シャイニーカラーズ短編詰め   作:ウミガメ2号

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Pからアクアリウムへのお誘いを受ける凛世。SSR凛世花伝の内容ちょっと含む。


凛世ともう一度アクアリウムへ行く話

 雨の日のカフェで杜野凛世は注文を済ませた。

 仕事を終える頃に雨は降り出し、凛世とプロデューサーは休憩と雨宿りを兼ねてカフェに入った。

 このカフェは始めて入ったが、落ち着いた店内で雰囲気が良いと感じた。以前彼と入った、レコードの置いてあるカフェに似た雰囲気があった。あそこの空気と似ていて、好みの空気だ。

 席に着いて、彼と一緒に落ち着いたような息をついた。朝からの現場で気を張っている時間が長かったのだ。

 雨が降って良かったかもしれない。おかげで彼とこうして休めるし、二人の時間を楽しむことが出来ている。今日一日頑張ったご褒美のような感覚だった。ゆったりとした空気の中、カップに口を付けようとした時にプロデューサーが何気なく口を開いた。

「凛世って、今度のオフ空いてたりするか?」

 

 

 その言葉にカップに唇が触れる前に身体が固まった。危ないところだった。口に含んでいたらむせていたかもしれない。

「……は、い。…今週の土曜が……あ、空いております」

「そうか。なら、良かったらなんだけど」

「……」

 どうにも期待してしまって、緊張しながら彼の言葉を待つ。

「…えっと、その。……アクアリウム、行かないか?」彼も少し緊張したような口調で言った。

 そして、すぐに以前の記憶が蘇った。あの時は、残念ながら彼とは急な仕事で入り口までしか行くことはできなかった。とてもすまなそうにしている彼の顔も今、簡単に思い出すことが出来た。しかし、それは仕方のないことと理解しているし、凛世は入り口までだろうが彼と待ち合わせをして歩くだけで胸が一杯だったのだ。

 良い思い出だと、はっきり言うことが出来る。

「あー、都合悪いかな」

 思い出していて、つい返事が出来ていない自分に凛世は気づいて焦りながら口を開いた。

「悪く、ありません。…空いているといいました」

「いや、けど空いていても俺と一緒だとさ。せっかくの休日なのに…」

「…いいえ、プロデューサーさまがお誘いくださるなら、喜んで…」

「…そうか、よかった。いや、前は途中で帰っちゃっただろ?お詫びって言ったらなんだけど、どうしても気にしてしまって」

 お詫び。その言葉にほんの少しだけ寂しさを覚えてしまうのは面倒くさいだろうか。

 前のアクアリウムの件で、彼はまた今度来ようと言った。しかし、それからWINGに向けて慌ただしい日々を送っていた為、結局行くことが出来ないでいた。

 お詫びではなく、お誘いしてほしいーー少女漫画の登場人物のように考える自分に少しおかしさを感じる。

「はい、ですがお気になさらないでください」

「でもな」

「プロデューサーさまが私たちの笑顔が好きと言ってくださるように、凛世もプロデューサーさまの笑った顔の方が好きでごさいます。…ですので、もう気になさらないでください」

「……そ、うか」

 彼が照れたように手で口元を抑えた。一つ咳ばらいをするとコーヒーを持ってカップに口を付けた。照れ隠しなのだろうか。珍しい彼の赤面に凛世の頬が緩んだ。とても暖かい表情になっていることに凛世は気づかなかったが、それを見た彼はまた慌てて、しかし表に出ないようにコーヒーをもう一口飲んで口元を隠した。

 いつもは彼の方がこちらの心を乱すような台詞を言うのに。今だって、急に休日空いているかなんて聞かれて、心臓が一気に早くなったのだ。

 ふふ、いつもと逆ですーー胸をポカポカと暖かい気持ちになりながら思った。

「そういえば、チケットはいかがいたしましょう。事前に購入しておいた方がよろしいでしょうか?」

 今日はまだ月曜日だ。土曜日まで長くて、待ち遠しいのが悩ましくも、どこか嬉しいような気分だった。今日を含めて良い週になるだろう。

 土曜日までは楽しみにして待つことができる。日曜日にはアクアリウムの思い出を楽しむだろうと思った。

 彼はどう思っているのだろうか、とチラリと見ると何とも言えない顔をしていた。

「どうか致しましたか?」

「いや、実は…」

 と、彼はカバンをゴソゴソと漁ると手に取ったものを凛世の方へと差し出した。

「これは…」

「チケット、もうあるんだ」

「どうして」

「…とりあえず誘おうって考えてたんだけど、考えてたらなんか買っちゃって」

 彼は気まずそうな顔をしていた。

「凛世にオフの日は予定あるかもってのは買ってから気づいて。…まあ、その、空回った」

「…ふふ」

 なぜだろう、空回りの理由も自分だと考えると、妙に嬉しくて恥ずかしい。

 彼と同じようにカップに口を付けて、緩みそうになる口元を隠した。

 

 

 約束の日。土曜日の昼頃に以前と同じ待ち合わせ場所に凛世は立っていた。今回も凛世の方が先に着いていて、そのことにホッした。時間も前回と同じ。服装も前回ここに来た時と同じ着物を着ている。なるべく同じにしたいと考えていたのだ。

 気づいてくれるでしょうかーーと、考えるが彼なら気づいてくれるだろうなと確信に近いものがあった。

 そろそろプロデューサーも来るはずだと、彼のことを考える。あの時は彼も見慣れたスーツ姿ではなく、私服だった。綺麗目なシャツを着ていたが、ネクタイを締めていない。そんな些細なことでも嬉しかった。

 今日はどんな服装をしてくるのだろう。考えるだけでも楽しい。アイドルになってから彼には色んな姿を凛世は見せてきた。凛世も彼の色んな姿が見たかった。

 考えていると、こちらに近づいてくる見慣れた姿があり、頬が緩んだ。

 

 …見慣れた?

 

 見慣れた姿の彼は、早足で凛世の前まで来て言った。

「凛世!……悪い、待たせたか」

「いえ…」

 ここまで前回と同じ。だがやはり彼の姿は見慣れたものだった。

「プロデューサーさま……お召し物が」

「え、なにか変かな……いつも通りだけど」

「………」

 そう、いつも通りスーツだった。それが凛世は悲しかった。スーツ姿の彼が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。

 しかし今日はそれは嫌だったのだ。プライベートなのに。前回と同じように私服がよかった。

「凛世は、前に来た時の着物なんだな」

「はい」

「うん、やっぱり綺麗だ。…よく似合ってる」

 やっぱり気づいてくれた。嬉しい。けど残念だ。

 私服じゃない理由は何なのか、聞くのもどこか怖い。言っていた通り、お詫びだから?これも仕事の一環だから?そうだったら嫌だった。

「あ、凛世?」

「…参りましょう」

 言葉少なに歩きだした。本当は以前のように周りをぶらついてからアクアリウムに入りたかったが。

 彼は戸惑ったように凛世の後についてきた。

「……」

 複雑な気分だったが、歩く速度を緩めると彼が隣に並んだ。やはり隣じゃないと嫌だった。

 隣に並んだ彼は、まだ戸惑い気味で申し訳なさも募った。

「…なんか、怒らせちゃったか」

 彼は戸惑っていたが、落ち着いた口調で言った。

「…いえ、そのような」

「流石に機嫌悪くなっちゃったことくらいわかるよ」

「…申し訳ありません」

「いや多分、俺が原因だろ?」

「……凛世が、勝手に期待をしたのです」

「期待?」

 勝手に期待をした。彼も今日の凛世と同じようにしてくれると、想像していた。

 勝手に期待をして、自分の想像通りでなくて勝手に落ち込む。最近、自分が面倒くさい女になっているような気がして嫌になった。

 

 

「私服だとさ……そう見える可能性もあるのかなって思って」

 …え?ーー誘われた日の時と同じように、また彼の言葉で固まった。

 困ったような表情で彼は続けた。

「俺と凛世って、なんか近いってはづきさんや社長に言われた事あってさ。ちなみに放クラの皆にもな」

「そう…見える」

「二人と放クラの皆に言われて、俺が勝手にそう思っただけだぞ?いや、面倒くさいとか嫌って思われるかもしれないけど」

「そう見えたら、プロデューサーさまは…」

「…」

 赤面して、頬を掻いた彼を見て、なんだかこちらも恥ずかしくなってきた。

 そんなに普段の自分は彼の近くにいるだろうか。もっと近くにいきたい時もあるのに。

 そんなに普段の彼は自分の近くにいるだろうか。もっと近くに来て欲しい時もあるのに。

 私服で来てくれなくて残念、という気持ちが一気に解消されていくのがわかった。

 我ながら単純だ。いつの間にか、そう見える距離に自分達はいたのか。

「WINGが終わって凛世を知ってる人も増えて、人気だって増してる。なのにプロデューサーの俺が迷惑かけるのは…」

 それなら、そもそも誘うなよって話なんだけど。と彼は続けた。

 それは駄目だ。嫌だ。

「プロデューサーさま、アクアリウムに入りませんか」

「…え、急にどうした?」

「いえ、ただ中を早く見たくなったのです」

「…そうだな、折角来たんだ。…入ろうか」

 彼はまだ赤さの残る表情をしていた。そのまま少しなにか考える様にしていたが息を一つ吐くと、締めていたネクタイを外した。

「…なんか、今日は天気良くて少し暑いよな。それに前はプライベートでネクタイもおかしいとか言ってた気が…」

 なにも聞いてもいないのに、彼は誤魔化すように言った。

「…ふふ…凛世もそう言っていた気がします」

 ネクタイを外した姿。言ってしまえばそれ以外はスーツのままだ。だけどちょっと嬉しくなった。

 

 

 アクアリウムに入った後は、随分ゆっくり時間が流れた。

 凛世が一人で入った時と魚の種類や水槽の位置も変わっていなかったので、基本的に凛世がプロデューサーを案内した。

 彼も広がる綺麗な光景に興奮気味だった。

 全然違うーー水槽の前で胸が暖かくなった。

 先程の通り、以前来た時と変わっていない。違うのは一人ではなく、二人だということ。

 それだけで、足取りが違う。薄暗い中で光る水槽を見て、こんなにキラキラしていただろうか、と。

 こんなに違うのかと隣の彼を見て思う。

 薄暗い場所をはぐれないように、近づいて歩いた。言われて思う。確かに近いかもしれないと。時折手と手が当たるのがわかった。

「凄いな、幻想的ってやつだ」

「はい…美しいです」

 撮影可能だった事もあり、好みの場所や水槽を逐一撮りながら歩く。

 慣れないながらも、水槽を彼の事も含めて撮った。彼も凛世のことを撮った。

 二人が映る写真は撮ろうか迷う。撮ったら…

 

 そう見える可能性もあるかもってーー

 

「…プロデューサーさま」

「お、どうした?なにか…」

 パシャリと二人が収まるように思い切り背伸びて自撮りをした。

 画面を見ると、凛世は映っているが彼の顔までは映らなかった。

「…むぅ」

「…驚いた、変な顔したかも」

「撮れませんでした…」

 失敗した。不意打ちでなければ二人の写真など撮れないと思ったのに。

「…撮ろうか」

「よろしいのですか」

「そんな顔されちゃったらね」

 ほっぺ膨らんでる。彼が微笑ましそうに言った。

「…反則でしょうか」

「はは。いいや、凛世も良い方向に変わったなって」

 明るく光っている水槽から少し離れた暗い場所だった。彼は手早く撮ると、二人しか写っておらず、しかも暗くてよくわからない。アクアリウムで撮った事もわからないだろうが、それでも良かった。そんな写真に二人で笑いあった。撮り直そうかと彼が言ったが、これで十分だった。

 また、歩き出そうと凛世はスマホを一度しまった。

 彼も撮りたい写真はあらかた撮り終えて、ポケットにしまおうとしたところでスマホが震えた。

 

「…」

 彼は震えるスマホを一度見るとどうしようか迷った様な表情をした。しかし、そのままポケットではなく、バッグに入れた。

 まだ電話のバイブの音が聞こえる。

「…プロデューサーさま」

「ああ、ごめん。びっくりさせちゃったな」

「…お仕事の電話では」

「いやいや、知らない番号だったから」

 そうは見えなかった。出ようかどうか迷っていた。けど自分を優先した。少なくとも、そんな風に凛世には見えた。

 嬉しさは当然あるが、彼のその行動にモヤモヤとした。もちろん自分を良く見ていて欲しいとは思う。しかし、それで皆を見なくなる彼は…

「前回はプロデューサーさまは出られました」

「ああ、それで嫌な思いをさせたろう」

「プロデューサーは普段のオフの時でも、電話に出られます。無理をしておりますか」

「いや、そんなことはないさ。必要なことだって思ってるし、何より皆のアイドル活動に関わることだからな」

「でしたら、どうぞ出てください。プロデューサーさま」

「え…」

「私を気遣ってくれたのは嬉しいです」

 確かに彼の言う通り、前回は残念な思いをした。

 あの時、電話を受けたあと戻ってくる彼の顔を見て、何となく察してしまって寂しくなったのも事実だ。

 だが、そんな彼を好いている。多分、皆そうだと思う。

「ですが、アイドルとしての凛世に関わることならば、凛世でなくても放クラに関わることならば、そうでなくても他のユニットの方々に関わることならば…」

「凛世…」

「プロデューサーさまは283プロのプロデューサーですから」

 そんな風に誰かのために駆けまわる姿が皆の目に留まるんだろうなと思う。

 だから、皆さまもあなたが慕うのでしょう。

 

 

 彼が電話に出るため、二人で一度外に出た。

 電話から戻ると、やはり取引先からだったらしい。あちらの都合で夕方から打ち合わせたいそうだ。

 内容はまだ規約で話せないが、放クラの仕事が決まったらしい。皆の顔を想像すると嬉しく思う。

 まだ日も暮れていなかったので時間があり、結果としてゆっくり見て回ることが出来た。

 放クラの皆へのお土産も買って、帰る前にはジェラートを食べることにした。

 以前食べた時よりバニラが甘く感じた。

 

 

 日が暮れそうな時間になる頃に凛世はプロデューサーの車で寮の前まで送ってもらった。お土産で荷物が増えたのでありがたい。

 この後、彼は打ち合わせに行かなければならない。もし打ち合わせがなかったら夕食も一緒にとっていたのだろうか。想像するが、それだと本当に一日中一緒ということになる。仕事で朝から夜まで一緒に行動するときはもちろんあるが、休日ずっと一緒ということは今までなかった。

 いつか休みもずっと一緒にいるような距離になることができたなら。

 それは、まだ…なのでしょうーー想像だけで恥ずかしくなってる自分。だから、まだなのだろうと思う。

 あれこれ考えているうちに、寮の前に車が停まった。

 シートベルトは外しながら、彼に向き直った。

「本日はありがとうございました。……とても、嬉しく、楽しい日でした」

「そうか、なら良かった。けどごめんな。また途中で…」

 遮るように言った。

 今日は本当に夢見心地の時間だった。それを否定してほしくはない。

「いいえ、もうお詫びはいりません。…プロデューサーさま」

「うん?」

「凛世は、今どんな顔をしていますか」

「え」

「プロデューサーさまなら、わかるのではないでしょうか」

「……そうか、そうだよな。それを信じないなんてプロデューサーとしてはなしだ。…よし!それじゃあ行ってくるか!」

 彼は言われた通り凛世を見た。少し見てから一度目を閉じると、納得したように微笑みながら言った。

 

 

「打ち合わせの前に一度事務所に寄るか。…それじゃあ凛世、忘れ物ないか?あっても後で届けるけど」

「いえ、お土産も持ちましたので……申し訳ありません、一つだけありました」

 ただ、まだだとしても。いつかそうなれるように。

「おっ、気づいてよかった」

「はい、プロデューサーさま……ネクタイをお貸しいただけますか」

 もっと近くにいけるように。

「…は?」

「たしかここに」

 呆けた様子の彼のバックからスッとネクタイを取り出し、彼の首元に手を伸ばした。

「え?ちょ、ちょっと待って…」

「…?これから打ち合わせなのですから、ネクタイを締めた方がよろしいかと」

「そうなんだけど、自分でやるから!」

 慌てる彼だったが、無視してネクタイを巻いた。彼も凛世の手が首に回ると顔を赤くして固まった。身体が動かず、どうにも止めることが出来なかった。

「…はい、成りました」

 彼と同じように赤くなった顔を隠さずに見せた。

「……なるほど。……反則だ」

 息を呑んだような彼は、ようやく声がでるようになると、そんなことを言った。

 

 

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