相も変わらず進みが遅いですが取り敢えず2話です
突如として叩きつけられた圧倒的な
話したいことも聞きたいこともあったろうに、それら全てを頑として跳ね除けるほど強烈な口上である。
一言で場を圧し、自身に纒わり付く後好奇の視線を振り払った当の本人は既に満足そうに席に着いている。
「え、えーっと……他に、自己紹介は…?」
「なか」
「す、好きな物とか、趣味とか、意気込みとか皆気になってると思うし…」
「したらば直接聞きに来ればよか。遠巻きに睨め回されるんは気に食わん。面ぁ合わせて話すなら
それ以上言うことは無いとばかりに鼻を鳴らして腕を組むと、今度はざわめきが教室へ広がっていく。この場のほぼ全員が、初めて出会う人種の言葉に意識を持っていかれていた。
唯一幼馴染の箒だけは相も変わらずだと頭を抱えているが、その実内心ではその男らしさに好意を抑えられずにいる。その証拠に口元がにやけかけているが、本人は全く気付いていない。
「……ふん」
真っ先に拳骨を落としそうな千冬も心做しか口角が上がっているあたり、この姉にしてこの弟ありと言ったところだろうか。
「えっ……とぉ……じゃあ、次、周藤さんお願いできるかな…?」
「へっ!?あっ、はいっ!周藤羽乃です、よろしくお願いします!趣味は……」
なんとも言えぬ雰囲気の中、入学最初のSHRは続いていく。その中心に居座る男子生徒はぴくりとも表情を動かさない。山田教諭は無意識に胃のあたりを擦っているが、この後、こんなものは序の口だと思い知らされることになるのであった。
*****
「で?なんじゃ、話って」
時は移ろい休み時間。豊久は箒に呼び出され、屋上にて彼女と向かい合っていた。態々場所を移したということは余人には聞かれたくない話題なのだろう。それは目の前で視線を泳がせ、中々口を開けないでいる幼馴染を見てもすぐ分かる。
「その、だな…失礼だとは思うのだが、どうしても聞いておきたいことがある。気を悪くしたら本当に申し訳無い…」
たっぷり時間をかけて深呼吸し、漸く覚悟を決めたのか箒が口火を切った。
(生真面目な奴じゃ)
そんなに畏まらなくともと豊久は小首を傾げる。幼い頃は道場で取っ組み合ったり、泥だらけで公園を走り回ったり、果てには一緒に風呂にも入った間柄である。6年ぶりの再会で緊張はあるのかもしれないが、そこまで構えることだろうか。
「別に構わん。何でん聞きい」
「う、うむ。では、その……何故、改名したのだ…?」
島津豊久。旧名、島津忠豊。由緒正しき九州の名門、島津家の分家当主となるにあたり、彼は名を改めた。
豊久と箒は幼なじみだが、それは豊久が『忠豊』を名乗っていた小学生の時の話。久方振りの再会に、気にならない方がおかしいだろう。特段不快なこともなく、豊久は口を開いた。
「お前ぁがいのうなったんは九つの時だったの。あいから1年経たん内、親父っどが死んだ」
「ッッ!!…家久さんが…」
厳しくも優しい、誇るべき父だったが忠豊が9歳の頃に若くして病死。その際に忠豊は佐土原島津家の家督を継ぐことになったのだが…
「亡くなる直前、俺の手ば握って『久の字をお前ぁに託す』ち言った。こいは誉れじゃ。親父っどの名を継ぎ、佐土原島津ん跡目ば継ぐんはこの上なか誉じゃ。故に、俺は島津豊久となった。こん名こそ、俺の
話す豊久の顔に翳りはない。心の底から継いだ重圧を喜んでいるのだ。名を奪われた、面倒を押し付けられたという文句や不平など一切ない。父の誇りは我が誇り、『豊久』として生きる事に抵抗など一切ない。
「私こそすまないっ!無神経な事を…ほ、本当に…っ」
驚きと悲しみ、そして後悔が綯い交ぜになった顔で詫びる箒。豊久としては、当然の疑問であろうし聞かない方がおかしいと思うのだが、同時に、そう言ったところでこの頑固な武士女の罪悪感が消えるとも思っていない。
勘違いされがちだが、豊久は人の気持ちや場の空気を読めない馬鹿ではない。むしろ鋭敏とすら言って良い。読んだ上で、諾々とそれに従うことを是としないだけだ。
「なぁんの、お前ぁが俺のこつ気にしちくった事ん方が嬉しか。7年も前ん男なぞ忘れられちゅうかと思うたぞ」
「そ、そんな訳が無い!!私にとってお前は憧れであると同時に唯一無二の友だったんだ!!時が過ぎたくらいで忘れてたまるものか!!…し、しかも、その…」
「お、おう?しかもなんぞ?」
「何でもないっ!とにかく、すまなかったっ!」
切れた語尾が気になるものの、雰囲気は戻った。今はこれで良い、そう満足して豊久は笑う。
「おう、手打ちじゃな。…また頼むど」
「っ…////あぁ!」
こうして、
*****
(豊久…か…)
そこに寂しさは勿論あるが、しかしなぜか安心をより強く感じるのだ。
箒と忠豊の出会いは小学1年生の時。
『芯の強か女子じゃな!』
男女だのなんだのからかってくる男子相手に1歩も譲らず取っ組み合う箒に、そう言った。皮肉でもからかいでも何でもなく、心の底からの本心で。あの一言が始まりだったのだろう。
硬い態度を崩さず、周りから敬遠されがちだった箒に常に笑いかけてきた。共に剣道を学び、切磋琢磨した。
忠豊は人を気遣うとか、そういう事を意識してしない。自分がやりたいと思って行動した事がそのままプラスの方向に働く。彼の周りでよく起こる事だった。だからこそ、打算も何も一切ないまま、自分と向き合ってくれていると箒は理解出来た。
嬉しかった。そして同時に、怖かった。
忠豊は佐土原中書家の男。いずれは家を継ぎ、様々な重圧と戦わなければならない。
その時が来たら、彼は彼のままでいてくれるだろうか。
同じように、
歪に、なってしまわないだろうか。
結果として
そんな中、思いがけない形で箒は島津
中学生剣道全国大会優勝者、鹿児島県立
すぐに気づいた。あいつだ、
曰く、期待の超新星。
曰く、無敗の隼人。
曰く、九州南部の分家の当主。
殴られたような、では済まされない衝撃が箒を襲った。
継いだのか。さらに強くなった。さすが。男らしくなっていた。いや、それは元々。そして、何よりも…
変わってしまったのだろうか。
様々な感情がごちゃ混ぜになり、訳も分からず涙が溢れたのをついこの間の事の様に覚えている。
会いたい。でも怖い。相反する二つの感情が絶えず箒の中に渦巻いていた。
そして、1年後。
島津豊久、全国大会二連覇。
さらに、約1年後。
世界初のIS男性操縦者、島津豊久。
言葉が出なかった。もう我慢出来なかった。自分と忠豊の道は再び交わるのだと気付くのに、どれだけの時がかかった事か。会える。また、共に過ごせる……!!
ならば、ハッキリさせておかねばなるまい。大切な存在とよそよそしく、遠慮しながら過ごすなど死んでもゴメンだ。
だから箒は万感の想いを一言にこめ、ただ
尋ねたのだ。
そして、理解した。
名が変わろうが家を継ごうが、篠ノ之箒が惚れた男は変わっていない。何一つとして変わっていない。
半ば無自覚な優しさも、箒よりずっとずっと強い心の芯も。
「豊久!!」
「む?まだ、何ぞあっどか?」
「遅くなったな。全国大会、おめでとう」
「おぉ!あいがとのう!」
やっと胸を張り、
今はまだ、この長年の想いを全て告げる勇気はない。だが、いつか、必ず自分の口から。
篠ノ之箒は島津豊久の事が好きだと、打ち明けてみせる。
島津家家臣と勘違いされがちですが、史実の豊久は2万5000石の大名です。朝鮮出兵でも島津宗家は規定の兵数を動員出来なかったのに対し、豊久は規定クリアかつ自前の軍船まで用意するなど完全に独立大名の認識かつ扱いでした。なのに関ヶ原で叔父上の為に捨て奸っちゃうところ、最高に頭薩摩隼人だと思います