剣の皇は異界にて何を想う   作:天羽風塵

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第10話 姉の提案

「……な、なにを言っているのよ、あなた……意味がわからないわ……」

 

そりゃそうだ。リーダー辞めろって言ってるようなもんだからな。

 

「俺の班に入れと誘っているんだ。それのなにがわからない?」

 

「そういうことではなくて。わたしは、班リーダーなのよ」

 

「やめればいい」

 

いや、そう言ってんのか。

 

「はあっ!?」

 

サーシャは口を開き、呆れたようにアノスを見る。

 

「馬鹿を言わないことね。わたしが班リーダーを辞める理由はないわ」

 

「俺の班に入れば、ミーシャと仲良くできるぞ」

 

その言葉がかんに障ったのだろう。サーシャはキッとアノスを睨んだ。

 

「そのお人形を妹だと思ったことなんて一度もないわ」

 

言い捨て、サーシャは自席へ戻っていった。

 

「……ごめんなさい……」

 

隣の席でミーシャが呟いた。

 

「ミーシャが謝る必要はない。アノスに因縁をつけてきたあいつと喧嘩を買ったアノスが悪い」

 

「むっ、俺のせいか」

 

ふるふるとミーシャは首を振った。

 

「……サーシャはいい子……」

 

サーシャには今日初めて会ったから分からんが本当にそう思っているんだろうな。

他にやつには無表情も相まって、いま一つ判断しにくいだろうが。

 

「……だから、わたしのせい……」

 

ふむ。ガラクタ人形などと言われておきながら、ミーシャは姉のことを憎からず思っているようだな。

 

「まあ、ともかくだ。いきなり<破滅の魔眼>で睨み殺そうとしたのはあちらだ。少なくともお前のせいではない」

 

ミーシャはじっと俺を見た。

 

「……優しい……」

 

するとアノスがミーシャに質問した。

 

「お人形っていうのは、どういうことだ?」

 

「おいアノス」

 

「む。すまん」

 

俺はアノスを注意した。

 

アノスはすぐに謝ったが、ミーシャは口を閉ざし、答えようとしない。

 

「……言わなきゃだめ……?」

 

「別にいいぞ。ちょっと訊いてみただけだ」

 

すると、安心したようにミーシャは微笑んだ。

 

「……ん……」

 

そこで仕切り直すように、手を叩く音が聞こえた。

 

「はいはい。それじゃ、班が決まったみたいだから、説明を進めますよ。みんな、席に戻ってください」

 

エミリア先生の声で生徒たちは自席に戻っていく。

 

「これから、しばらくは<魔王軍(ガイズ)>の魔法を中心に授業を行います。どの魔法もそうですが、<魔王軍(ガイズ)>は特に実戦ありきのものになります。一週間後にまずこのクラスで班別対抗試験を行いますから、そのつもりでしっかり勉強をしてください」

 

そう言って、エミリア先生は<魔王軍(ガイズ)>とそれを使った班別対抗試験の説明を始める。

 

魔王軍(ガイズ)>は集団を率いて戦う際、全体の戦闘能力を底上げするための軍勢魔法である。

少し変わった魔法なのだが、術者とその配下には<魔王(キング)>・<築城主(ガーディアン)>・<魔導士(メイジ)>・<治癒士(ヒーラー)>・<召喚士(サモナー)>・<魔剣士(キャバリエ)>・<呪術師(シャーマン)>とい七つのクラスに割り振られる。

 

この七つにはそれぞれ魔法によって付与されるクラス特性が存在する。

例えば、<築城主(ガーディアン)>は城やダンジョンを建築する創造魔法、防壁や魔法障壁を構築する反魔法に、魔法強化の恩恵が付与される。

一方で武器魔法や攻撃魔法には、魔法弱化の効果を強制される。

 

このクラス特性を守る限り、集団での総合的な魔法力が向上するのが、<魔王軍(ガイズ)>の魔法である。

 

術者は必ず<魔王(キング)>となり、配下の者たちに絶えず魔法効果を付与し続ける。また魔力を供給することも可能だ。

魔王(キング)>が死亡、あるいは魔力が枯渇すると、当然のことながら<魔王軍(ガイズ)>の魔法は維持することができず、魔法効果は消える。

 

「それでは、先に班リーダーに立候補した人が<魔王軍(ガイズ)>を魔法行使できるか判定します」

 

これで魔法行使できなければ、リーダーを選んだ班員の目は節穴だったということになるな。

 

それぞれ順番に<魔王軍(ガイズ)>の魔法を行使したが、立候補した班リーダー五人の内で特に失敗した者はいなかった。

正直に言えば、実戦では使い物にならないようなレベルの代物ばかりだったが、サーシャだけはなかなか安定した魔法行使を行っていた。混沌の世代と呼ばれるだけのことはあるのだろう。

 

「はい、けっこうです。では、<魔王軍(ガイズ)>の詳しい説明を行います。まず始めに――」

 

エミリア先生が授業を再開する。

しかし、これは()()()()が開発した魔法だから、知っていることばかりだ。

 

……ん? ()()()()? 今自然と思い浮かんだけど誰のことだ?

 

俺は横にいるアノスを見たが……

 

「……? どうした、キリヤ」

 

「いや、なんでもない」

 

……まさか、な。

 

妙な感覚に苛まれながらも授業は進んで行き、気づけば授業終了の鐘が鳴っていた。

 

「ミーシャ」

 

刺々しい声が聞こえた。サーシャのものだ。

 

「少し訊きたいのだけど、良いかしら」

 

「……何……?」

 

「その二人は貴女にとって何?」

 

「当事者の目の前で訊くのか」

 

「なんか言った?」

 

「いえ何も」

 

不機嫌そうな顔で言われた。

 

「……友達と……大切な人……」

 

「そ。楽しいの?」

 

「……ん……」

 

「あ、そ。ふーん。よかったわね」

 

サーシャの言葉は刺々しいのだが、どことなく嬉しそうにも思えた。

 

仲が良いのか悪いのかわからない、と言っていたな。

だがミーシャ自身はサーシャを嫌っていない。

あのガラクタ人形という発言にもなにか事情がありそうだな。

 

まあ、いくら双子の姉妹つっても喧嘩ぐらいするか……。

 

「それで用件はなんだ?」

 

「きゃあぁっ!!」

 

驚いたようにサーシャは後ずさった。起きてたのか。

 

「いきなり起きないでくれるかしら? びっくりするわ」

 

「魔力の流れで起きているかもわからないのか、情けない奴だな」

 

そう言うと、キッとサーシャがアノスを睨む。

 

「それで、どうした?」

 

サーシャはその瞳に<破滅の魔眼>を浮かべる。

 

こいつ俺と同じで魔眼が制御できてないんだろうな。

 

だが、制御ができていないわりには綺麗な魔眼だな。

その美しさは、才能の表れであろう。

 

「勝負をしましょう」

 

アノスにとっては思いもよらない提案だろう。

何せこいつの前世が魔王だという話を信じるのならば、こいつに喧嘩を売るやつなんて少なくとも魔族にはいないだろうしな。

 

ああ、いや、()()()()()

 

……………

 

「あ?」

 

「……どうしたの……?」

 

「え? あ、ああいや、なんでもない」

 

今日の俺変だな。

まるで自分が自分じゃないみたい、と言うよりも俺じゃない誰かの記憶を持っているみたいだ……あの魔剣のせいか?

そもそもこの世界に来る直前に魔剣に触れて垣間見たシーンもたぶんこの世界のどこかだし。どことなく雰囲気が似てるんだよなぁ。

 

「俺と? どんな勝負だ?」

 

おっとやる気だなこいつ。

 

「エミリア先生が言ってたでしょ。一週間後に<魔王軍(ガイズ)>の班別対抗試験をするって。負けた方が相手の言うことをなんでも聞くってことでどう?」

 

「ほう? それは面白そうだ」

 

「もしもあなたが勝ったら、班リーダーを辞めて、あなたの班に入ってもいいわ」

 

「お前が勝ったら?」

 

微笑して、サーシャは言った。

 

「あなたをもらうわ」

 

「サーシャの班に入れと?」

 

「いいえ。そこのお人形さんと縁を切って、わたしのものになりなさい。わたしの言うことには絶対服従、どんな些細な口答えも許さないわ」

 

高慢な表情で、サーシャはミーシャを見下した。

 

「ミーシャ、覚えておきなさい。あなたのものはぜんぶわたしのもの。友達もなにもかも、あなたにはなに一つだってあげないわ。こんな面白いオモチャ、あなたにはもったいないもの」

 

はあ、妹へのあてつけか知らないが、人をオモチャ扱いとは……ミーシャとはだいぶ違うなぁ。

 

「まあ、別にそれでいいぞ」

 

いいのか。

 

「あら? ずいぶんあっさり承諾するのね。いいのかしら?」

 

「どうせ俺が勝つ」

 

ムッとしたようにサーシャがアノスを睨らむ。

 

「さっきは油断しただけだわ。一週間後、首を洗って待ってなさい」

 

くるりとスカートの裾を翻し、サーシャは去っていった。

 

「同じ班になったら、仲直りできるかね」

 

「さあ、どうだろうな」

 

俺たちが話していると、彼女は驚いたように目をぱちぱちさせた。

 

「……だから、サーシャを誘った……?」

 

「余計な世話だったかもしれないが」

 

すると、ミーシャはふるふると首を横に振り、それから薄く微笑んだ。

 

「……ありがとう……」

 

ミーシャはサーシャと仲良くしたいのだろうな。

だがサーシャの方は一筋縄ではいきそうにないな。

 

ともかく……

 

「とりあえずは班別対抗試験で勝とうか」

 

「そうだな」

 

アノスが俺の言葉に賛同し、ミーシャはこくり、とうなずいた。

 

「……がんばる……」




・既視感
アノスと会ってからというものさらに既視感を覚えるようになった。
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