もう、どうしたらいいか分からない
どうしてこんな事になったんだろう
助けて──姉様──ソーナ先輩──ひしぎさん
シトリー家の屋敷に戻る道中、ソーナは簡潔に知っている事をまとめ、ひしぎに伝えた。
一昨日の夜、冥界に各神話の神々が訪問する為、護衛と云う名目でルシファー領にある
お城でパーティに参加した事。
その時、ソーナと小猫は一度話をしており、その時から何か無理をしている状態だった。
心配になったソーナは小猫と離れないようにしていたが、議員の一人に呼ばれ、
彼女から離れる事になってしまったのだ。
その後、何かを感知した小猫はパーティ会場から抜け出した。
「抜け出した後、森の中で何かが起き、気絶した小猫さんは一度リアスに
保護されたと聞いたのですが、目を放した隙に病室から居なくなっていたと、
──リアス自身から連絡がありました」
城を抜け出した後、起こった出来事は後ほど説明するとリアスから言われ、
今は小猫を探すのに協力して欲しいと今朝、連絡があったのだ。
リアスの話では小猫の精神状態が酷いらしく、詳細に話している時間は無い為、
グレモリー眷属と、家の使用人総出でグレモリー領を捜索している。
そして、小猫がソーナと仲がよかったことを思い出したリアスは、一応自身の眷属の
問題なのだが、ソーナに協力を要請し、彼女は了承したのだ。
一旦訓練を中止し、匙達に小猫の捜索を指示し、椿姫には問題となった現場へ向かわせ、
城の使用人たちに何があったか聞き込みをお願いしたのだ。
ソーナ自身も小猫の捜索に、使い魔である『ベイ』を放ち、自身はひしぎを迎えに行き、
事情を説明した後参加するつもりだった。
合流したのち、一旦情報収集の為に屋敷に戻る途中、ひしぎは消え入りそうな
小猫の気配を感じ取ったが、隣にいるソーナはまったく気がついていなかった。
「ソーナ」
ひしぎがソーナに声をかけ、彼女がこちらを向くとそっと右手で屋敷の外縁部を指差した。
正面から見たら映らない角度だが、屋敷を覆う柵に手を当てながらゆっくりと
ふらふらした足取りで外縁部を歩く小猫の姿があった。
「小猫さん!?」
まったく気配を感じなかったソーナは驚きの声を上げ、慌てて彼女の元に駆け寄り、
顔を覗くと──
「──っ?!」
小猫の目には光が無く、焦点が合っておらず、生気が抜けたような表情だった。
体から発する気配も、消えかけており死人のように感じたソーナ。
「…」
彼女は二人に気づかずゆっくりと前へ進もうとし、隣にきたひしぎが
そっと彼女に呼びかけた。
「小猫さん」
大きくも、小さくも無いただただ優しげな声で小猫の名前を呼んだその瞬間──
「──ぁ」
小猫の足は止まり、何かを探すような感じで周囲を見渡した。
そして、ひしぎは膝を折り、彼女の目線の位置に顔を持ってくると、右手で優しく
頭を撫でながらそっと声をかけた。
「私はここですよ」
その瞬間──小猫の瞳に光が戻り、何度か瞬きした後溢れ出る涙。
雫が顔を伝い、地面を濡らす。
「──っ! ひしぎさん!」
今まで忘れていたもの、堪えてきたものが一瞬にして湧き上がり
小猫は感情の赴くままひしぎに抱き付き、首に手を回し、肩に顔を押し付けるようにして泣いた。
止まる事を知らない涙は、堪えてきた悲しみ、絶望、怒り、戸惑い、恐怖を
全てさらけ出す様に流れた。
「よく、がんばりましたね」
小猫の涙の意味を感じ取ったひしぎは優しく彼女の撫で続け、小猫の気の済むまで
泣かせてあげようかと思ったのだ。
そして開いている片手で、簡単な結界を生み出し、自分を含めた3人を覆い隠すように
展開した。
周囲の雑音を遮断し、気配を断ち、誰の目にも留まらぬようにした。
ひしぎはそっと小猫を抱きかかえるとソーナに目を配らせると、彼女は頷き、
結界を維持したまま屋敷の中へ入っていった。
ひしぎは自分に与えられていた客室へ向かい、部屋に入るとベットの上に小猫を座らせ、
まだ泣き止まない小猫を優しくあやし続けた。
よっぽどつらい事があったのだろうと、ひしぎは内心思っており、
小猫の体から彼女ではない誰かの血の匂いが感じ取れていたのだ。
すると、扉がノックされひしぎが返事をするとソーナは飲み物を手に部屋に入ってきた。
「お父様とお母様には事情を話してきました。 ですが、リアスにはまだ報告していません」
ソーナの報告に頷くひしぎ。
「ええ、今はそれで良いかと」
何となくだが、リアス達の元を離れ、自分達の元へ無意識に来るほどの訳ありだと
判断したソーナは小猫から事情を聞いてからでも遅くないと判断し、
リアスへの連絡は取りやめた。
二人は彼女が事情を話せるまで待ち、数十分後漸く小猫は泣き止み、渡された
タオルで顔を拭き、ベットに腰をかけたまま泣き腫らした目は俯き加減で、
ゆっくりと話し始めた。
「私は、あの後会場の片隅で少し考え事をしていました」
ソーナが議員に呼ばれ離れて言った後、小猫は持っていた飲み物を片手に
そっと会場の片隅に移動し、壁にもたれながら考え事をしていたのだ。
どうやったらリアスとの関係が元に戻るかを、小猫は考えており、
現状二人の雰囲気はギクシャクしており、話すに話せない状況だったのだ。
リアスには色々助けてもらった過去があり、だからこそ元通り戻りたいと願っていた。
そして、もう一つ小猫の中で燻っている案件があった。
それは実の姉の存在である。
この間までは恐怖と自分を捨てていった姉への怒りの方が強かったのだが、
仙術を受け入れてから、覚えの無い記憶が小猫の夢に何度も何度も再現されていた。
──君に辛い事を押し付ける事になってしまい、本当にすまない■■
──いえ、これは私にしか出来ない事なので
──だけど、私は■■■■■んだ
──はい
──私の愛しい眷属■■。君たち姉妹には感謝しきれぬほど多くのものを貰った
──私はそのお言葉を頂けただけで、どんな辛い道でも耐えれます
──ああ、ありがとう
黒いモヤが掛かった男女の会話、思い出そうとしてもこの先からは思い出せないのである。
とてもとても懐かしい二人の声。
この記憶とリアスのと関係の狭間で小猫はかなり精神的にも消費していたのだ。
だが、リアスとの関係の方は先延ばしにしたくないため、どうやって
修復するか模索していると、本来あるはずの無い気配を感じた。
「──っ?!」
視線の先にある外枠のテラスにあるテーブルの下に黒い猫が小猫の方をずっと見ており、
視線が合うと黒い猫は歩き出し、柵の間から下へ飛び降りた。
とても懐かしく、大好きだった気配──その瞬間小猫は、考え事は消え失せ、
気配の感じる方向へ無意識に足を進めていた。
会場のエレベーターで1階まで下り、城の後ろにある森を目指した。
気配は森の中から感じるのだ、森の中に足を踏み入れるとそこは闇夜の世界であり、
手入れがされているのか、それほど走りにくい場所ではなかった。
生い茂った木々の間をすり抜け、月の光のみを頼りに奥へ進むと数分後、
ひときは大きな木が目の前に現れ、小猫は立ち止まった。
気配の持ち主はこの木の上に居ると確信し、恐る恐る顔を上げてみると、
其処には、太い枝に寄り添いながら小猫を優しく見下ろしている、
黒い着物を着た女性が居た。
「──久しぶりね、白音」
その声、その雰囲気、その眼差し、小猫に懐かしさに全身を震わせながら呟いた。
「黒歌姉さま──」
黒歌と呼ばれた女性は、小猫の実の姉であり、たった一人の家族だった。
頭部には猫耳が生えており、背後には二つに割れた尻尾が見え隠れしており、
猫又である証拠だった。
そして、黒歌に呼ばれた名前こそが本来の小猫の名前であった。
「よっと」
黒歌は身をゆっくりと体を起こし、枝の上に立ち上がるとそっと地面へ降り立った。
その瞬間小猫は身を硬くして後ずさったが小猫との距離はわずか2メートル。
そして黒歌は優しい表情を浮かべたまま、ゆっくり一歩ずつ近づいてくる。
「──っ」
小猫は近づいてくる彼女に、懐かしさ嬉しさ、そして自身を捨てた怒り、悲しみ恐怖など、
様々な感情が心の中でそれらが渦巻き、身動きが取れなかった。
黒歌は小猫の目の前で止まると、そっと両腕を突き出した。
その瞬間小猫は体を震わせ目を瞑ってしまう。
「──会えて良かった」
優しい言葉と共に両腕が小猫の背に回され、そっと壊れ物を扱うかのように抱きしめた。
「──えっ」
抱きしめられた小猫は咄嗟に声を漏らし、柔らかいものに包まれた彼女は
そっと目を開けた。
目の前には豊満な胸が目の前にあり、自身の顔が姉の胸に埋もれている事を知り、
大好きだった姉の匂いに包まれている小猫は、先ほどまで燻っていた
恐怖や怒りなどが吹き飛び、懐かしい気分が彼女を支配した。
黒歌はそっと小猫の顔を胸から離し、抱きしめたまま語りかけた。
「──本当に大きくなったね。お姉ちゃん感動しちゃった」
右手で優しく小猫の頭を愛おしく撫でながら発する言葉は、とても優しくて、
とても悲しそうに聞こえた。
そう感じ取った小猫は何もいえないまま全身の力を抜き、そっと目を閉じ黒歌に身を委ねた。
二人はそのまま数分間お互いの温もりを、離れ離れになった寂しさを
埋めるように抱き締め合った。
すると、小猫と同じように目を瞑っていた黒歌がそっと顔を上げ先ほどとは違い、
冷たい瞳で小猫の後ろの林の中に視線を向け
「気配を消しても無駄にゃ。仙術を知っている私からすれば、気の流れに少しでも
変化があれば分かるにゃ」
そこにいる誰かに聞こえるように言い放った。
まだ、仙術を受け入れたばかりの小猫は、まだ気の流れを読みきれておらず
気づいてはいなかった。
そっと黒歌から顔を離し、姉の視線を辿ると、真っ黒な林の中から二人組みの
男女が出てきた。
「──イッセー先輩、部長」
一誠とリアスの二人であった。
小猫が会場から出るのを見ていた一誠は最近の小猫の在り方に不安を抱いていたので
追いかけようと思い、エレベーターに乗り扉が閉まる瞬間、リアスも
エレベーターに乗り込んできた。
リアスが一誠に何があったのか問いかけると、彼は事情をリアスに話し
二人で小猫の捜索に乗り出したのだ。
その後、リアスの放った使い魔が小猫を発見し追いつき現在に至る。
そして二人が現れた瞬間、黒歌の後ろから気配がもうひとつ現れ、
その人物は黒歌と小猫の少し右横に止まり、眼前の二人に声をかけた。
「よう、お二人さん。久しぶりだな」
現れた美猴に少し身を構えながら一誠は相手の名を思い出した。
「テメェは確か、──美猴か」
「おうよ、俺っちの名前を覚えていてくれたのか。嬉しいねえ」
ヴァーリのライバルである一誠に名を覚えられていたのが、嬉しいのか美猴は笑い、
一誠の在り方をよく観察し、前回会った時より体を覆うオーラの量が倍増している事に
気がついた。
「お、前回会った時より。かなり強くなってるじゃねえか」
その言葉に一誠は目を丸くし、警戒心はそのままでリアスに問いかけた。
「部長、仙術って魔法使いたちが使う魔術や魔法とは違うモノなんですか?」
一誠の問いにリアスは嘆息しながら説明し始めた。
要は仙術は気であり、生命に流れる大元の力であるオーラ。
悪魔の魔力、天使の光力とは別物であり、直接的な破壊力はまるで無い。
仙術は気の流れを操作する術であり、さらに細かく砕いて言えば、
ゲームで言う身体能力向上や、気配探知、周囲にある自然の花や木々などを
一瞬で咲かせたり生やしたり、その逆もできるようになる。
つまり、魔力などとは別にある人間の体内に秘めてる未知の部分を使って
使用することができるのだ。
二人がそうやって会話している間、美猴は笑みを浮かべつつやり取りを
聞き入っている。
そして黒歌はと云うと、誰もこっちを見ていないか確認すると、そっと小猫の
耳元に口を近づけ呟いた。
「大丈夫、白音の立場はキチンと護ってあげる」
そう、黒歌は冥界でSSランクの指名手配はぐれ悪魔なのだ。
そのような人物と抱擁を交わしたとなると、事情を知っている人物以外が
見ると、テロ側のスパイとして認識される恐れがあるのだ。
だからこそ、妹の立場を悪くしない為に黒歌はそう呟き、小猫に仙術をかけた。
「──あっ」
暖かい何かが体の中に流れてきたと思いきや、全身に力が入らなくり小猫は声を漏らした。
そのまま黒歌にもたれ掛かると優しく抱きしめられ
「ごめんね、少しの間だけ辛抱しててね」
黒歌はゆっくりと小猫を地面へ座らせた。
その光景を見た一誠とリアスは黒歌に鋭い視線を向け、臨戦態勢に入っていた。
「テメェ! 小猫ちゃんに何をした!」
「小猫!」
二人の反応にうまく掛かったと思いながら黒歌は苦笑した。
「暴れられると困るから、少し大人しくしてもらっただけにゃん」
黒歌の言葉に反応した一誠は飛び出しそうになるが、目の前にリアスの手が突き出され制止し、
そのままリアスは一歩前に出ると先ほどの黒歌の言葉をじっくりと反芻し、二人に問うた。
「貴方達の目的は何? テロ? それとも──小猫の身柄かしら?」
最後の言葉に一瞬黒歌の耳がピクリと反応したが、二人は気づいていなかった。
「──ええ、アタリにゃん。白音さえ渡してくれたら何もせずに帰るし、
貴方達二人も見逃してあげるにゃん」
「──っ!? やはりそうだったのね。あの子を捨てた貴女が今更どうして小猫を
連れ戻そうとするの! あの時傷つき、壊れそうになったあの子の傍に
居てあげなかった貴女が!」
黒歌の身勝手な言葉に、激怒したリアスはあの時の小猫の様子を思い出しながら
言葉を投げつける。
まだ小猫が幼かったとき、黒歌が自身の主を殺害し逃亡を図った。
猫叉の彼女は仙術を扱いすぎた為、世界に漂う悪意、邪気などを取り込んでしまい、
暴走した結果が主の殺害──と、小猫とその周囲に説明された。
元々は最上級悪魔の眷属であった彼女は『僧侶』であり、ピース2個を消費するほどの力を
持っていたのだ。
だが、彼女は豹変し主を殺し、妹を捨て冥界から姿を消したのだ。
置いて行かれた小猫は、他の悪魔に蔑まれたり、罵られたり、
最終的には姉と同じようになると危惧され、処分する噂が流れていたのだが、
とある案件で冥界を空けていた初老の悪魔が戻ってきた翌日、事情を把握した初老は
すぐさま冥界全土へある命令を発令した。
小猫に害を与えたえるモノは罰を受ける事、そして害を与えたものへの処分を通達。
それ以来小猫への風当たりは無くなった。
その後小猫は初老のつてでリアスの兄、サーゼクスを紹介され、
リアスに預けられたのだ。
だが、そんな事、黒歌は"痛い"ほど知っていた。
だからこそ、そんな風に小猫を虐め、自分たちを裏切った悪魔達に
言われたくない言葉だった。
「──ええ、そんなの
誰にも聞こえない小さな声で呟く黒歌。
悔やんでも悔やみきれない後悔の記憶が彼女の頭に過ぎるが、それを振り払うかのように
演技を続ける。
「正直言って貴方達二人では私と美猴には勝てないにゃん」
前回の実力を聞いている限りでは、自分達の敵ではないと判断したが、
もう一つ強大な気配を遠くから感じていた。
(さて、この気配の持ち主がどう動くかによって彼らの選択肢が決まる)
「だから大人しくこのまま帰らせて?」
黒歌は可愛らしく一誠に向けてウィンクすると、一誠は引き締まった表情から一転、
ふやけた表情になる。
「ぶ、部長!? お、俺はどうしたら?!」
このままでは自分はあの可愛らしい黒猫を帰らせてしまうと、一誠は本気で思い、
リアスの方に向き直ると──頭を叩かれた。
「しっかりしなさい! 勝てなくてもいい、援軍が来るまで足止めさえすれば
私たちの勝ちよ」
城から少し離れているが、戦闘が起きれば城にいてる何人かは確実に気づき、
援軍を寄越してくれるだろうと、リアスは計算していた。
だからこそ、動くには派手に大きく動かなければならない。
しかし、黒歌はリアスの思考を読みきっており、
拙いと判断したので、先に森一帯に結界を張った。
その瞬間リアスと一誠は得体の知れない感覚に襲われた。
言葉に言い表し辛いが、見た目は同じ場所なのだが、空気と雰囲気が
別のモノとなった感じである。
「──黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」
リアスが苦味を噛んだ様な表情で黒歌に問いかけると、彼女は簡単にネタ晴らしをした。
この森一帯の空間を結界で覆い外界から遮断した為、大規模な戦闘が起きようと、
外には分からず、悪魔たちが入ってくる事は無いと説明し終わった瞬間、
先ほどは遠くにあった大きな気配が4人の上空に現れた。
「リアス嬢と兵藤一誠が森に入ったと知らせを受けて来てみれば、結界に閉じ込められるとは」
上空から声が聞こえ、4人がその方向へ視線を動かすと、
一匹の紫色の巨大なドラゴンが浮遊していた。
「タンニーンのおっさん!」
頼もしい援軍であるドラゴンの登場に歓喜する一誠。
その姿を見た美猴は嬉しそうに声を上げた。
「おうおうおう! ありゃ、元龍王の『
参ったね! こりゃあ、もうやるしかねぇって黒歌!」
戦闘狂である美猴は、元はといえ龍王クラスの登場にもう戦いたくてうずうずしていた。
それを見た黒歌は内心舌打ちをしながら、今後どう動くべきが再確認した。
(最上級クラスの気配は当たっていたけど、まさかタンニーンだなんて・・・少しこれは厳しくなりそうにゃん)
最上級悪魔クラスのタンニーンは力だけであれば魔王クラスと称されている為、
吐くブレスは隕石の衝撃に匹敵するほどの威力を持っている。
当たれば、無事では済まないほどである。
だが、同じ最上級クラスである自分と美猴二人で掛かれば、有利に戦闘を運ぶ事は出来るが、
自分の傍らには動けない小猫がいてる為、行動が制限されている、
自らの軽率な行動に悪態を付きながらも、少し厳しい戦闘になると覚悟した黒歌。
だが、このような状況を自分の些細な願いの為に作り出してしまったことに
同僚の美猴と小猫に内心謝り、その状況を如何に打破するかを考え──
「まぁ、こんな状況じゃ仕方ないわね。龍王クラスの首2つ持っていけば
この失態も不問になるにゃん」
そして、一番最初に動いたのは美猴であった。
彼は、武器と足場を召喚しタンニーンへ吶喊した。
空中では美猴対タンニーン、地上では黒歌対リアス、一誠の戦闘が開始された。
序盤は素早さを生かした美猴はタンニーンを翻弄しほぼ拮抗しており、地上は黒歌が仙術と魔力を
ミックスした攻撃で二人を圧倒していた。
3人の戦いを小猫は胸が締め付けられる思いで見ていた。
漸く全身に力が戻ってきているが、どちらとも大切な存在であるが為、
どうして良いか分からなかった。
戦場の流れは無残にも止まる事無く、力の差は歴然の為徐々に徐々にと
リアス、一誠を敗者へと近づけていく。
どんな強者でも戦場での先の流れは分からない──だが、ここで誰も予想が出来なかった出来事が起こったのだ。
一誠がリアスの胸の乳首を両手の指で付いた瞬間──『
もう一度言うが、一誠がリアスの胸を付いた瞬間、
──『
その瞬間、戦闘中の全員が動きを止め、驚いた表情のまま全身を赤い鎧で身を包んだ一誠と、
胸をさらけ出した状態で、顔を真っ赤に染めているリアスを凝視した。
「お、おい貴様ら! 戦闘中に何をしておるんだ!?」
真っ先に驚愕の声を上げたのは味方であるタンニーンであった。
流石の黒歌も、行き成り戦闘を中断して何か、策があるのかと思い二人を警戒しながら
見ていたが、まさか、こんな結末になるとは思いもよらなかったのだ。
美猴も彼ら二人の思考が別次元にあると判断し、考える事をやめた。
小猫は先ほどの葛藤を返せと言わんばかりに、冷たい目で二人を凝視していた。
その4人は不可解な行動のあり得ない結果に、真剣に考える事がバカらしく思えると、
口には出さないが、内心感想が一致していた。
だが、黒歌は真っ先に『
数倍以上に膨れ上がったのを肌で感じていた。
ピリピリと肌を焦がすように自然にオーラを叩きつけてくる一誠に対して、彼女は
先ほどのようには行かないと悟った。
そして、一誠がゆっくりと手のひらを明後日の方向に突き出し、オーラを掌に籠め、
魔力弾を撃ち放った。
刹那──赤い閃光が、森を焼き払い黒歌の張った結界すら貫通し破壊。
そのまま一直線に障害物を破壊しつずけ──遠くの方で大音量の爆発音が発生、
数秒遅れでその衝撃波が全員を襲った。
砂塵で前が見えなくなるが、無造作に一誠が腕を払うと突風が生じ、煙を吹き飛ばした。
地上にいる者達からは見えないが、上空にいるタンニーンと美猴の視界には、
幾つモノ山々が破壊された消滅した痕跡が生々しく映し出されていた。
その後、戦闘の流れは一気に変わった。
黒歌の仙術と魔力をミックスした攻撃のダメージが入らなくなったのだ。
堅牢となっている赤き鎧は生半可な攻撃では一切通じなくなった。
そう──殺す気で行かなければその防御を突破するのは難しくなり、黒歌は次第に
焦り始めた。
元々、小猫の仲間なので殺すつもりは無く、敵対する事で小猫の立場を守る為、
ある程度のダメージを負わせたら撤退する予定だったのだが、未熟な彼でも
『禁手化』でここまで強化されるのは計算外であった。
だからこそ、最善の一手を模索する黒歌
(どうする? 相手は私を本気で倒す気で掛かってきてる)
そう、相手は黒歌の事情は知らない、ただ仲間を守る為に戦っているのだ。
美猴はタンニーンの相手で精一杯である。
(何か──ないか!?)
どんな強者でも戦闘に集中せず、違うことに意識を向けていれば──必ず隙が出来てしまう。
圧倒的な実力差であれば、問題ないが拮抗もしくはそれ以上の場合だと、
それが致命傷となる。
一誠が黒歌に向けて極太の魔力砲を放つと、彼女は防ぎきれないと判断し上空へ逃げる、
そう、この時後ろにも注意を向けていたら回避行動は取れていた。
だが、彼女の意識は一誠と思考に向けられており、鋭い視線が黒歌の背中に向けられて
いた事に気づかなかった。
そして、その視線の主──タンニーンは隙を見せた黒歌目掛けて『
背後に迫る強大な熱量の存在に漸く気がついた黒歌だったが、回避はおろか、まともに
防御魔法を発動させる事が出来ず──直撃した。
一誠の攻撃の数倍以上の威力である吐息は、先ほどの轟音以上の音を周囲に響かせ、
空中戦を繰り広げていた美猴と放ったタンニーンの巨体さえも吹き飛ばした。
地上にいる3人は近くに合った木々に掴まり、体が吹き飛ばされないように
必死にしがみついた。
爆発の衝撃はまさに隕石が衝突した程の衝撃波で、中心部分からは黒煙が当たり一帯を
覆い隠し、その煙の中から体中煙を出し、衣服がボロボロになった黒歌が地上へ、
重力に逆らわず落下していく。
「くそ! 黒歌ー!」
同僚が落ちていく姿を確認した美猴はすぐさま向かおうとするが、タンニーンに阻まれる。
「行かせはせぬ! 貴様の相手はこのタンニーンだぞ!」
鈍い音と共に地面へぶつかる黒歌。
「姉様!」
漸く足に力が戻った小猫は慌てて立ち上がり黒歌の方へふら付きながらも歩き出す。
先ほどからの戦闘を見ていた小猫は、黒歌が本気でない事は分かっていた、
何故?と云う疑問が頭を埋め尽くすが、姉の無残な姿を見た瞬間、
それらは吹き飛び、駆け寄ってしまう。
黒歌は超高熱で全身を焼かれており、未だに煙が体中から噴出すが、
意識がある為必死に四肢に力を籠め、体を起こす。
防御魔法は間に合わなかったが、仙術を出力最大で全身に纏、致命傷は避けたのだが、
それでも重症に変わりなかった。
だが、傷だらけでも尚、彼女の瞳は死んでおらず、眼前の二人を睨み付けていた故に
彼女──リアスは動いた。
捕縛するにしても彼女は仙術使いな為、触れられるだけで体内の気の流れを変え、
行動不能にもっていける事を知っているリアスは黒歌の意識を奪う為に、追い討ちをかけた。
流石の一誠でもボロボロな状態の女性を攻撃するには躊躇われている為、
主である自分がしなければならない──そして、小猫の為を思って行動したのだ。
しかし、ここでリアスにとっても黒歌にとっても予期せぬ方向に事態は動いてしまった。
リアスは一誠の倍化した力を譲渡された状態で魔法を放った事、だが、これは誰が見ても
オーバーキルに等しいほどの威力を発しており、コレを撃ったリアス自身も、
意識を刈り取るぐらいに調整したはずなのに、譲渡の力が強すぎて、
調整が狂い、強力な魔法になってしまった事に驚愕し──
その強大な魔法攻撃に黒歌も避けきれる自信は無く、諦めたように儚げに笑った。
心残りは色々あるが、最後に愛しい妹に触れる事が出来ただけでも、
満足と思い瞳をそっと閉じ様とした瞬間、黒歌の前に小柄な人物が割り込んできた。
その瞬間──黒歌の脳は刺激され、閉じかけていた瞳は見開き、
焼け爛れた全身を蝕む痛みを忘れ、四肢に力を籠めてその人物
──そう、自身と魔法攻撃の間に割り込んできた最愛の妹である小猫を抱きしめた。
「…白…音!」
立ち上がるのが精一杯だった彼女の体を動かしたのは──大切な妹を守る想いだった。
どんなに妹に嫌われようと、離れ離れになろうと一日たりとも、小猫の事を
忘れた事は無く、ただただ彼女の幸せを毎日願っていた。
だからこそ、嫌悪しているはずの自分の盾になろうと前に出てきた妹に、怒りと嬉しさが
こみ上げ、やはり自分は妹の為に──全てを捨てようと
覚悟を実行したのだ。
覆いかぶさった黒歌の無防備な背中に、無慈悲にもリアスの魔法は直撃した。
先ほどよりは規模は小さいが、十分に威力を要していた為、周辺の木々も一緒に消滅した。
(ありがとね白音。本当に愛おしい私の唯一の家族)
攻撃が直撃した事を悟り、言葉にしたら、小猫をまた縛ってしまう為内心に押し留め
──そこで黒歌の意識は切れた。
「──っ!? 小猫…」
咄嗟に飛び出てきた小猫を巻き込んだ結果になった瞬間、
自身の手で最愛の眷属を殺してしまったと思い、リアスは青ざめわなわなと口を震わせながら
小猫の名を呟きながら地面へ 座り込んでしまったのだ。
一誠も一瞬の刹那の出来事だったため、その結果に呆然とし言葉を無くしていた。
数秒後、黒煙が晴れた爆心地の中心には膝を付きながら黒歌を抱き留めている小猫の姿があった。
「姉様…嘘ですよね…? 目を…開けて…ください…っ!」
──ごめんね、ありがとうね。白音
小猫の顔の近くには、安らかに優しい表情を浮かべたまま目を閉じている黒歌の顔があり、
先ほどまで自身を抱きしめていた両腕は力なく下げられており、
左腕に関しては二の腕の部分の骨と肉が炭化して、ぎりぎり皮と
むき出しの筋肉で繋がっている状態であった。
崩れ落ちてくる姉の体を必死に抱きとめる小猫、しかし、頭部に怪我をしているのか、
血が小猫の顔に止めどなく落ちてくる。
そして、小猫が黒歌の背中に回した両腕が、人の体とは思えないほどゴツゴツとした感触に触れ、
ゆっくりと姉の体を地面へ寝かせた瞬間彼女の目に入ったのは──
黒歌の背中の皮膚が全て消失しており、脂肪と肉が直接むき出しとなり、背骨も一部
見えていた。
止めどなく流れる血液、そして生物が焼ける嫌な臭いが小猫の周辺を包み込み、
小猫は真っ赤に染められた、震える両手を視界にいれ、そのまま自身の顔を挟み
クシャっと歪ませ──
「──い、いやああぁぁぁぁぁぁ!」
唯一の家族である姉を、自分の主の攻撃により無残な姿に変えられ、
小猫の心にも限界が来てしまい──彼女もここで気を失ったのだ。
その後、目が覚めた小猫は無意識のままここへたどり着いたと、じっと黙って自身の
話を聞いてくれる二人に説明した。
「あの後、どうなったか…分からないんです」
姉を探しているうちに、自身でも今後どうして良いか分からない為、深層部分が
二人の存在を求め、ここにたどり着いたのだ。
もう少し理性が残っているならば、あの後の出来事をリアス以外の者に
聞いていたはずなのだが、そんな考えすら思い浮かばないほど、小猫の心は磨耗していた。
「私もう、どうしていいか分からないんです…姉様
説明しながら、昨晩の事を鮮明に思い出し、震えだす小猫──自身の腕の中で徐々に熱を失い、
止めどなく血を流していく姉の姿が未だ瞼に焼き付いて離れない。
憔悴しきった彼女を見たソーナはいてもたってもいられず、そっと優しく小猫の体を抱きしめ、
彼女が少しでも安心できるよう優しく声を掛ける
「今は少し休んでください。出ないと貴方の心が壊れてしまう──少し休んで、起きたら
今後の事を一緒に考えましょう」
「──でも、このまま目を閉じてしまうと、みんなどこかへ行ってしまう気が…」
今のままでは小猫の心砕け、壊れてしまうと悟ったソーナ
「大丈夫、私たち二人はどこにも行きませんから!」
小猫が目を覚ますまでずっと傍らに居ると約束し、自分達は最後まで小猫の味方であると
言い聞かせた。
それでも、大切な人に2度も裏切られた小猫の心はそんな言葉だけでは癒せないと
感じたソーナはこれ以上の言葉を紡いでも効果は無いと悟ってしまった。
何より今の小猫の状態は酷く歪になっている為、休ませない限りどうする事も出来ないと、
今まで黙って話を聞いていたひしぎは、彼女たちに歩み寄り、腰を下ろし、
そっと優しく小猫の髪を撫で
「ずっと傍らに居ますから、ゆっくり休んでください」
「──ぁ」
ひしぎの掌から温かいオーラが小猫に流れ込み、優しい温もりに包まれた小猫は
急に来た眠気に逆らわず瞼をそっと閉じ、全身の力を抜きソーナに体を預けた。
ソーナは優しく小猫をベッドの上に寝かせ、彼女が何時目が覚めても
自分たちが視界に入るように、椅子をベッドの横に移動させ、もう一つ椅子を用意し、
それにひしぎに座ってもらい、これからどうすれば良いか相談を持ちかけた。
非公式ではあるが、大事な自分達のレーティングゲームの初デビューを控えている、
そして小猫はその相手チームのメンバーだが、ソーナにとっては既に自分の眷属と
同じくらい彼女を信頼し、大切な後輩である小猫。
本来ならば、他の悪魔が主とその眷属の関係に割り込むのは無粋であり、
悪魔社会では禁止であったが、それを黙って見過ごす事など
到底ソーナには出来なかった。
何より、小猫の姿に自分の姿を重ねていた。
目の前で大切な大切な姉が殺されそうになる気持ちは痛いほど分かる
だからこそ、そんな悪魔社会の常識を破ってでも助けたいと、心の底から思い
思考をフル回転させながら、どの様にすれば小猫に取っての最善になるか考え始めた。
ソーナが思案に耽るとひしぎもどうすれば良いか考えた。
自分は悪魔社会の常識、ルールなど知らない、だからこそ小猫が「助けて」と
いえば、彼女の嫌なもの全て破壊、切り捨てる事が出来る。
自分に迷惑が掛かるのは良いが、小猫やソーナに迷惑が掛かるのは避けたいので、
自分の出来る範囲で彼女を助けようと思案し、ソーナの考えを待った。
数分後、頭を少し下げながら思案していたソーナは考えが思いついたのか、
顔を上げ、真剣な面持ちでひしぎに考えを聞かせた。
「私は、小猫さんの境遇をこれ以上見過ごす事は出来ません。
小猫さんをうちに引き抜きます」
「──それは可能なのですか?」
「今の現状、不可能に近いです。リアスが小猫さんを手放すとは到底思えません。
それに一度小猫さんに意思を確認しなければなりませんが、もし本当に彼女が
こちらへ来たいと言うならば、私に考えがあります」
ソーナはリアスに対して有効な手札をいくつか持っているが、
それを使うかどうかは小猫次第である。
方針はほぼ固まったので、自身の眷属達に連絡を取り帰還するように言い、
リアスにも小猫発見の連絡をいれ、酷く衰弱しているので明日こちらから連れて行くと
伝えたが、自身がすぐ迎えに行くとリアスは主張した。
しかしソーナは冷たくそれを拒否、『小猫の心情を理解しなさい』と、言い通信を切った。
数時間後小猫が漸く目を覚まし、軽く食事を取らせた後、ソーナは話を切り出した。
「小猫さん、あなた自身は如何したいですか?」
その質問の俯く小猫、未だに自身がどうして良いかが分からない様子だった。
リアスの元に帰りたいが、帰りたくない気持ちの方が大きく膨れていた。
恩があるからこそ、許したいけど、
二つの感情が混ざり合う。
それを悟ったソーナはそっと言葉を続けた。
「小猫さんがリアスの元に
「──えっ?」
突然のソーナの提案に小猫は顔を上げる──すると普段のイメージからかけ離れたような
優しげな表情でソーナは続ける。
「私は小猫さんの事をうちの眷属達と同じぐらい大切と思っています。だから貴女が望むなら
私がリアスを説得し、ここに居られる様にします。私は絶対に貴方を一人にはさせません」
その瞬間、その言葉は小猫の心に染み渡り、瞳からは枯れたはずの涙が再び溢れてきた。
──自分と共に居てくれる人と云う人がここにも居た
小猫は心の中で温もりを欲していたのだ。
姉は離れ、木場の一件でリアスの心ももう一誠以外の事には向いていないと確信した小猫は
寂しさを感じていた、だからこそまだ幼い彼女は無意識に温もりを求めていたのだ。
今でもリアスの事は好きだし、尊敬している。
だが、あの光景を見て心に刻まれ、その前の一件でも歪みがあり、
小猫は心の底からリアスの事を信頼できなくなってしまったのだ。
だからこそ一旦距離を開けたいと願い、それを口にした。
「私は──ソーナ会長の元に居たいです」
こんにちは、お久しぶりです、夜来華です。
前回の投稿から半年以上停止してしまい本当にすみませんでした。
なぜ、投稿できなかったのかは、活動報告にも記載していますが、
簡単に纏めさせて頂きますと、仕事上の事故で失明しかけていました。
先月漸く眼帯が取れたので、正月休みにリハビリがてら執筆再開しました。
今回の話ですが、ここから大きく原作乖離が目立ってきます。
特に小猫周辺と黒歌の過去、ソーナ陣営の部分でです。
ちなみに、戦闘シーンは小猫の話なので、大分省略した形になりましたが、
ご容赦ください。
書くスピードはかなり落ちてしまいましたが、更新がんばっていきます。
感想、一言頂けると嬉しいです。
では、また次回お会いしましょう。