「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
傍受した<
思ったよりはまだまだ余裕がありそうだな。
「手加減しすぎじゃないのか?」
「ふむ、まだまだ元気そうだな。確かにそうかもしれん」
魔王城は俺が手に持つ魔剣、黯雷剣ジルスに斬られて真っ二つになり半ば崩壊しかけている。ぎりぎり機能はするだろうが気休め程度にしかならねぇな、あれは。
いや俺がそうしたんだけども。
さて、どう出る?
魔王城へ向かい、俺とアノスがゆっくりと歩いていくと、<
「……<
おっと? 面白いことを言い出したぞ?
「し、しかし、サーシャ様。<
「それに今の我々の魔王城を見てください! 失敗すれば、今の状態の魔王城は今度こそ崩壊しますっ!」
「怖じ気づいている場合ではないわっ! 敵の力を認めなさい。いくら雑種、いくら不適合者と言えども、アノスは城を投げ、キリヤはそれを真っ二つにするような化け物よ! 生半可な魔法で撃退できると思って?」
サーシャの指摘に、弱音を吐いていた班員どもが押し黙る。
将としてのカリスマは十分。まだまだ未熟ではあるが、敵なのがもったいないくらいだ。
「炎属性最上級魔法<
班員たちの声はない。だが、<
「向こうは二人、こっちは二○人もいるのよっ! 相手の一〇倍いるのに、これで負けたら恥もいいところだわ。死力を尽くして臨みなさい。あなたたちの生涯最高の魔法を、皇族の誇りをあの雑種に見せつけてあげなさいっ!」
その叱咤に、班員たちは声をあげた。
「「「了解っ!!」」」
その瞬間、魔王城に魔力の粒子が立ち上る。立体魔法陣だ。魔王城そのものを巨大な魔法陣と化し、大魔法を行使するつもりか。
肝心要の大魔法の術式を組んでいるのは、サーシャ・ネクロン。
さすが、破滅の魔女と呼ばれるだけのことはある。仲間の力を借りたとはいえ、これだけ大がかりな魔法を展開するのは決して簡単なことではない。
リスクをバネに膨大な力を得られる起源魔法などと違い、炎属性最上級魔法<
サーシャ一人の魔力では到底不可能。つまり、<
感服するよ、本当に。
「覚悟はいい? みんなの力、みんなの心、わたしに預けて」
「はい」
「信じています、サーシャ様」
「俺のありったけの魔力を使ってください」
「勝ちましょう……」
「俺たち、皇族の力を」
二○人の心が、魔力が一点に集中する。
これが、<
それぞれのクラス特性を生かし、発動する集団魔法は各々の魔力を足し、一○倍以上に引き上げる。
格上の相手にさえ、一矢報いることができるだろう。
しん、と空気が張りつめた。
次の瞬間、サーシャは声を上げた。
「行くわよぉぉっ!! <
魔王城の正面に砲門のような魔法陣が浮かび上がり、そこに魔力が集中する。極限まで溜められた魔力が一気に爆発するように、それは黒い太陽と化し、彗星のように俺めがけて降り注いだ。
おお。成功率二割と言っていたけど、この土壇場でここまで完璧な<
「見事だ。褒美をくれてやろう」
アノスも同じことを思ったらしい。襲いくる<
ん? あれって———
「行け」
アノスが放った小さな炎は、<
一瞬の出来事だ。巨大な<
「……嘘……<
「さ、サーシャ様っ! 相殺ではありませんっ! 向こうの<
アノスの放った火炎はそのまま魔王城へ突っ込んでいき、そして弾けた。
元々最初のアノスと俺の攻撃で崩壊一歩、いや、半歩手前だった城が炎に包まれ、焼け落ちる。壁や天井が崩れ、ガラガラとけたたましい音を立てながら、瞬く間に崩壊していった。
間一髪、<
「……まさか、たった一人で<
「いや、今の<
「ああ、その通りだ。俺が使ったのは<
「……え……?」
驚いたようにサーシャが目を丸くする。
「だけど、<
続けて、
「まさか……き、起源魔法かっ!? 皇族のみに伝わる命懸けで行使する禁呪、確かにあれなら、<
起源魔法でもないな。今アノスが使った魔法は簡単だが魔力の量が異常に違っただけでそんな難しい魔法ではない。
「残念だが、今のは起源魔法でもない」
ほらね。サーシャたちはじっとアノスを見つめている。
「<
「な……グレ……ガって……?」
炎属性魔法は、威力が強力な順に挙げれば、<
「……そんな……炎属性の最低位魔法で……俺たちの……サーシャ様の<
絶望的な声が上がる。
「あ、ありえない! そんなことはありえないぞ……! なにか秘密があるはずだ……<
なんとなく分かってはいるが、気になるので俺はアノスに訊く。
「お前どんだけ魔力込めたの?」
「ふむ、どれだけか……今の時代の魔族たちは皆魔力が少ないからな。比較対象がなくて説明するのが難しい」
「ああ、うん。もういいよ。今の言葉でなんとなく分かったから」
要するに想像できないほどの莫大な魔力を使ったってことね。
「まあ、要するにだ。秘密は魔力の差だ。俺とお前たち二○人の魔力にそれだけの差があるというだけのことだ」
「な……ん……だと……?」
「そんなことが……」
「別におかしな話ではないだろう。魔力に差があることによって、<
アノスがそう言って一歩足を踏み出すと、
絶望に打ちひしがれ、すっかり戦意を喪失した彼らは放っておき、俺はサーシャのそばまで歩いていく。
「……桁違いだ……化け物め……」
そんな呟きが聞こえた。
「約束は覚えているか?」
アノスはそうサーシャに話しかける。
「…………」
ぐっと唇を噛み、サーシャは屈辱に染まった表情を浮かべた。
「どうして殺さなかったの?」
物騒だな。なにも戦争しているわけではないんだから。
たかだか授業で殺す必要もないし、大体生き返らせるのが面倒ではないか。
「お前は見込みがある。殺すのは惜しい」
アノスがそう言って、サーシャに手を差し出す。
「俺の配下に加われ」
サーシャはしばらく考えた後、怖ず怖ずとアノスの手を取ろうとし、寸前でキッと睨んだ。
彼女はその<破滅の魔眼>を全力で叩きつけてきた。
「死になさいっ!!」
「断る」
サーシャの<破滅の魔眼>を、俺は真っ向から見返す。
「だったら、殺しなさいっ!」
「断る」
アノスがサーシャに差し出した手を更に突き出す。
「強情な奴だな。いいから、俺の配下に加われ」
「……こんな屈辱、絶対に忘れないわ。いつか強くなって、そうしたら、きっとあなたを殺すわよ……」
ふっとアノスは笑った。
「言っておくが、サーシャ。殺したぐらいで死ぬなら、俺は二千年前にとうに死んでいるぞ」
サーシャは呆気にとられたような顔になった。
そうして、どこか諦めたように言った。
「変な雑種だわ……」
はあ、と彼女はため息をつく。
「……いいわ。今のわたしじゃ、あなたに敵いそうもないし、かといって、<
そう言い訳をしてから、サーシャはアノスの手にちょこんと指先を置いた。
「でも、覚えていてちょうだい。これは契約。あなたに心まで売った覚えはないわ」
「ああ。よろしくな」
そう笑いかけると、サーシャは目を丸くした。
「ねえ。もう一つ聞くわ」
「なんだ?」
「わたしを誘ったのは、あの子のため?」
「まあ、そうだな。ミーシャがお前と仲良くしたそうにしていた」
「そ。ふーん」
興味がなさそうに彼女はアノスから手を放した。
「ああ、それともう一つ」
「なによ?」
「お前の
途端に、サーシャの顔が真っ赤に染まった。
彼女は逃げるようにくるりと身を翻す。
「言っておくが、本当だぞ。そんな綺麗な魔眼は見たことがない」
「聞いているのか?」
アノスがそっぽを向いたままのサーシャにそう言うと、彼女はまたこっちを向いた。
「……聞こえないわよ、馬鹿……!」
アノスに褒められて照れたのか、弱々しく言うばかりだった。
……なーにラブコメ繰り広げてんだ、こいつは。ていうか俺忘れられてない?
・黯雷剣ジルス
黒い雷を纏う魔剣。サーシャの魔王城を両断するのに使った魔剣。
実は折れた■■剣■■■■の破片が独立して一振りの魔剣になったもの。