クールに生きろ!   作:地獄星バロー

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第二話 溶け込もう!

それから数日後。私は朝から文学部の必修科目であった語学の授業を受けにきた。久しく貴重な対面授業ということもあり、私は友達と、これやったー? え、マジかこれ課題だったの!? みたいなくだらない会話で時間を潰して授業の始まりを待っていたのだが。

 

「……」

 

コツコツ、と靴音を無駄に響かせ、堂々と教室の中に入ってくるアイツの姿が。

 

「……」

 

誰に見せているのか髪をかきあげて、意味のない動作でど真ん中の空席に座る。

 

「……」

 

クラスのざわつきも視線もまるで何事もなかったのように受け流して教科書と電子辞書を準備する彼女。

 

く、悔しいがちょっとカッコいいなおい。

 

「……キョロキョロ」

 

そこで漸く周囲の学生を見回し始めた。しかし、まさかこんなことになるとは。

 

もう一度言おう。この授業は、文学部必修の科目。即ち、他学部の学生が単位を取ることが不可能な授業なのである。にも関わらず、この(無意味な)クールキャラで大学生活を通そうとするぼっちで隠キャでオタクで処女の堂脉ヒラキ。そんな法学部の学生である彼女は、何事もなかったの如く授業に潜入していたのだ。

 

そう、所謂潜りである。しかもまだ四月のことである。

 

だがこのご時世、25人程度で対面授業を行なっているし、そもそも授業前にはICチップが埋め込まれているこの学生証をカードリーダーにタッチしなければならない。バレるのは時間の問題だぞ。

 

「……」

 

無言で黙々とページを開くヒラキ。あいつ、本気か。授業のチャイムが鳴り、教授が入ってくる。いつも通りの説明、講義、問題を解く時間が始まった。

 

「……」

 

意外だ。こうも潜りバレに恐れず華麗に学ぶヒラキは長らく見てなかった。なんとか根性で場の空気に溶け込んでいる。これなら、上手く乗り切れるかも。

 

「ん? 出席数と受講者数が合わないな」

 

ですよね教授ぅ!

 

「カードリーダーにみんなタッチしたかー? しないと出席連絡は届かないぞ」

 

おいおいどうするんだ。早速バレてるじゃないか。当然誰も名乗り出ないしこっそりカードリーダーにタッチしにいかない。もし今ここでヒラキがタッチしに行けば潜っていることがバレてしまう。確かにマスクを付けているから教授が学生の顔を覚えるのは困難だ。とは言え、まだ開始してからたったの20分。あと60分どうするんだよヒラキ。

 

「うーん。いないねぇ、じゃあ今から出席者順番に言うから呼ばれてない人は私に報告を。相川、相田、石井、井上……」

 

さて、ここからどう乗り切る、ヒラキ。

 

「……!」

 

彼女は漸く顔を上げた。

 

「早川、笛木、松山、渡辺。以上です。呼ばれなかった人いませんか?」

 

当然堂脉ヒラキは呼ばれない。クラスから少しずつ動揺が生まれる。スマホを取り出して大学の学生専用のサイトにログインし、出席確認表を見合う。ヒラキも周囲に合わせて、スマホに手を忍ばせる。変にカッコつけながらスマホを起動して、ページを開く彼女。周りに合わせて真犯人であることを学生からも悟られぬための振る舞いか。

 

「……」

 

数分間見つめてから、クールにスマホ画面をロックし、ゆっくりと机に置く。コト、とまるでコーヒーを客に振る舞うマスターのような渋さを醸し出してる。すると、教授が。

 

「うーん……。まぁ、いいか。時間勿体ないし、じゃあ授業再開するぞー」

 

「……ふっ」

 

乗り切った――だと。約5分間に及ぶ教授との潜り学生犯人探し対決に勝利しほくそ笑む彼女。メガネケースを取り出し、カチャリと装着する。マスクを着用してるせいか、無駄に曇ったメガネの位置を調整する彼女の姿はまるで小学生探偵のようだ。しかし、こうも堂々と授業を潜るとはやるな。流石クールに生きると誓ったアホだ。

 

前世がラノベ主人公とか、野良猫と結ばれることとか考えてさえいなければ、真っ先に女子がトキメいてしまいそうなカッコ良さだ。最も、それが一般的な可愛さや美しさを全く意識してないから男子達の注目の的にはならない残念な少女なのだが。ただ私のことを「リラーユ」と一方的に呼びつけるイキリ隠キャ女だ。明るい世界で異物が化けの皮を剥がすもんなら、瞬く間に情報共有され大学生活終了のお知らせが流れるのがオチだ。それを承知でクールに生きる彼女は果たしてどうなってしまうのだろうか。

 

 

 

 

「はーい授業終わりました。お疲れ様でーす」

 

講義が終わった。ヒラキやるじゃん。まっ、心の中で称えつつも、私はなるべくヒラキに感づかれんようすぐさま友達を促して学食へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

学生達がぞろぞろと退出していく。と、同時に次の時限の学生達が続々と教室に入ってくる。そんな中一人室内に残るヒラキは教授に話しかける。

 

「――先生。私カードリーダーにタッチしたのですが、出席連絡されてないのですが……」

 

「あら、君の名前は?」

 

「……堂脉、ヒラキ」

 

出席者表を調べる教授。名前を見つけ、思わず唸る。

 

「うーん。んん! 堂脉くん、君はっ……」

 

「何か?」

 

教授の動揺に動じずクールに答えるヒラキ。そして。

 

 

 

 

 

 

「次の授業の受講者だよね? 確かに同じ内容だけど、君、時間間違えているよ……」

 

「へっ……」

 

唖然とし、すぐさま自分の時間割カレンダーを見つめるヒラキ。

 

「あっ……そんなっ……私っ……時間を間違えてた……!? 折角早起きしたのに……」

 

「はっはっはっ。まぁ次も同じ内容だから特別に今日の分の出席は取っとこう。もう帰ってもいいけどどうする?」

 

実は一限違いで同じ内容・教授の講義を勘違いで、学部学科の違う学生達対象の講義に潜ってしまっていただけだったのだ。耳が真っ赤っかになるヒラキ。この醜態を晒した状態で次の授業を受けるのは流石のヒラキもクールさを保てなきゃ。

 

「はっ、ひゃい……しっししっ失礼しましたぁぁぁあ!!!!!」

 

教授の情けで掘られた穴。穴があったら入りたいと言わんばかりに、ヒラキは室内から逃げるように立ち去っていったのだった。

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