シャイニーカラーズ短編詰め   作:ウミガメ2号

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撮影の仕事をする円香とP。


ひまわりは見つめている

 ひまわりが咲いている。それは背が高くて、元気や勇気等の言葉が似合いそうな花。

 綺麗なひまわり。

 花言葉、あなただけを見つめる、愛慕、など。

 あなただけを見つめる?カメラをですか。

 愛慕?…想像もつかない。

 真っ白なブラウスに薄い青のロングスカートの衣装。いかにも清楚って感じ。

 ひまわりも、この綺麗な衣装も、私には似合わないなと、円香は思いながら微笑んだ。

 シャッターを切るカメラマンの後方に立っているプロデューサーが視界に入る。微笑む円香にプロデューサーは息を呑んだ。そしてゆっくりと微笑んだ。

 微笑んだプロデューサーを見て先ほどより頬を赤く染まった。

 あなたの方がよっぽどひまわりみたいに笑うじゃない。

 

 

「いつまで落ち込んでいるつもりですか」

「えっ…なにがだ?」

 プロデューサーは少し戸惑った様子で言った。

 その日のプロデューサーは落ち込んでいるのがすぐに分かった。いつものオールドタイプ特有の元気と真面目が取り柄ですって顔と声に力がなかったからだ。円香以外のメンバーも気付いていた。事務所のみんなもすぐに気づいていたようだった。社長と葉月さんだけは事情を知っているようだったが、何も言わなかった。

 夕方。仕事帰りの車の中だった。円香はプロデューサーと二人の時は積極的に話す方ではないし、沈黙のままだろうと気にしない。

 しかし今日に限っては円香は聞かずにいられなくなり口を開いた。

「そんな顔していればわかります。私の仕事が終わった後でそんな顔されると、気になるんですが、問題ありましたか」

「ああ、違う違う!円香に問題なんてなかったよ!……すまん、確かにそう思っちゃうよな」

 本当は朝から気づいていたけど、こう言えばプロデューサーも答えてくれるかなと思って、責めるように言ってしまった。

 ……別の言い方で聞けばよかった。内心思ったがもう言ってしまったものは仕方がない。

「…それで、何か」

「ああ……それは、次の仕事の方でトラブルがあった…というか」

 あまり言いたくないようだった。しかし、聞かずにこんな顔をされ続けるのも落ち着かなかった。他のみんなも気にしていたし、仕方ない。

「私たちの仕事に関わることでしょう。ちゃんと伝えてください」

「……あー」

「言って」

 声を低くして言った。プロデューサーはこっちが本気で問いかければちゃんと答えてくれることが多かった。

「……決まってた仕事がなくなった。円香たちの仕事だ。事情が変わったみたいで、結局違う人を使うことになったらしい」

「……そうですか」

 ドラマみたいな話。本当にあるんだ、そういうこと。

 円香がアイドルになってからはそういった話は一度も聞かなかった。

「ああ、勘違いしてほしくないんだが、今回みたいなことは滅多には…」

「たまにあるんだ」

「…ごめんな」

 プロデューサーは詰まった言葉を無理やり出したような声音で言った。

「なんであなたが謝るんですか。あなたにどうにかできた問題なの?」

「それは…」

「ほら、なら気にしても仕方ないですよね。今からどうにかなる話でもないでしょう」

「……そうなんだけどなぁ」

 不貞腐れたような顔でプロデューサーが言った。打ち明ける前より楽そうな顔をしていて、ちょっとだけ安心した。

「いつもみたいに、だからその分、次の仕事は頑張ろうくらい、呑気に言えば良いじゃないですか」

 あなたにはいつもどおりいて欲しいと思う。でないと……そう、皆が迷惑するから。

「はは…けど皆もう頑張ってるからなぁ。…ほんとに、よくやってる」

 あなただって頑張ってるじゃない。

 円香はため息をついてから言った。

「次の仕事の撮影場所って」

 意識して暗い話は終わりにして、違う話題を振った。

 近日、この近辺で雑誌の撮影が行われる。円香に振られた仕事である。

 仕事終わりに次の仕事の話題が出来る程には自分も透たちも忙しくなってきた。

 ノクチルだけではなく、283プロのすべてのユニットが忙しくなってきている。

 さっきプロデューサーの言ったとおり、全員が頑張っている。

 何かしら認められた証拠だろうと思う。事務所で一緒になったときに思うが、皆が楽しそうだということは感じられる。

 多少のトラブルもあったようだが、ユニットのメンバー同士で解決したようだった。少なからずプロデューサーも気にかけていたようで、円香はあまり心配はしていなかった。自分たちのことで精一杯だったというのも大いにあるが。みんなプロデューサーの言葉になにか、励まされているようだった。

 あなたが暗い顔してるだけで、調子狂うくらいに、あなたは全員の心のどこかにいるらしい。

「この辺りでしたっけ」

 円香は把握しているが、あえて聞いた。

「そうだよ、最近暑くなってきたし、気を付けないとな」

「そうですね」

「…すまん、気を使ってもらって」

 プロデューサーは申し訳なさそうな顔をして言った。

 やめてほしい。今回は私が心配したのに、なんですぐに私に気を遣うの。

 その顔は、嫌いだ。

「別に、いつまでも落ち込んでいられると皆に影響あるので」

「そう言ってくれると助かる。…よし、資料は後で渡す。以前仕事で行ったことがあるんだが、綺麗な場所だよ」気を取り直したように、プロデューサーは言った。

「ふうん」

 あまり興味はないのが正直なところだった。アイドルになってから、それほど経ってはいないが、様々な場所に行く機会は多くなった。綺麗な場所と言うからには、綺麗なんだろう。だが綺麗だなと思って、それで終わりだろうと思った。

「綺麗なひまわりが沢山咲いていてさ」

「ひまわり?」

 言われてすぐに、自分には似合わないというか、イメージとは合わないような気がした。

「私が、そこで?それは本当に私がモデルの撮影ですか」

「そうだよ。似合うなって思って、交渉したら頂けたんだ」

「……似合わないと思います。うちからだったら雛菜か小糸でしょう」

「確かに二人も似合うと思うよ。けどノクチルだったら円香にやってもらいたいと思って。今までにない円香が撮ってもらえると思ってさ」

 仕事を一つ取ってくるのはそれなりの労力がいるだろう。それを自分にか。どこか嬉しいという気持ちとプレッシャーが生まれた。

「昼間はもちろん綺麗なんだけどさ、夕方に夕日をバックにひまわりに囲まれる円香とかさ、すごく綺麗だと思うんだよ」

 プロデューサーはさっきより早口で言った。

 仕事のことで落ち込んでいたくせに、元気になるのも仕事のことなのか。

 あと、いきなりそういうこと言うのもやめてほしい。似合わないって言ってるでしょ。

「…どうなっても知りませんよ」

「はは、大丈夫。結構自信あるんだ」

 調子がちょっとずつ戻ってきたようだった。まさか、自分がこんな役割をするとは思いもしなかった。だが…

 あなたが少しでも元気になるなら、話しかけてよかったのかもしれない。

 ---らしくない、と円香は息をついた。

 

 

 夏のよく晴れたヒマワリ畑でのモデルの仕事。蝉が沢山鳴いていて、夕方からの撮影だが、まだ気温は下がらず、肌をジリジリと焦がすような暑さだった。

 ひまわりはどれも背が高く、プロデューサーと同じくらいの背丈だった。先日、車の中でプロデューサーが綺麗だと言っていたが、想像よりずっと綺麗だった。

 間近で自分より背の高い花に囲まれるのは、中々すごいな、と円香は見たときに思っていた。

 撮影が開始となって、円香は衣装の白いブラウスと薄い青のロングスカートを着て、カメラマンの前に立っていた。何枚か撮って、立ち位置や角度の確認をした。

 焼けるような暑さに内心、ため息をついて、汗をぬぐった。丹念に塗った日焼け止めも汗で落ちてしまっているだろう。また塗り直さなければならなかった。

 この白いブラウスなんて汗で透けやすいだろうに、ほんと嫌になる。替えにもう一着同じ物が用意されているらしいが、もう一着で足りるだろうか。

 カメラのシャッター音が途切れて、カメラマンが言った。

「それじゃ、一旦休憩しましょうか。あともうちょいで夕日がいい具合に落ちそうなんで、それまでね。樋口さんも皆も水分取ってね―」

「はい、わかりました」

 プロデューサーが手には水とタオル。手首に日傘を引っかけて、近づいてきた。

「お疲れ、もうちょっとで終わると思うけど、無理せずにな。ほら、日陰に入って」

「…どうも」

 背の高いひまわりは日陰を作っていた。

 水を受け取って、一口飲む。よく冷えていて、体の火照りが少しとれた気分だ。

「日傘、さしとくから汗拭くといい」

 タオルも受けとって汗を拭きながら思った。 

 汗を拭いたこのタオル、この人に預けるのか。

 ---くだらないことを考えた。今までもこれからも何度もあるだろうに。逐一考えていられない。集中が途切れた証拠か、休憩が終わったら気を引き締めなおそう。

「もう、行きます。それでは」

「もう?日陰で少しでもゆっくりしていった方がいいんじゃないか。焼けちゃうぞ」

「大丈夫です。日焼け止め、塗りなおすので」

「この仕事とってきた俺が言うのも変かもだけど、もう肌が少し赤い。休憩中は日陰にいるといい」

 プロデューサーが少し赤くなった自分の肌を見ていると思うと、仕事だとはわかっていても顔が熱かった。こういった時のプロデューサーはしつこいほどに、こちらを心配、というか気に掛けるので、円香は大人しく従った。

「日傘、自分で持つか?」

「いえ、休むことにします。あなたが持っていてください」

 そう言われたプロデューサーは、もちろん、と笑いながら言った。プロデューサーの顔にも汗が滲んでいて、ワイシャツは汗で少し透けていた。

 咄嗟に目をそらして、ひまわりに視点を固定した。なんで私が逸らすんだろう。流石アイドルの水着でも恥ずかしげもなく見てくるだけありますね。

 今の衣装は汗で少し透けていて中々扇情的な格好をしているような気もするが、プロデューサーは何でもないように円香の隣にいた。

 目線を逸らした先のひまわりを見ながら、気を逸らすように円香が言った。

「今日の撮影、なんで私だったんですか」

「え?嫌だったのか」

「嫌といえば嫌ですね。この暑い中の撮影は」

「はは、確かに、これは誰でも嫌かもな」

「いるでしょう、この暑い中でも元気に笑って撮影できそうな子達なら」

「まあな、けど俺も考えないわけじゃないさ。みんなが挑戦してみたい仕事や、似合ってるなって仕事を取ってくるのが俺の仕事だ。この前言ったように今回は円香に似合うと思ったからそうしたんだ」

「あなたは似合っていると言いますけど…」

「似合ってるよ」

 プロデューサーは円香の言葉を遮るように言った。

「……私は似合ってないと…思います。その、どうすればいいと思いますか」

「そうだなぁ、このひまわり畑さ、デートとかでよく来る人達いるんだって。この畑に誰かと来た時のこと想像したりとか、どうかな」

「…現場監督みたいな言葉をどうも。それは指示ですか」

「はは、えーと、リクエストっていうかなんというか」

 馬鹿じゃないの。まだプロデューサーの方を向けずに内心呟いた。

 

 

 ああいう言葉をいきなり掛けてくるのはやめてほしい。似合ってませんから。

 カメラを向けられてから、改めて花を見た。

 ひまわり。

 花言葉、あなたを幸せにします、情熱、憧れ、など。

 情熱?柄じゃない。憧れ?何に対して。

「樋口さん、お願いしますね」カメラマンが言った。

 あなたを幸せにします?

 デート?私が一体誰と。

「ああ、もうちょっと目線を…あれ?……うーん」

 カメラマンが少し困ったようにシャッターを切った。

 ああ、やはりだめだ。上手くいかない、いつもの撮影より何か意識してしまう。

 自分ではなく他の誰かならもっと出来たのだろうか。

 恨めしい感情と助けを求める感情に自然にプロデューサーに目がいった。

 真っ直ぐこっちを見てた。

「大丈夫」遠くて聞こえなかったけど、微笑んでそう言ったのが聞こえた気がした。多分気のせいだ。

 心配そうな顔でもしてるかと思ったのに、何でそんな顔してるの?あなたの方がよっぽど、ひまわり似合うんじゃない?代わりますか?

 また逸らすようにひまわりを見た。大きな太陽みたい。あっつい。

 あなたみたい。

「…お、いいね!それそれ!キープして!」

「え?」

「そのまま!……うん!いいぞー可愛い!」

 カメラマンが休憩前より楽しそうに笑い、シャッターを切った。

 ---心外、ホント。

 何かされたわけではないが何処か悔しかったから、あえてカメラマンの後方に立っているプロデューサーに微笑みかけた。

 プロデューサーは少し驚いたよな顔をした後に、やっぱり微笑んでこっちを見た。

 ---馬鹿じゃないの、私。

 しかし、夕日が赤くなったもの全てごまかしてくれるだろう。

 そう期待しながら、またカメラに意識を向けた。

 

 

 

 

「お疲れ様」

「…お疲れ様です」

 撮影は無事に終了し、プロデューサーはいつもの私服に着替えて帰り支度を終わらせた円香を迎えた。

 円香は撮影時のことを意識しないようにプロデューサーの前に立った。

「それ、どうしたんですか?」

 プロデューサーは片手に小さなひまわりを4輪持っていた。

 聞けば、今日の撮影終わりに畑の関係者にもらったとのことだった。

「撮影にうちを使ってくれてありがとうってさ。事務所にも飾れるような大きさのをもらったんだ。ノクチルの4人分な」

「…そう」

「今日のこと思い出せるな。すごく良い仕事だったよ。スタッフ全員褒めてた」

「別に、思い出さなくていいです。行きましょう」

 あの撮影は、いつもの自分じゃなかった。きっと暑さにやられたに違いない。

 身体に熱さがぶり返しそうだった。それに気づかれたくなくて、歩き出した。

 プロデューサーも追いかけて円香の隣に並んで歩いた。しばらく歩いていると、不意に軽く肩がぶつかった。

「あっ、すまん」

 ふらついたのか、こんな近く歩いてたっけ。

 前より近いような。

 円香は自分が近いのか、それともプロデューサーが近いのか、どっちかわからなかった。

「いえ、私が少しふらついただけです」

「暑かったし、疲れたよな。早く帰ろうか」

「…はい、そうですね」

 スタッフに挨拶を終え、駐車場までの道を歩きながらプロデューサーは口を開いた。

「この前さ、元気づけようとしてくれて、ありがとうな」

「は?」

 急に何だろう。見るとプロデューサーの顔は晴れやかな表情だった。

「なんか、今日の円香の撮影みてさ。やっぱ間違ってないって思って。なんかやる気出たっていうか」

「……私は仕事をしただけですが、勝手に元気になるなら、それはそれでいいんじゃない」

 円香は口を意識して固くした。だがほんの少し緩んだ。

「はは!次の仕事も、なくなった仕事の分、頑張ろうな」大袈裟に笑いながらプロデューサーが言った。

 ---呑気な言葉。…よかった。

「それはあなたが取ってくる仕事しだいです。今日みたいに似合わないものは持ってこないように」

「いやいや、似合ってるよ。もっと早く気づけばよかった」

「ふふ……だから、似合ってませんよ」

 円香はプロデューサーの持つ小さなひまわりのように笑った。

 

 

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