日が登っている。
温かい陽気に誘われて、暗い家の中から出てくる人影が一つ見えた。綺麗な黒い長髪を靡かせ、日に当たっているせいか毛先が緑色に見える。
風が心地よく吹き、彼女の髪が綺麗に靡いた。
(く〜そ、あちいにゃ〜)
彼女こそ草鞠冴本人である。
(クソクソ〜♪ なーんで、人は働かないとイケナイの〜♪)
容姿とは裏腹に心の中ではクソみてぇな事呟いて歩いている。
恐らく、通りすがりの人は最初綺麗な人だなと思うだろう。しかし彼女の本心を覗いたら最後、地獄のフルコースが待っている。
そんな地雷マシマシキャラ濃いめチョモランマ女だ。若そうな見た目してるだろ? これでも41歳なんだぜ。ちなみに先日、この人の甥がその被害を受けた。
そう彼女は、先日有名vtuberに紹介され、そのおかげで今では一万人の登録者を超える、中堅vtuberと言っても差し支えのない人だった。
ちなみに少し調子に乗っている。
黒髪におかっぱ頭の猫耳少女。語尾ににゃんをつけ、見る者全てを共感生羞恥へと追い込む地獄女。黒鞠コロン。
そして配信では昔のゲームを好むことや、昔のアイドル事情に詳しかったりと少し老いを感じさせる配信スタイルだ。
そんなこんなで草鞠は今日も今日とて自身の職場である絵画教室へと向かっていた。
彼女は絵画教室で非常勤ではあるが、講師をしている。
見た目も綺麗で教え上手なので生徒からは尊敬の眼差しで見られている。
そんな生徒の様子を見て優越感に浸るのが彼女の目的でもある。
「先生〜! 見て〜!」
女子生徒の一人が草鞠へと駆け寄り、ニコりと笑顔を見せノートを見せて来た。
「どうしたの? あら……これ……」
ノートに描かれていたのは、おかっぱ頭の猫耳少女、どこからどう見ても黒鞠コロンの絵であった。
(やっべえ!!)
内心、冷や汗ダラダラである。
「最近ね〜! 流行ってるんだ!」
「へ〜そうなの、可愛いわね」
にこやかな顔で受け答えしているが、内心胸がバクバクである草鞠。
奥歯がカチカチと震え出す。
(え!? バレた!? 嘘だろ!? まさか揺さぶり……!?)
ここ最近似たようなことがあり、それ以来身バレが怖い草鞠。
「うん! コロンちゃん! 可愛くて大好きなんだ〜!」
「へ〜…………どういう所が?」
身バレは怖いが、評判は気になる。これは人間の当然の心理であるに違いない。
それに可愛いと言われて満更でもない気持ちになるのも致し方ないだろう。
「えっと、まず喋り方が可愛いよね! 次は……知らないゲームを楽しそうにやる所!」
女子生徒からつらつらと配信の感想が出てくる。
生の声が聞けて嬉しい気持ちになる。やはり、配信でイジってくる人間とは違う意見が出てくるのが嬉しいところであった。
「あと、おばさんって言われて怒る所が面白い!」
「おね…………そっかぁ」
「どうしたの?」
「ううん、よかったね」
(あっっっっぶね)
そんなこんなで、しっかりと癖づいてる草鞠であった。
──────
「よ──し! 配信始めんにゃ〜!」
・待ってた
・待ってない
・帰れ
「なんにゃ、お前ら……」
あいも変わらず、配信を始め毎度恒例となった視聴者からの罵倒から配信はスタートされた。
黒鞠はアイドルを目指しており、ゲームもでき可愛い猫系アイドルを目指している。
今日は歌配信をやる予定である。
「いけないたいよ〜」
・選曲
・ちょっと微妙な時代の曲歌うのやめろ
・ボカロとか歌わないんですか?
・無理ゾ、早口でこのおばさんは口がついていかないゾ
・お前のババア・フェロモンで俺ゲロゲロ
「なんでにゃ、良い曲だろうが」
・いやまあ……
・そうだけど……
・お前が歌うとなぁ……
「ふざけんにゃ!! バンドに謝れ!!」
・お前、関係ないだろ
・関係者ヅラするなおばさん
・名 曲
散々な評価である。
なので黒鞠は趣向を変えて、違う曲を選曲した。これならアイドルっぽくて可愛いだろうという見込みである。
「とぅるまいは〜」
・選曲!!!!
・お前、年代隠す気ないだろ!!!
・今の子でも知ってると……思いたい……
・知ってるでしょ(震え声)
「きみをちかーくでー」
・可愛い声出すのやめろよ……
・くっそ、なんでおばさんで……
・年代ぶっ刺さりソング集やめろや
・なんて曲ですか? かわいい!
・ああああああ!!!
「だれーより……ごはぁ!! 死にゃ、終わりにゃお前らも私も」
・泣いた
・枕を濡らすわ
・えっ? えっ?
・かわいいなぁ、今の子は……
その後盛大に、コメントでも黒鞠もきしめんと叫んだのは言うまでもなかった。
配信も終了し、今回の結果を見てみる。
割と好評だったようで、配信の切り抜きも増えているようだった。
大体は何も知らない無垢な視聴者のせいではあるが、それでも黒鞠の人気に直結するだろう。
「は〜、今日も地獄絵図だったなぁ……」
タバコを吸って吐き、草鞠は落ち着く。
そして、PCの溜まっているメールを流し読みしていた。
カーソルを下に動かし、とあるメールが目につく。
それは、企業からのコラボの誘いであった。