闘技場のある区画では列が分けられていた。
近くには騎士の銅像が並んでおり、そこにとまっていたフクロウが言葉を発した。
「招待状に記されたアルファベットの列へお並びください」
もらった招待状を確認する。Fの文字があった。
「ミーシャとアノスは」
「……E……」
「Fだ」
二人は招待状を見せて言う。
アノスと同じなのか……
それぞれの列の最後尾にフクロウが飛んでおり、アルファベットが書かれていた羊皮紙を持っている。招待状と同じ列に並べということだろう。
「じゃ、入学したらよろしくな」
「……ん……」
「おう。場合によっては当たるかもな」
「くははは。その時は手加減はせんぞ?」
「ハッ、言ってろ」
ミーシャと別れ、俺たちはFの列に並ぶ。先頭は遙か先だが、遠見の魔眼で様子を確認する。どうやら一人ずつ控え室に入っているようだ。
順番が来るのには時間がかかりそうだ。ここだけでもざっと百名はいる。すべての列を合わせれば七百名ぐらいか。
並んでいる間暇だったので、せっかくだから先程アノスが使っていた言霊を教えてもらった。なんでも、込める魔力量によって効き目が変わるらしい。
なかなか便利なものを習得できた。アノスには感謝しなければな。
そんなことをしながらも、後は時間が過ぎるのをぼんやりと待つ。
しばらく経った後、俺は列の先頭にいて、目の前に控え室があった。
中へ入ると、そこにいたのはまたしてもフクロウだった。
しかし、誰の使い魔なんだろうか、こいつは。
見たところ魔力の痕跡を感じない。主人が誰なのかわからないように、うまく隠しているのだろう。
主人はよほど魔法の腕が立つらしい。
「ようこそ、いらっしゃいました。これより実技試験の内容を説明します」
そもそも魔王学院は招待制だ。招待しておいて試験をするということは入学の可否を判断するものではないんだろうな。
大方、一番の目的は転生した魔王の始祖を見つけることに違いない。
実在すんのかねぇ、そんなもん。大体二千年も昔の人なんだろ?
剣を使う身としては名前が失伝してしまってはいるが、剣技においては右に並ぶ者がいなかったという剣皇サマの方が興味はが湧くね、俺は。
「実技試験では、闘技場で生徒同士が決闘を行います。五人勝ち抜いた者は魔力測定、適正検査を受けた後に、魔王学院デルゾゲードへの入学を許可されます。敗者は残念ながら、不合格となります」
魔王の始祖ならば、万が一にも負けることはないってことか。
少々シンプルすぎる試験内容だが、まあ妥当なところか。
「あらゆる武器、防具、魔法具の使用を許可します。なにか質問はございますか?」
「特にないな」
「では、あなたに始祖の祝福があらんことを」
俺は控え室の奧のドアを開いた。薄暗く、細長い石畳の通路が長く続いている。
まっすぐ通路を進んでくと、やがて外から漏れている明かりが見えた。
通路を出れば、そこは高く円形になった壁に囲まれた闘技場である。
壁よりも更に高い位置は観客席になっており、そこにはちらほらと魔族がいた。
全員揃いの制服を着ているところを見ると、学院の生徒か。
さてと、俺の相手は……ああ、何だ。
「よう。また会ったなぁ」
闘技場の反対側には浅黒い肌の男がいた。
「はぁ、お前かぁ……」
さっきアノスと一緒に軽くあしらってやったゼペスだ。雑魚を相手にしてもなぁ。
「貴様、何をため息をついている!馬鹿にしているのか!」
「はい、そうですけど。何か?」
「キサマッ……!!」
沸点低いなー、こいつ。
ゼペスを挑発しながら二、三歩前へ歩くと、後ろの通路が魔法障壁で閉められた。
すると、ゼペスが得意気に言った。
「おっと。退路が塞がれたのが、そんなに心配か?」
「おいおい、他人を心配する前に自分のことを心配したらどうだ?お前はここで俺に負けるんだから」
忌々しそうにゼペスが舌打ちをする。
やれやれ、親切で言ってやったんだぞ?感謝して欲しいな。
それとも、まだ力の差を理解していないアホなのか?
「言っとくがな、俺はそんな甘っちょろい真似はしねえ。貴様のそのすかし顔を恐怖に染まったぐちゃぐちゃの泣きっ面に変えてから、殺してやるよ」
ぶふっと俺はたまらず噴き出してしまった。
「あっはははははは。いやいや、殺す? 誰が? お前が? 誰を? 俺をか?」
はははははははははは、はぁぁ。
「笑わせんな。失せろ雑魚が」
早速言霊を使ってゼペスを止めようとしてみたが、ゼペスはその命令に強制されることはなかった。
彼が纏っている鈍色の鎧が、反魔法の魔法陣を展開している。
「はっ。もうその手は食わねえよ。この反魔の鎧はどんな魔法をも封じる魔力が込められている。あの野郎と連んでる時点でお前も使える可能性は考えてあったからな」
なるほど。あんな鎧に頼ってるから反魔法もまともに使えずアノスの言霊の影響を受けたのか。
「武器、防具、魔法具の使用を許可します。勝敗はどちらかの死亡か、ギブアップの宣言によって決します」
上空からのフクロウの声が、闘技場全体に響いた。
「それでは、これより実技試験を開始します!」
すぐさま、ゼペスは腰に提げた剣を抜き放つ。
刀身が煌々と燃えていた。
「驚いたかよ? 魔剣ゼフリード、我がインドゥ家に代々受け継がれてきた太古の炎より生まれし剣だ。これは俺の魔力は十数倍にも増幅させる。あの斬撃の魔法と言えど、この剣は切れまい」
ええ……これが魔剣?俺が持ってる魔剣たちとはだいぶ違うな。悪い意味で。そのまま殴って壊せるんじゃないか?
「お前さぁ、算数苦手って言われない?」
間合いを詰めながらも、ゼペスは怒気を露わにする。
「なにが言いたい?」
「一を十数倍したところで、十かそこらでしょうに」
「っ! 殺すっ!」
ゼペスが地面を蹴る。次の瞬間、目の前に奴が現れ、俺は魔剣ゼフリードの間合いに入っていた。
「死ねっ!」
…………ずいぶんと遅いな。俺が剣を持っていたら、もう百回どころか千回は斬っているぞ。
横一閃に振るわれた魔剣ゼフリードをそのまま受けてやろうかと思ったが、やっぱり痛いのは嫌なので咄嗟に屈んで避けた。
「ほう。うまく避けるじゃねえか」
にしても本当に弱いな、こいつ。
ここはそうだな……
「せっかく相手が剣を使ってるんだ。なら、俺も剣士として応えようか。それに——————」
——————そろそろ我慢の限界なんだ。
俺がそう言った瞬間。俺を中心に爆発的に魔力が上昇する。
「焼き尽くせ、焔華剣アグニル」
右手が魔法陣から引き抜いたのは炎を纏う赤い魔剣。
その瞬間、闘技場に真っ赤な紅蓮の花が咲き、ゼペスは炎の花に巻き込まれた。
「グアアあああァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
ゼペスが炎の中で叫び、悶え苦しむ。
「俺はね、別にお前なんてどうでもいいんだよ」
炎の中でゼペスが苦しんでいるのを見ながら言う。
「正直最初にお前に向けて使った言霊よりもさらに強い言霊使って
「あ、っがあああああアアアアァァァァァァァ!!!!あづい!!あづいぃぃぃいいぃぃ!!!!!」
「でもお前さぁ、最初に俺たちと会った時の自分の言葉覚えてる?」
こいつはあの時俺の
「『そのお嬢ちゃんの顔を骸骨のようにしてやってもいいんだぜぇ』って。お前はそう言ったのね。覚えてる?覚えてるよなぁ?」
俺にはあいつに、ミーシャに助けられた恩がある。だから、俺はあいつを守り続ける。それが俺にできる恩返しだから。
「あの時、お前は俺の逆鱗に触れた。———そのまま灰も残さず死ね」
「ああ、あづい、いだい、たずけてくれぇぇぇ。いやだ、じに゛だぐないぃぃぃ」
今にも消えそうな声でゼペスが助けを求める。
「…………うん!やだ♪」
情状酌量の余地など無し。
そして、ついにゼペスが燃え尽きた。
「ゼペス・インドゥの死亡を確認。勝者キリヤ・ネクロン」
ふう、スッキリした。
「……あのゼペスを……一瞬で……」
「……圧倒的すぎる……。あいつ、何者だ。見たこともない顔だぞ……」
「……ネクロンの分家の養子らしいぞ……」
「……マジかよ……。分家とは言えネクロンに養子に入っているのか……」
………ちょっとやり過ぎたかな?
「一○分の休憩の後、次の受験者との決闘を行います」
「いらない。さっさと終わらせよう」
こんな雑魚どもとの準備運動にもならない決闘になんざ付き合ってられるか。
こんなのを後四人も相手にしなければならねぇんだぞ。
さっさと終わらせてミーシャたちと合流しよう。
「キリヤ・ネクロンの申し出により、休憩を省略します」
その後、危なげなく全ての決闘を制した俺は大鏡の間という場所に通された。
心残りがあるとすればアノスに当たらなかったことぐらいだな。できれば戦ってみたかった。
・焔華剣アグニル
炎を纏った赤い魔剣。
この世界で初めて収納魔法を覚えた際に、魔法を使ったことがないにも関わらず大量の魔剣と共に出てきた。
主人公の謎
元がただの日本人中学生にも関わらず平気で人を殺せる。