ブラックスワンプロジェクトにおける影の功労者、ネスト。

 そんな彼の前日譚。

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その男、只の仲介役に非ず。

 

 

 

 

 

 消灯時間もとっくに過ぎたオフィスビル。その12階。

 

 デスクが所狭しと並べられたその一室にたった1人、年若い男がパソコンと向かい合っていた。

 

 黒を基調とした上物のスーツを身に纏い、艶の目立つ黒髪を耳まで垂らしているその男は、手のひらにうっすらと汗を滲ませながら休むことなくキーボードを叩いている。

 

 乾燥したキーボードの音を連続して奏でた後、画面にダウンロードの進捗情報を表すバーが出現し、10……20……とかなり早いペースでバーの色が染まっていく。

 

「まだか。早く」

 

 男が呟くと同時に彼の指も彼の焦燥を表すように連続して上下し始める。

 

 70……80……90……と満タンに近づくにつれ指の上下運動もだんだん早くなる。そして、100になった瞬間、画面が切り替わりダウンロード完了を示すポップアップが表示される。

 

 男は素早くUSBスティックを抜き、接合部にカバーをつけて胸ポケットに忍ばせる。そして代わりに取り出したのはタッチパネル式の携帯電話。男は画面を素早くタップし、コール音も待たずに携帯を耳に当てる。

 

「ネストからセンチュリー、無事にデータを入手しました。帰投します」

 

『ご苦労だった。データを受け取り次第、次の任務を与える。くれぐれもデータに傷をつけないように頼むぞ』

 

 男、『ネスト』の耳に届いたのは、ドスの聞いた中年ほどの男性の声。彼の上司だろうか。

 

「了解しました。ではまた後ほ──」

 

 

 

「誰だお前!ここで何をしているッ!」

 

 

 張り上げられる別の男性の声と同時に男の背が白く懐中電灯で照らされる。

 

 ネストが振り替えれば、そこには懐中電灯とオートマチック拳銃の銃口を男に向けた、このオフィスビルの警備員らしき男性の姿があった。しかし、ネストはそんなことなどお構い無しに通話を続ける。

 

「センチュリー、申し訳ありません。トラブルです。……()()をいただけますか?」

 

『……ああ、やむ終えまい。一応想定の範囲内だ。処理班を後で向かわせよう。君はデータを無事に運搬することを優先してくれ。責任は私が負おう』

 

「了解しました。ネスト、アウト」

 

 ネストは携帯を胸の内ポケットに仕舞い、一度ため息を吐いた。

 

「貴様、ここの従業員じゃないな。何者だ?──こちらT-28、1207室で不審人物を発見。応援求む」

 

 警備員は胸元の無線機で速やかに仲間に状況を報告する。その間にネストは眼球のみを動かして警備員の身体の隅々まで観察する。背丈から姿勢、装備まで余すことなく。その素早さと無駄の無さと言ったら、まるで朝の寝起きから朝食までのルーチンのよう。

 

「おい貴様、何か言ったらどうだ。とりあえず身元を証明できるものッッ!!!???」

 

 突如、警備員の後頭部から赤色の液体とピンク色ゼリーのようなものが噴出し、小さく痙攣しながら警備員は膝から崩れ落ちた。

 

 ネストの右手にはいつの間に取り出したのか減音器(サプレッサー)が取り付けられた拳銃が握られており、そしてその銃口からは微かに煙が揺らいでいる。

 

 相手が視認できないほどの早撃ち(クイックドロウ)。これは()()に所属するネストの商売道具のひとつだった。

 

 静かに息を吐きながらネストは廊下から聞こえ始める足音に耳を澄ませる。

 

 

 聞こえてくる限りでは、エレベーターから降りてくるのが3人。そして階段から駆け上がってくるのが3人の計6人といったところだろうか。先ほどの警備員は拳銃を持っていた。となると、迫りくる増援も拳銃以上の武装をしていることはほぼ確定だろう。問題は彼らの熟練度だが、先ほどの警備員の銃の構え方や見える限りの手の豆、姿勢などを観察した限り、恐らく練度はそこらの軍人レベルを想定した方が良さそうである。

 

 全く骨が折れる。ネストはそう思わずにはいられない。

 

 そこらの軍人レベルということは、銃の扱いに慣れていることは明白。近接戦闘もある程度はこなせるだろう。そして、ここから無事脱出するためには彼らとの戦闘は避けられない。

 

「……はぁ」

 

 無意識のうちにため息を一つ溢す。いくらあの方の命でも面倒なものは面倒である。

 

 ネストは一度、左手に握るサプレッサーが装着された、現在彼が愛用している拳銃『H&K P2000』をまじまじと見る。H&K-USPをベースに製造された次世代拳銃P2000。多くの部分が左右対称に作れており、左利きの射手でも容易に撃てるという気の利いた銃だ。

 

 この拳銃の特徴であるマガジンキャッチレバーを押し、マガジンを一度出して弾詰まりが起こっていないか確認。そしてすぐにマガジンをもとに戻し、一度スライドを少し引いて、また戻す。

 

 ネストは廊下と事務室を隔てる扉の脇に隠れ、迫る更なる敵を待つ。扉は敢えて開けておく。既に倒した警備員の死体に気をとられてノコノコと部屋に入ってきたところを絡めとる算段だ。

 

 扉の陰で息を潜めていると、廊下の壁がいくつもの懐中電灯の光で照らされる。ようやくお出ましのようだ。

 

「1204室、クリア。1205室、クリア。T-26、T-38から応答はあったか?」

 

「いえ、依然として応答はありません。恐らく見つけた不審人物とトラブルになったと思われます」

 

「ああ、最悪の状況を考えた方がよさそうだ」

 

 警備員の会話声が廊下に響き、ネストの耳まで届いてくる。距離はかなり近い。

 

 足音はさらに接近し、ついにネストのいる部屋の前で止まった。

 

 

 

 

 真っ暗な事務室に差し込む懐中電灯の光。

 

 

 漏れる警備員の歯ぎしり、そして焦燥の息づかい。

 

 

 そして、部屋いっぱいに響く、拳銃の各部品が擦れ合う音。

 

 

 

 

 ネストは部屋に入ってきた先頭の警備員の首もとに黒い銃口を滑り込ませ、ゆっくりと引き金を引いた。

 

 制御を失った警備員の身体を最低限視界の端で見届けながら、すぐ後ろの警備員の銃口を平手打ちで剃らし、流れるようにガラ空きの脳天に一発撃ち込む。そうして力の抜けた彼の亡骸をすぐさま盾にして後続の警備員の銃撃を躱す。

 

 5、6発ほど銃弾を受け止めたところでネストは死体の盾を一番近くにいた警備員目掛けて蹴り飛ばし、すぐ横の警備員の銃口を(はた)いて逸らし、脳天に一発。

 

 あとはそれの繰り返しだった。銃口を逸らしては引き金を引き、逸らしては引き……という単純作業の繰り返し。多少手間取ることはあっても大きな動きは変わらない。

 

 銃と薬莢が宙を舞い、壁は紅く彩られる。

 

 最後尾の警備員が後頭部から真っ赤な華を咲かせながら仰向けに倒れたことでようやくネストの作業は終わった。

 

 後に残るのは、敵に恐れず勇敢に立ち向かい、そして散った(つわもの)の亡骸と、それらを引き立てるかのように鈍く光る薬莢のみ。まさに夢の跡である。

 

 6人相手にざっと8秒。ネストにとってまずまずと言えるタイムだった。

 

 さあ、もうここに用はない。いい加減脱出しよう、とネストがエレベーターホールへ行くために廊下の角を曲がったその時だった。

 

「動くな」

 

 ネストの頬に突きつけられるのは銃口。銃から目で辿っていけば見えるのは先ほど(さば)いた警備員達と同じ服装をした男の身体。どうやら察知漏れの7人目がいたようだ。

 

「銃を下に置け。両手を頭の後ろに」

 

 ネストは素直に指示に従い、銃を床に静かに置いて両手を頭の後ろで組む。ついでにくるっと回転して後ろを向いてやる。

 

 警備員の男は銃をネストの後頭部に突きつけたまま彼の身体を軽く叩いて武器チェックをし始める。

 

「貴様はなぜこんなことをする? 何が目的だ」

 

 男はネストをナイフで刺すかのように問いただす。だが、その声色には隠しきれない怖れが混じっていた。

 

「それは、命令だからだ」

 

 二人の真上の灯りが点滅し、どことなく不穏な雰囲気を醸し出し始める。男が床を見れば、真っ赤な水溜まりがすぐ足元にまで迫っていた。

 

「命令なら何をやってもいいと?」

 

「命令なのだから仕方がない」

 

「疑問は持たなかったのか?」

 

「持つだけ無駄だ。()()()の命令だからな」

 

「ずいぶん『あの方』とやらを信頼してるみたいだな」

 

「当たり前だ。……それよりいいのか?」

 

「なに?」

 

 ネストの唐突な問いかけに男は反射的に聞き返す。男は目の前で手を頭の後ろに組んでこちらに背中を向ける男を改めてまじまじと見るが、特に変かが起こった様子はない。

 

「私はさっきお前の同僚を数人殺した。最期の言葉も聞かずに。そんなヤツ相手にお前はただ銃を突きつけているだけだが、なぜさっさと撃たない? 生け捕りにでもするつもりか?」

 

 質問の意図を理解したつもりなのか警備員はニヤッと軽く口角をあげる。

 

「生憎、貴様と同類にはなりたくないんでね。俺の引き金は貴様と違って重いからな」

 

「私が頭空っぽのまま引き金を引いていると?」

 

「少なくとも思慮分別は無いように思えるが?」

 

 ネストは不満げに鼻を鳴らす。

 

「心外だな。これでも撃つ瞬間は様々なことが頭の中を(よぎ)っているんだが。『ああ、この人はいい人だったんだろうな』とか、『こいつはズル賢そうだな』とか。まあ撃ってコンマ1秒後にはほとんど頭に残っていないが」

 

「そういうとこだろうに」

 

 ピンと張りつめていた空気が若干緩む。それが意図せずなのか、差し向けたものなのか。それは差し向けた本人しかわからない。

 

「で、結局撃たないのか?」

 

「銃声で耳がイカれてるようだな。貴様と同じようになりたくないと言っただろう」

 

「ああ、聞いた。確かにお前の理性はそう言ってる。だが、本能は真逆のことを主張したいらしいな。……銃が震えてるぞ」

 

 ネストの指摘で初めて気が付いたのか、警備員は思わず拳銃を握りしめている腕を掴んで無理やり震えを抑える。

 

「もう一度聞くぞ。引き金を引くのか、引かないのか」

 

「引かない。引くわけない。別の形で償ってもらう」

 

「別の形ってなんだ?務所(ムショ)にでもブチこむのか?もしそうならお前の愉快な仲間達を不愉快なオブジェに変えた野郎は鉄格子の内側でのうのうと余生を謳歌することになるが?」

 

「それでも……引かない。引くものか。お前のような冷酷で残虐な生物に成り下がるつもりはない」

 

 しかし、というべきか。依然として銃が震える乾いた音が収まる気配はない。

 

「そうか、そうか……。フフッ、お前、仲間から頑固なヤツだと言われてただろう?どうせ顔も他のヤツに比べて厳ついのだろうな」

 

「うるさい。それが俺の唯一の取り柄だ」

 

「悲しいヤツめ。まあそれはそれとして、────お喋りは終わりだ」

 

 そう言うとネストは右手首を外側に向け手首の内側を男に向けて露出させる。

 

 そうして警備員の顔に向けられたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なッ────」

 

 ────プシュッ

 

 警備員もそれに気づき咄嗟に片手で顔を覆うが、時既に遅し。チューブから水蒸気のようなものが噴出、警備員の目に直撃する。

 

「こ、これは催涙ッ」

 

 同時にネストは後頭部に突きつけられている銃の付け根、つまり銃を握っている手を後ろも見ずに鷲掴みし、男の体を自身へ引き寄せる。そして反対の腕の肘で男の脇腹に一発。怯んだところで足を掛け、そのままの勢いで背負い投げ。警備員の体は宙を回り真っ逆さまに背中から接地。仕上げに今だに握りしめたままの銃を捩り取り制圧。地に仰向けに倒れる警備員の額に銃口を向ける。

 

 一瞬。まさに瞬きしている間に始まって終わるほどの瞬間の出来事だった。

 

 ネストは男の顔を覗き込み、「なんだ」と呟く。

 

「特徴的に厳ついわけでもなく、かといって優しそうとも言えない、微妙な顔。……つまらん顔だ」

 

「だったら……なんだ?このサイコパスが……!」

 

 

 返ってきたのは一発の銃声。

 

 

「正直見飽きた」

 

 

 それと文句も少々。

 

 

 ネストは床に丁寧に置かれたP2000を拾い上げると胸ポケットのハンカチで表面についた血を軽く拭いとった。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 その後は特にトラブルもなく無事ビルから脱出したネスト。後始末は処理班に任せておけばいい。彼らは今回も文句一つ言わず掃除してくれることだろう。ならば今自分がやるべきなのはただ一つ。

 

 そう、安全に帰投することである。

 

 『家に帰るまでが任務です』というわけではないが“帰投途中に襲われて対象物を奪い返されました”では示しがつかない。いや、もしそうなら盛大に任務に失敗しているので示しがつかないどころの騒ぎではないのだが。

 

 今一度黒のネクタイを絞めなおす。なんてことはない、ただのルーチンだ。しかし、これをするのとしないのとでは気合いの入り方に違いが出るのであながち馬鹿にできない。

 

 ビル横のレンガで舗装された道をカツカツと靴音を響かせながら堂々と進んでいく。そうして見えてきたのは一台のシルバーのスポーツカー。路肩に停まるその姿は、持ち主の帰りを今か今かと待ちわびる忠犬のよう。

 

 ────日産フェアレディZ Z-34。

 

 ポケットからキーを取り出し軽くボタンをタッチ。するとZ-34のライトが一斉に点灯。お目覚めである。

 

 ネストは光を反射するその流線形のボディに指を滑らせながら乗り込んだ。

 

 助手席と運転席の間に位置する大きく丸いボタンを押し込みエンジンを起動。車が唸り声を上げるとともに室内のメーター、その他ボタンや画面も徐々に起床し始める。もはや眠い目を擦る姿まで見えてきそうだ。

 

 

 ──たまらない、この感じ。

 

 

 思わずニヤリと口角を上げる。

 

 ふと助手席に目を向ければ、そこには頂点の窪んだハンチング帽が一人寂しく置いてあるのを見つける。

 

 これは普段から趣味で被っているもので、任務の直前にここへ置いていったものである。

 

 ネストは一拍置いた後、無造作に帽子を掴み、自身の頭に装着する。が、嫌にキザっぽくなったように感じてしまい、虚しさのあまり脱力。

 

 一体何をしているのだ俺は。

 

 ゴホンと一つ咳払いをし、気分を切り替えながらアクセルを踏む。

 

 角を二つ曲がり、人気(ひとけ)のない信号に捕まったところで胸ポケットの携帯電話が細かく震える。

 

 何だよ、と悪態つきながら携帯の画面を見れば、そこには見知った名があった。

 

 はて、前回会ったのはいつだっただろうかと過去の記憶を軽く掘り起こしながら携帯電話を耳に当てる。

 

「久し振りだな。巳継……いや、ダークストーカー」

 

『ええ、お久し振りですネスト』

 

 返ってくるのはまだ20代にも到っていないような若い男性の声。

 

「お前の方から連絡とはまた珍しい。明日は雹でも降りそうだ。して、要件は?」

 

『その様子だとまだ何も知らされていないようですね。本来ならばもう既に貴方の上司から聞かされていてもおかしくないのですが──貴方はキチンと時間内に任務を終えることも出来ないのですか?』

 

「何? いや、そもそもお前にだけは言われたくないのだが」

 

 ダークストーカーの小馬鹿にするような態度に少々苛立ちを覚える。

 

『次回の任務で貴方と組むことが決定しました。非常に残念ですが』

 

 その言葉に思わず頭を抱えた。同時に彼と組んだ時の散々な記憶も甦ってくる。

 

 印象に残っているの、いやこびりついているのは臓物の雨と骨の絨毯。そして彼の拳から滴る血。……あとあの方の怒号。ああ、思い出しただけで頭痛がしてきた。

 

「まさか、また二人一組(ツーマンセル)か?」

 

『いえ、自分の他にもう二人。そして貴方の役目は仲介です』

 

 それを聞いてフゥと胸を撫で下ろす。

 

「それはそれは。重畳重畳。直接現場に出なくて(お前と直接会わなくて)済むのはありがたい」

 

『今暗に僕と会いたくないと言──』

 

「──言ってない。気のせいだ。それで任務の詳細は?」

 

『……貴方の上司のもとにも資料が送られているはずなのでここでは軽く説明するに止めますが──』

 

 どこか不満そうだが気にしない。

 

 電話の向こうの彼によると、次なる任務は3人の男女の暗殺らしい。何でも組織の運営に関わる重大な()()を知ってしまったのだとか。よくある話だ。

 

 その知られた何かについて彼に聞いたところ、『僕達のこと。あと例の計画も』と短く返ってくるのでこちらも「ああ」と短くお返しする。コイツとの距離感はこんなもので十分だ。

 

 信号が青になり、車を発信させる。時間帯のせいか一般車もまばらにしかおらず、お陰でネストのZの唸り声が暗い摩天楼によく響く。

 

「そういえばお前の他に二人と言ったな。誰だ?」

 

『ハミングバードとソードテールと言えば分かりますか?』

 

「なるほど。その面子(メンツ)なら確かに俺は不要だな」

 

 ダークストーカー、ハミングバード、ソードテールが実行犯。この布陣を見るに、組織はかなり本気だ。どうしても標的を消したいらしい。

 

 というのもこの3人、詳細は省くが組織屈指の暗殺者である。組織は他にも多くの暗殺者を抱えているが、彼らに真正面から挑んで生きて帰れるのは極少数だろう。ネスト自身、もし彼らと衝突するような事態に陥った場合、命を懸けなければならないだろう。

 

「なら、今回は楽させて貰うとするかな」

 

『ええ、僕達が華麗にそして丁寧に仕事を遂行するのをコーヒー片手に見ていて下さい』

 

 ダークストーカーの余裕ぶった発言にネストは思わず鼻で嗤う。

 

『何か問題でも?』

 

「いや。お前から“丁寧”なんて言葉が出てくるとはな」

 

『失礼な。僕は元々丁寧な人間ですが』

 

「どの口が言ってるのだか。お前という奴はいつも肝心なところで注意を怠るからな。そして余計な死体を作るのも最早お家芸だろう?」

 

『そういう貴方は無駄に几帳面というか神経質ですよね。なんですか、死体の向きが気に入らないって。貴方の無駄に細かい趣向に付き合わされているこちらの身にもなってください』

 

 ああ言えばこう言う。その後しばらくお互い以前から物申したかったことを散々言い合ったところでダークストーカーが先に折れた。

 

『──ともかく、僕は貴方がキチンとオペレートして下さればこれ以上何も言うことはないので』

 

「そうだな。俺もお前達が最終的に任務を遂行してくれれば問題ない。これ以上は不毛だな」

 

『ええ、では今日はこれにて。続きはまた後日としましょうか』

 

「そうだな。────全ては『五翔会』のために」

 

『五翔会に栄光あれ』

 

 通話を切りスーツの内ポケットに滑り落とす。

 

 巳継(みつぎ)悠河(ゆうが)。昔ながらの同僚であり腐れ縁。彼も成長した。

 

 知り合った頃はまだ()()()()()だった。白いベッドの上で未来のことを語り合っていた日々が懐かしい。しかし、そんな彼も今や立派な尖兵と成り果てた。

 

 シフトレバーを3速から4速へ。右足にも力を込める。車は高速道路への登り坂を進み、2秒も経たないうちに本線に合流する。

 

 

 

「──どうしてここまで墜ちてきた。巳継」

 

 誰に呟くわけでもなく、無意識のうちに言葉が出る。

 

 そして脳裏を掠めるのは()()()()()

 

 悔やんでも悔やみきれない。傍観者でしかいられなかった自分が憎い。

 

 右腕の『五芒星に二枚羽根』の刺青が微かに疼く感触は、ネストの口角を歪ませるには十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Continue to Volume 5……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








【メタい設定紹介】

 ネスト:この短編の主人公。ほぼオリ主であり独自設定の塊。

 センチュリー:オリキャラ。ネストの現在の上司に当たる男性。50歳後半。階級は四枚羽根。

 警備員1~6:実はクローン人間だったりする。互いを番号で呼ぶのはそのため。五翔会の処理班によって漏れなく全員焼却炉送り。

 警備員7:処理の際、彼の遺体の頭(原型無し)に向かって処理班の新人が嘔吐している。

 ダークストーカー(巳継悠河):『新世界創造計画』の機械化兵士。ネストと腐れ縁という設定を追加。

 ハミングバード:『新世界創造計画』の機械化兵士。今回は名前だけ登場。出番はない。

 ソードテール:『新世界創造計画』の機械化兵士。今回は名前だけ登場。出番はない。

 里見蓮太郎:原作の主人公。『新人類創造計画』の機械化兵士。今回は名前すらも登場せず。


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