続けられるかな?
「どこここ」
ここは空座町。
そこに、ある一人の男が立っていた。
黒いバンダナを目の上から巻いた、銀髪の青年。
そう、我らが呪術廻戦の最強の特級術師、五条悟である。
「獄門彊に封印されたんだけどな、俺。なしてこんな街に立ってるんだろ」
そう、五条悟は先の渋谷事変で夏油に乗り移った術師に封印されたはずである。
では、なぜ彼がこんなところに立っているのか?
時間は、僅かばかり巻き戻る――
「暇!」
五条悟は、獄門彊の中で不満をまき散らしていた。
「動けないし、外も見えないし……とにかく暇!」
五条悟に見ることが許されたものは周囲に浮かび上がる骸骨の群れのみ。
動くことも、攻撃することも出来ないので、実際五条には何もすることがない。
獄門彊の中では物理的時間は流れていないが、それでも暇なものは暇らしい。
自害すれば解放されるが、そんなことをするはずもなし。彼の存在が呪術界のバランスを辛うじて抑え込んでいたのだ。死んでしまえば、外の状況は今よりもさらに悪化するだろう。
「はあ……。……ん?なんだこれ」
何百回目のため息をついたところで、五条はあるものが目の前に存在していることに気が付いた。
光だ。獄門彊の中にあるはずのない、光。
当然、警戒する。獄門彊自体がすでに自身をも封印するほどの特級呪物だ。その中に突然現れた、光。警戒するなという方がおかしいだろう。
しかし、いくら待てど、光が消える様子はない。
「怪しいものじゃないのかな……?」
五条は、恐る恐る光に触れてみた。ほんのりとした温かみを感じた、次の瞬間、
「おわあっ!?」
ものすごい勢いでその光に吸い込まれた。
術式を使えない五条にそれに抗う術はない。なすがままに吸い込まれ、視界がすべて光に包まれた次の瞬間――
五条悟は、空座町に立っていた。
身体を少し動かしてみる。問題がない。呪術も使える。六眼も、無下限術式も使える。
この状況が明らかに普通ではないことは火を見るよりも明らかだった。
「原因を考えるなら当然あの光というわけなんだけど」
あの光に触れたことで、獄門彊から抜け出すことが出来た。
現在の状況を鑑みると、そう判断できる。
しかし、これは異常なことだ。獄門彊は生きた結界、源信のなれの果て。あらゆるものを封印することが出来、開放することは決してない。
かつて伏黒甚爾が天逆鉾という、発動中の術式を強制解除できる呪具を所持していたが、五条が破壊してしまった。
もう一つ、夏油の傘下にいたミゲルという男も、あらゆる術式を乱し相殺する黒縄という呪具を持っていたが、これも五条が破壊した。
よって現在、獄門彊から五条を救出する術はないのである。
それなのに、脱出できた。もはや異常という言葉すらも軽く超えてしまうほどの現象が起こっていた。
もしもあの光が術師の術式だというのなら、その術師は特級に属しても何らおかしくないだろう。
しかし、そんな術師が五条の、いや呪術界の耳に入らないなど、そんなことがあるだろうか?それもまた、ありえない。
「脱出できたなら、まずは悠二たちと合流するべきなんだろうけど」
五条の頭は、現状理解から今自分が何をするかという思考に瞬時にシフトチェンジした。
このまま悩んでいても埒が明かない。五条は自分の生徒たちと合流すべく、行動を始めようとした。
しかし――
「マジでどこここ」
ここがどこかわからなければ、合流もくそもあったものではない。
この町が空座町ということは判明したが、そんな街など五条の頭の中には存在しない。
とりあえず蒼でこのあたり一帯を俯瞰してみようと思った次の瞬間――
ドゴォン!
「ん……?」
ここからあまり遠くないところで、破壊音が響いた。
音からして、戦闘が繰り広げられているらしい。
「ちょうどいいや。あそこにいる人に道を聞きに行こう」
普通の人間なら真っ先に逃げ出すだろう。いや、逃げださなくても、戦地にコンビニ気分で自ら行くというのはまさに自死行為。
それが、普通の人間ならという話ではあるが。
残念ながら、ここにいるのは呪術界の頂点に達する、最強の呪術師。
笑いながら戦地に行って、平然と帰ってくるような人種なのだ。
五条が音のしたほうに駆けつけてみると、戦闘が終わったのか、静寂が場を占めていた。
もう終わっちゃったのかな、と周りを見渡す。
すると、一人の人間がそこに存在していた。
オレンジ色の髪に、漆黒の刀を身に着け、黒い着物を身にまとう、一人の青年が。
そして、その青年はあろうことか空中に
「彼も呪術師なのかな?」
普通の人間は宙に浮くことはもちろんできない。
しかし、呪術師なら話は別だ。
京都校の西宮桃のように、空を飛べる術師も存在する。ダメ押しに、青年から感じる多大な呪力。彼は、その呪力を完全にコントロールしていた。
この時点で、あの青年は只者ではないことが確定した。
「おーい!おーい!そこの君ー!」
しかし、そんな青年にも平然と声をかけるのが五条悟という男。手をぶんぶんと振り回し、宙を浮く青年にアプローチした。
「お、俺のことか?」
声は青年にも届いたらしく、困惑の表情を浮かべていた。
「君以外にだれがいるのー!浮いてないで降りてきてよー!」
「お、おう……」
青年は困った表情をしながらも、五条の目の前に降りてきた。
「えーっと……アンタは俺が見えるのか?っていうかそんな目隠しして外のことが見えるのか!?」
「見えるに決まってんじゃん。僕を誰だと思ってるの」
「いや知らねえよ……」
その返答を聞き、五条はおや、と首を傾げる。
彼の様子から見るに、彼が呪術師であることは間違いない。しかし、彼は五条悟を知らない。
呪術界で五条悟を知らないということは音楽界でベートーベンやモーツァルトを知らないことと等しい。それほど、五条悟は呪術界では名が通っているのだ。
すると、五条の中である疑問が浮かび上がった。そして、その疑問が急速に現実味を帯びてくる。
知らない町、五条悟を知らない呪術師、そして自分自身の前に現れた謎の光。このことから示しだされる答えは――
「――異世界?」
言葉が、ポツリと口から転がり出た。
五条もラノベやアニメなどでそういうものを見たことがある。異世界召喚、いや転生。
この空間とは違う空間に呼び出され、やれ魔王を倒せだの姫と結婚するだの。ただの空想ものかと思っていたが――
「まさか、自分がそれを体験するとはねぇ……」
「?どうしたアンタ」
目の前の青年が疑問符を浮かべていた。
「ごめんごめん。ところでさ、会ったばかりですまないけども、君の家に案内してくれない?」
「は!?」
青年が素っ頓狂な声を出した。
それもそうだろう。たった今会った人間に家を案内しろなんて、もはや不審者の域だ。
「いやね、僕さ、今住むところないんだよ。今日だけでも泊まらせてくれると嬉しいなーって思ってさ」
「ったく、しょうがねえな……。ついて来いよ」
しかし、意外なことに青年はその頼みを承諾した。
そんな青年に五条は興味を持ったのか、
「とりあえず、君の名を聞こうか。僕の名前は五条悟。君は?」
青年に名前を聞いた。
青年は、答えた。
「俺の名は黒崎一護。死神代行だ」
イ―バーン戦の後に五条が一護に声を掛けました。
ちなみに、呪力=霊力となっています。