まぁ、兎にも角にも、私を救ってくれるそこのお前に助けを乞うとしよう。だが後悔するなよ王子様。この世界はヤバい。呆れるほどに、な。
それは、私が大学に入学し、晴れて大学一年生へとクラスアップした四月から始まる。
それ以前、私が在籍していた高校のクラスでは、訳あって三年間同じクラスメイトとして共に過ごしてきた。他クラスと違い、三年間同じクラスなのだ。厚い友情がごまんと生まれる。そこでの私の立ち回りは、まぁ、ぶっちゃけると男たらし願望が一際強い女子高生だった。そのせいかカースト上位の女子や男子のほぼ全員から警戒されてたものの、面白く、楽しく、喧しいハイスクールライフではあったよ。
で、問題はここからだ。そんな私にはある一人の友達がいた。そいつは、このクラスの中で唯一最後の最後まで私以外まともに誰とも友達を作らなかった隠キャだ。コミュ障だ。オタクだ。脈なしの男子と話しかけることすら彼女にとってはパニックもので、好きな人とは三年間の内、たったの三度としか喋れなかったらしい。私はそいつとはエヴァンゲリオン繋がりで仲良くなったものの。
……まさかこんなことになるとは思いもしなかったよ。
つまり、どういうことかというと、私が推薦入学したこの大学に、コイツも一般で入学しやがった。しかも、クラスの中で唯一、コイツと同じ大学だったのだ。
敢えて言おう、私はパリピだ。わざと述べよう、私は陽キャだ。トドメとばかり、もう一押し、私はリア充だ。故に髪は染めたし、友達は初手で八、九人くらいは作った。順調に大学デビューしている最中だった。#春から〇〇大学で、良さげな彼氏候補も何人かいる。まさにこれからという時に、私はあの女に再び関わってしまった。学部、違うはずなんだが。とりあえずこの狭い大学のせいだと責任転嫁しておきたい。
このアマの名は
そんな、ワクワク☆ドキドキ♡大学生活! が始まって数週間。私が四、五人の友達とグタグタ喋りながらキャンパスを歩いてた時。
「でさでさ〜。あれっ、堂脉……」
堂脉ヒラキがそこにはいた。たった一人、講義に向かおうとする彼女。一週間前、LINEで友達の作り方をせがまれたからそれとなく教えたのだが、彼女は独りであった。私がヒラキの目を見ると、彼女はさっと目を逸らす。
「……」
まるで何事も無く、あくまで他人であったのかのように髪を弄りながら、無言で彼女は素通りしてしまった。そのあまりにも冷めた態度に、私は何故かヒラキにカッコ良さを抱いてしまった。
コレが全ての分岐点であった。ここで私はそんな臭い感情もパッと忘却してしまえば良かったのだ。ところが、私はそんなヒラキの動向にふと興味を持ってしまった。そして、私はリセマラの効かない自動セーブ型の選択肢を押してしまう。こうして、アホ物語を始めてしまった。
さて、ふと興味を抱いた私はLINEでヒラキに連絡を取ってみたところ、六角形校舎のラウンジにいるとの返事が。そこに向かってみると、ヒラキが足を組んでのうのうと座っていたのだった。
「……」
無言で見つめている。なんだ、座れと。
「えぇっと、堂脉? 隣座っても良いかな……」
隣に向かうとビシッと素早く手を出し制止する。
「否よ。ソーシャルディスタンスは保ちなさい」
神経質だな。溜息を漏らして向かい側に座る。
「――で、大学はどうなの」
彼女はゲンドウポーズを保ちながら黙り続けた。貧乏揺すりをし始める。スマホの電源ボタンをカチカチ弄り始める。そして。一言。
「……私、前世はラノベ主人公なのよ」
は?
「……」
いや黙るな。お前今なんと?
「えっーと、堂脉? どういうこと、かな?」
ヒラキはフッ、といきなり苦笑する。今の何に笑われる要素があったんだ。
「簡単なことよ。私の前世を思い出したからよ」
どうして思い出せたんだよ。
「私はアンタの厨二病に付き合わされたってわけ?」
ノンノンとヒラキは人差し指を振る。うぜぇ。
「いえ、残念ながら本当のことよ。実は入学式の前夜にね」
すぐに言わず、すっーと息を吐く。私はごくりと息を呑んだ。
「脳が投影した精神世界で全王様にそう言われたのよ」
なんだただの夢か。
「全王様によると、私の前世は、元来ぼっちイキリ隠キャ超絶コミュ障キモオタ童貞らしいのよ」
なんだただの馬鹿か。全王様もおったまげだな。
「けどね、その後、ヤンデレっ気幼馴染、かぁいい妹、清楚系委員長、僕っ娘アホの子方言娘の四人による粋な計らいというやつで見事ハーレムを築きあげられたラノベ主人公だったのよ、私」
現実を見ろ。お前頭おかしいぞ。そこまで言うと私の反応を待つヒラキ。……いやいや黙りこくるな。なんて答えれば良いのさ。
「そ、それはよかったじゃない(?)」
すると彼女ははぁ、と溜息を漏らす。なんやねん。
「そうは言ってられないのよ、リラーユ」
リラーユ!?
――私かっ!?
「そうよ。
リ 理屈は省くけど
ラ ラノベ主人公に
ー 一人はいる
ユ 友人キャラ
つまりあなたのことよ」
いやいや普通に呼べよ。私の名前知ってるだろ。高校の時と同じように呼べよ。
「それでね、リラーユ。私はラノベ主人公になった後、沢山悩んだのよ。私は一体このハーレムから誰を選べば良いのか……。もし、あなたならどうしたと思う?」
乙女ゲーの話は夢で続けて欲しかったね。そもそも誰がハーレム構成員なのかも知らないし。
「そりゃ一番愛したいと思った人にすれば良いじゃない」
「その通りよ。故に、私は選んだ」
数秒の沈黙が走る。そして。
「いつも公園でゴロゴロしてた野良ニャンコ♡」
死ねこのクソ童貞がっ! 本当に何の話なのよこれは。ヒロインを全員蹴って野良猫を選ぶ? 私が男だったら絶対にそんなことしない。金と権力と顔面偏差値と容貌と性格を総合的に考慮するとかもっとあるでしょうよ。するとヒラキはいきなり話を変える。
「ところでリラーユ。あなたはこの世界が何次元だと思うのかしら?」
「……三次元だけど。それがなに?」
「ありえない話だわ。あくまでそれは私達の世界の基準だからそう言えるだけの話よ。この世界は誰かによって創造され、思うがままに操られている。それに私達が気付くこともないし、抗う術もない。私達こそが二次元なのよ」
哲学科行けば?
「逆に、私達二次元人が創り出す世界であるアニメ、漫画、小説にも同じこと言えるわね。彼等が私達に思うがままに搾取されてることなんて気付かないし気付けたとしても抗えない。結局どこの世界の次元が基準なのか誰にも分からないけど、上には上の次元の民がいるし、下には下の次元の民がいるのよ」
そっかー。アンタが哲学科行かずに法学部選んだのもその三次元の人のおかげかー。
「それは法律を知って、知った上で法の穴を掻い潜って楽して生き、無知な馬鹿を罠に嵌めるためよ」
クズじゃねぇか。
「ただ全王様のお告げによると、少なくとも人間が輪廻転生すると一つ上の次元に向かう。高次元化するらしいの。つまりね、私こ」
「私こそがラノベ主人公……、」
ってか。呆れた。私の態度に気付かずヒラキはオタク特有のクソ長自分語りを続ける。
「前世では、私は愛しの野良ニャンコ・フェザーマギゾーア8世に、来世で確実に8世と結ばれるために今度こそ主人公フラグを詰まず、あくまでクールに生き抜き、そしてエロ漫画に出てくる種付けおじさんを全員KO☆RO☆SU☆。そう誓ったのよ」
日本語で喋れ。それでクールキャラをヒラキは演じてた、というわけか。……いやただのぼっちイキリ隠キャ超絶コミュ障キモオタ処女では?
「そういうわけだから。リラーユ」
そう言って突然彼女は髪をファサッとかきあげながら話を切り上げてその場を立ち去った。明美ほむらの真似事してカッコよく決まったとでも思っているのだろうか。私は時間を浪費したことに心底後悔しているよ。しかも会話の切り上げ方下手くそすぎでしょ。このコミュ障。彼女はこの僅かなギャップイヤー的数ヶ月の空白期間に本当に何があったんだ。
「ヒラキ、あそこまで馬鹿だったかなぁ……」
私はこの徒労に鬱憤を漏らしながら友達エンカして次の授業に向かった。