Trombe!〜駆け抜ける黒い竜巻〜   作:鍵のすけ

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第三話 台風と竜巻

 たづなに連れられ、トレセン学園を歩くトロンベ。当たり前だが、どこを向いてもウマ娘で溢れている。そして、そのどれもが情熱あふれる実に良い眼をしていた。

 そんなウマ娘達を見ながら、ついトロンベは呟いていた。

 

「良いな、ここは。誰もが共に高め合おうとするそんな活力を感じる」

 

「トロンベさんのところのトレセン学園はどうなのですか?」

 

 たづなの質問にどう答えようか考えるトロンベ。実のところ、ドイツでのトレセン学園のことはあまり印象に残っていないのだ。

 

 ――ブランシュタイン家のため、ただ駆け抜けるのみ。

 

 それがトロンベにとっての全てだった。正確に言えば、エルザムとカトライアの目の前で恥ずかしくないレースをすることが彼女にとって、唯一にして絶対のモチベーション。

 故に、ドイツでは特定の友人を作ったことはない。幸いそれで孤立するとかそういったことはない。皆それぞれ、自分の世界を持ち、自分の走りのみを追求していたので、他に構う余裕はないのだ。

 だからそう、あえて言うとするのならば、こんなことだろう。

 

「そうだな……寂しい所、という表現が近いだろうか」

 

「そうなんですか。ならここのトレセン学園はトロンベさんにとって、沢山の驚きがあると思います。勢いに負けないようにしてくださいね」

 

 ふと、たづなはトロンベが押している自転車に目がいった。

 どこかの貴族と言われて何ら疑問が湧かない彼女と、色はさておき、どこにでもあるような自転車を大事そうにしているのが妙に不思議に映ってしまったのだ。

 そのまま流すことも出来るが、気になったことはとりあえず聞きたい彼女はすぐにトロンベに質問した。

 

「話は変わりますが、その自転車随分大事そうにしていますね」

 

「フッ、やはり分かるか。この自転車の名はアウセンザイター号という」

 

「ドイツ語ですね。直訳すると……“穴ウマ娘”? 大番狂わせで勝ちそうなウマ娘を意味する言葉でしたよね」

 

「そうだ。私の育ての親であるエルザム様が名付けてくださったのだ」

 

「エルザム・V・ブランシュタインさん、ですよね。ドイツ貴族の中でも名家とされるところの次期当主と言われているお方が……」

 

 自転車のハンドルを擦り、トロンベは昔を懐かしむように語りだす。

 

「ああ。そしてこの自転車はエルザム様が私に与えてくれた数少ない物でな。……幼少の頃、エルザム様とカトライア様と共に出かけた先で、ちょうどこの自転車を見たのだ。当時の私は走ることにしか興味がなかったので自転車を見るのは初めてだった」

 

 一呼吸置き、彼女は続ける。

 

「心惹かれたよ。実に洗練されたデザインだと思った。私はエルザム様とカトライア様が呼びかけるのにも気づかず、しばしショーウィンドウを眺めてしまっていた。その後帰宅すると、エルザム様から呼び出しを受けた」

 

「トロンベさんがショーウィンドウに齧りつく姿、想像できませんね」

 

「フッ。後にも先にもあの時だけだったよ。……話を戻そう。エルザム様の所へ行くと、何とあの自転車があってな。驚く私にエルザム様はこう仰ったのだ」

 

 ――トロンベよ。我が愛しきウマ娘よ。何も欲しがらないお前があそこまで何かに興味を示している所を見たのは初めてだった。故にこれをお前に贈りたいと思う。私とカトライアからの気持ちだ。受け取ってくれるな?

 

 その時の事は今でも鮮明に覚えている。

 二人の暖かな笑顔につい涙を流してしまった事も含めて、トロンベにとっては大事な物なのだ。

 

 頷きながら聞いていたたづなは笑顔でこう返した。

 

「素敵な話です。皆さん仲が良いんですね」

 

「あぁ、エルザム様が特別に多忙でな。私とエルザム様、そしてカトライア様の三人が揃う日を常に夢見るくらいだ」

 

 だいぶ話し過ぎてしまったことに気づき、トロンベは一度咳払いした。

 

「すまない、長話だったな」

 

「いえ、興味深かったです。おっとそろそろ着きますね。あそこが校舎です。疲れましたか?」

 

「まさか。だが、ここは本当に広いな。噴水まであるとはここはある意味テーマパークだな」

 

「うふふ。ウマ娘達にとってはそうかもしれませんね。職員にとっては……」

 

 一瞬暗い目をしたたづなを見ると、このトレセン学園の職員の練度は推して知るべし、と言ったところだろう。きっと戦場さながらの日常を送っているだろうことは想像に難くなかった。

 これから始まるは切磋琢磨の日々。

 ブランシュタイン家ここにあり、と高らかに宣言するため、トロンベは常に己の脚を鍛え上げるのだ。

 

「早速、手続きをしましょう。もう少しだけ私についてきてくださ――」

 

 

「ぱ~らりやぱらりや~! おらおらどけどけ~! ゴルシ印の焼きそばの波に飲み込まれっぞ~!」

 

 

 法被(はっぴ)を纏い、肩にはミニ神輿、そしてなぜかサングラスを着用しているウマ娘が爆走していた。それを追うように、淑女然としたウマ娘が後を追いかけていた。

 

「ゴールドシップさん!! いい加減練習しますわよ! トレーナーさんがカンカンに怒っていましてよ!」

 

「止めんなマックイーン! アタシは焼きそば界の柱になるんだよ! お前も来い! 焼きそばたらふく食わせてやるぞ! メジロマックイーンからヤキソバマックイーンにジョブチェンジだ!」

 

「焼きそば……たらふく……お腹いっぱい……はっ!? そんな手には乗りませんわよ! 良いから早く止まりなさーい!」

 

 駆け抜けていくウマ娘達の後ろ姿を見たトロンベは少しばかり血が滾ったのを感じた。

 見ただけで分かる。二人共、良い脚をしていた。その力強さと呼吸のタイミングを見ると、短い距離ではなく、もっと長い距離を走るウマ娘達ということまでは分かる。

 あとはそう、共に走ってみないと分からない。

 じっと眺めていると、ゴールドシップと呼ばれたウマ娘と目が合った。

 

 瞬間、ゴールドシップが方向転換をし、トロンベの元へと走ってくる。

 

 彼女の後ろではメジロマックイーンが呆れ顔で後を追ってきていた。

 

 トロンベの目の前で立ち止まったゴールドシップ。

 無言のトロンベ。

 互いが見つめ合っていたら、痺れを切らしたのか、ゴールドシップが先に動いた。

 

「よおアンタ! 新入りか? 見ない顔だな! ちょっと付き合え! 今、焼きそばがもっともアツい!!」

 

「ちょ、ゴールドシップさん! いきなりそんなことを言っても……!」

 

「ほう。料理ならば少々心得がある。私で良いのならば、微力ながら手を貸そう」

 

 トロンベにとって、二つの得意な事がある。

 一つは走ること。

 

 そして、もう一つは料理である。




評価、感想を入れてくださった皆様!ありがとうございます!モチベになっております!

小ネタを解説しなくても「理解(わか)っている」人たちしかいなくてびっくりしました。やっぱり書いてよかったと思います!

今後も更新がんばります!
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