ガンダムビルドファイターズ Re:try ~ニブンノイチの夢を見て~ 作:さいは
ガンダムプラモデル…通称ガンプラ
普段は動かないはずのそれを、プラフスキー粒子という特殊な粒子を纏わせることにより、自由自在に動かし、戦い合わせる。
自分のガンプラが最強で、最高であることを証明するために。ただそれだけのために、心血注いだガンプラたちをぶつけ合わせる。
戦えばほぼ間違いなくガンプラは傷つき、修繕不可能なレベルの損傷を負うことさえある。それでも…たとえ完全に壊れてしまったとしても、彼らは決して戦うことを止めはしないのである。
それはなぜか?答えはいたって簡単だ。
それは、彼らは純然たる…………ガンプラバカだということに他ならない。
第7回ガンプラバトル世界大会
ガンプラバトル最強の称号の一つとして「メイジン」がある。この大会でも「メイジン」が優勝し、その威光を世界に放つ、そう考えていたものが多かった。
しかし、優勝したのは無名のファイターとその隣で常に彼を支え続けたビルダーの2人組であった。片やビルダーとしての知識に乏しく、片やファイターとして致命的な欠陥を抱えている。
そんな2人がお互いの足りないところを補い、真正面から数々の強敵を打ち倒し、最後には決勝戦で「メイジン」すら打倒し、世界No1の称号を取った。
そんな姿に胸を打たれた人はこの日本だけでも両手で数え切れないほど多くいた。
~~~~~~~~8年前~~~~~~~~
「わたしがダイキのために機体を作って…」
目の前の少女がつぶやく。
「僕が〇〇のために戦う」
まるで台本でもあるように今度は少年が続ける。
男の顔には見覚えがあった。幼少期の自分の顔だ。
「うん、それで…」
「それで…」
お互いの目が完全に合う。
あぁそうだ、この目だ。夢の中で記憶と共に彼女の顔の輪郭がにじんでいく…しかしこの目だけはどうしても風化していってはくれなかった。
「「二人で世界一に!!」」
「約束だから…守ってよ、ダイキ…」
「そっちもね、〇〇…」
この時は幼かった…世界は自分と、この娘中心に回っていると思っていたし、夢は叶うと信じていた。
しかし現実はそんなに甘くない。
この約束が守られることはきっとない。
いくらガンプラが好きだからって…いくらバトルをやりたいからって…いくら約束が大事だからって…
「わたしは最高のガンプラを作るから、待っててね!」
僕にはガンプラを動かす権利なんてないのだから…
「おい、イナミ、私の授業で寝るとは言い度胸だな?後で化学準備室に来るといい…」
静岡県、私立田宮学園中等部、学力が特別高いわけではなく、部活動が盛んなわけではない。中高一貫であることを除けばごくごく普通の学園である。
そこの2年B組にイナミ・ダイキは所属していた。
「………はい」
耳からは同級生の軽い笑い声と、頭には軽い痛みを感じる。少年は自らが授業の時間中に居眠りをしていた事を自覚する。
「はぁ…お前は無気力が過ぎるな…部活もやってはいるようだが、大会は辞退したんだったな?」
「せんせー!授業進めてください」
教師が小言を始めたタイミングで委員長気質の生徒が教師を諫める。
「おっと、すまんな、この話はあとでじっくりとするとしよう、それでは教科書121ページの内容だが…」
そうして何事もなかったかのように授業は再開された。しかし少年の意識は再開された授業に向くことはなかった。
(どうして今頃あんな夢を…)
自分の中にまだ、執着や未練でもあるのだろうか…?
少年は自分自身に問いかける。
ガンプラにはもう3年ほど触っていない。今だってガンプラに積極的に関わろうなんて思いはない。
だが、そうだ…
あの約束の後、すぐお別れとなったあの少女の…あの目が忘れられない…
(そうか、僕の中にあるのは執着や未練なんかじゃない…あの目から、信頼・信用してくれていた少女から逃げている………その後ろめたさだ)
少年は気づく、気づいてしまう。
しかし気づいたところでどうしようもなく、むしろ自覚によってその後ろめたさは増幅するだけであった。
透明や褐色の瓶に入れられ棚にしまわれている薬品、大きな冷蔵庫、授業で受かっているところを見たことがない大きな実験装置、教科書や問題集の見本。それらが6畳ほどしかない部屋の中に入れられ、さながら闇鍋のようになっている場所、それがイナミ・ダイキが初めて化学準備室に入ったときに感じたことであった。
ダイキがここに呼び出されたのは1度ではない。何度も尋ねるうちに、冷蔵庫の中身が全然整理されていないとか、教員用の机の中はお菓子で満たされているとか、棚の後ろに隠されたかのように大きいクッションがあるとか、ここの主がズボラであることを証明する情報ばかり増えて行ってしまった。
しかし、これらが活用される機会はない。
もしクラスメイトにこのことを話したとしたら彼は3年で卒業することは叶わなくなり、そしてそもそも誰もそれを信じはしない。
もっと言うと、そういう話をする友人はクラスにいない。
「では、これは罰則の課題だ」
少年の目の前にプリントが3枚ほど置かれる。
居眠りの罰則としてはいささか重すぎる量ではあるが、できないというほどではない。
この教員、シマダ・イズミはこういうバランス調整がうまかった。
「さっき授業中に話した続きだが」
話を始めつつ、空いている椅子をダイキのほうに勧める。
ダイキは促されるままに椅子に座り答えた。
「はい…」
「お前が夏の大会に辞退したと剣道部の顧問の先生に聞いたが本当か?」
「事実です」
嘘をつく必要などない…というよりも嘘をついたところで意味がないためダイキは素直に答える。
「なぜ?」
「剣は誰かと競うためじゃなく、自己鍛錬のものです」
侍が跋扈していたあるか昔ならいざ知らず、現代において剣は何も戦うためだけのものではない。
現在、高齢に達してまで剣の道を歩き続けている猛者はそろって剣は競い合わせることよりも自己を磨くことに重きを置いていると答えるだろう。
「剣道は誰かと勝敗を決めるスポーツだろ?」
しかし、いくら剣が現代において戦うためだけのものではないといっても、剣道がスポーツとしての面を持っていることには変わりがない。
特に学生の部活動ともなるとそれはスポーツの一種である剣道なのだ。
だが、それらの事実は彼の主張を歪ませるまでには至らなかった。
「では自分にとっての剣道はそうではないということですね、それに…」
「それに?」
「試合をやっていると嫌なことを思い出すんですよ」
つまらなそうにぼやいた後、ダイキは自分がなぜここまでのことを言ったのかわからないのかハッとした。
「何を…?いや…それは聞かん、じゃあなんでそもそも剣道をやっているのだ」
そもそも論が、彼女の感じた当たり前の問いかけがダイキを襲う。
「そ、れは………言ったじゃないですか、自己鍛錬のためです」
明らかに言い澱む。言いたくないことに触れたのか、それとも彼自身も解っていないのか、答えを出すことを躊躇っているのか
「わかった…その話は止めよう。そしてこの課題も無しだ」
そんな様子を読み取ったのであろうシマダはダイチの手から先ほど渡した課題を取り上げた。
「え?」
「その代り、今日の18時に田宮公園入口に来い」
「……何をやらせるつもりですか?」
ダイキに嫌な予感が走る。シマダがダイキに雑用を押し付けることはよくあった。
というのも、クラスの委員会を決めるとき、ダイキが学園を休んでしまい、「なんでも委員」という、実質雑用係に余り物としてぶち込まれたからだ。
さらに今回はペナルティーもある。
「それは行ってからのお楽しみってやつだ、遅れるなよ?」
ダイキの感じていた嫌な予感が増大していく
「行けたら行きます」
「君は来るさ、来なかった時に被るリスクを考えることができないほど愚かではないだろう?」
普通であれば教師からの17時以降の呼び出し、それも学園外ということで断っても何も問題はないのだが、それを判断できるようになる人生経験が若干13歳の彼には足りていない。
「どうでしょうか…」
「またあとでな」
(…その目は向けないでくれ)
彼女はダイキが間違いなく来るということを確信しているといった目をしていた。
その目が知らず知らずのうちに彼のトラウマを刺激していることなんて思いもよらなかったのであった。
(僕に期待も信頼も信用も………しないでくれ)
思い出すのは今日見た夢に出てきた少女…ともに同じ夢を語ったキジマ・シア…その眼差しであった。
作者です。
今更ながらガンダムビルドファイターズの2作品を見てしまいました。
この作品に対する需要が、くわしく言うと、特にキジマ・シア様の需要が僕の中でめちゃくちゃ上がってしまったのですが、満足のいく量の供給がない…圧倒的に足りない…
そう考えた時、ハーメルンを開いておりました。
同士の皆様にも楽しんでいただければ幸いです。
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