シャイニーカラーズ短編詰め   作:ウミガメ2号

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お疲れ気味のPを心配中の透。
Pの無理してる”大丈夫”は嫌い。


お疲れ様とお休み

 疲れているなと、浅倉透はプロデューサーを見て思った。

 今日はオーディションがあり透と彼は一緒に行動していた。一緒にいる彼の様子は、顔は笑顔なのだが目の下に隈が出来ていて、疲労が溜まり切っていると身体から滲み出ているようだった。

 最近283プロのアイドル達は人気を獲得していっている。どんどん忙しくなり彼の負担は大きくなった。

 透はその様子を見て心配をしていたが、今日は一段と疲れているように見えて気が気でなかった。オーディション前に、彼はいつも言葉をくれる。その言葉はいつも透の力になっていた。

 

 一人じゃないぞ、俺も一緒だーー彼は笑顔で言った。

 

 その言葉、好きだ。けど無理してる彼の笑顔は好きじゃない。

 一人じゃないの、プロデューサーもだよね?ーーいつものようにアガらない。気持ちが。けど落ちたら自分も悔しいし、彼も苦い気持ちになるに違いないと思った。

 

 

 その日のオーディションは二位だった。合格したが、一位じゃなくて悔しかった。日誌に書こうかと思ったけど、嫌だったからやめた。

「ごめん」

「なに言ってるんだ。よくやったさ」

 オーディションが終わった後の彼との会話が好きだ。彼は褒めてくれた。嬉しいけど会話の時も声に張りがない。いつもだったらもっと会話を続けていたいと思ったが、今日はどちらともなく会話を切り上げた。残念だ。

 

 

 

 

 透とプロデューサーが事務所に戻ってくる頃には、もう暗くなっていた。

 彼は今、事務所のパソコンに向かってキーボードを打っている。いつもはパソコンに向かっていても伸びている背中は丸まっていた。デスクの脇にはコーヒーと栄養ドリンクとゼリー飲料が置かれていて、透にはやばい3点セットにしか見えなかった。

 そんな状態で帰ってきた彼を事務所の皆は心配した。皆から見ても一目で分かるほどに彼の体調は良くなかったからだ。全員が仕事や帰宅で事務所を出る前に一声彼に掛けていった。どれも彼の身を案じた言葉だった。

 人気が出てきたのも忙しい理由の一つであるが、それでも彼はよく働き仕事を捌いていた。

 もう一つ理由がある。それは年末に入ったからである。この時期は当然クリスマスと正月関連の仕事増える。それに加えてライブも行われることになっている。

 つまりは事務所の全員に仕事がある状態だった。もちろん天井社長もはづきも、いつもより慌ただしく仕事をしているし、アイドル達も自分達で出来ることはやっている。

 しかし、それでも一番動き回っているのはやはり彼だった。加えて、彼は時間の許す限りアイドルたちのサポートもしだすから更に負担が増している状態だった。

 

 

 透はソファから立ち上がり彼に近づいて、ここ最近何度も言った言葉をかけた。

「…あのさ、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。…心配してくれてありがとうな」

 彼は変わらず疲れた表情だったが、透には笑顔で言った。それ嫌だ。

 最近何度も行ったやり取りである。透は今の彼が言う大丈夫が好きではなかった。心配してるって伝わっているなら、ちゃんと大丈夫になってほしかったのだ。元気になってほしかったのだ。

 どうやったら伝わるんだろうーーと歯がゆくて、どこか苛立ちにも似た何かが今の透の中にはあった。

「……ねえ、これってさ。…伝わってるかな」

「なにがだ?」

「だから、心配してるよって…ことが」

「…ああ……すまん、伝わってる」

 彼はすまなそうに言った。彼がいないと進めることが出来ない仕事があるということは理解しているが納得はしていなかった。

「…と、透?」

 透は彼の顔を両手で触れた。そっと触って彼の隈を親指で撫でた。

「…めっちゃ…隈できてるじゃん。目も赤いし」

「…あ、ああ。…その」

 戸惑った様子の彼の顔を自分の方に向けて目を合わせた。

「ねえ、こっち見て。……私、心配してるよ」

 さっきより伝わってるだろうか。

「……すまん」

「…今日は、お疲れ様にしよ?…私も、頑張るからさ。出来ることやるし、出来ないことは社長にもはづきさんにもちゃんと相談する。皆でやろうよ…」

「……ああ、そうだな。…駄目だな、気づいたら無理しちゃうんだ。悪い癖だな…」

 残りは明日でも間に合うのに、と彼は目を閉じて大きく息をついた。それを見た透も息をついた。

 頬を撫でながら、お疲れ様と呟いた。彼も疲労からか、されるがままにお疲れ様と返した。

 それからお互い荷物をまとめて事務所を出た。遅くなると彼はよく送ってくれるが今日は断った。透と彼の自宅は近いというわけではない。それでも彼は遅い時間なのを理由にせめて、と最寄りのバス停まで送ってくれた。

 バスはあまり待たずに来た。バスに乗り、家に着くまで彼も家に着いたかなとか彼の事ばかり考えた。

 

 

 もう寝たかなーー家について食事や風呂を済ませ、透は今日はもう寝るだけになった。明日は平日で学校だ。そろそろ寝なければいけないが、彼はちゃんと休んでいるか気になった。

 連絡しようか、と思うが既に寝ていたらどうしよう。早く帰って休んでと言ったのは自分なのに、寝ていたら起こしてしまうかもと考えた。

 チラリと時計を見ると23時を過ぎていた。どうしたら良いかとモヤモヤした。いっそ寝てしまおうとベッドに入ったが、中々寝付けそうになかった。

 横になりながらスマホをいじった。意味もなく彼との連絡のやり取りを眺めながら、電話のマークをタップした。

 無意識だったため呼び出し音が鳴り、透は珍しく慌てた。

「おし…ちゃった」

 すぐ切ろうとしたが、切りたくなかった。数回コールがなっても出なかったためやっぱり切ろうとしたが、それより前に彼の声が聞こえた。横になった身体を起こしてスマホを耳に当てた。

「もしもし、どうした?」

 聞こえてきた声はハッキリしていて、寝ているところを起こしたようには聞こえない。おそらくまだ寝ていなかったのだと思った。

「寝て……なかった?」

「ああ、けどそろそろ寝る所だよ」

「じゃあ、仕事してた?」

「いや、ゆっくり晩御飯食べたり、のんびりしてたよ。……って信じられないかな」

「ううん、信じる」

 彼がそう言うなら疑わない。彼の”大丈夫”だって本当は疑いたくはない。

 休んで欲しいのに出てくれて嬉しいのもあって、複雑な気持ちにもなった。

「それで、どうかしたか?」

「ううん、なんか…電話しちゃってた」

「はは、そうか…心配かけちゃったな、ありがとう。…それで透は寝ないのか?明日学校だろう」

「うん、寝ようと思ってたんだけど、眠れなくて。…プロデューサーは大丈夫?」

「正直…キツい。それにいざ寝ようとすると上手く寝付けなくてさ。凄く疲れてるのに……コーヒーと栄養ドリンクの飲み過ぎかな」

 あ、言ってくれたーーと思った。彼も自宅に着いてようやく気が抜けたのか、いつもの無理した大丈夫が出なかった。いつもそうやって素直に出してくれたら嬉しいのに。

 彼はアイドルたちのことはすごく気にするのに、自分のことは後回しにする。陰ですごく頑張って皆のためにって。そういうところ、かっこいいと思うけど、たまにすごく心配になる。

「飲み過ぎ…何本も、机の上にもゴミ箱にもあるし」

「面目ない、つい頼っちゃって」

「ちゃんと寝られてない?」

「最近はな。けど今日はいつもより早く帰ってるし、あとは寝るだけだし。…寝付けないって言ったけど、横になってたらそのうち寝ちゃうさ」

 彼とのちゃんとした会話は久しぶりのような気がした。今日は朝から仕事とオーディションで一緒にいたが、いつもの会話は出来ていなかった。

 今みたいな会話で、どんどん安心していく実感があった。

 やっぱ…一人じゃ駄目だなーーと思った。

「透は疲れてないか、透だって忙しかったろ」

「うん、忙しかった。最近プロデューサーと話し…出来ないなって思ってた」

「…そうだな、ちゃんと会話するの久しぶりか。よし、もうちょっとだけ話すか?」

「いいの?疲れてるんじゃ…」

「疲れてる…けどまだ眠くないんだ。それに俺も話をしたいしさ」

 

 それから少しだが仕事の話だったり、仕事に関係ない会話をした。久しぶりで透はいつもより多めに喋った。彼からも時折笑い声が聞こえて嬉しかった。

 気付けば24時を少し過ぎていた頃に、彼からアクビが聞こえた。

 彼はすまん、と言った。残念だと思ったが彼には早く休んで欲しかった。なのに話せるのが楽しくて、嬉しくて、つい長く話してしまったようだった。

「こっちも、ごめん……もう眠れそう?」

「そう、だな……よっこいしょ、やっと眠くなってきた」

 電話越しにギシッという音がして、その次にボスっと音がした。

「…今さ、もしかして横になったり…した?…ベッド…とか?」

「いや、座っただけだよ」

 彼のベッドか、と気になった。彼の自宅は知らない。どんな部屋なのか、何が置いてあるのか、どんなところで生活しているのか気になった。行ってみたいと思うが恐らく彼は駄目というだろう。何か都合の良いことが起きればいいのにと思う。

 …ベッド、か――

「……えーっと、透?どうかしたか…」

「プロデューサー、横になってくれる?」

「え?」

「ほら、早く…ね?」

「ええ?わ、わかった。いいけど…なんでだ」 

 どうしたんだ、と小声で聞こえた。シーツの音が聞こえて彼が横になったようだった。透も自分のベッドに横になった。

「私もさ、横になってるんだ。ベッドで」

「え?ああ、そうか…」

「一緒に寝よーよ」

「……」

 あ、今恥ずかしそうな顔してるーー電話越しでもなんとなくわかった。どんな顔をしているのか想像だが、多分想像通りの顔をしてると思った。

 けどさ、私も……結構恥ずかしいって思ってるんだよ――電話越しだから彼はわからないだろうけど。緊張感でさっきより目が覚めてしまっていることなんて、彼には分らないだろう。

「…ほんとに、そういうことはあまり言わないようにな」

「プロデューサーにしか言わない」

「…ぐっ…それでも駄目だぞ」

「ふふっ、ごめんごめん……じゃあさ、寝る前に一つだけ」

「な、なんだ」

 ちょっと警戒してる彼の反応に申し訳なさもありつつ、少し嬉しい。自分の言葉に動揺してくれるのが嬉しかった。

「お休みって言うからさ…お休みって、言ってほしいなって」

「お、おお?…まあ、それくらいなら頼まれなくても言うぞ」

「ふふ……そっか。…じゃあ、お休みプロデューサー」

「…おう、お休み。透」

 通話を切ると、透は大きく息をついた。スマホを手放しベットに身体を預けた。緊張で少し目が覚めたが、彼との電話を切ると一気に眠気が来た。

 プロデューサー、夢に出そうーー疲れた、と思いながら呟いた。

「…夢に…出るかな」

 私とかさーー思いながら目を閉じた。それからほんの少し経つと意識はゆっくり落ちていった。

 

 その日、透は夢を見た。朝起きて、朝食を取る頃には内容は忘れてしまったが、プロデューサーが出た事だけは覚えていて良い夢だったと思った。

 

 

 放課後に事務所に向かい、プロデューサーに会った。昨日より元気そうだった。隈もちょっと残っているが薄くなっており、背中は昨日より伸びていた。声も昨日より張りがあり、安心する声だった。

 心配した皆から差し入れや、料理が出来る人からはお弁当を貰っていて、代わりに栄養ドリンクとゼリー飲料が没収されていた。コーヒーだけは勘弁してくれという彼が面白くて笑ってしまった。

 没収したドリンクとゼリーは何故か天井社長とはづきが飲んでいた。飲み終えた二人は彼のデスクから書類をいくらか取って仕事をはじめた。

 天井とはづきが多めに手伝ってくれたおかげで余裕が出来た彼とレッスン前に話すことが出来た。

「昨日は、なんかありがとうな。あの後は…まあ、なんとか眠れたよ。一度寝たらぐっすりだった」

「うん、私も良い夢見れた」

「良い夢か、どんな?」

「プロデューサーが出た。だから、良い夢」

「…はは、そうか」

 彼が照れながらも嬉しそうに言った。

「プロデューサーは、夢とか見る?昨日は疲れてたから見てないかもだけどさ」

「ああ、たまに見るよ。俺もさ、たまにだけど透が出る時もあるぞ」

 ドキリとした。本当なら、すごく嬉しい。そしてそれが彼にとって良い夢であってくれたらと思った。

「へえ、どんな夢?」

「透がトップアイドルになる夢」

「…そっか、嬉しい。…うん…私さ。頑張るから」

「え、おお。そうだな、頑張るか!」

 私のもプロデューサーのも…夢の先に行きたいしーー自分が見た夢の内容は忘れてしまったが、きっとそうなりたいって思うんだ。

「ちゃんと見ててね」

「ああ、いつも見てるよ。……言ってるだろ?いつも」

「…え?」

「一人じゃないぞ、俺も一緒だ」

「……」

「…な?」

「……ふふ」

 やばい、刺さる、それ

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