シャイニーカラーズ短編詰め   作:ウミガメ2号

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Pが白いコートをクリーニングに出したときの透。


色を付ける

 浅倉透は事務所に向かい街を歩いてる時に思わず二度見した。普段とちょっと違うあの人を見たからだ。違うと言っても羽織っている上着が違うだけだった。しかし普段見慣れない服をきていると人は雰囲気が多少でも変わるもので、一瞬わからなかったのだ。

 だがやっぱり違うのは服装だけだ、とすぐに思った。よく見るといつものあの人だった。歩き方とか、カバンの持ち方とか。だから、すぐに近づいて声をかけた。目的地は同じだし、一緒に歩きたかったのだ。

「おはよ」

「ん?おお、透!おはよう」

 交わす言葉はいつもと同じで特別なものはないはずなのに、いつもと違う服を着ているプロデューサーを見るだけで新鮮な気分だった。

 服装って、なんかそういうのあると思った。

「今日さ、なんか違うね」

「え、なにか変か?」

「ううん、変じゃないよ。…違うでしょ、服」

「…ああ、コートか!」

 プロデューサーはなるほどとうなづいた。

 彼の寒い時期のトレードマークというか、勝手にそう思ってるだけなのだが。彼が寒い時期にスーツの上に着ているのは白いロングコートだった。しかし今日は真っ黒なコートを着ていた。反対の色になっただけで、いつもより新鮮に感じていた。

 言葉も仕草も。同じはずなのだが透は少しだけドキッとした。

 黒だと大人の魅力ってやつなのかな、それがアップするってやつかも--と内心で思った。

「いつものコートはちょっと汚れがついちゃってな、クリーニングに出してるんだ。これは今使ってるやつの前に着てたやつ。見たことなかったっけ?何度か着てたと思うけど」

「うん…私は初めて見たかも」

 黒いコート姿のプロデューサーは初めて見た。黒い服着てるとこは見たことある。スーツだって黒いし。だがコートが黒いのはなんでか新鮮だった。

 男性はイメージだが、黒い服を着ている人が多い。寒い時期だと特にそう感じる。今歩きながら自分たちの周りを見ても黒いコート姿の人は沢山いる。もっといえば男性女性問わず着ているので、彼が着ていても珍しいものでは決してない。新鮮さは感じないと思った。

 しかしーー

「…いいね、カッコいいじゃん」

「お、ありがとう。これも結構気に入ってるからな。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 白コートは着こなしが難しいと思う。男性で着ている人は自分の周りでは彼しかいない。そんな着こなしが難しい服を着こなすから、色々似合うんだろうなと思っていたが、シンプルな黒もやっぱり良いなと思った。いつものやつももちろん好きだが、こういう定番みたいなやつもーー

 …ささるかも

「黒、いいね。好きだよ」

「はは、そうか。そういえば透は黒い衣装あんまりなかったな。私服では何回か着てたけどさ。衣装も似合うと思うけど……いやなんでも似合うか」

「ふふ、どうだろ」

 確かにあんまり衣装では着ないな。黒。

「なら今度選んでよ。私服でも衣装でも、さ。黒……大人っぽいね」

「し、私服もって、勘弁してくれよ。……けど衣装は確かに、黒か…いいな。って俺に決定権はないけど」

 私服も衣装も駄目なようで残念だったが、彼が見たいと思ってくれる衣装を着ることが出来るならそれで良いことにした。

 今は無理でも大人っぽい服を着て大人の彼の隣を歩くことを想像すると楽しい気持ちになった。

 

 

 事務所には透とプロデューサーが一番乗りだった。

 事務所の鍵は基本的に彼か、事務員のはづきが開ける。今日は、はづきがお休みで彼が鍵の当番だと知っていた。だから、寒かったがいつもより早く家を出た。そうすれば、自分が先に着いたら彼を待てる。彼の方が先に着いたら、待っててくれる。どっちでも良いと思った。

 結局一緒に行くということになり、個人的には一番好みの結果になった。

 事務所に入ってすぐに彼は暖房のスイッチを入れた。しばらくすれば暖かくなるだろう。透はまだ寒かったので上着は着たままでいたが、彼はコートを脱いで自分のデスクの椅子に引っかけて言った。

「ふぅ、寒いなぁ。俺はコーヒー淹れるけど、透は飲むか?インスタントだけど」

「うん、欲しい」

「よし、ちょっと待っててくれ」

 彼はパタパタとキッチンに向かった。

 寒かったらコート着たままでいいのにーーと内心思い見送った。見送った後に目が行ったのは彼のコートだ。彼の物は基本的に目が行ってしまう。ついには透はソファから立ち上がり、彼のコートを手に取った。やはり普通のコートだ。なのに何故こんなにも気になってしまうのだろう。

 自分の上着を脱いで彼のコートに袖を通すと脱いだばかりなので温かかった。まだ部屋は暖かくなっていないため、丁度良いと感じた。

 女の透が着るともちろん大きすぎて、袖から手は出ず、裾は膝の下まで来ていた。コートに身を包んだ透は笑みを浮かべた。

「…うん、結構……いいな」

 コーヒーを淹れると言ってもインスタントだったので、彼はあまり時間をかけずにカップを自分の分と透の分を両手に持ち戻ってきた。

 彼は自分のコートを着ている透を見て、少し驚いていた表情をしていた。

「…おいおい、なにしてるんだ」

「え?えーと、寒かったから」

「自分の上着脱いで俺のコートを着ることもないだろうに」

「あったかそうって思って、自分のより」

 実際、すごく熱い。ふふ、やばいねーーまだ温まりきらない部屋だが、透は少し汗をかいた。

 彼は恥ずかしそうに、困ったように言った。

「俺が恥ずかしいんだって。すぐあったかくなるから、脱ぎ…返しなさい」

「ごめんごめん」

 今のような恥ずかしがったり、ちょっと困った表情は好きだが、実際困らせたいわけではない。ジレンマ。

 けどこれくらいしないとさーーこの事務所の中では一番早く出会ったのに、ここにきたのは一番遅いのだから。

 言われた通りコートを脱いで、椅子ではなくハンガーにかけた。

 

 

 それから彼は三、四日ほど黒いコートのままだった。まだクリーニング屋に取りに行っていないようだった。そのため事務所の皆も彼の普段と違う姿を見た。

 皆にとっても黒いコート姿のプロデューサーは珍しいみたいで結構話題上がっていた。そのため、他にもブラウンのコートも持っているという情報も得ることが出来た。透はまだ白いコートしか見たことがなかったので、今度着て来てと頼んでみようかと考えていた。

 彼はストレートに似合うと言われたり、一部からはからかわれたりしていた。からかっていた一部の頬は多少赤くなっていたようだった。

 わかるーー

 そんな彼だが今はコートを脱いで動き回っていた。次の仕事の準備の最中である。必要な荷物を車に確認しながら積み込んでいた。手伝おうかと声をかけたが彼は自分の仕事だから、と断った。

 ノクチルでは透はこのあと仕事で円香達はレッスンだった。開始時間まで余裕があり、待っていたのだ。時間ギリギリになるころには雛菜を引っ張って小糸も来るだろう。

 準備が終わるまで透はソファに座りながらスマホを眺めている円香に声をかけた。

「樋口はどっちがいいとかある」

「…なにが」

「コートの色」

 ああ、と円香は何を聞かれたか理解したようだった。皆が話題にしていた為、彼女の耳にも入ってきたのだ。

 彼女は興味がなさそうに、スマホから顔を上げずに言った。

「別に、どっちでもいいんじゃない」

「じゃあ……どっちかといえば」

「…白」

「なんで?」

「見つけやすいでしょ。あんなに真っ白なコート着てたら目印になるから」

「ふーん」

 そう言っている円香だったが彼がコートを脱ぐまで、たまにスマホから目を外し、黒コート姿の彼をチラチラと見ていたのは知っていた。

 樋口もささるんだ、黒ーー

 いまだにじっと見る透に円香はため息をついて聞き返した。

「なに?じゃ、浅倉は?」

「うーん…」

「…」

「…どっちも、で良いや」

「なにそれ、その答えはずるくない」

「ホントだからさ」

「…まあ、別にいいけど」

 円香はそれ以上は聞かなかった。彼女にとってはいつものことであったからだ。その後は特に気にすることなくスマホを眺めながらプロデューサーの準備が終わるのを待っていた。

 

 

 その次の日は仕事で透とプロデューサーの2人だった。

 透は仕事が終われば直帰しても構わないと言われたがブラブラしたいという適当な理由でプロデューサーと一緒に事務所への帰り道を車で走っていた。途中でプロデューサーが寄り道してもいいかと言ってきた。何処かに連れてってくれるのかと思ったが、帰り道にクリーニング屋さんを通るからクリーニングに出してたコートを取りに行きたいとのことだった。

 残念。一緒にいられるのは嬉しいけどさ。一緒にご飯とか食べたいなーー寄り道良いよ、と言いながら彼からのありがとうを貰った。

「その後はさ、プロデューサーどうするの」

「うん?事務所に戻ったら少し資料整理するだけかな。透はこの後ぶらつきたいっていってたろ?クリーニング取ったら行きたいとこの近くまで送るよ」

「私、お腹すいた」

 透はわがままを言った。

「うん?」

 バックミラー越しに彼と目があってじっと見ていると、彼は笑いながら言った。

「…はは。…うん、いいよ。俺も腹減った。…飯食いに行くか」

「やった、もう仕事終わってるから割り勘だよね」

「え、ああそう言えば前そんなこと…でも俺がまだ仕事中だから俺がーー」

「割り勘、ね」

 車の中で少し前のめりになって彼に詰め寄りながら言うと、彼は困りながらも了承した。

「あー、わかったわかった。ホントは奢られたがるんだがなぁ」

「一緒の方がさ…いいんだ、私は」

 透はあまり感情を出す方ではないし、出したとしてもわかりづらい方である。プロデューサーである彼もまだまだ透のことでつかめてはいないところはあった。

 しかし、彼が分かるくらいには今の透は喜んでいるし楽しんでいるような雰囲気が声から感じられた。

 

 

「どうも、ありがとうございました!」

 クリーニング屋の店員からの言葉に軽く頭を下げながら彼はコートを持って車に戻ってきた。その手には当然白のコートがあった。

 彼は運転席に座りながら助手席に目を向けたが今日の荷物で埋まっていたので、後部座席に座っていた透に言った。

「後ろにおいていいか?」

「うん、いいよ。持っててあげる」

「おう、ありがとう」

 身体をよじって彼はコートを透に手渡した。綺麗になったばかりのコートをしわにならないように柔らかく持ち膝の上に乗せた。

 クリーニングしたばかりのコートはビニールカバー越しでも真っ白であることが分かった。彼は汚れがついたと言っていたが、綺麗になったようだ。どこが汚れていたのか分からなかったからだ。

「真っ白って大変だよね」

「え?」

「色とかさ、簡単につくじゃん。私も着るときは気を付けるけどさ、大変だよねって」

「ああ、確かになぁ。気を付けてても汚れるときは汚れちゃうもんだし、そうなったら目立つしな」

「ふふ、大変だね。手入れ」

 大変だと思うが明日からまたこれを着た姿を見れると思うと嬉しい気持ちになった。

 黒も好きだが、白も好きだ。どっちも良いって言葉は本当だ。

 透は膝に置いた白いコートを持ち直し、腕で優しく抱きしめた。

 カバーが邪魔だと思った。

「黒もかっこいいって言ったじゃん。けど、白もかっこいいよ」

「おいおい、恥ずかしいからやめてくれ」

「照れてる?」

「いや、そっちじゃ…いや、そっちもだけど。女の子が自分のコートを、その…な」

 恥ずかしそうに彼は口元を抑えながら言った。可愛らしい。

「黒はさぁ…」

 先日黒いコートを羽織った時のことを思い出すと、さっきよりコートを抱きしめる力が強くなった。

 せっかく綺麗になったコートにしわができちゃいそうだね、ごめんーー

「黒は………なんか、どんな色をしてても塗りつぶされそーってなって………良い」

 また、彼が何か言いたそうだったけど、うまく言葉が出てこない様だった。

「白はね…」

 彼が息を呑んだ顔をしていた。透から目が離せない様だった。

 透はクリーニング仕立ての服に付いているビニールカバーをずり上げてコートに直接触りながら言った。

 指でコートの生地をさらさらと撫でた。爪には薄く青いマニキュアが塗られていた。

「白は………私の色、つきやすそうだなーって感じで………良いね」

 皆の色も付くんだろうなと思ったが、綺麗になった真っ白なコートに、今回は私が最初、とほんの少しひっかいた。

 

 

 

 

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