を振りながら見送るセラフォルー
「うん、また会おうね。ひしぎさん、ロスヴァイセさん」
地下鉄の乗り込み口付近でソーナと合流したひしぎとロスヴァイセは、
眷属達の雰囲気が沈んでいる事に気がついた。
恐らく先ほどセラフォルーが話していた、『夢』の話に関連付いていると悟った。
シトリー家に着くまでほとんど会話も無く到着し、ソーナが一度部屋に戻って
着替えたら会議室に来るように全員に指示をだし、ひしぎとロスヴァイセも
是非来て話を聞いて欲しいとお願いされ、二人は承諾した。
私服に着替えた全員が集まり、皆椅子に座った事を確認するとソーナは口を開き、
まず、事の顛末を二人に聞かせた。
会合で自身の夢を語ったら、議員達が否定され、嘲笑われた。
そして、自分たちの夢に対する覚悟を見る為に、サーゼクスがゲームの提案をし、
人間界の時間で言えば、約二十日後にリアスと試合が行われる事になったと語った。
「なので、ひしぎさん、ロセ。今一度修行を一から見てもらってもよいでしょうか?」
そう、二人を呼んだのは今一度自分たちを鍛え上げて欲しいからであり、
なぜなら、とある情報によると現状の若手ランキングでは5位と云う
下から二番目であった。
1位はもちろんサイラオーグ、2位はシーグヴァイラ、3位はリアス、4位はディオドラ
5位がソーナ、6位がゼファードルだった。
『王』の力と眷属の力込みを含めた、外部情報のみでつけられたランキング。
だからこそ、今一度自分たちの力を見直し、そういう風にランクをつけた者を
見返してやる気持ちが溢れていた。
その気持ちを汲み取った二人は、顔を見合わせ──
「ええ、私は構いません」
「私も出来る限り力になります!」
そういってひしぎとロスヴァイセは了承した。
その日は今後のスケジュールを製作し、明日からの本格的な修行を開始する為、
早めに休む事にした。
そして、地獄と云う名の特訓が次の朝から擬似空間内で開始された。
当初はシトリー家の所有する空き地でするつもりだったのだが、
毎回毎回魔力で補修する時間がもったいないと、ひしぎが指摘し、
擬似空間内であれば、自動修復機能が付いている為、そちらの方が
良いとソーナに提案し、擬似空間内で修行をすることにしたのだ。
久々に力を図る目的で、ひしぎ対ソーナ、眷属達、そしてロスヴァイセがソーナ側に参戦した。
しかし、今回はより実戦形式をソーナからお願いされ、ひしぎもある程度反撃したところ、
約5分後にはボロボロな姿になった全員が地面へ横たわっていた。
流石にひしぎもやり過ぎたと思っていたが、ソレはソーナ達が望んでいた為やむ終えなしだった。
借りている通常の刀を鞘にしまうと、ボロボロになったソーナ達を、一人一人優しく抱きかかえ、
特殊な結界が張ってある場所に寝かせ、範囲術式による法力治療を開始し始めた。
皆の傷が見る見るうちに癒され、体力もほぼ全快まで回復させた。
「し、死ぬかと思った」
冷や汗を全身で流しながら、上半身を起こした匙。
彼は、ラインがひしぎへ命中させる事が出来ず、避けられてばかりで業を煮やし、
体術で挑んだところ、いつの間にか背後に回ったひしぎに上空へ打ち上げられ、
そのまま、空中からの蹴りで地面へ叩き落され気を失っていたのだ。
「うぅ・・・こ、怖かったです」
隣に寝たままの留流子は怖さのあまり涙を流していた。
彼女もまた、ひしぎに攻撃を避けられ、至近距離からのかなり手加減した光斬撃により撃沈した。
「ふふふ、まだこれほどの差があるとは・・・」
あまりにも実力の差がありすぎて、笑いが出ていた由良。
匙と同じように体術で挑み、攻撃を避けられた際にカウンターで放たれた蹴りを食らい、
吹き飛ばされ、建物数棟突き破り漸く止まったのだ。
「悔しい・・・!」
手も足も出なかった事に悔しがる巴柄。
彼女は椿姫とタッグを組み、襲い掛かったのだが正面から彼の斬撃を止められず、
武器を弾かれた時に一瞬ひしぎから目を離してしまい、視線を戻した頃には
光の洪水が彼女を飲み込んでいた。
「流石私達の先生ですね!」
「桃が壊れちゃった・・・」
ボロボロにされた桃だが、恐怖よりもひしぎの強さに感動していおり、
その光景をみた憐耶は顔を引きつらせていた。
彼女達は遠距離から魔法攻撃を放ち、近接組みの援護をしていたが、
匙が空中から地面へ叩き落とされた瞬間、上空から光斬撃が二人に襲い掛かり、
慌てて法力結界を展開し、1撃目は防ぐ事に成功したが2撃目は結界の
再展開が間に合わず飲み込まれたのだ。
「まだ、力が足りませんか」
近接組みで一番粘った椿姫だが、力の差を痛感していた。
彼女は、匙、由良、留流子、巴柄、が倒された後、何とか残ったソーナとロスヴァイセに
彼を近づけまいと距離が離されないように食らいついていたが、
少しだけギアをあげたひしぎの姿を捉えきれず、背後から放たれた光斬撃により倒れた。
「夢を叶える為に──もっと強くならなくては」
周囲に展開した水龍達をいとも簡単に切り捨てられ、まったく魔法が当てられなかったソーナ。
彼女は、正面からの遠距離攻撃の打ち合いで負け、水龍達が両断され光斬撃に飲まれたのだった。
「これでもまだ、全力じゃないとは・・・」
その隣で、地面へ手を付き、自分の護衛が必要なのかと疑問を浮かべているロスヴァイセ。
皆が倒れる中、最後の一人になり全力で抵抗していたが魔法を撃ち過ぎ、魔力切れで
防御障壁が展開できず、光斬撃に飲み込まれたのだ。
皆の意識が戻ったところでひしぎは一応謝罪した。
「すみません、少しやり過ぎたようです」
その言葉に首を横に振るソーナ。
「いえ、これぐらいで丁度いいです。悔しいですが、私達は彼らの数倍以上の修行しなければ、
現状の戦力がひっくり返せない──絶対に勝つために必要な事なのです」
そう、他の若手達もこの二十日間で修行するはず──と、ソーナは思っており、
同じ程度の修行内容じゃ何時までたっても追い越せない、だからこそ実戦形式で、
死ぬかもしれないぐらいの苛烈な内容を求めていたのだ。
「わかりました──では、続けましょうか」
ソーナの意を汲み取ったひしぎは、死なない程度にボロボロにするつもりで、
その後も何度も何度も瀕死まで追い詰め、治療してはまた戦闘訓練をした。
夕方、流石に今日はもう休ませたほうがいいと判断し、訓練は終了した。
お城へは戻らず、擬似空間内にある合宿所で男性、女性と分かれた部屋があり、
各々汗を流し、少し食べ物をおなかに入れたと思うと用意されているベッドの上で倒れこみ、
傷や体力面は完全に後を残さず治療しているが、精神的な物までは癒せていない為、
緊張を解いた瞬間、皆泥のように睡眠を貪った。
ひしぎは同室の匙が眠った事を確認すると、今日戦った彼らの戦力表を纏めていた。
匙は力、速さは標準的だが、諦めない根性は誰よりも強い。
留流子は、力、精神的な課題は残るが、速さは『騎士』と同ランクまで上がってる。
由良は、力、速さは標準以上だが、直線的すぎる。
巴柄は、いい太刀筋だが、力が足りず、由良と同様直線的過ぎて読まれやすい。
桃は、法力の力を取り入れた結界で一撃目を防いだ事に賞賛は与えれるが、
次の動作がまだまだ遅い。
憐耶は桃のサポートで魔法の補助火力だが、一撃一撃の威力が低く、
桃と同様に次の動作がまだまだ遅い。
椿姫は、太刀筋も力も十分で、フェイントを混ぜてくる攻撃は中々の出来栄えであり、
『女王』と云うことだけはあるが、耐久面が問題だった。
ソーナはある者と戦っている錯覚にさえ陥るほどの再現した龍の形だった。
だが、あの者達ほど威力や速さが無い──だが、生成するスピードは前回より
格段に上がっていた。
ロスヴァイセはオーディンの護衛の名に恥じない実力があり、5分間全力射撃をし続け、
威力も十分にあり、防御面にしても数回光斬撃を防いで見せた。
この者達の中では一つ飛びぬけて実力はあるが──惜しいことにソーナの眷属で無い為、
試合には参加出来ないのである。
一通り彼女たちの実力を分析した後、部屋の隅に置いてある刀達に目を向けた。
この修行で刀が必要だったので、ひしぎがソーナに頼みお城にある刀を約30本拝借したのだ。
そして、今日の修行だけでその半数である15本が折れたのだ。
1本に付き光斬撃が撃てるのは2回から3回までであり、全て撃った後刀身にヒビが入ったり、
脆い物であれば、一瞬で砕け散ったのだ。
彼女たちの修行で相手をするには、体術でも十分なのだが、どうしても力の制御がし難く、
刀を解したほうが手加減しやすい為、存在不可欠だった。
だからこそ、早急にこの問題を解決しなければならないと思ったひしぎ。
「やはり、あの場所に行くしかないようですね──」
椅子に背をもたれさせながら天井を仰ぎ、目を瞑る。
そう、この問題を解決するには『あの者』の力が必要であり、この現世が生前
自身が存在していた世界と同じならば、『あの者』はあの聖地──壬生の地にいてるはず。
そう思ったひしぎは、数日間修行を見る事が出来なくなる為、
彼女たち一人一人に合わせたトレーニングメニューを考え始めた。
生前ではまったくした事が無かった取り組みだったので、ひしぎは新鮮さを
感じながら真剣に取り組んだ。
そして夜が明け、朝になり──皆で朝食を取った後、
修行を開始する前にソーナに自身にあった刀が必要で、壬生の合った地へ向かうと告げ、
了承を貰い、ロスヴァイセにはここで彼女たちの修行を見るように指示をだした。
この空間ならば、現状襲われる可能性は低いと判断し、一応壬生の地へ連れて行く考えも
あったのだが、万が一戦闘になると『あの者』達が相手だった場合、現状の力では
守りきれる自信が無く、それ以前に彼女を巻き込みたくなかったからである。
だがら、残していく事に決めたのだ。
一応万が一の為に、ロスヴァイセに自身の気を練りこんだネックレスを渡し、
常時つけているように云い、何かあった場合、自身へ連絡が来るようになっていた。
そして、ソーナに頼み皆を集合させ、一人一人に分厚い資料を渡した。
ひしぎが徹夜で書いた、彼女たち一人一人の個人トレーニング方法が記されている資料だった。
「すみません。少し急用が出来てしまい、私が居ない間皆それに書いている通りに
トレーニングをしていてください」
急に居なくなる事を皆に謝罪すると、早ければ3日、遅ければ1週間で帰ってくると約束し、
ソーナが呼び寄せてくれた列車の時間が迫っている事もあり、すぐさまひしぎは
擬似空間から退出した。
約1時間で駒王町に戻ったひしぎは一度自室に戻り、部屋にあったある物を懐に仕舞い、
頭の中に地理を思い浮かべながら姿を消した。
町の中を屋根から屋根へを飛び、高速で移動するひしぎ。
目指すは──霊峰、富士の裾野に広がりし青山ケ原樹海の最も
『
──壬生一族の住む地へ
(まさか、この様な事情で、かの地へ戻る事になるとは)
もう戻る事は無いと思っていた聖地へ彼は足を進める。
数十分後、樹海が見え──壬生の地へ繋がっていると思しき道を発見し、
その道を走っている車の上を伝いながら、どんどん追い越してゆく。
そして──眼前に広がるのは、昔の風景を所々残したままの壬生一族の地だった。
「懐かしいですね」
城下町は現世と同じような雰囲気になっており、所々の家は昔の造りのままだった。
子供たちの笑い声が絶え間なく聞こえてきて、人々の活気が溢れており、
ひしぎは感慨に耽りながらも足を進めた。
数分後、五曜の門と思しき門を見つけたが、常時開放されている様子だった。
それをくぐり、徐々に奥へと進み──すると、『紅の塔』を沸騰させる塔が
遠目からも確認でき、あれは生前あった『紅の塔』と同じ位置に存在すると確信し、
誰にも見つからないようにその塔を目指した。
高速で移動する最中、横目で自身の居城があった場所を見ると、医療関係施設がならび、
ひときは目立つ大きな病院の看板には『御手洗総合病院』と書かれており、
それを見たひしぎは一瞬呆けるが、口元を緩ませた。
──
そしてまさか、自身の根城の場所にこの様な巨大な医療施設が建っているとはまったく
想像が付かなかったのである。
そして、ここで漸く『自身の半身』の気配を感知した。
「──っ! まさか」
感知した場所は、何度か行った事のある──地下迷宮だった。
行く場所が定まったひしぎは、生前使っていた地下迷宮へ行く秘密の抜け場所を探し、
いくつかは壊されていたが、元居城の近くに一つだけ残っており、
すぐさまそこへ身を投げた。
下が見えないぐらいの深さであり、懐かしさが滲み出る。
数秒後漸く地面へ着地すると辺りを見回した。
「ここはやはり変わっていないのですね」
昔の造りのままであり、レンガが積み上げられたような壁がそのまま存在し、
所々はヒビが入っていた。
そして空を見上げると太陽の光が小さく見えるほどの深さだった。
視線を元の位置に戻すと、気配がする場所へ急いだ。
暗く薄気味悪い霧が発生しており、どんよりとした雰囲気の地下迷宮、
ここは昔陰陽殿と呼ばれる建物の最下層であり、きらびやかな上層と違って
全ての汚物を集めて覆い隠していた場所。
いわば、陰陽殿の『
そして、ここの主はひしぎもよく知っている人物であった。
だが、今のところ『その者』の気配は感じられなかった。
正直会ったらどう反応していいか分からなかった為、安堵するひしぎ。
何度か分かれ道を曲がり、最深部へ向かい──そして、漸くたどり着き、
目に入ったのは
──眼前に広大に広がる雲で出来た地面
──その雲の地面にそびえ立つ数え切れないほどの墓標
そう、ここは『壬生再臨計画』によって生命を奪われた者達の墓場、
ひしぎの罪の一つであり、今も残る後悔が──姿を現したのだ。
言葉でどんなに謝罪しても、彼らの気持ちは収まらない。
だからこそ、自身の命で清算する事にした。
だが、彼は二度目の生を受けてしまった──だから、ひしぎは彼らの墓前で
膝を付き、頭を下げた。
「──許してくれとは言いません。ただ、本当に貴方達の命を奪ってすみませんでした」
彼らの憎悪がもし存在するならば、全て受け入れるつもりだった。
だけど、彼らは『何も』言わなかった。
ただ、風が優しくひしぎの頬を撫でるだけ
化け物と呼ばれた彼らに生きる目的を教えたのもひしぎであり、命を奪ったのもひしぎ、
怨みもあれど、感謝の気持ちもあったのだ。
そして、彼らも知っているのだ──ひしぎも本心からでなかった事ぐらいは。
墓標は何も語らないが、風が代弁してひしぎに彼らの答えを伝える。
──もう、貴方は苦しまなくていい──
──貴方も私たちと同じだった──
──最後に本心を語ってくれてありがとう──と
その瞬間、ひしぎの頬に一滴の雫が流れていた。
そして、自分の半身が呼ぶ声が聞こえ──ひしぎは掌で零れ落ちた雫をぬぐい、
顔を上げると、そこには
──愛刀『白夜』が刺さった墓標があり、その隣には親友の刀が刺さった墓標も合った。
そう、ここは地下迷宮の主である彼女があの戦いの後、3人の墓標を作り、
人知れず見守っている場所だった。
自分たちは砂と化し何も残す事が出来なかった為、刀でその墓標が誰のかが
わかる様になっていた。
「──まったく、姐さんには敵いませんね」
口元を緩めて、ここを作った彼女を思い浮かべる。
「『白夜』、お待たせしてすみません。今度こそ最後まで一緒に──」
立ち上がり、『白夜』を抜こうとした瞬間──後ろに気配を感じた。
気が緩んでいたとは云え、自身の背後を取る事の人物は早々居ない。
(この感じは──まさか)
ゆっくりと振り返るひしぎの視線に
──軽めの着流しに身を包み、朗らかに笑っている青年が映し出された。
「──やはり、貴方でしたか──壬生京四郎」
「ええ、お久しぶりです──ひしぎさん」
数世紀へて邂逅する二人──
こんにちは、夜来華です。
若手達の夢は笑う事、否定するのでなく、例え現実に出来なさそうな夢でも
応援するのが、上司の役割だと思っています。
原作に書いていない若手達の夢はオリジナルです。
そして、再び修行再会で皆ボロボロに・・・・
最後は、お待ちかねのあの人が・・・
感想、一言頂けると嬉しいです。