「で、今すぐ君の家に案内してくれるの?」
「いや、もうちょっと見回りしてから……」
五条の問いに黒崎が答えた、その瞬間。
「――――――――――」
「今なんか聞こえなかった?」
「は?別に……」
二人は空を見上げる。
「い~~づ~~~ごおおおおおおおおおおお」
空が一瞬瞬いたかと思うと、空から、よだれ、涙、その他さまざまな体液をまき散らしながら一人の女の子が落ちてきた。
「黒崎君!空から女の子が!」
「そんなこと言ってる場合か!ってか、ネル!!?」
五条がボケるが、それよりも黒崎は落ちてきた人物に驚いていた。
少女の面が光ったかと思うと、次の瞬間、少女はとてつもない勢いで加速し、黒崎にタックルをぶちかました。
その勢いはすさまじく、地面がめり込み、衝撃波が発生するほどの威力だった。
「うっわ、痛そう」
五条も思わず声を漏らした。
「て…ッてめぇ…久しぶりに会ったと思ったらこれかよ……」
黒崎が何とか起き上がる。少しばかり血を吐いていた。
「……い……」
しかし、そのような状態の黒崎には人目もくれず、ただ少女は黒崎の胸の中で震えていた。
「…いちご……たいへんっス…いちご…」
黒崎もそんな少女の様子に気付いたのか、表情を険しくする。
「なになに~。なんかあったの?」
その軽い言葉遣いとは裏腹に、五条も深刻な顔をしていた。
五条も、黒崎にとって何か重大なことが起こったのを察知したのだ。
「
「虚圏が……!?どういうことだよ、ネル…!虚圏がやられたって何だよ!?」
ネルの答えに、黒崎が狼狽する。
「襲撃されたって事か!?いったい誰に―――――…!」
黒崎が身をよじり、その場から離れた。
その判断は僥倖だっただろう。一護が身をかわした次の瞬間、
「うおおオッ!?」
ズッドォンというけたたましい音とともに新たに何かが落ちてきたからだ。
「くッ…!ギリギリまで気配を消しての攻撃だったというのに…!!それすら躱すとはさすが黒崎一護…!!」
「な…な……」
二つ目の墜落物に黒崎が呆然とする。
「おっと…!下半身だけでは私がだれかわかるまい…。教えてやろう私は「ペッシェだろ!」はふん!!」
「君けっこう容赦ないね!?」
黒崎が上半身が埋まり、下半身だけとなった存在の急所に容赦なく踵落としを喰らわせる。
その所業には、さすがの五条もちょっと引いた。
「どういうつもりだテメェ…ネルが必死で虚圏が大変だって言ってるからマジメに聞いてりゃ「それだ黒崎一護オオッ!!」
ゴッバァと音を立て、それが起き上がる。
クワガタのような奇妙な面をした、一人の男だった。いや、男かどうかも怪しい。
「それだ…。それなのだ黒崎一護…!」
「ケツこっちに向けんなよ」
限りなくシリアスな雰囲気を漂わせているが、その体勢と黒崎のツッコミのせいで場が緩んでいた。
「虚圏が……やられたのだ!!」
「その情報はもうネルから聞いたよ」
「いつまでやんのかなこれ」
その様子を傍観していた五条は終わるのを今か今かと待っていた。
夜。場所は変わり、黒崎邸。
そこには、黒崎の友である茶渡泰虎、井上織姫、石田雨竜がネル、ペッシェとともに一護の部屋に集まっていた。
「……そして我々にとって一番の問題は……その奴らにドンドチャッカが捕まっているということだ……」
虚圏に今起きていることを共有したあと、石田が、みんなの疑問を代弁するかのように、口を開いた。
「虚圏について何が起きているのか、大体わかったよ。ところで黒崎、一ついいかい?」
「大体見当はついているけど、一応頼む」
「なら聞かせてもらおう。さっきから黒崎の部屋にいるこの不審者に近い人は誰だ?」
「どうも、不審者に近い人、五条悟で~す!今夜だけ、黒崎君のおうちに泊まらせてもらうことになりました~!」
「そういうわけだ……」
石田の皮肉をものともせず、五条は全く空気の読めない自己紹介をした。さすがは自他ともに認める最強術師である。悪い方向にずれている。
「はぁ……また、そうやって君は人をホイホイ信用する。それで痛い目に合ってるのを忘れたのか?」
「忘れてはねぇよ。でも俺はアイツらを許したし、変わるつもりも無い」
黒崎の問いに、石田は諦めたように微笑んだ。
「ところで、君たちって呪術師なのかな?みんな呪力を持っているでしょ?」
それは、五条がかねてから疑問に思っていたことだ。
今集まっている四人の人間は、どれも高い呪力を持っている。少なくとも、全員が一級か準一級術師に類ずるだろう。
そんな四人を前にして、五条は興味が尽きなかった。
「ジュジュツシや、ジュリョクってのはわかんねえが……俺が死神代行で、石田が滅却師、井上とチャドが
五条にとっては、死神も、滅却師も、完聖術師も、全く聞いたことがない。
目の前にいるのは、どこにでもいそうなただの人間だ。とても、骸骨に黒のローブを着ているような想像上の死神とは思えない。
かといって、彼の言葉が嘘だという確証もない。あり得る可能性があるからだ。
五条はこの世界に来てからまだ一日と立っていない。この世界を知らなすぎる。ゆえに、何が起きても不思議ではない。
改めて、五条はここが自分が住んでいた世界とは違うということを強く実感した。
「今言ってもややこしくなるから、後で説明するよ。それより、そのお嬢ちゃんたちの仲間を助けるために、その虚圏とやらに行くんでしょ?」
「あ、ああ。そうだけど……」
五条は黒崎たちに視線を向け、あることを宣言した。
「僕も行かせてもらうよ。僕も君たちに一枚かませてくれ」
一瞬場が静寂に包まれる。最初に声を上げたのは黒崎だった。
「は!?そんな……。万が一何があったらどうすんだよ!?」
「そうだ。五条さん、あなたはここにいたほうがいい」
黒崎が声を荒らげ、茶渡が冷静に五条を諭そうとする。
しかし、五条の心はもう決まっていた。
正直なところ、五条は遭遇した時からネルとペッシェを警戒していた。
その気配が、呪霊に酷似していたからだ。さらに言ってしまえば、祓う――殺そうとまでしていた。
しかし、彼女たちの話を聞くうちに、自分のその考えに確証が持てなくなっていった。仲間を助けようとするその姿は、五条がかつて何回も見てきた姿にそっくりだったからだ。
そして、今、五条は彼女たちを助けたいとも思ってしまっている。
それは、五条が最初から持っている慈悲の心。かつて処刑されそうになった乙骨や虎杖を助けるときにも見せた、五条の優しい心。
だから、五条は不敵な笑みを浮かべ、こう断言した。
「大丈夫。僕、最強だから」
この作品を書くにあたって、呪術廻戦を読み直した。
無限って強いな……。