ハイスクールD×D 黒の処刑人   作:夜来華

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*注意! 今回KYO原作のネタバレ、最大の秘密が書かれています。


あの戦いの、その後を彼の口から聞いた

やはり、あの人は自分と同じで"心"が死んでいた

そして──いくつかの疑問が彼の言葉によって解消された



第20話 真実

ひしぎの振り返った先には、生前とあまり変わっていない壬生京四郎の姿があった。

黒の軽めの着流しに、腰には──刀が下げられている。

 

京四郎は穏やかな笑みを浮かべたまま、ひしぎの様子を伺っている。

両手は、下がったままで刀に触れては居ないが──まったく隙が無く、

"今"の自分の状態では、数分も持たず切り伏せられるだろうと、

ひしぎは悟り、目を閉じ一呼吸した。

 

元より戦う為に来たのでは無い為、そう考えていると先に京四郎の方が

口を開いた。

 

「今はなぜ生きているのかは問いません──その『白夜』殿を使って何を

 するつもりなんですか?」

 

正直、ひしぎがなぜ生きているのか疑問で不思議だったが、

それを後回しにして、聞くべき事を先に問うた。

 

ひしぎが『白夜』を持てば、万が一暴れられたら彼を止めることが、

出来る人物は片手で数える程度しか存在しない。

 

京四郎にそう思わせるほど、危険な組み合わせなのだ。

 

ひしぎは京四郎の問いに、嘘をついても仕方が無いので素直に答える事にした。

 

「守るべき者を守る為。そして弟子を鍛える為に、私の力に耐えうる刀が

 必要だったのです」

 

オーディン託されたロスヴァイセを守る為、そしてソーナ達を鍛える為、

中途半端な事はしたくなかった。

 

だから、自身の力が十分に発揮できる刀を欲したのだ。

 

『白夜』がここにあるのは予想外だったが、思わぬ収穫だった。

ひしぎの答えを聞いた京四郎は、目を瞑り数十秒間沈黙した後、瞼を開け

 

「──そうですか、分かりました」

 

そう言って、彼は警戒を解き、腕を上げ指で上にそびえ立つ『紅の塔』を指し

 

「少しお話しませんか」

 

と、誘ってきた。

ひしぎは、腰に『白夜』を下げると頷いた。

 

ひしぎ自身も京四郎に色々聞きたいことがあり、その誘いに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、遊庵や辰伶、時人、四方堂は別件でここを離れていると京四郎から伝えられた。

 

京四郎に案内される形で『紅の塔』に入ると、内部の造りは少し現代風にアレンジされているが、

生前あった塔内部とほとんど似ていた。

 

懐かしさを感じならが、『控えの間』、『龍の間』を抜け更に長い廊下を奥に行くと、

『紅の間』と呼ばれる京四郎の執務室に着いた。

 

そこはかつての先代紅の王の自室であった。

 

部屋の中は書物や書類などが所狭しと積み重なってたりしていた。

そして、一番奥の正面の壁は一面ガラス張りでそこからは、城下町の風景を見る事が

出来る様になっていた。

 

京四郎は部屋のその窓際にあるテーブルの上の書類を他へ持って行き、

テーブルの周りを囲んでいるソファーにひしぎを促した。

 

「少し散らかっててすみませんが、そこにどうぞ」

 

そして、その奥にある自分の机の上にある電話機を押し、お茶を持ってほしいと

連絡し、京四郎はひしぎと対面になるようにソファーに座った。

 

二人が座ると、控えめなノックが聞こえ、給仕係がお茶を持って来たのだ。

 

(──早い)

 

流石に早すぎる仕事にひしぎは表に出さないが、かなり驚いていた。

 

「さて、ひしぎさん。僕から話しますか?」

 

京四郎の言葉はあの後の戦いの話を示しており、ひしぎも是非聞きたかった事である。

 

「ええ、是非お願いします」

 

「そうですね──」

 

京四郎はテーブルに置かれたお茶を一口飲むと、懐かしい思い出に浸りながら話し始めた。

 

ひしぎと吹雪が死んだ後、自分と狂が戦い、狂を先代紅の王を倒せるだけの高みへと導く為に

敵側となり立ちはだかり、目的は達した後、狂に躯を返し、元の体に戻ったが自分自身も

『死の病』が発病していた為体が崩壊し、崩れ落ちそうになった時、真の壬生一族の

躯を取り戻し、狂の覚醒した『血』によって崩壊は止められ、助かった事。

 

その後、先代紅の王と対峙し戦闘になり、狂が『対極の紅十字』を手に入れ、

先代紅の王を打倒した。

 

そして先代が守っていた扉が四つの妖刀村正によって壊され、明かされた壬生一族最大の秘密。

 

先代紅の王の心臓には『紅十字の四守護士(レッドクロス・ナイツ)』の証である紅十字が刻まれてあり、

真の壬生一族に一番近いオリジナルの戦闘人形だったこと。

 

本物の神様が皆いなくなり、一番優しいかった彼が神の代わりを務めていた事。

 

その後、狂や、壬生の若い者達の言葉を聞いた先代紅の王は自分の命をもって

この悪しき壬生一族の時代に終止符を打つ事にした。

 

先代紅の王もまた、優しすぎた為全てに絶望して心を壊していたのだ。

 

誰よりも生とし生ける者全ての幸せを願っていた為、

同じ一族同士での殺し合いに絶望し、人間達が引き起こす争いにも悲観し、

何度も何度も何度もそれが起こるにつれて心が磨耗し──壊れたのだ。

幾千、幾万の時が心を蝕み、涙は枯れ果て、決して枯れる事の無い血の涙へ変わっていた。

 

何を愛し、何を護ろうとしたかさえ忘れるほどに。

 

そしてそれを狂やゆや達の言葉で漸く思い出し──彼は透き通る涙を流しながら消滅したのだ。

 

『紅の塔』は崩壊し、壬生一族が裏から人間界を支配する歴史は終わったのだ。

その後、辰伶や遊庵を筆頭に壬生の町は再建に力を注ぎ、人間たちと共存できる一族を目指した。

 

3年後、先代紅の王から寵愛を受けていた少女。

『壬生再臨計画』で生まれた希少種の生き残り『るる』と云う少女から『死の病』に関する抗体が

発見され、灯の手によって、数ヵ月後病に対するワクチンが開発され、

何十万と云う壬生一族達の命が救われたのだった。

 

『人間』であった灯の功績は今も直壬生一族の中で救世主として語られている。

 

京四郎の言葉を聞きながらひしぎは手に持ったカップの中で揺れるお茶に視線を落とし

 

(灯さん。やはり貴方に託して正解でした)

 

灯なら自分が残した記憶と研究データからきっと壬生一族を救う手がかりを見つけると

信じていた。

 

「灯さんは僕たち壬生一族にとって救世主です。彼のお陰で僕達は今も"生きている"」

 

その後、数年かけて一族全員にワクチン接種を行うと、その頃から、壬生一族に

子供が生まれるようになったのだ。

 

人間界では、徳川の一人勝ちにより天下は平和の道を突き進み、人種関係なく、

異形の者達でさえ彼らは手に取るようになった。

 

情による政治により──真田勢が手を出しににくくなったのは事実。

と、人間界の話はまた今度と京四郎は一旦区切り、話を戻した。

 

歴史の根が深く、壬生一族と人間が和解し完全に手を取り合うまで数十年掛かったが、

それも彼、徳川秀忠の手腕により彼が生きている間にそれが現実となり、

彼は満足そうに生を引き取ったという。

 

その後の壬生一族は最先端の医療技術などを人間界に伝授し、色々な技術を彼らに教え、

順調に人々の生活に完全に溶け込んだ。

 

そして数世紀たった後、異形の者達とは違う者達による人間を襲撃する事件が勃発し、

一度は壬生一族が疑われそうになったが、壬生一族の者達が人間を護った報告が

大量に寄せられていた。

 

いつも後手に回る為、自体を重く見た辰伶は京四郎や遊庵、時人、その他の元壬生戦士に

声を掛け、裏から人間を護る組織を創立した。

 

そして、そのトップに本来の『紅の王』候補だった京四郎が推薦され、

自分はトップの器で無いと主張したが、皆の願いにより先に折れ

──現代の『紅の王』を襲名した。

 

その後この組織は壬生一族メインで構成され、各世界に派遣し、自然災害や人外からの

攻撃から人類を守護した。

 

ちなみに、人間同士の争いには極力介入しないかった。

理由は様々であり、お互い国の威信を掛けた戦いならば一切介入しない。

ただし、理由無きテロなどには問答無用で介入し粛清する。

 

そしてこの場所がその組織の総本部である。

 

京四郎の言っている『人外』と云うのは悪魔や堕天使だとひしぎは推測していた。

ただ、ここ最近思い出した事なのだが、生前ひしぎですら悪魔との戦闘は数える程度であり、

ある時から一切彼らの相手をしなくなった事を思い出したのだ。

 

「──と、まぁ、今の壬生一族の状態はこんな感じです」

 

京四郎の語りに黙って耳を傾けていたひしぎは満足そうに頷いた。

 

「そうですか。やはり子供達に託して正解でした」

 

悪の時代であった壬生一族の歴史は自分たちの命で清算し、辰伶達に

壬生一族を託して本当に正解だったと、そして彼らは自分たちとは違う形で

一族を護り、人間をも護ったことに心の中から安堵した。

 

「辰伶さんが声を掛けなければ、僕達はもう一度集まる事は無かったんです」

 

京四郎は寿命の朔夜を看取った後、自分の罪は消えない為、この命果てるまで

人間に助けようと思い再び世界中を旅をしていたのだ。

 

そして、ある時辰伶が目の前に現れ、力を貸して欲しいと頼まれ承諾したのだ。

 

「僕達はこの地を拠点にして、壬生の力を人々を助ける為に使うと決めたんです。

 だから──例え悪魔や天使、神が人々に手を出すのならば、僕もう一度『鬼神(きしん)』に戻り、

 それらを滅ぼします。それが僕に残された最後の道なので」

 

ひしぎに対しても人々に危害を加えるなら、自分が全力で相手をする──と、

警告しているのだ。

 

それを読み取ったひしぎは、口元を緩め──頷き、自身の答えを聞かせた。

 

「私はもう──この世界に興味はありません。ただ、弟子たちの行く末を見て見たいだけなので、

 貴方方と敵対する理由はありません」

 

その答えに京四郎も満足そうに頷いた。

 

「分かりました。──そろそろひしぎさんの今の境遇を聞いてもいいですか?」

 

「ええ、そうですね」

 

京四郎の質問に今度はひしぎが答える番となり語り始めた。

 

辰伶達を復活させた後、意識が戻った時には既に駒王町にある駒王学園の保健室で

寝かされていたこと。

 

そして何故生きているのか自問自答した後自害しようとして、ソーナと云う少女に止められ、

心が救われ、助けられた恩を返すべく彼女を敵から護り、夢の手伝いをする事になった。

 

そして彼女は人間ではなく悪魔であったという事、ただ、それは別に構わなかった。

悪魔だろうが、天使だろうが、人間だろうが、彼女が自分の心を癒してくれたのは事実。

 

だから、彼女を助けようと思い──今度悪魔側で特殊なゲームをする為に、

修行を一から見て欲しいと頼まれ、修行の過程で自身の力に耐えうる刀が欲しくなり、

この地へやって来たと、京四郎に説明した。

 

「なるほど、そのソーナって言う子の為に動いているのですね」

 

「ええ、そうです」

 

元々『白夜』を発見する確立は低いと考えていた為、所に持っていた布で巻いた物を

テーブルの上に出し、それを広げた。

 

「この子の破片で、寿里庵(ジュリアン)に私の刀をもう一度作って貰おうかと思っていたのです」

 

そう、その布に巻かれていたのは粉々になった『夜天』の破片だった。

彼はそれをベースに寿里庵に自身の力に耐えうる刀を作ってもらう為にここへ来たのだ。

 

ただ実際彼に会い、どう頼むかはまだ思案中であったのは内緒である。

だが、寿里庵以外に自分の刀を作れる者が居ないのも事実であり、彼に頼るしかなかったのだ。

京四郎は視線を天井に向け──少し思案した後、ひしぎに視線を戻し

 

「分かりました。僕からも寿里庵さんにお願いしてみます」

 

京四郎からの思わぬ提案にひしぎは一瞬呆けに取られたが

 

「すみませんが、よろしくお願いします」

 

そう言ってひしぎは頭を下げた。

そして、ひしぎは次なる質問を京四郎に投げかけた。

 

それは悪魔や堕天使、天使についてである。

 

「貴方は先代紅の王が統治していた時、悪魔達やそれ以外の者達と戦った事はありましたか?」

 

「ええ、何度か任務で戦ったことがありますけど、ただそれは一時の物でした。

 僕自身も彼らと戦った記憶は数える程度ですし、ひしぎさん達とあまり変わらないと思います」

 

京四郎でさえ、先代紅の王が統治していた頃悪魔やその他の者達と戦った事は

数える程度だった。

 

そう言って京四郎はソファーから立ち上がり、大きな本棚にある1冊の分厚い資料を取り出し、

ソファーに戻り、その本をひしぎへ渡した。

 

「これは、崩壊した『紅の塔』付近に落ちていた本で──悪魔やその他もモノとの戦闘記録が

 全て書かれています」

 

手渡された資料のページをめくると、自身もしらない戦闘記録がびっしりと書かれていたのだ。

そして、その戦闘を任されていたのは──鎭明と当時の紅の王(壬生京三郎)の二人だった。

 

彼ら二人は主に人外の敵、悪魔や天使、他の神々相手に壬生一族と人間を護っていたのだ。

 

「僕自身も二人がこの様な戦いをしていた事はまったく知らず、この資料を読んで

 初めて知ったんです」

 

その二人の弟だった京四郎でさえ知らなかった事実。

ひしぎが知らなかったのは無理なかった。

 

「確かに、あの二人ならば数など無意味に等しいですね」

 

鎭明は『無明大陰流』の流派であり、『地友気(ちゆうぎ)』を操る、土を司る者。

彼の業は対軍業が多く、彼対して数の量など無意味に等しかった。

 

そして、当時の紅の王は狂や京四郎、村正が操る『無明神風流』を生み出した者であり、

鎭明ほど対軍業は持っていないが、それでも十分な戦力だった。

 

その二人が組み、人間界に侵攻してきた悪魔などを迎撃していたことが書かれていた。

だからこそ、ひしぎや京四郎達は人間界に集中できていたのだ。

 

初めて知った事実に、ひしぎは驚きの表情を浮かべていた。

 

「僕達は二人に影ながら護られていたと云う事だったみたいです」

 

二人を懐かしむように語る京四郎。

 

「そうみたいですね」

 

その言葉に頷き、口元を緩めるひしぎ。

 

「そうですね、現状の僕達の立ち位置も説明します」

 

京四郎はそういうと、自分たちと日本政府、悪魔や日本神話系との関係について説明し始めた。

 

日本政府、世界政府と同等の発言力と権力を持っているが、基本一切の政治干渉はしない。

なぜなら、自分達の力に頼らず、人間がどういう未来を辿って行くか見守るため。

 

そして、悪魔達との関係は、日本政府の特殊機関が窓口であり、

基本悪魔と交渉するのは日本政府。

自分達は彼らの成り行きを見守るだけ。

故に自分達の存在は口外しないように伝えている為、悪魔側は

自分達の存在を知らない。

 

そして日本政府が許可したからこそ、悪魔は悪魔専用の地下鉄などが作る事が出来たのだ。

 

ただ悪魔が現世に進行しようとした場合、自分たちの出番であり、

それは日本政府からの依頼無しでも動く事が可能となっている。

 

あくまでも人類を護る為の行動であるが、ただ、規模によっては見逃す場合もあり、

悪魔側自身がきちんと対処する場合監視のみとしている。

 

それは堕天使、天使、他の神々でも例外は無い。

 

例えば、はぐれ悪魔が出た際、3日以内に悪魔側からの討伐部隊が来なければ

自分たちが処理する形となり、基本その間は24時間の監視体制。

 

ただ、悪魔は気配が違うので、かなり見つけにくい部分もある。

ひしぎや京四郎クラスならばすぐに見つける事は可能だが、基本街を警備しているのは

下級戦士クラスであり、どうしても対応が遅れる場合もある。

 

彼らとて完全な万能では無いのだ。

確か力は有しているが、全人類を護れるとは思っていない。

だからこそ、最小限の被害で食い止めるようにしている。

 

そして、悪魔が人間界で仕事する事については黙認している。

彼らとて一つの生物であり、生きる為の糧だからこそ、それを理解している。

だから、悪魔が人間に悪事を働いてもある程度の事は黙認し、

やりすぎの場合は処理対象にする。

 

先日の駒王学園で起きた襲撃事件が良い例である。

外に待機していた、天使、堕天使、悪魔の兵士たちが小競り合いを起こし

戦闘に発展した事。

 

きちんと街に結界を張っていたのならば、手を出さずに静観していたが、

彼らは結界を張らずに戦闘したため、あの規模の戦闘だった為処理対象となった。

ただ、彼らの会談の内容を事前に把握していた為、死者は出さないように配慮した。

 

基本的にやりすぎでなければ、自分達は動く事は無いとひしぎに説明した。

そして、日本の神話系との関係は、お互い一切干渉しない事となっている。

 

ただ相手側から救援依頼が来た場合のみ手を貸す事となっている。

日本の力の関係は壬生一族が一番上でその下に日本神話系が連なっている。

 

ひしぎが悪魔の少女と共に居るということなので、京四郎は

砕いて説明し、覚えていてもらうことにしたのだ。

 

ソーナが日本や世界で大規模な戦闘を起こそうとした場合、

例えひしぎが護っていても、例外なく処理すると伝えた。

 

その京四郎の言葉に、嘘偽りはないと感じたひしぎは

 

「肝に免じておきます」

 

と、答えた。

 

その後もお互い質問のやり取り押して、空白の時間を埋めるように語った。

 

すると、京四郎がふと時計を見て

 

「そろそろ寿里庵さんが、こっちに戻ってくる時間なので、彼の家に行きましょうか」

 

寿里庵はとある用事で2日前から京都に出かけており、今日の昼過ぎに戻ってくる予定だった。

京四郎が立ち上がるとひしぎも出されたお茶を飲み干し、立ち上がり、京四郎の後を追った。

 

彼の住む家は生前遊庵の領地の近くであり、そう遠くない場所だった。

 

数分後古ぼけた大きな屋敷が目に入り、京四郎は扉をノックすると中から返事が聞こえ、

扉が開いた──すると、上半身裸で豹柄のカーボウイハットを被り、

右目の下には刀の刺青が入った白髪の男が出てきた。

 

「ん、京四郎? 直接来るとは、何かようなのか?」

 

怪訝な笑みを浮辺ながら白髪の男──寿里庵は京四郎を出迎えた。

 

「ええ、少しお願いがあってきました」

 

「──ほう」

 

何時に無く真剣な表情をする京四郎に、笑みを消す寿里庵。

京四郎はゆっくりと半歩後ろに下がり、彼の陰に隠れていた人物、ひしぎが

寿里庵の視界に入るようにした。

 

すると、寿里庵は──

 

「──なっ! て、てめぇは!?」

 

幽霊でも見たような驚きでひしぎに指を指した。

 

「寿里庵さん、少し中でお話してもいいですか?」

 

漸く、京四郎が態々自分の所に秘書も付けずに来た理由を悟り、寿里庵は警戒心を

解かずに二人を屋敷の中に上げた。

 

畳で敷き詰められた客間に、二人を案内し、一応お茶を出して

寿里庵は切り出した。

 

「一体何がどうなってるんだ?」

 

「僕から説明します」

 

京四郎が先ほどひしぎから受けた説明をそのまま寿里庵に聞かせ、

なぜ自分の家に訪れた理由も告げた。

 

その二人の会話を黙って聞くひしぎ。

 

今思えば、寿里庵に自分が殺されてもおかしくないと感じていた。

なぜなら、彼の妻を殺したのは自分自身なのだから。

 

任務とはいえ、彼ら庵一族に怨まれる事をしたのは事実。

どの面下げて会いに来たといわれればそれまで。

だから、自身の願いを聞き入れてもらえる確率は非常に低いと感じていた。

 

だが、彼以外自分の願いを叶えられる人物は居なかった。

 

だからこそ、彼らが望むならどのような罰でも受けるつもりでここまでやってきたのだ。

京四郎の話を真剣に聞き、時おりひしぎに視線を向けてくる寿里庵。

 

漸く説明が終わると、彼は被っていた帽子を深く被りなおし、数分沈黙した後、

こう答えた。

 

「──分かった。ただし一つ条件がある」

 

「それは?」

 

「──伊庵(イアン)の墓参りをしてやってくれ」

 

「──っ! よいのですか?」

 

「ああ」

 

伊庵は寿里庵の妻であり、ひしぎの同僚でもあった太四老の一人だった女性。

彼女は『紅の眼』の秘密を暴こうとして、先代より命を受けたひしぎが彼女を斬ったのだ。

 

寿里庵はひしぎの思いも、記憶も全て知ってい要るため、謝って欲しいとは

一切言わなかった。

ただ元同僚として声を掛けてやってくれと、ひしぎに言い

 

「わかりました」

 

彼の気持ちを汲み、ひしぎは了承した。

 

「で、お前さんの持ってきた子の破片はどこにあるんだ?」

 

湿っぽい空気はいやなのか、すぐさま仕事の話に取り掛かろうとする寿里庵。

その光景を心の中で安堵する京四郎。

 

ひしぎは布に巻きなおした、『夜天』の破片をテーブルの上に置き彼に見せた。

 

「ほぅ、俺様ほどじゃないが、人間にしては良い業物じゃねーか。

 ──いいぜ、5日だ。そうすれば『白夜』に引けを取らない()

 創ってやる」

 

「ありがとうございます」

 

寿里庵はそう言って『夜天』の破片を持ち、屋敷の奥へ歩いていった。

屋敷の奥は彼の仕事場、鍛冶が出来る場所となっており、すぐさま仕事に取り掛かった。

 

その光景を見た二人は顔を見合わせ、そっとその場を後にした。

京四郎はそのままひしぎを『御手洗総合病院』へ連れて行き、

遠目から灯の子孫を見てもらうことにした。

 

病院のすぐ傍のベンチで数人の若い女性が雑談しながら昼食を取っており、

その中で桃色のストレートロングヘアーをした女性にひしぎは目を奪われた。

 

「ええ、彼女が灯さんの子孫で、名は御手洗 燈。 あの灯さんと漢字は違えど、

 同じ名前です」

 

名前も漢字が違うだけで読みは一緒。

そして、容姿までもが生前の彼を思わせるほど似ていたのだ。

ただ、やはり性別の壁があり、こちらの燈の方がとても優しそうな雰囲気を常に出していた。

 

「あの子も灯さんと同じく"シャーマン"であり、類稀なる法力の力を持っています」

 

「…」

 

「ですが、彼女はその力を使わずにこの地位まで上り詰めたんですよ」

 

彼女は決して法力治療のみでこの地位を得たのではなく、初代にあこがれて子供の頃から

法力は緊急時以外使わず、猛勉強して漸く皆に認められ獲得した場所なのだ。

 

「流石は彼の子孫なだけありますね」

 

「ええ、本当に」

 

その後も時間が許す限り、京四郎は今の壬生一族の街を紹介して回った。

 

道中、黒猫と青い小鳥が祭られている神社があり、そこに文字が書いてあり、

黒猫を飼うとご利益があり、幸運にもなる。

 

青い小鳥を見るとその日一日運気が上がる、と、書いてあり、

なんとなく心当たりのあるひしぎは苦笑するしかなかった。

 

京四郎の話によれば、あの時の戦いで辰伶や遊庵、先代に意識を止められていた者達を

復活させる一役を買い、あの後辰伶が黒猫を引き取り、小鳥は時人の元に居た。

ただ、3年後小鳥の方は元の飼い主の所へ戻ったと、話していた。

 

(確かにあの子達がいなければ、復活させる要因が見出せなかったでしょう)

 

話をきいたひしぎは懐かしさを感じながら、1匹の親友に懐いていた黒猫と

狂の刀のいつも止まっていた青い小鳥を思い出していた。

 

すると、第4の五曜の門内部にある大闘技場で誰かが戦っている様子があった。

 

二人は第4の門を潜ると、大きく損傷した闘技場の姿が目に入り、

その中心には槍を持った一人の黒髪の青年と同じく槍を持った虎柄の手拭いを頭に巻いた青年が

激しい戦闘を繰り広げていた。

 

そして、そんな二人から離れた場所で、銀色の甲冑を着た金髪で長いお下げの女性が

静かに見守っていた。

 

一人は生前見たことある人物にそっくりな青年で、もう一人からは壬生特有の雰囲気が

まったく感じられなかった。

 

「あの者たちは?」

 

ひしぎの質問に、京四郎は頬を書きながらどう答えて良いか少し思案し

 

「一人はひしぎさんの察しの通り、トラさんの子孫です。そして、あの女性ともう一人の青年は

 遊庵がとある任務中に拾ってきた・・・らしくて」

 

誘拐でもなければ、洗脳でもなく、偶々遊庵が任務中帰還中にボロボロになった青年と

それを護ろうとする金髪の女性に会い、暇つぶし程度に拾ってきたと話したのだ。

 

「変わりませんね。遊庵は」

 

「ええ、それがあの人の良い所かもしれませんけど」

 

ひしぎの呆れ声に京四郎も笑いながら同意する。

遊庵は生前も前科があり、前も拾ってきた者を自分の家に同居させるぐらいのお人よしだった。

 

そして、今回も同じだと京四郎は語った。

 

二人はそのまま二人の青年の戦いを離れて傍観することにした。

上級の槍同士の戦いはめったにお目にかかれるものではない、トラの子孫と呼ばれた青年の

手には十字槍が握られており、もう一人の手には──

 

「まさか、あの黒髪の青年が持つ槍は"北落師門(ほくらくしもん)"ですか?」

 

「ええ、その通りです」

 

"北落師門"は徳川家代々伝わる『魔槍』であり、四大妖刀の一つであり、

所持者の黒き血を糧にして、その力を発揮する魔槍。

 

所持者にその力を認められなければ、一切の力を発揮せず所持者の精気を吸いとる性質がある。

故に徳川の血を引くもの意外扱うことは出来ないとされていたはずだったが。

 

目の前の黒髪の青年は完全に使いこなせては居ないが、魔槍をある程度扱えていた。

 

なぜあそこまで扱えるのか京四郎に聞いてみると、

 

「ああ、なぜなら彼は──」

 

虎柄の青年が思い切り跳躍し、黒髪の青年目掛けて十字槍を投げた。

 

「これでどうや!」

 

彼の放った槍は螺旋状にもう回転し、流星のように地面目掛けて落ち、轟音と共に周囲を

砂塵で多い、地面に巨大なクレーターを作った。

 

「──の血筋なので、恐らく似ているから、だと思いますよ」

 

京四郎の説明に納得したひしぎ。

確かにあの血筋ならば、徳川家の黒き血と同じようなモノが流れてる可能性があり、

性質が似ている為扱えるとトラの子孫は考え、ハンデとして自分の武器を彼に

貸し与え、彼の考えは当たっていた。

 

槍の地面への衝突時に発生した衝撃波により思い切り吹き飛ばされた、黒髪の青年は

闘技場の壁まで吹き飛ばされ、激突し崩れ落ちた。

 

「ほれ、立たんと次ぎ行くで?」

 

地上に着地した虎柄の青年は十字槍を地面から抜き、柄の部分で肩を叩きながら、

倒れている黒髪の青年に声を掛ける。

 

明らかに虎柄の青年の方が余裕があり、倒れているほうは余裕が無かった。

 

本人たちの間にはかなりの実力の差が存在していた。

 

「──っ! まだだ、まだ俺は戦える・・・!」

 

黒髪の青年は槍を地面へ突き刺し、それに体を支えるようにして立ち上がる。

体中至る所に切り傷があり、口からも、額からも血を流しているが、眼は死んでいない。

 

「ええ根性や。ならワイの──初代の業をみせたる」

 

徳川秀忠には『紅虎』と云う名前を生前持っており、それは代々受け継がれ今はこの青年の名となっている。

そう云って彼──紅虎は青年を殺さないように槍の先端を逆にして、柄の部分を下にして構え、

闘気を全身から放出させ──

 

黒髪の青年は咄嗟に防御の形を取る。

 

「──神影(しんかげ)流奥義、逆さ八寸(はつすん)

 

槍の回転力と突進力を究極にまで高めて撃ち放つ、一点集中破壊技。

そして青年を殺さない為に逆にしたので、技名の前に『逆さ』を付けたのだ。

これは初代が『八寸』をアレンジして、戦友である盲目の侍、アキラの目を

覚まさせる為に生み出した技であり殺傷力はまったく無い。

 

初代はかなり手加減して放った為、直撃受けた頭部が地面へめり込む位の

威力だったが、この紅虎は手加減無用で放ち──

 

黒髪の青年の持つ北落師門の棒の部分に当て、思い切り吹き飛ばした。

 

一点に集中された破壊力を彼は受けきれずに、足が宙に浮き、そのまま思い切り

壁を貫通して塀の向こう側まで盛大に吹き飛んだ。

 

「──!!」

 

座って静観していた金髪の女性が血相を変えて、吹き飛んだほうへ走っていく。

そして放った当の本人は、槍を下げ深呼吸して息を整え、呟いた。

 

「これが、あんさんの目指す世界や──生半可な覚悟では生き残られへんで?」

 

そういい残し、紅虎も青年が吹き飛ばされた方向へゆっくりと足を進めて行った。

 

「流石、と言うべきでしょうか」

 

「ええ、彼もまだトラさんの域には達していませんが、それでも十分に

 強いです」

 

初代は彼より更に強い為、現代の紅虎の超える目標となっている。

あの時の狂の仲間たちの子孫を見ると、本当にかなりの時が過ぎたと、

実感したひしぎである。

 

「戦闘も終わったようですし、そろそろ戻りましょうか」

 

「ええ」

 

そう云って二人は『紅の塔』へ戻り、その後京四郎はひしぎを客室に案内し、

自分は残った仕事を処理する為に、仕事部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひしぎは案内された客室にある、ベッドに腰をかけ──一日を振り返り、

久々に疲れたと感じて、身を倒して仮眠する事にした。

 

(ソーナはきちんと修行しているでしょうか)

 

ふと、残してきた彼女たちの顔を思い浮かべながら、意識を手放した。

 

 




こんにちは、夜来華です。

すみません、今回KYO原作のネタバレしてしまいました。
ですが、絶対に必要な事だったので・・・

後、なぜ"あの青年"が北落師門を扱えてるというと、
彼の血筋が紅虎側と似てる、と思ったので、やってみました。


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